非実在青モモイ   作:吾妻西紀

3 / 4
パーフェクトコミュニケーション

 「花岡ユズ?」

 

 ミレニアムサイエンススクールに編入してきた初日。私は彼女が所属している部活であるゲーム開発部の部室に案内される途中で、部長である花岡ユズという人物について説明を受けた。

 

 「うん。物凄くゲームが上手くて、ゲーム作りに懸ける情熱も人一倍強い子…なんだけど」

 

 「対人恐怖症で、初対面の人と顔を合わせるのは難しいんじゃないかな…」

 

 「なるほど」

 

 何やら事情があるのか、生来の物かは分からないが、そういうことであれば適度な距離感で接することを心掛けよう。距離を詰めすぎても良くないだろうし、逆に離しすぎても接点が作れずに疎遠になってしまうだろうからな。

 

 「分かった。その辺りは気を付けよう」

 

 「あ、でもアリスは」

 

 「アリスちゃんは近すぎるくらいで良いと思う」

 

 確かにとミドリの言葉に頷くモモイ。どうやらもう一人の部員はモモイに負けず劣らず人好きのする子のようだ。そんなことを話している間にゲーム開発部の部室が見えてきた。モモイとミドリが先行して扉を開ける。二人に続くように部室に入ると、長い黒髪を足元まで伸ばした一人の少女が出迎えてくれた。

 

 「おかえりなさい!…それと、初めましてアオ!私は天童アリスです!」

 

 「あぁ、モモイとミドリの姉の才羽アオだ。よろしくアリス」

 

 「パンパカパーン!アオがパーティーに合流しました!」

 

 そう言いながら私に向けて突撃してくるアリス。ぎゅっと抱き締めてきたので此方も頭を撫で返してあげる、すると気持ち良さそうに目を細めてぐりぐりと頭を押し付けてきた。なるほど、これは確かに距離感を考える必要はなさそうだ。

 

 「アリスが初対面でこんなに懐くなんて珍しいね」

 

 「うん。いつもはもう少し様子を伺ってる気がする…」

 

 「アオは何だか初めましてな気がしません!」

 

 とのことらしい。まぁ、私はモモイの人格の一部なので初めましてではないと言えば確かにそうなのかもしれない。アリスを撫で回しながらそんなことを考えていた私だったが、不意に一つの疑問が浮かんだ。

 

 「…そういえばモモイ、私の秘密に関しては…」

 

 「うん!ユズとアリスも知ってるよ!」

 

 私が元々モモイの別人格であり、クラフトチェンバーというオーパーツによって分裂した存在であることはゲーム開発部の全員が知るところのようだ。まぁ、モモイとミドリが信頼できると思った相手には話しても良いと言ったのは私だしな。それだけゲーム開発部の結束が強いという証拠だろう。

 

 「それで、部長のユズは…」

 

 「ユズは…」

 

 「多分…」

 

 「はい!ユズはロッカーに籠ってます!」

 

 そんなアリスの言葉に反応してか、部室に置かれているロッカーのうち【YUZU】と名札の掛けられたロッカーがガタンと音を立てる。これは…確かに筋金入りの対人恐怖症のようだ。

 

 「ユズ、別にロッカーから出てこなくても大丈夫だ。私の名前は才羽アオ。これからもどうかよろしく」

 

 ロッカーから返事が返ってくることはなかったが、取り敢えず最初の一歩は踏み込めたと思う。これからもここに足を運ぶ機会は多いだろうし、少しずつ距離を縮められれば良い。

 

 こうして、私とゲーム開発部との顔見せはまずまずの結果に終わったのだった。

 

 


 

 

 「テイルズ・サガ・クロニクルをやりましょう!」

 

 「おう?」

 

 モモイとミドリが買い出しに行き、二人(とロッカーに一人)になったタイミング。何か話題を提供するべきだろうかと考えていると、私に引っ付いていたアリスが顔を上げてそう言った。

 

 「それは?」

 

 「ゲーム開発部にアリスがまだ入る前に作られたゲームです!アリスもゲーム開発部に入ったばかりの頃にプレイしました!」

 

 なるほど、モモイ達が作ったゲーム。…ゲーム開発部という名前だからゲームを作るのは当然なのだろうが、あのモモイが誰かと一緒になって何かを作ったという、その事実だけで胸が熱くなるな。俄然、やる気が湧いてくる。

 

 アリスにつれられて机の上に置かれたモニターの前に座らされる。どうやらPCゲームのようだ。アリスは部屋の隅にあった箱の中から一つのコントローラーを取り出してPCに接続すると私に手渡してきた。

 

 「これがコントローラーです」

 

 「ん、ありがとう。えーと操作方法は…」

 

 「簡単な説明がゲームをスタートした後に表示されます。分からないことがあったらアリスが説明します!」

 

 「分かった。よろしく頼むよ」

 

 テイルズ・サガ・クロニクルというタイトルが画面に表示される。ニューゲームとロードの二つの選択肢が出てきたので、ニューゲームにカーソルを合わせてAボタンを入力した。

 

 「デジタルゲームは初めてだ」

 

 「そうなんですか?あの時のアリスと同じです!」

 

 「何だかワクワクしてきたな」

 

 【コスモス世紀2345年、人類は劫火の炎に包まれた…】

 

 【チュートリアルを開始します】

 

 【まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。】

 

 チュートリアルの表示に合わせてコントローラーのBボタンを押す。なるほど、初めてのデジタルゲームに推すだけあって最初は分かりやすい操作から…

 

 【(爆発音)】

 

 【GAME OVER】

 

 「…これは?」

 

 Bボタンを押した瞬間、主人公が爆散した。

 

 理解が及ばず、後ろでプレイを見ているアリスの方を振り向く。そこには何か感慨深そうな顔で画面を見つめるアリスの姿があった。

 

 「そこはAボタンを押さないと確定でGAME OVERです」

 

 「…ヒントは?」

 

 「ありません!試行錯誤が必要です!」

 

 「なるほど…」

 

 これがデジタルゲームの洗礼か…。

 

 確かにBボタンを押してとは言われたが、装備を装着するのにBボタンを押す必要があるとは書かれていなかった。いや必要ないなら書くなよとは思うが、試行錯誤が必要なゲームと言われると…まぁ確かにとも思う。

 

 「次はAボタンで…」

 

 武器を装着すると突如画面が切り替わり、ぷにぷにという名前のスライム状のモンスターが表示された。

 

 「チュートリアル戦です!Aボタンを押してください!」

 

 「…えっ!?」

 

 「あ、これは本当です」

 

 アリスの言葉に従ってAボタンを押す。すると、【秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする】というコマンドが画面に表示された。なるほど、つまりこれで攻撃すれば…

 

 【ッダーン!】

 

 【攻撃が命中、即死しました】

 

 【GAME OVER】

 

 【ぷにぷに:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前では無力…ふっ。】

 

 「アリスさん?」

 

 「あそこは攻撃をする前にぷにぷにに近付く必要があります!」

 

 「試行錯誤?」

 

 「試行錯誤です!」

 

 「そっかぁ…」

 

 奥が深すぎて底が見えねぇぞこれ。

 

 この後も若干理不尽な試行錯誤を重ねつつも、定期的にセーブをしつつゲームを進めていった。時折理不尽な仕様が顔を出すため進めるのに時間は掛かるが、攻略していくと妙な達成感があるのが分かる。

 

 「後少しでクリアですよ!」

 

 「アリス。…腹違いの友人ってそれはつまり普通の友人では」

 

 「気にしたら負けです!」

 

 「そっかぁ…」

 

 最終的に四度目の魔王戦でようやくゲームをクリア。エンドロールが流れ始めた。まさか魔王の正体がアイツだったなんて…チュートリアルのぷにぷに戦が伏線になっているとは思わなかった。

 

 「どうでしたか?」

 

 「ん?」

 

 「テイルズ・サガ・クロニクルは楽しかったですか?」

 

 ぶっ続けでゲームを進めていたせいか集中力が切れてその場に突っ伏す私にアリスが尋ねる。フワフワとした感覚が残る頭を回しながら返事を探すが、どうにも上手く言葉が出てこなかった。ので、思ったそのままのことを溢した。

 

 「完成度がどうとか、そういうのはぶっちゃけデジタルゲーム初心者の私には分からん」

 

 「………」

 

 「でも、アリスと試行錯誤しながら進めてる時は確かに面白かったよ。モモイ達が頑張って作ったゲームってこともあるしな。初めてやるゲームがこれで良かった」

 

 「本当ですか!?嬉しいです!」

 

 それに、これはまだトゥルーエンドの一つに過ぎないという。ここまで熱を入れてプレイしたゲームなのだから、折角だし全てのエンディングを見たいとも思う。

 

 「うん。またやりたいかも」

 

 「…本当?」

 

 「勿論。……ん?」

 

 掛けられたのは明らかに隣に居るアリスとは違う声。姿勢を戻して声がした方向に顔を向けると、そこにはオレンジの髪色をした伏し目がちの少女が佇んでいた。

 

 「ユズ!」

 

 「ユズって、部長の?」

 

 「う、嬉しい…よ、ありがとう」

 

 ぎゅっと目を瞑って私に感謝の言葉を伝える少女…ゲーム開発部の部長である花岡ユズの姿を、私は目を丸くしながら見つめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。