仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ヒューム×滅炎 DIFFERENT TIMES   作:熊澤しょーへい

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コラボ映画と言えば新ライダーのお披露目。って古事記にも書かれてた。


幕間:WHY DID THEY VISIT THIS WORLD(ナゼカノジョラハコノセカイヲオトズレタカ)?

「兄ちゃんたち、大丈夫かな・・・」

 

 早朝だからか、静寂が支配する喫茶Hamelnで章太郎はポツリと呟いた。本来ならば労働前の腹ごしらえのために会社員が幾人か入るはず。しかし客席に座っているのは章太郎だけで、あとは厨房から権兵衛が作業する音が微かに聞こえてくるだけだった。

 

「あーあ、こっそり見に行けばよかった」

 

 そう章太郎がぼやいてしまうのも無理はない。彼は当目から、しかも短時間しか(とお)や海翔の戦いを目にしていない。危険なのは分かっているが、ライダーオタクとしては間近で見たいという気持ちは容易く抑えられるものではない。

 

「そう言うな。彼らも俺たちがいると戦いづらいぞ」

 

「それは分かってるけどさ・・・」

 

 加えて章太郎が不機嫌気味なのはもう一つ理由がある。彼らはこの家から出ることが出来ないのだ。

 

 喫茶Hamelnの四隅に張られた札。四の姫によって結界術がこの店の周囲に展開されているのだ。貌無き者(ノーフェイス)対策のためにも今回の戦いは総力戦。万が一大結界に不備があった場合、喫茶Hameln(ここ)だけでも守ろうと四の姫が設置していったのだ。

 

 大結界展開のため、喫茶Hamelnに展開されている結界は最低限のもの。しかしそれでも貌無き者(ノーフェイス)ごときに破られるものではない。現在この街で一番安全なのは喫茶Hamelnと言える。

 

 ―――そのはずだった

 

「・・・お、おい。ありゃなんだ?」

 

「どうしたの、叔父さん?」

 

 街の方を見ていた権兵衛が、震える指で外をさした。一方の章太郎に焦りはない。何せこの街には平和のために今も戦っている仮面ライダーがいるのだ。何を恐れることがあろうか。

 

 ゆっくりと振り返る章太郎。外を見た彼に先ほどのような余裕は影も無かった。

 

 そこにいたのは継ぎ接ぎのスーツを着た二メートルを優に超える長身の人物。それだけを上げたならまだ人間の範疇に収まる。人間と異なるのはその顔と背中。顔はまるでのっぺらぼうのように空白。人は表情から第一印象を定めるという。それを読み取る手段が存在せず、見る人に生理的嫌悪感を与える

 

 そして背中。背中からは鞭のような触手が三対、意思を持つように蠢いている。

 

 人間からは遠く離れた存在。正しく怪異と言って差し支えない。そんな化け物が腕を上げ、喫茶Hamelnに向けて指を差した。

 

「おい、こっちを向いてな―――」

 

 権兵衛が言い終わるよりも早く怪物が動いた。六本の触手が喫茶Hamelnに殺到したのだ。狙われたのは窓ガラス。人間によっても簡単に割られるのだ。怪異にとっては紙同然だろう。

 

 ガギン!

 

 しかし残された術式がそれを許さない。半透明の壁が漆黒の触手を空中で弾き返した。しかしその代償として結界に大きなヒビが入った。

 

「―――!」

 

 明らかに長くは持ちそうにない。それに気が付いたのか、怪異は何度も結界に向けて触手を叩きつける。そして―――

 

 パリン!

 

 遂に限界を迎えた。大きな音を立てて結界が叩き割れたのだ。

 

「クッ、章太郎!」

 

 それを見た権兵衛は章太郎を抱きしめ、大急ぎで店の奥に駆け込んだ。そうしている間にも怪異はどんどんと近づいてくる。

 

 そして遂に怪異の手が喫茶Hamelnの入り口に触れ―――ようとしたその時、

 

《対魔拳銃A・MA・NO・HA・BA・YA(アマノハバヤ)!》

 

「―――ッ!」

 

 怪異の身体に弾薬の雨が降り注ぎ、怪物の身体が大きく揺らぐ。弾薬の一つ一つが高純度の魔力で構成されており、低級の魔物であれば急所に当たらずとも無力化できるだろう。

 

 アマノハバヤ―――古事記において高御産巣日神(たかみむすひのかみ)が創造し、不幸をもたらした雉である鳴女、即ち天邪鬼を穿ったとされる矢の名前。その名にふさわしく、怪異に大きなダメージを与える。

 

 怯む怪異。しかし弾薬の雨は止まず、ジリ貧になると感じた怪物はやむを得ず大きくその場から距離を取った。

 

 一時訪れた静寂。しかしそれはカランカラン、という来客を告げる鐘の音によって切り裂かれる。二人が警戒する中、足を踏み入れたのは二人の女性。先ほどの修羅場が夢だと感じられるほど能天気な声が権兵衛たちの耳に届く。

 

「ちょっと、ここであってるの?」

 

「余を疑うつもりか、結葉(ゆいは)よ」

 

 入店してきた女性たちはこの世界で暗躍していた二人。結葉(ゆいは)、と呼ばれた飴を加えた女子学生はこっそりと聞き耳を立てていた権兵衛と章太郎に気が付いたようで、二人の方向へ大きく手を振った。

 

「お二人さーん、ひとまず大丈夫だから出てきてもいいですよー!」

 

「・・・」

 

 そんな言葉を真に受ける者などいない。二人からすれば敵か味方かも分からないのだ。だがこのまま籠っていても埒が明かない。そう判断した権兵衛はこっそりと目を店内に出した。

 

「―――!あんたは・・・」

 

 もう片方の女性、絶世と言える美貌を持つ女性と目が合った権兵衛は思わず声を張り上げた。(とお)たちが店を訪れる直前、服だの金だのを押し付けて煙のように消えてしまった女性と瓜二つだった。

 

「先日ぶりだな、店主殿。預けた荷物を回収しに来たのだが」

 

「・・・ああ、ちょいと待っていてくれ!」

 

 そう言い残してドタバタと去っていく権兵衛。その様子をぽかん、と見つめていた章太郎は、不意に結葉と目が合ってしまう。

 

「えっと・・・初めまして?」

 

 どこか気まずそうに挨拶する章太郎。結葉の方は面食らったような顔をして、「・・・初めまして、か。そうだった」とポツリと呟いた。

 

「まったく、私じゃなくて(とお)先輩を呼んだせいで時間軸が滅茶苦茶になってるんですけど・・っと()()()()()だったね。私は坂上(さかうえ) 結葉(ゆいは)。よろしく、章太郎君」

 

 差し出された手を章太郎はおそるおそるという風に握り返す。何故自分の名前を知っているのか、その問いかけは自らの叔父によって搔き消される。

 

「ほら、持ってきたぞ!」

 

 ぜえぜえと息を切らして持ってきたのは大型のボストンバック。床に置かれたそれを開けると、女性はテキパキと中身を改め始めた。

 

「・・・む?」

 

 流れ作業のように流動的だった彼女の手がピタリと止まる。彼女の視線の先には一切手の付けられていない新一万円札たちの姿が。

 

「―――使わんだのか?」

 

 訝しむ女。そんな姿さえも絵になってしまうほどに美しい。そんな彼女の疑問に答えたのは権兵衛だった。

 

「いらんよ、そんな金」

 

「食費や宿代にと思ったのじゃがな」

 

「・・・仮面ライダーは命を懸けてこの世界を護ろうとしてくれている。知り合いなんて誰もいないこの世界のためにな。なのにこっちが私服を肥やす訳にはいかんだろ」

 

 笑顔で言い放つ権兵衛。そんな彼を見て女は盛大に溜息を吐いた。

 

「・・・分からぬ。やはり人間は度し難い―――」

 

「でも、それでいい。でしょ?」

 

 そんな女の顔を、結葉はいたずら顔でのぞき込む。女は一瞬呆けたような表情を作ると、一転して口角を上げた。

 

「―――ああそうよ。短命で、感情のままに動き、どこまでも度し難い存在。・・・だがそれでよいのだ。だからこそ余はここにいるのだから」

 

 気が付くと、外がにわかに騒がしくなっていた。慌てて窓ガラス越しに外を見ると、先ほどの怪異と大量の貌無き者(ノーフェイス)が店に向けて進軍していた。

 

「―――ッ!早く逃げるぞ!そこの二人も!」

 

 権兵衛が慌てたように叫ぶが、結葉たちは動揺しない。

 

「権兵衛さん、ここは私に任せて」

 

「だが―――」

 

「大丈夫だって。ほらこれ」

 

 結葉は権兵衛を落ち着かせるように、いつの間にか左手に握っていた器具を見せる。

 

 それは漆黒の長方形の機械。片側には大きなレバーが取り付けられており、それが走るのであろう溝が上下に彫られている。もう片側には大きな窪みが、そして中央にはディスプレイのような、電光掲示板のような、小さな画面が取り付けられている。

 

 日常ではまず見ることのない形状。しかし章太郎たちはその類似品をいくつも見てきた。

 

「まさか―――」

 

 二人が顔を上げたときには二人は喫茶Hamelnの前に立っていた。怪異の軍勢に怯むことなく、結葉は目を細めて軍勢の奥に立つ長身の怪異を観察していた。

 

「長身、スーツ、触手、のっぺらぼう・・・スレンダーマンで確定かな」

 

 2009年、海外のとある創作サイトにて一つのキャラクターが生み出された。子供たちに交じる不気味な写真に目撃者の証言を付け加えたそれはウイルスのようにネットに拡散し、一つの神話の枠組みを形成した。それは膨張し触手、洗脳、病など様々な要素が付け足される。しかしここまでであれば有名な怪談の一つで終わっただろう。

 

 事件が起きたのは2014年。アメリカ合衆国ウィスコンシン州にて二人の少女が同年代の少女を刃物で刺すという傷害事件が発生した。当局からの尋問に対して少女たちはこう語ったという。

 

「「スレンダーマンの手下になるため」」

 

 もはや只の怪談にあらず。数多の作家によって脚色され、現実を侵食するまでに肥大化した一体の怪異である。

 

 ―――造られた貌(アーバンレジェンド)、スレンダーマン

 

 大結界に付与された暗示は貌無き者(ノーフェイス)のみを対象とした限定的なもの。物語を付与され一定の知能を得た造られた貌(アーバンレジェンド)には効果が無く、その支配下にある貌無き者(ノーフェイス)も同様なのだろう。

 

「というかの結葉。先ほどの言葉、『私に任せて』ではなく『私()()に任せて』の方が正しいのではないかの?」

 

「・・・あっ」

 

「では今晩の夕飯は余がリクエストさせてもらおうかの」

 

「仕方ないなー」

 

 しかし二人に気負う様子はまるでない。それどころか軽口を叩く始末。

 

 ふう、と結葉は目を瞑り一呼吸置く。次に開かれた結葉の目は普通の女子高生などではなく、歴戦の戦士のものへと変化していた。結葉は一思いに飴を噛み砕き、ゴミを手で握りしめる。すると手のひらから紫色の炎が湧き出、忽ちに黒ずんだ塵へと変化し、風に吹かれて消滅した。

 

「さてと。一緒に行くよ、()()

 

「勿論じゃとも」

 

 絶世の美女―――妲己の返答を聞くや否や、結葉は手に持っていたデバイスを腰に当てる。すると側面から黒い帯が飛び出し、自動で結葉の腰に装着される。

 

《滅炎ドライバー!》

 

 続いて結葉は首に下げている指輪の(うち)紫色の、狐の顔のように加工された指輪を外し左手の薬指に装着する。結葉は左手を握りしめると、指輪を滅炎ドライバーの窪みに押し込み、反対側のレバーを上側に引き上げた。

 

CONTRACT(コントラクト)READY(レディ)―――》

 

 ドライバーの中心の画面の電光が螺旋を描くように点滅すると、紫色の魔法陣のようなものが二つ、この世界に顕現する。一つは妲己の正面に、もう一つは結葉の頭上に。

 

 魔法陣とは言っても図形の組み合わせではない。漢字、英語、ギリシャ語、ラテン語、ロシア語、アラビア語・・・世界に存在するありとあらゆる文字を組み合わせることで陣として成立している。

 

 妲己が魔法陣を潜ると、その姿は人間からかけ離れたものへと変化した。一言で言えば機械仕掛けの狐。鋭い爪は触れるだけで貌無き者(ノーフェイス)の身体を崩壊させるほど鋭く、九つに分かれた尾は彼女が伝承に語られる大妖怪である証。彼女が操る炎と同じく、ボディは紫一色に染め上げられている。

 

 一方の結葉は言葉を紡ぐ。それは架空のヒーローたちが叫んできた言葉。それは別世界の友たちが胸に宿してきた言葉。それは―――彼女が偉大なる先達から継承した言葉。

 

「―――変身!」

 

 上方に上げられていたレバーを、一気に最下部へと押し込む。ドライバーの画面の電光が狐のシルエットを象り、レバーの動きと連動して結葉の頭上に展開していた魔法陣が動き、彼女の身体を通過する。

 

 魔法陣を通過した彼女の身体は既に人間のものではなくなっていた。黒一色に染め上げられた体。辛うじて頭部は凹凸があることだけが分かる。

 

 そこへ機械の身体となった妲己が突っ込んでくる。あわや衝突か、と思われたその時、突如妲己の身体が分解され結葉の周囲を旋回。そして鎧のように装着されていった。

 

《―――GO(ゴー)TAKE(テイク) OVER(オーバー) FLAME(フレイム)妲己(ダッキ)!》

 

 鋭い爪を持つ前足は彼女の両腕に、地をかける両足は彼女の両足に、象徴たる九尾はローブのように彼女の腰ではためいている。そして最後に狐面が胸部に装着されると、複眼に当たる部分が紫色に染まった。

 

The first was a warrior who fought for friends(カノジョハトモノタメタタウセンシデアッタ)》 

 

「仮面ライダー・・・!」

 

 こっそりと見ていた章太郎が興奮を隠せない様子で呟く。紫の鎧を纏った戦士、威風堂々としたその姿は正しくその称号に相応しい姿だ。

 

 彼女の変身と共に、怪異:スレンダーマンの殺気が一気に増幅する。―――まるで憎い宿敵と対面したと言わんばかりに。それに連動して貌無き者(ノーフェイス)らの姿が変わり、より殺傷能力が高い獲物を手に出現させる。

 

 殺意をみなぎらせる怪異の集団。しかし紫鎧の戦士は臆することなく、右人差し指を掲げ声高らかに叫んだ。

 

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!我が名は()()()()()()()()!時代を超えて、偉大なる先達よりその炎と名前を受け継いだ、由緒正しき三代目!」

 

 掲げた人差し指を、一転して怪異―――否、獲物の方向へ向ける。

 

「気安く触れると、火傷しちゃうよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの火蓋は切られる。

 

 初めに動いたのは怪異:スレンダーマン。背中に備わる三対の触手を滅炎に向けて振るう。ただの触手と侮るなかれ。鞭のように振るわれたそれは音を置き去りにし、コンクリートの地面を容易く砕く。

 

 次点に動いたのは貌無き者(ノーフェイス)の群れ。手に収まるはアサルトライフル。人が生み出した悪意の塊を容赦なく滅炎に撃ち込み、回避範囲を狭める。

 

「当たらないよ、っと」

 

 その全てが滅炎に掠りもしない。跳躍、疾走。その姿は人間というより野を駆ける獣のソレに近い。両手足を使った動きには所謂「型」というものが見られず、その場その場で最適な行動を実行する。

 

 自由自在。まさしくこの四字がピタリと当てはまる。

 

「流石に数が多すぎるね。それなら―――」

 

 弾丸と触手のオンパレード。流石に億劫としてきたようで、滅炎は新たな指輪を指にはめ、滅炎ドライバーに読み込ませる。

 

CAST(キャスト)READY(レディ)―――》

 

 滅炎ドライバーのレバーを再び最上まで引き上げる。ドライバーの中央ディスプレイは再び螺旋を描くように点滅し、彼女の右横に新たな魔方陣が形成される。

 

 1拍おいてレバーが一気に下げられる。同時に魔方陣が稼働し、世界が少しだけ改変される。

 

GO(ゴー)VENIRE(来たれ) SECURIS(戦斧)!》

 

 電光が斧のような形に点滅し、魔方陣から一つの武器が猛スピードで射出される。武器は数メートル飛翔すると轟音と共にコンクリートを砕き地面に突き刺さる。その際に貌無き者(ノーフェイス)をいくらか巻き込むのを忘れない。

 

 隊列は崩れた。体制が立て直されるよりも早く滅炎は怪異の群れの中に食い込む。地面に突き刺さった武器を引き抜くと、そのまま一閃。あまりの威力に貌無き者(ノーフェイス)の身体は両断され、そのまま塵になって消滅した。

 

《対魔戦斧A・S・T・E・R・I・O・S(アステリオス)!》

 

 所々が金に彩られた戦斧。持ち手は槍のそれと変わらないほど長大で、両手で扱うことを前提としている。その効果は絶大で、一振りで複数の貌無き者(ノーフェイス)が消滅する。

 

 名はギリシャ語で星、雷を表す言葉。最高神ゼウスの別名「アステロペーテス(雷光を投げる者)」、あるいは怪物へと堕とされた青年の真名から。

 

 その名に恥じぬと言わんばかりに次々と怪異を蹴散らしてゆく。煩雑な動きのように見えるがそれは全て見せかけ。証拠に背後から闇討ちせんと忍び寄ってきた触手を切断して見せた。

 

 気が付けば貌無き者(ノーフェイス)は殲滅され、残るは怪異:スレンダーマンを残すだけだった。

 

「フッ―――」

 

 勢いそのままにA・S・T・E・R・I・O・S(アステリオス)で斬りつける滅炎。見たところ怪異:スレンダーマンは防御に長けている怪異には見えない。そのまま両断されて終わるかと思われたが―――

 

「―――あれ?」

 

 結果は空振り。いつの間にか怪異:スレンダーマンは消失しており、滅炎は思わず気が抜けた声を上げた。

 

「どこ行った―――って、うわ!」

 

 背後から気配を察知して、滅炎は慌てて横に回避する。先ほどまで立っていた地面は触手によって無残に砕かれ、彼女の背中に冷たいものが走る。

 

 下手人はもちろん怪異:スレンダーマン。いつの間にか滅炎の背後に移動し、不意打ちを仕掛けようとしたのだ。

 

 慌てて戦斧を構える滅炎。しかし既に怪異:スレンダーマンはそこにおらず、再び背後から触手が迫る。地面を転がる滅炎の胸部から呆れたような声が上がる。

 

「危なっ!」

 

『怪異の伝承は叩き込めとあれほど言うたじゃろ。これは再教育が必要じゃな』

 

「ちゃんと勉強しましたー!ちょっとド忘れしてただけですぅー!」

 

 悪態をつきながら滅炎は新たな指輪を取り出す。

 

 初代ならば溢れんばかりの才能で、2代目ならば持ち前のガッツで泥まみれになりながら打開を図る。3代目である自分にはそのどれもない。その代わりに少しだけ世界を変えられる。

 

3代目()には3代目()なりのやり方があるの!」

 

CAST(キャスト)READY(レディ)―――》

 

GO(ゴー)INDURARE(固まり留まれ)!》

 

 指輪を介して世界がほんの少しだけ変化する。

 

「―――?」

 

 怪異:スレンダーマンから混乱したような気配を感じる。その隙を見逃すことなく滅炎がその戦斧を振るう。重く鋭い一撃を怪異:スレンダーマンは瞬間移動で回避するでなく、その身でまともに喰らった。

 

「―――ッ!?」

 

 気配は混乱から驚愕へと変わる。()()()()()使()()()()()()。その事実を認めることが出来ないとばかりに。

 

 滅炎が発動させたのは固定魔法。本来は地面を対象にする魔法で、足場を安定させることで不利な状態から脱却するのが主な使い方だ。しかし今回滅炎は空間を対象にして魔法を行使した。これによって空間の操作を封じ込めたのだ。

 

「さて、とどめと行きますか」

 

 滅炎はポツリと呟くと、ドライバーのレバーを再び最上へと持ち上げた。

 

COUNTDOWN(カウントダウン)READY(レディ)―――》

 

 ドライバーの電光掲示板が螺旋を描き、待機状態となる。と同時に滅炎の複眼と胸部の狐頭の目が妖しく光り、妖気量が増大する。

 

《―――3(スリー)

 

 怪異:スレンダーマンに向けてゆっくりと歩み寄る滅炎。その姿はまるで処刑人のよう。

 

《―――2(ツー)

 

 空間が固定されている今、得意の瞬間移動で逃げることすら叶わない。怪異は触手を伸ばして必死に抵抗しようとするが、地面から出現した九つの尻尾がそれを阻む。

 

《―――1(ワン)

 

 紫の九尾は怪異:スレンダーマンの身体を拘束。圧倒的なその力に、戦闘で妖気を損耗した怪異:スレンダーマンには拘束をほどくことは出来ない。

 

《―――0(ゼロ)

 

 カウントダウンが終わる。気づけば滅炎はすぐ目の前に。その右足には妖力が集中しており、踏みしめたコンクリートが赤く発光するほど。

 

《―――GO(ゴー)妲己(ダッキ) FLAME(フレイム) THE() END(エンド)!》

 

「~~~ッ!」

 

 回し蹴りにより妖力が集中した右足が怪異:スレンダーマンに直撃。怪異は声にならない断末魔を上げながらこの世から消滅した。

 

 滅炎は怪異:スレンダーマンの残骸から一つの種を拾い上げた。

 

「げ、『空亡の肉種』・・・私も呼ばれるわけだ」

 

 仮面の奥で顔を顰めると、肉種を紫炎で燃やし尽くす。種から断末魔が聞こえてくるのは気のせいだ。気のせいったら気のせいだ。

 

「さてと、あとは任せたよ。海翔、(とお)先輩」

 

 聳え立つ残骸(ジャンク)の塔を見上げて呟く。その態度に憂う様子は微塵もない。例え結果を知らなくても同じ態度でいただろう。彼女は既に知っているのだ。二人の強さを。




仮面ライダー滅炎(3代目)
 変身者:坂上(さかうえ) 結葉(ゆいは)
 2030年にて貌無き者(ノーフェイス)造られた貌(アーバンレジェンド)から人々を護るべく戦っている仮面ライダー。自ら怪異と一体化する必要は無く、下記の指輪を用いて変身する。魔法を扱い、戦局を自在に操る。





滅炎ドライバー
 3代目仮面ライダー滅炎が変身に使用するドライバー。旧世代のドライバーよりも適合可能な範囲を拡大、なおかつ身体への負担を最小限に抑えることに成功した。





コントラクトリング
 変身の際に用いる指輪。[閲覧不可]





キャストリング
 魔法が刻印されている指輪。魔法は発動者によってある程度の指向性を持たせることが出来る。一つの指輪につき一つの魔法が封じられており、魔法を象徴する紋様が刻まれている。
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