仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ヒューム×滅炎 DIFFERENT TIMES   作:熊澤しょーへい

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終/もう一度奇跡が起こったなら

 轟音を立てて機械の巨塔が自壊してゆく。崩壊は既に全体に広がっており、一部を除いて塔の名残すら見当たらない。その結末は旧約聖書に描かれているバベルの塔に似ているな、と遠目から眺めていた結葉はぼんやりと考える。

 

 無論、それほどの巨大建造物が崩壊したとなれば被害は尋常ではないはず。しかし現実はそうなっていない。エクスマキナの支配から解放され、元の形状を取り戻した機械たちは地面に追突する間際に光の粒子と化して消滅していた。

 

「―――ふぅ。二人ともちゃんと勝ったみたい」

 

 まあ?あの二人が勝つことぐらい、もちろん知ってましたけど?結葉は安心したように一息吐き、双眼鏡から目を離す。

 

「『世界の意思』の介入も確認っと。これでみんな元の世界に帰れるはず」

 

 今起こっている現象は結葉たちが『世界の意思』と呼称している現象。こことはまた別の世界の仮面ライダーが戦っている『メタロー』と呼ばれる怪人が倒されたときに発生する事象と酷似している。

 

 消滅した機械たちは恐らく元あった場所に何事もなかったかのように鎮座しているだろう。機械だけではない。一部を除いた人々の記憶も改変され、後一時間もすればこの世界に「仮面ライダーが訪れた」という痕跡は跡形もなく消え去っているはずだ。

 

「ふむ。『世界の意思』が介入しているところを見ると、やはり魔人教団が関わっておったのかの?」

 

 別の世界から侵略してくる敵は何もメタローだけではない。しかしそれらの敵を倒したとしても必ず改変事象が発生するわけではない。ならばメタローの総本山である魔人教団の介入を疑うのは自然なことだった。

 

「うーん、多分違うね」

 

 しかし結葉の口から出てきたのは否定の言葉だった。

 

「その心は?」

 

「エクスマキナは怪人じゃない。れっきとした技術体系に則って生み出されてるのが一つ。もう一つは敵意が海翔にばかり傾いていた点。世界の征服を掲げてる魔人教団なら、(とお)先輩をもっと目の敵にしてもいい」

 

「・・・なるほどの。では『世界の意思』が介入している点はどう説明する?」

 

 妲己から投げかけられた質問に、一時の沈黙を挟んで答えた。

 

「・・・エクスマキナはこの世界にとって異端過ぎた。本来彼はただの人間、世界側が呼び込まなければ別世界に移動なんてできるはずがなかった」

 

「でも元の、海翔たちの世界で起こった事故が運命を狂わせた。彼は複数の―――最低でも二つの世界の特異技術を手にこの世界に降り立った」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。世界はこの事実を認めたくなくて、必死になって洗い流そうとしてる―――とか?」

 

「何とも曖昧な語尾じゃのう」

 

 呆れたような妲己。だが最後をぼかしたのには結葉なりの理由がある。

 

「仕方ないでしょ。空間がどうとか世界がどうとか、そんな専門的なことただの学生の私が知る訳ないじゃん。そもそも『世界の意思』と呼んでるこの事象自体、世界によるものかすらあやふやなわけだし」

 

 こんな難しい話はおしまい、と手を軽く叩く。

 

「それより良いの?(とお)先輩に会わなくて」

 

 今度は妲己が押し黙る番だ。ふと視線を向けると変身を解除した(とお)が海翔と何やら話をしていた。

 

「多分、先輩たちは元の世界に記憶を持っていけない。こっちの世界が許しても、あっちの世界が断固として許さない。それは君自身が分かってるはず」

 

「・・・」

 

 海翔たちがこの世界を訪れる二日前、突如としてこの世界に召喚されるまで妲己も一連の出来事を完全に忘却していたのだ。

 

「だからもしも会いたいなら―――」

 

「―――いや、()い」

 

 私は止めない。そう続けようとした言葉は妲己自身によって妨げられる。

 

「今、余が出向いても(とお)とあの時代の余を混乱させるだけ。せっかくの勝ち戦の余韻に冷や水をかけるほど腐っておらん。それに―――」

 

「?」

 

「―――面倒を見なければならん小娘が一人いるからのう」

 

 意表を突かれて一瞬だけ呆ける結葉。戦士としてのものではない、年相応の顔を見て妲己はクツクツ、と押し殺したように笑う。

 

 とそのとき、タイミングを見計らったかのように二人のスマートフォンに着信が繋がる。本来なら繋がるはずのない非通知からの電話。それは世界を渡る片道切符。

 

「じゃあ、帰ろうか。私たちの時代に」

 

「うむ。立つ鳥跡を濁さずとも言う。十兵衛の奴も黙って去ったようじゃしの」

 

「へ?」

 

 さらりと爆弾を投下した妲己。結葉は慌てて妲己に掴みかかるが、既に通話ボタンを押した後だった。

 

「ちょ、竹田先輩もこの世界に来てたの!?」

 

「なんじゃ、言うておらんかったか」

 

「聞いてない!ちょっと待って、今からでも一言挨拶に―――」

 

「はいはい、跡を濁そうとするのはやめよ」

 

 そうして最後にひと悶着ありながらも、結葉たちは一足先にこの世界から退去した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

「?どうかしたかい?」

 

「・・・何でもない」

 

 ふと上を見上げ、ある一点を見つめている(とお)。海翔もその視線を追ってみるが、その先には建物の群れがあるだけで、特筆すべきものは一つとしてない。が、彼女は何処か嬉し気だ。

 

(とお)ちゃ~ん!」

 

「ん」

 

 どこからか聞こえてくる声。それと同時に背後から(とお)に抱き着かんと飛び掛かる四の姫。しかし(とお)は後ろに目が付いているかのように、華麗に回避して見せた。

 

 両腕が空振り、涙目になる姫。貴族とは思えない姿を裏目に、五郎が声をかける。

 

「全く、大したやつだよ。あんなデケェもんまでブチ抜いちまうなんてな」

 

「驚いた?」

 

「いーや、お前はそれくらいはやる奴と思ってたぜ」

 

「そっちこそ無傷」

 

「姫さんの術式のお陰だけどな」

 

 互いの健闘を称えるように拳を突き合わせる。その様子を嫉妬深い目で見つめる四の姫に流石に辟易したのか、仕方なくと言った感じに四の姫の法要を受け入れた。

 

「―――フヒッ」

 

 そんな声を上げるのは止めなさい。姫とは口が裂けても言えない顔をしているが、どうか見逃していただきたい。

 

「伊藤君」

 

 三人の交流を微笑まし気に見守っていた海翔。そんな彼にも声がかかる。

 

「スペクターレコードカードを回収しました。もう一枚は―――」

 

「大丈夫。マシンレコードカードは僕が見つけておいたから」

 

 はい、とレコードカードを手渡す海翔。

 

「・・・彼は一体何者だったのでしょうか。レコードカードに加えてあのデバイス、私たちの世界の技術体系のはず。私たちの世界で一体何が―――」

 

 不安げに呟く詩音。そんな彼女を元気づけるために海翔はワザと楽観的に言う。

 

「悩まないで、とは言わないけど今はアレを倒したことを喜ぼうよ。デバイスが壊れたのは僕が確かに見たんだ。少なくともこの世界は平和が戻ったんだしさ」

 

「フ―――そうですね」

 

 海翔の思惑に気が付いたのか、軽く微笑んで再生する街を見つめる。

 

 世界は再び正常に回りだす。その中には仮面ライダー(彼ら)は実在せず、空想の物語としてのみ存在が許される。だがそれでもいいと詩音は思う。彼女が味わった悲劇を、彼らは味わわずに済むのだから。

 

「お~い!兄ちゃん、姉ちゃん!」

 

 遠くから章太郎が駆け寄ってくる。如何やら店に被害は無かったらしい。結界は張っていたとはいえ防衛の人員はいなかったので不安だったが、その様子を見る限り杞憂だったようだ。

 

「勝ったんだ!さっすが仮面ライダー!」

 

 自分のことのように誇らしげに、そして嬉しそうに言う章太郎。しかし何かに思い至ったようで、その表情は一転して暗いものとなる。

 

「―――でも、みんな元の世界に帰っちゃうんだ」

 

 章太郎がそう言った時、まるでタイミングを見計らったかのように三つの通知音があたりに鳴り響く。二つは海翔、詩音のそれぞれのスマートフォンから。もう一つは道の端に設置された公衆電話―――もちろん数秒前には影も形もなかった―――から。

 

 これまでこの世界を訪れた仮面ライダーたちと同じく、彼らには帰る世界があり、守るべき平和も相対するべき脅威もある。そのことは章太郎自身も分かってはいるが、だからと言って別れを惜しまずにはいられなかった。

 

「―――また、会える?」

 

 そしてそれは(とお)も同じようだった。海翔に向けられた小さな双眸の奥には確かに悲しみの感情が浮かんでいた。

 

 ならばそれを取り除くのは年長者の役目だ。

 

「僕たちは住む世界も、時代すら違う。それこそ奇跡が起こらないと再開することは出来ない」

 

「―――でも、()()()()()()()。僕たちは出会えたんだ。なら―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滅炎の世界、西暦1017年

 

「―――あ?」

 

 五郎が目を開ける。そこには綺麗な夜空が広がっていた。何故か懐かしい、と感じたのは気のせいだろう。

 見渡して見ると(とお)と四の姫も地面に寝転がっている。安否を確認すべく駆け寄ろうとしたとき、二人の瞼も開かれた。

 

「―――ふぁ」

 

「―――あれ、私たちいつの間に寝てました!?」

 

 もしや怪異の攻撃か、と身構える四の姫だったが、怪異の気配どころか残滓すらない。

 疑問に思いつつも四の姫は過去を動向を振り返る。

 

「ええっと。私たちは怪異を倒して、その後に()()を見つけて・・・あれ、何かってなんでしたっけ?」

 

「俺に振んのか?ああっと・・・なんか見つけた気はするんだよな・・・」

 

 思考が霧がかって朧気だ。

 四角い、そして大きいものを見つけたような気はするが、詳細な記憶が思い出せないのだ。

 

 うーむ、と頭を悩ませる二人。そんな思考をグ~、という腹の音が邪魔をする。

 

「・・・お腹減った」

 

「いや聞いたらわかるわ」

 

「何か作る」

 

 正しく傍若無人。

 容赦のない無茶振りに五郎は思わず大声を上げる。

 

「今からぁ!?・・・しゃーねーな、変な夢を見たのか俺も腹減ってるしな」

 

「奇遇ですね、私も変な夢を見たせいか空腹なのです。ご相伴に預からせていただいても?」

 

 傍若無人其の二。

 抗う気力など五郎に残されているはずはなく、食材はあったかと思考を巡らせることになる。

 

「貴族様みたいな豪華な料理は出せないぞ。口に合わないからって文句言うなよ」

 

「大丈夫です!五郎さんの食事は美味しいですから!」

 

 四の姫の言葉に複雑な気持ちになる五郎。

 素直に褒められて嬉しいが、源氏武士の末席としては刀の腕ではなく料理の腕が褒められるのはどうかという思いがある。

 おいそこの(とお)、コクコク頷くな。

 

「まあ、余は文句言うがな!精々余を満足させて見せよ!」

 

手前(てめえ)もか!―――ああ分かったよ!精々楽しみにしてな!」

 

 堪忍袋の緒が切れたのか、ずんずんと家に向かう五郎。

 やったー、と続く巫女姫と、頭上を纏わるように飛翔する火の玉。

 しかし(とお)の方はというと、どこか寂し気に道の一角を見つめていた。

 

(とお)ちゃ~ん、置いていきますよ~」

 

「ん、今行く」

 

 どこで芽生えたのかも分からない感傷を振り切って、瞬く間に四の姫たちに追いつく。

 そうして彼らは日常へと戻っていく。

 二日間の記憶は世界によって消された。しかし内に灯った炎を消しきることが出来ず。

 それがこの世界にどのような影響を与えるのか―――それは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュームの世界

 

 ハーメルンの世界を訪れた時とは異なり、無事地面の上に転移してきた海翔たち。彼らを出迎えたのは海翔の幼馴染兼同僚である明奈の体当たりだった。

 

「海翔!どこ行ってたのよアンタ!」

 

「グヘェ」

 

 猛スピードで組み付かれ、変な声を上げる海翔。それを尻目に詩音は駆け付けていた同僚と会話する。

 

「お疲れ様です、芦屋さん」

 

 周囲は零課の隊員によって封鎖されていた。まだ初期調査の段階らしく、黄色テープで辺りを囲んで―――一部切り裂かれているのは気にしない―――痕跡を探したりと捜査していた隊員たちの目が点になる。

 

「―――詩音ちゃん!?無事だったのね~!」

 

 目に涙を浮かべながらハグしようとしてくる夕夏を華麗にかわす。自衛隊出身という経歴からか、華奢に見えて彼女の力は想像以上。せっかく無事に帰ってこれたのに即入院なんて結末は笑えない。

 

「芦屋さん、現状を―――」

 

「行方不明になったって聞いて、私すっごく、すご、く・・・うわ~ん!」

 

 とうとう泣き出してしまった。これでは別の世界に言っていた間に何があったのか、聞き出すことなんてできない。ならばともう一人の同僚に声をかける。

 

「―――空賀君」

 

「アンタと海翔クンは五時間ほど前に連絡が取れんくなったんや。でも、どっかで偶発的にプレイスターと戦闘になったんなら連絡が取れんのも普通や。でも戦闘が起こってるっちゅう情報は何処にも上がってない。やから本格的に捜査しよう、っちゅうのが今や」

 

 スマホの画面を見る。最後に確認してから大体五時間半ほど経っている。日付も変わっていない。如何やら本当の様だ。

 

 一息に景虎が言い終えると、泣いている夕夏に腕を貸して立たせた。

 

「ほら、大の大人がそんな泣いてどないするんですか。本人も無事なんやし、ちゃんと立ってください」

 

「そんなこと言ったって~!景虎君だって心配してその辺ずっとウロウロしてたじゃん~!」

 

「ちょ、その話はせえへん約束ですやん―――そこ、笑うなや!別に心配なんてしてへんからな!」

 

 唐突な夕夏の暴露に景虎は慌てふためき、詩音はついクスリと笑ってしまう。必死に否定する景虎の耳が赤いのは気のせいではないだろう。

 

 一方、もう一つの修羅場も佳境を迎えていた。

 

「ちょっと、何この傷!また無茶したの!?」

 

「いや、傷はもう塞がってるし・・・」

 

「・・・へえ、傷が出来たのは否定しないのね」

 

「ッスゥー」

 

 一転して声のトーンが低くなる明奈。その様相に「あ、ミスった」と絶望する海翔。両手を上げて降参の意を示す彼の姿は、到底世界の危機を救った英雄には見えない。

 

「良いわ。お説教、一時間や二時間では済まないと思いなさい」

 

 そう言って海翔を引きずってゆく。引きずられている本人は抵抗一つしない。ただ、この先に控えているお仕置き(せっきょう)が穏便になることを願うだけだった。その姿はまるで死刑を待つ受刑者のよう。

 

 そんな海翔に心の中で黙祷を捧げながらも、詩音はあの世界で抱いた疑念を思い返していた。

 

(エクスマキナが使用していたのは機械(MACHINE)のレコードカード。だからインベスティドライバーは一時的に無力化された・・・)

 

 事実、エクスマキナが倒された後に問題なく機能することは確認済みだ。

 

(とお)さんのドライバーは機械由来のものではない。だからエクスマキナの能力は通じなかった)

 

(なら何故エヴィデンスドライバーはエクスマキナの権能を浴びてなお機能し続けることが出来た?攻撃の対象にできたのが一人だけだったから?それとも―――)

 

(―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

「どないしたんや?そんな難しい顔して」

 

 詩音の思考は景虎によって遮られる。現実に引き戻された詩音は自身の抱いた概念を「馬鹿らしい、考え過ぎか」と一蹴する。

 

 別の世界での戦いが終わっても、彼らの戦いは終わらない。その先に待つのは―――

 




読了、ありがとうございました!
これにてヒューム×滅炎は終了となります。

感想、評価などいただけますと、執筆の糧となります。
では皆さん、本編の世界でまたお会いしましょう!
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