仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ヒューム×滅炎 DIFFERENT TIMES   作:熊澤しょーへい

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会/揃う演者たち

 ハーメルンの世界。

 

 仮面ライダーや怪人の存在を空想の存在と定義しながらも、それに目を付けた数多の組織が食指を動かし、そのカウンターのために数多の仮面ライダーが訪れた異端の世界。世界が数多くあるとはいえ、これほど特異な世界は10と無いだろう。

 

 そしてまた新たな仮面ライダーたちが訪れることとなったこの世界。あるビルの屋上に一人の少女が姿を現した。

 

 パーカーのフードを深く被った少女。その下には黒を基調とした学生服が見え隠れしていた。―――最も、その校章は()()()()()()()()()()学校のものではあるが。

 

「・・・」

 

 安全第一を謳うこのご時世、当然ながら屋上に通ずる扉には鍵が掛けられ、その鍵も厳重に保管されている。にも拘らず彼女の手には屋上への鍵が握られていた。何ともなしに指に輪の部分を通し、クルクルと回していたが、屋上に出ると慌ててポケットの中に仕舞った。

 

 深く被ったフードは高所ゆえの強風によって捲られる。容姿に特段目立つ者はない。息苦しいフードから解放された黒髪が風に靡く。

 

 しかし一転、首元に巻かれたネックレスが人々の目を奪う。チェーンにぶら下がっているのは4色の指輪。どれもこれもが特有の輝きを放ち、例え普段から宝石に見慣れている大富豪でさえも、その輝きに思わず二度見してしまうだろう。

 

 少女は屋上の縁へと足を延ばす。厳重に施錠しているからか、屋上にはフェンスなどと言うものは取り付けられていない。だからこそ彼女は数あるビルの中でこの建物を選んだわけだが。

 

 少女は左足を縁に掛けると、懐から双眼鏡を取り出して目元に当てる。何かを探すように辺りを見渡していたが、流石に20分ほどすると飽きてきたのか、懐からスマートフォンを取り出した。

 

「げ、圏外・・・」

 

 彼女が元いた世界とほとんど同じとはいえ、彼女からすれば正真正銘の異世界である。当然電波が通じるわけもなく、その結果に少女は顔を歪ませて再度双眼鏡に目を当てた。

 

 ケチらずにプレミアムプランに加入していればよかった、と後悔するも後の祭り。誤魔化すようにキャンディーを口に入れ捜索を続行する。 

 

「ほんとにこの世界に来てるわけ?」

 

 不意に愚痴が漏れる。屋上には彼女一人。愚痴を受け取る相手がいるはずがない。しかしどこからか返答を受け取ったように、彼女は言葉を一人紡ぐ。

 

「いや信じてないわけじゃないけど―――というか来てもらわないと困るし」

 

 少女はポケットからカードを一枚とりだす。この世界でも、ましてや彼女の世界由来のものでもない。このカードはとある世界の物品、そしてとある仮面ライダーの記録が刻まれたカード。

 

「約束通り、これを返さないとだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一目でわかる!時系列のコーナ~!

 

 怪異を討伐していたよ→変な透明の箱が現れたよ→中に入って備わっていた道具を弄ったよ(ここまで平安時代)→気づいたら昼だったよ(なおここから令和)

 

 うん、うん、うん・・・

 

「いや納得できるかぁ!」

 

 妲己が火の玉のまま暴れ散らかす。悠久を生きる彼女をして、このような事象は全くの未知であった。

 

 遥か未来に放り出された一行は、行く当てがあるはずもなく、只歩道の隅でボンヤリとしていた。

 

 目の前を自動車が高速で走り抜ける。馬では到底出せない速度に、通り過ぎるたびにビクッと肩が震える。

 

「で、マジでどうするよ」

 

「先ほどの法具(暫定)を使おうにも・・・」

 

「・・・」

 

 四の姫がチラリと道の端を見やる。彼女らをこの時代に放流した電話ボックスは影も形も無くなっていた。

 

 誰が提案したか、「一先ず外に出よう」という案に頷き、警戒なく電話ボックスから離れたのが運の尽き。振り返った時には元凶は既に姿を消していた。

 

 因みにこの時代に移動する際も、電話ボックスが消え去った際も妖力・霊力の類は一切関知できなかったことを明記しておく。

 

「・・・」

 

「やっぱり話しかけてみるか?話してる言葉も俺らのと変わらなそうだし(半分くらい意味分からない言葉が聞こえてきたりしたが)。話に聞く大陸の人間とは違って何とか通じそうだろ」

 

「私としては慎重を期すべきだと思いますがね・・・我々はこの世界の常識すら知りません。一手間違えるだけでとんでもないことになる恐れがあります」

 

「・・・」

 

「姫の言うことは分かるがよ―――その常識もこっちの人間と触れなきゃ知りようがないだろ」

 

 四の姫は慎重より、五郎は大胆よりに意見が分かれる。妲己は未だに混乱して使い物にならず。そして残る一人は―――

 

「・・・」

 

 四の姫によって後ろからがっしりと抱きしめられていた。身動き一つとることが出来ず、いつもの無表情は何時にもまして不服そうな気配を漂わせていた。

 

「離す」

 

「駄目だ」

 

「離す」

 

「駄目だ。この状況でお前を放牧しても碌なことにならねえ」

 

「・・・」

 

 五郎が(とお)の主張をバッサリと切って捨てる。まさかの動物と同様の扱い。実際に(とお)の視線はあちらこちらに休むことなく移動している。手を離せば10分と経たずに迷子になるだろう。

 

 しかし彼女は唯我独尊系主人公。諦めることなく脱出の機会を虎視眈々とうかがっている。しかし相手二人も只モノではない。一人は安倍晴明の再来と謳われる陰陽師、もう一人は若くして(とお)の監査役に選ばれるほどの手練れ。(とお)の行動を察知するなどお手の物だ。

 

「・・・まあここで立ち往生してても仕方ないしな」

 

「そうですね。一先ず移動することにしましょう」

 

「・・・妲己」

 

「―――おお、分かっておる!」

 

 何が分かっているのか。(とお)の呼びかけに応じてようやく妲己が正気を取り戻した。

 

 力づくで(とお)を止められる未来が見えるはずもなく。そしてこのまま座っていたとしても事態が好転するわけでもない。抜刀した五郎を先頭に、3人と1体は警戒しながら少しずつ歩みを進めてゆく。

 

 因みに(とお)の位置は真ん中だ。余程のことがない限り見失うことはないだろう。

 

 ―――ところで皆さんご存じであろうか。日本にはとある法律があることを。そしてこの世界でもそれは例外ではないことを。

 

 その法律とは銃砲刀剣類所持等取締法―――即ち()()()である。

 

 では改めて一行の持ち物を見てみよう。(とお)の腰には源頼光から譲り受けた数々の逸話を持つ宝剣である蜘蛛斬りが収められており、五郎に至っては背中に長弓を抱え、挙句の果てに抜刀までしてしまっている。

 

 ・・・うーん、アウト♡

 

 よってこうなるのは必然であったともいえる。

 

『―――動くな!貴様らは完全に包囲されている!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 路地裏の中、日に当たる道を避けながら全力で疾走する二つの影。え、一人足りないだろって?(とお)は荷物のように五郎に抱えられている。大鎧を纏い、人を抱えながらも息を切らすことなく全力疾走できるのは、まさしく日々の鍛錬の賜物である。

 

 日本の警察官は優秀であるが、毎晩のように命のやり取りをしている三人には及ばない。少しずつ、しかし確実に距離が離されてゆく。

 

 しかし警察官らにもプライドがある。市民の平和を守るのが我々警察官であるというプライドが。彼らにとって(とお)たちは日本刀を白昼堂々持ち歩く危険人物。よって見逃すという選択肢はない。

 

『逃がすな!そちらに隊員を回せ!』

 

 警察官の怒号が背後から聞こえてくる。距離は離れているはずなのにまるで耳元で叫ばれたかのように余韻が耳に残る。

 

「私たち、まだ何もしてないのに~!」

 

「何か気に障ることしたんだろ!」

 

 ご明察。現代日本では刀を抜く・・・以前に帯刀してるだけで大問題だ。平安人だからこそ起きたミス。しかし後悔している暇はない。当然ながら警官たちは拳銃で武装している。今は拳銃を抜いていないが、何時発砲してくるか分からない。

 

「・・・何で抱えてる?」

 

 五郎の腕から声が聞こえる。抱えられている(とお)がどんどん不機嫌になっているような気がする。

 

「だってお前、離したら追ってきてる奴ら殺しに行くじゃん」

 

「任せる。五太刀もあれば全員殺せる」

 

「だからだよっ!これ以上問題起こすんじゃねえ!」

 

 舌打ちでもしそうな表情―――表情筋は僅かも動いていないが―――の(とお)。その態度を見て絶対に開放するまいと意思を硬くする。

 

 ()るか()らないかと聞かれれば、間違いなく(コイツ)はやる。しかも躊躇いなく。そして隣に浮かんでる火の玉は嬉々として教唆する。今も(とお)の横で「早う()ってしまわんか!」と喚いている。

 

 狂犬を抱えながら細い路地を疾走する。しかし―――

 

『動くな!貴様らは完全に包囲されている!大人しく武器を捨てろ!』

 

 路地を曲がった先、大通りに面した通りは既に複数のパトカーが道を塞いでいた。タイムスリップしてきたばかりの(とお)らと日々この国の治安を守っている警察官とでは地の利の差がありすぎる。この結果は初めから分かり切っていた。

 

 立ち止まっている間にも背後から続々と警察官がやってくる。大人しく拘束されるしかない、四の姫がそう思った時・・・

 

武士()に向かって武器を捨てろ、って言ったか?つまり殺し合う覚悟があるってことだよなぁ!」

 

 ブレーキだと思っていた五郎がまさかの暴走。鞘から抜刀し、周囲の警察官を威嚇し始めた。

 

「なーにやってるんですか!馬鹿ですか、馬鹿なんですよね!この状況で殺し合い宣言とか頭おかしいんですか!」

 

「止めんな姫!刀と弓(たましい)を捨てろといわれて大人しく従うなんざ末代までの恥!一人でも多く打ち取ってやらぁ!」

 

 羽交い絞めにして何とか抑えつける。これも時代を超えた人間同士の接触が引き起こした悲劇。五郎のそれは敬愛する主君から賜った名刀。そして背中に抱えている長弓は平安武士にとって誇りそのもの。それを捨てろと言われれば激高するのも当然だ。

 

 一方の警察官らからすれば(とお)たちは真剣に長弓と、凶器で身を包んだ凶悪集団。武装解除を求めるのは当然で、それを拒否した五郎に対して警戒レベルが更に上がる。

 

 両者にらみ合うこと数分。静寂を破ったのは一人と一匹。

 

「「―――ッ!」」

 

 刀を抜き、正面を警戒する(とお)。虚ろな瞳には確かな戦意が宿っている。抜刀した(とお)に対して、警察官は一斉に拳銃を抜き去る。

 

「ちょっと!(とお)ちゃんま、で・・・」

 

 慌てて止めに入ろうとした四の姫だったが、(とお)の見つめる先を見て思わず絶句した。

 

 異様ともいえる雰囲気に対し、五郎も警察官たちの奥へと目を凝らす。

 

「・・・何があるんだ?」

 

 しかし目を凝らそうとも一向に見えてこない。思わず漏れ出た言葉に反応は期待していなかったが、四の姫がその問いかけに応えた。

 

()()()()()()()()()です」

 

「―――ッ!なるほどな、二人が警戒するわけだ」

 

 妖気の元である大気(オーラ)は世界中に満遍なく分布し、偏ることはない。それが異常に密集しているとなると引き起こされる事象は一つ。即ち―――怪異の発生である。

 

「まだ昼間だってのによ・・・」

 

 五郎のぼやきでその事象が止まる訳もなく、淡々と進行してゆく。

 

 話は少し脱線するが、諸君らに問いかけたい。令和の世界に怪異は存在しているのか?怪異の源、妖気の発生原因は畏れと言った負の感情。火事や洪水、地震など人知の及ばない現象に対する恐怖が怪異の力の源であった。

 

 ではそのほとんどが科学的に解明された現在、怪異は存在しないのではないか?―――答えは否、である。

 

 確かに自然現象や動物に対する畏れは目に見えて減った。しかし人間の持つ負の感情は減ることなく、むしろ増加していった。

 

 ではその感情は何処へ向けられたのか?是非答えよう。それは―――

 

 ―――()()だ。

 

 科学的に証明された事象や生物への恐怖は減った。そしてその分のエネルギーは自らの権益を脅かす同種へと向けられることとなった。

 

 欲、恐怖、後悔、不満、無念、嫌悪、軽蔑、嫉妬、罪悪感、殺意、優越感、劣等感、恨み、苦しみ、悲しみ、怒り、絶望、憎悪・・・人類の負の感情がまるで自傷行為かのように人類へと向けられることとなったのだ。

 

 そして負の感情が向けられたのならば、それに対応した怪異が現れるのは必然である。

 

 ある一点の虚空―――(とお)、妲己、四の姫からすれば淀みが溜まった空間―――から人型の怪異が次々と現れる。頭部は黒く塗りつぶされ、まるで幽鬼のような足取りで生者へと向かってゆく。

 

 奴らこそがこの時代の怪異。人類の悪意の象徴。人類が存続する限り無限に湧き出る者―――名を貌無き者(ノーフェイス)という。

 

 鉄パイプ、包丁、金属バット・・・思い思いの凶器を振りかざして生者へと襲い掛かる。まず標的になったのは警察官たち。あまりにも突然で非科学的な事象に、警察官は咄嗟に対応できない。

 

「な、何が起こって―――」

 

「動くな!動けb―――グギャッ」

 

 拳銃を向けて制止を呼びかけるが貌無き者(ノーフェイス)たちは意に介さない。機械のように淡々と暴力を振るっていく。

 

 ダン!

 

 重い音と共に火薬特有の匂いがあたりに満ちる。恐慌に陥った若い警察官の一人が貌無き者(ノーフェイス)の一体に向けて発砲したのだ。弾丸は正確に貌無き者(ノーフェイス)の胸部に吸い込まれ、少し吹き飛び地面に倒れる。

 

「やった・・・」

 

 安堵したのも束の間、その顔は絶望に変わることとなる。貌無き者(ノーフェイス)は何事もなかったかのように立ち上がったのだ。傷口などは存在せず、まるで銃弾など最初から浴びていないようだった。

 

 怪異は妖気で構成されている。これに介入し、殺害するには類似したエネルギーを纏った攻撃でしか倒すことが出来ない。

 

 ―――だが攻撃の手段さえあれば彼らは容易く堕ちる。絶対的な脅威からやり方ひとつで弑せる相手へと。

 

「へ―――?」

 

 尻もちをついた警察官が間抜けな声を上げる。怪物が間近に迫ったと思えば、凶器を振りかざしたまま唐突に停止したのだ。

 

 よく見れば胸元から刃が貫通している。核を貫いた手ごたえを感じ(とお)が刀を抜き去る。同時に貌無き者(ノーフェイス)は身体の維持が不可能となり、霧散して現世(うつしよ)から消失する。

 

 パトカーを飛び越えていつの間にか大通りに現れた少女。表情一つ変えずに化け物葬り去った(とお)に警察官は畏怖するような視線を向ける。

 

 その視線を華麗にスルーして(とお)は黒い長方形の法具を腰に装着する。隙間なく漢字で埋められたそれは彼女(だっき)を縛る呪いであり、転じて彼女(とお)に力を与える祝福となる。

 

《調伏之具・・・!》

 

 気が付けば(とお)の隣に紫の火の玉がプカプカと浮かんでいる。

 

「よいのか(とお)()()()()()()()

 

 こちらの動向を観察する視線。早く排除したいという感情が見え隠れする助言だが、(とお)はバッサリと切って捨てる。

 

「いい」

 

 敵に対する侮りではなく、自らの力量に対する自信を以て。それよりも、と(とお)は火の玉の尻を叩く。

 

「妲己」

 

「・・・仕方ないのう」

 

 ため息交じりの言葉の真意はどれほど彼女の心に届いただろうか。紫の炎は法具へと吸収され、その証として中心のガラス玉が紫色に輝く。それを認めた(とお)は手早く九字の印を切る。

 

 独鈷印、大金剛輪印、外獅子印、内獅子印、外縛、内縛、智拳印、日輪印、隠形印。意味する呪文は「臨兵闘者皆陣烈在前」。人には過分な力を乗りこなすためのおまじない。

 

 一つ印を結ぶたびに拾とおの身体から紫色の妖力が吹き出る。過剰な妖力はやがて狐の姿を形どり、拾とおを守るように抱きしめる。

 

 九字を結び終えると小さな口が最後の引き金を言祝ぐ。

 

「変身―――」

 

 炎の中から現れるは大妖怪である妲己の力を宿した戦士。彼女こそが千年に渡って繋がれる炎の最初の契約者にして炎を灯した者。

 

 ―――仮面ライダー滅炎、参上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の戦士によって戦況は一変した。刀の範囲に収まった貌無き者(ノーフェイス)が次々に切り捨てられてゆく。怪異とはいえ人間ほどの身体能力しかない貌無き者(ノーフェイス)には彼女の相手は務まらない。

 

 ならばと滅炎を避けて逃げ遅れている警察官に襲い掛かろうとするが、残る二人の異邦人がそれを許さない。

 

「“封”!」

 

「おらよっと!」

 

 札を介した術式による拘束に急所を狙った的確な斬撃。日々の戦闘で鍛えられた連携の前に貌無き者(ノーフェイス)は成すすべなく切り捨てられてゆく。

 

 しかし怪異の進撃は止まらない。倒された数を埋めるように妖気の塊から次々と出現する。

 

「・・・む」

 

「まじかよ!」

 

「キリがないですね・・・」

 

 そう、貌無き者(ノーフェイス)の脅威はその数。世界人口約82億人が毎日のように人間に対して大なり小なり負の感情を向けている。その源泉は枯れることなく、一度決壊すれば洪水のように生者を飲み込んでゆく。

 

 とはいえこのままでは仮面ライダーを倒すには程遠いのもまた事実。

 

 大地を埋め尽くす鉄の建物の一つ。その一つの空き部屋から戦場を眺めている一つの人影。―――否、それは人と形容するにはあまりに異形。人肌などは一切見えず、代わりに鉄の塊がその身を覆っている。右足にはラジオのスピーカーが、左足にはプリンターの一部が、胸にはひび割れたスマートフォンが、両腕にはパソコンのキーボードがそれぞれ確認できる。目の代わりに車のライトが不規則に点滅している。

 

 手には剣のようなデバイスが握られている。デバイスにはカードを読み取ることが出来る機構が無理やりに取り付けられている。

 

 そのデバイス―――プレイングスラッシャーに異形は新たなレコードカードを挿入した。

 

《レコードカードを再度確認。読み取り開始》

 

 貌無き者(ノーフェイス)は溜め込んでいる呪いとは逆に怪異としての階級はそこまで高くない。それは偏に呪いの方向性が定まっていないため。例えるとするなら数多の画家がそれぞれ持ち寄った異なる色の絵の具で滅茶苦茶に描いた人物画。

 

 ―――ならば与えてやればいい。怪異としての方向性(テーマ)を。

 

《再生完了。妖怪(SPECTOR)

 

 直後貌無き者(ノーフェイス)の一体、学生服を着た個体がブルリと痙攣する。

 

 初めに異変に気が付いたのは前線で暴れる滅炎。彼女の瞳には異変は感じられず、しかし直感は早急に奴を排除するように訴えかける。

 

 事実と直感の狭間で滅炎が選んだのは直感。すぐさま人間であれば心臓が埋め込まれている部分に刃を突き立てる。

 

「―――ッ!」

 

 しかし、必殺を込めた刃は、いつの間にか怪異の手に握られていた血濡れの双刃によって受け止められる。滅炎どころか武具に精通している五郎でさえ見たことのない形状の武器。それもそのはず、怪異が握っている武器は平安時代には存在しないもの。怪異が振るっているのは巨大なハサミ。二分に分割されたそれを滅炎に向けて振るう。

 

「―――」

 

 重い、しかし受け止めきれない威力ではない。滅炎はドライバーの中心、紫色に薄く光るガラス玉に手を二度翳し、蜘蛛斬りに紫炎を纏わせ切り合いに身を投じる。

 

「わ、わWaWAwAaたatataaあaaaいsiしiiissi」

 

 滅炎と切り結びながらも怪異は変異を続けてゆく。頭部の黒い靄は徐々に晴れてゆき、意味不明な言葉を繰り返し呟く。

 

 ―――そして、完全に霧が晴れる。

 

「ワタシ、綺麗?」

 

 耳元まで割かれた口。問いかけに応えたものを切り殺す怪異。昭和後期に日本で流布され、やがて定着した日本で最も有名な怪異の一柱。

 

 ―――怪異:口裂け女

 

 これこそが貌無き者(ノーフェイス)の一歩先の姿。名と伝説という相応しい貌を与えられた者。

 ―――名を造られた貌(アーバンレジェンド)

 

 鋭さを増した双刃が滅炎に向けて容赦なく振るわれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪異:口裂け女と一進一退の攻防を繰り広げる滅炎。しかし、それは今まで滅炎が倒してきた貌無き者(ノーフェイス)がフリーになることを意味する。

 

 そしてその皺寄せをもろに喰らうのが四の姫と五郎である。

 

「クッソ、数が多すぎる―――」

 

 泣き言を吐いてしまうのも仕方がない。五郎には彼女らのような超常の力は扱えないし、体力の限界も底なしというわけではない。今は後ろから飛んでくる援護によって何とか保っているが、札も霊力も無限ではない。どちらかが倒れた瞬間に戦線は決壊する。

 

 しかし、不利な状況でも刀を振るう気迫は変わらない。

 

「だからって諦める理由にはならねえよなあ!」

 

 気合一発、目の前の怪異から刀を引き抜き、そのままの勢いでもう一体怪異を仕留めて見せる。

 

 言うには及ばないが周辺にも生者がいる。にも拘らず貌無き者(ノーフェイス)の被害にあってないのは五郎の尽力によるものだ。特別な力など持たない、只鍛えただけの人間。一つのミスで容易く死んでしまうか弱い人間。だからこそ、貌無き者(ノーフェイス)は五郎に向かう。

 

 術によって停止する怪異は後回し。動ける怪異から優先して切ってゆく。身を護る大鎧は大きなへこみが幾つもある。鈍器で殴りつけられた回数は数知れず。しかし源氏武士の一員としてのプライドが、そして何よりも背後に友人がいるという事実が彼を戦場に縛り付ける。

 

 人の身で在りながら奮戦を続ける五郎。しかし均衡は容赦なく崩れ去る。

 

 刀が振るわれるのが一瞬遅れたからか、はたまた札を取り出すのが一秒遅れたからか。五郎に向けて三方向から凶器が繰り出される。

 

「あ―――」

 

 スローモーションで凶器が振り下ろされる。意外にも走馬灯というものは流れず、五郎は一瞬の後に自身に迫るであろう死に覚悟を決め―――

 

《ALL RIGHT!ELECTRIC HUMAN DESTROY!》

 

 ―――しかし、その一瞬が訪れることは無かった。

 

 上空から一筋の雷が降り注ぐ。神秘が含まれたその一撃により貌無き者(ノーフェイス)の大群が一瞬にして蹴散らされる。直撃した個体は言わずもがな、余波を浴びた個体もその体を維持できなくなり、空気中に散っていった。

 

「・・・おいおい、切り札があるなら早く出して欲しかったぞ」

 

 目の前で唐突に引き起こされた奇跡(さんげき)。現実から逃げるように後方に向けて話しかける。これほどの術を使えるのは安倍晴明の生まれ変わりと称される彼女だけだろう。そう考えての問いかけだったのだが、帰ってきたのは意外な答えだった。

 

「いえ、先ほどのは私のではなく・・・」

 

「・・・嘘ぉ」

 

 では誰の仕業なのか。そう思案しているうちに爆心地の土埃が晴れた。

 

「あれは、人間?」

 

 土埃の中から現れたのは白い人型の存在。五郎たちは知る由もない。彼こそがこの世界に呼ばれたもう一人の戦士、仮面ライダーヒュームだ。

 

「あの、大丈夫なので・・・早く、降ろして、ください・・・」

 

 そしてヒュームにお姫様抱っこ(世界一恥ずかしい抱えられ方)をされているのが仮面ライダーガレスこと瀬良詩音である。




貌無き者(ノーフェイス)造られた貌(アーバンレジェンド)
 令和の時代にて、ある戦士の力と名前を受け継いだ仮面ライダーが戦っている相手。

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