仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ヒューム×滅炎 DIFFERENT TIMES   作:熊澤しょーへい

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談/この世界と私たちの世界

 喫茶Hameln。

 

 昔ながらのレトロな雰囲気が特徴な()()の喫茶店。全国に店を構えているチェーン店には及ばないものの、その落ち着いた雰囲気で根強い人気を誇っていた。

 

 時刻は午後の四時ごろ。日曜日なこともあってか、軽食を求めて店に次々と客が入り始める。Hamelnのマスターである藤堂権兵衛が成れた手つきで客を捌いてゆく。

 

 いつもより混み合う店内。しかしその殆どが一人の客に目を奪われていた。

 

 壁際の席にもたれ掛かる黒髪黒目の美女。引き締まるところは引き締め、出る所を出したその肉体は正しく神がこの世に生み出した芸術作品。憂を帯びた表情でカップを置く姿も一枚の絵のよう。その美しさは同姓すら魅了し、彼のモナ・リザさえ二の足を踏むだろう。

 

 正しく傾国の美女。その言葉が最も似合う女性だった。

 

 一手に集まる視線。しかし当の本人は気にした様子もなくスマートフォンを耳に当て、ぽつぽつと言葉を発する。

 

「―――だから言うたであろう?奴らはこの世界に来ると」

 

 見た目に違わず透き通るような美声。媚びるような声ではないが、するりとこちらの心に入り込む不思議な声。耳元で囁かれればどんな人間でもたちまち骨抜きにできるだろう。

 

 しかし、周囲の人間は気が付いていない。彼女のスマホが最初から真っ暗なことに。

 

 流れるBGMを差し置いて、客たち―――特に男性―――は必死になって彼女の声に耳を傾ける。誰一人としてその内容に一抹の疑問も抱くことが無く。

 

「ヒュームとガレスが(とお)と接触。その後は目標と接敵中―――今のところは筋書きどおりじゃな」

 

 彼女の口から放たれたのはこの世界に迷い込んだ仮面ライダーたちの名前。この世界の住人では知るはずのない言葉に加え、まるでリアルタイムで見ているような口振り。

 

「余も直に合流する。くれぐれも術を使うでないぞ」

 

 全ての人間が右から左へと聞き流す。薄く展開された妖気に誰一人として気づくことない。

 

「そう、彼らと入れ替わりじゃ―――ええい、知っているじゃろう!?余は奴が苦手じゃ、二度と目にしとうないと思う程にはな」

 

 彼女はコーヒーを一気にあおり、そのまま席を立った。躍動的に動き出す肢体。コツコツと歩みを進める姿を見て、魅了されていた者たちは咄嗟に自分の食事に戻った。

 

 一瞬の騒々しさも一顧だにせず、彼女はレジへと向かった。

 

「店主殿、会計を」

 

「あ、ああ・・・」

 

 促されて権兵衛は慌ててレジを操作する。権兵衛自身、美女は見慣れていたつもりだったが、それでもなお彼女が漂わせる雰囲気に圧倒されていた。

 

 しかしそこはプロ。いつも通り慣れた手つきで領収書を切る。「モデルみたいな客が来た」接客業をしているとそれくらいはざらにある。今回も以前の例と同じ、そのはずだった。

 

「それと、これを」

 

 ありがとうございました。定型句が口から出る前に、権兵衛の目の前に大型のボストンバッグが出現した。女性一人が持ち歩くには大きすぎるソレ、というか先ほどまで影も形も無かったバッグが出現し、権兵衛は目を白黒させる。

 

 彼女は混乱する権兵衛に顔を近づけ、そっと耳打ちする。

 

「直に少年が三人の仮面ライダーを連れてくる。助けになりたいと思うならこれを使うのじゃ」

 

「ッ、あんたまさか仮面ライダーの―――」

 

 女の囁きに権兵衛は驚愕の表情を浮かべる。

 

 仮面ライダー。この世界では50年以上続くテレビ作品として知られている空想の存在。しかし権兵衛は知っている。こことは別の世界では仮面ライダーが実在し、日夜平和のために戦っていることを。そして稀にこの世界を訪れることを。

 

 権兵衛は慎重にボストンバッグを開ける。有り得ないかもしれないが、万が一の可能性もある。喫茶店の店主としては確認しないわけにはいかない。

 

 心配は杞憂だった。中に入っていたのは多種多様なサイズの服が五人分。そして帯封で止められた渋沢栄一(新一万円札)の束だった。

 

「―――」

 

「要件は終わりじゃ。余はこれで失礼させてもらおうかの」

 

 権兵衛が気が付いた時には女は扉のバーハンドルに手を掛けていた。

 

「お、おい君!」

 

 まだ聞きたいことは山ほどある。女が外に出て数秒後、権兵衛は後を追うように外に飛び出していた。

 

「―――え?」

 

 そして再び絶句することになる。

 

 喫茶Hamelnの周りには人が隠れるような障害物はない。細い路地裏のような細かな曲がり角も同じくだ。にも拘らず先ほどまで居た美女の姿は影も形も無かった。絶世の美女である彼女は嫌でも目に留まる。しかし通行人はそんなものを見ていない、という風にいつも通りの日常を過ごしていた。

 

 狐につままれたとは正にこのこと。傾国の美女はボストンバッグと紫の妖気を残して姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃんたち仮面ライダーなんでしょ!?」

 

 戦闘が終わった後、海翔たちの耳に届いたのはまだ幼い少年の声。長距離を走ったのだろうか、二桁の年齢になって間もない体を上下に揺らしている。

 

 少年の名前は藤堂章太郎。喫茶Hamelnの店主、藤堂権兵衛の甥であり、この世界に訪れた様々な仮面ライダーと関わってきた少年だ。

 

 急な人物の登場にヒューム組も滅炎組も何も言えずに立ち往生する。前者はまさか一般市民からその言葉が出るとは思わず、後者は発せられた言葉の意味が分からず。

 

 沈黙が支配しかける中、いち早く口を開いたのは海翔だった。

 

「よく分かったね。でもこれは秘密なんだ。友達にも話しちゃダメだよ?」

 

「うん、わかった!」

 

 気まずい雰囲気を壊しつつ、さりげなく口封じする。屈んで目線を合わせ、優しい口調にすることで章太郎に不信感を与えていない。流石の手法。孤児院の先生は伊達ではない。後ろで見ていた詩音は思わず舌を巻いた。

 

 しかし相手はライダーオタクの小学五年生。その程度では止まらない。

 

「僕は藤堂章太郎!兄ちゃんたちの名前は!?」

 

 矢継ぎ早に繰り出される質問。それを聞いて海翔はあることに気が付いた。

 

「・・・そう言えば自己紹介がまだだったね」

 

 そう、目の前の少年の名前はおろか、肩を並べて戦った少女の名前すら聞いていない。改めて海翔は(とお)に向き直った。

 

「僕は仮面ライダーヒューム、伊藤海翔。そしてこっちは―――」

 

 海翔に促されて詩音も口を開く。機密情報では、とも思ったが今はこの場を乗り切ることが先決だと思い直す。少しどもったのはそれ故。初対面の相手に緊張したからではない。断じて。

 

「・・・仮面ライダーガレス、瀬良詩音です」

 

 ヒューム組の自己紹介が終わった後、一瞬だけ気まずい沈黙が流れる。

 

『・・・』

 

「いや名乗らんか!」

 

 妲己が思わずツッコむ。流れ的に(とお)が自己紹介する流れだったのに、当の本人はいつもの仏頂面で黙ったままなのだ。

 

「・・・何を話せばいい?」

 

 瞳の奥に困惑の感情がある。思い返すとこのように自己紹介する経験は彼女には無かった。

 

「あ奴らのように名前を言えばええ」

 

 妲己の言葉にこくりと僅かに頷く。

 

「ん。名前は(とお)。かめんらいだー?はよく分からないけど、滅炎って呼ばれてる」

 

「俺は五郎。こいつのお目付け役みたいなものだ」

 

「安部家が四女、四の姫と申します」

 

 (とお)に続いて五郎と四の姫も名乗る。三人の名前を聞いて海翔は首を傾げる。

 

(とお)に五郎に四の姫・・・苗字はないのか、はたまた口にしたくないのか・・・)

 

 現代の普通とはかけ離れた名前。しかし相手の名前に疑問を持っているのは五郎と四の姫も同じだ。彼女たちが生きる平安時代において貴族・武士などの一部の人間しか持たないもの。

 

「(家名があるということはそれなりの家のはずです。五郎さん、彼らの家名に聞き覚えは?)」

 

「(瀬良は知らねえが、伊藤は聞いたことあるな。確か伊勢国の一族がそう名乗ってた)」

 

 ひそひそと話し合う二人。互いが互いの名前に疑問を抱く中、最後の一人、否一匹が名乗りを上げた。

 

「そして余こそが大妖怪が一にして、いずれは日ノ本を支配する者、妲己である!この名前を畏怖と共にこの異界にも轟かせるがいい!」

 

 傲慢な言葉遣いは相も変わらず。身体が無いにも関わらず、ふんぞり返って鼻を高く伸ばしているように見える。

 

(火の玉・・・)

 

(火の玉が喋ってる・・・)

 

 プカプカと浮かびながら高らかに名乗る小さな火の玉。呆気にとられた海翔たちの顔を見てふふんと満足気に鼻を鳴らす。

 

「恐れのあまり声も出んようじゃの」

 

「んなわけ。大陸の無名の妖怪なんざ聞いたこと無かっただけだろ」

 

「はー!?日ノ本が田舎過ぎるだけじゃがー!?というか貴様不敬じゃぞ。今日という今日は許してはおけぬ、焼き尽くしてくれるわ!」

 

「やってみろよクソ狐!三枚に下ろしてやる!」

 

 わあわあと五郎と妲己が激しく口論する。

 

 海翔は止めるべきか、と悩むが、(とお)と四の姫にその気配が見られない。喧嘩するほど、というやつなのだろう。ならば下手に介入しない方が良い。

 

「妖怪の力で戦うんだ!響鬼、いや龍騎と似てる!」

 

「響鬼?龍騎?」

 

 会話を聞いていた章太郎が嬉しそうな声を上げ、そこに含まれていた聞きなれない言葉に詩音が首を傾げる。

 

 両者とも日本で放映されていた仮面ライダーの名前。海翔や詩音の年齢的に知っているはずだが、多くの仮面ライダーと交流を重ねてきた章太郎は動揺しない。

 

「そっか!姉ちゃんたちがいた世界は仮面ライダーが居なかったんだ。仮面ライダーっていうのは・・・これ!」

 

 章太郎はスマートフォンでライダー図鑑を開き、海翔たちに見せる。画面の中では昭和から令和まで世界を守り続けた戦士たちの詳細が事細かに記載されていた。

 

「龍騎・・・これかな。『ミラーモンスターと契約し、その力で戦う』・・・確かに(とお)さんと似てるね」

 

 そう言いながら横目で滅炎組の様子をちらりと見る。

 

「これがかめんらいだー・・・」

 

「すっげー!ただの板なのにどんどん絵が変わるぞ!」

 

「霊力・・・は感じ取れず。これほどのものを作成するには一体どれほどの式が・・・いやそもそも霊力だ可能なのか・・・一度内部構造を・・・(ブツブツ)」

 

(とお)よ、次はこの戦士を―――」

 

 三人と一匹は初めて見るスマートフォンに興味が行っているようだ。最初はおそるおそる、一度触り始めると初心者とは思えないスピードで操作方法を習得し始めた。

 

 現代社会では見られない光景。それを見た海翔の疑念が高まる。

 

(鎧に日本刀、名字のない名前。加えてスマートフォンに対する反応。もしかして・・・)

 

 一瞬黙っているべきでは、という考えが脳裏によぎるが、頭を振って躊躇なくそれを捨てる。エクセマキナと名乗った戦士は海翔と詩音だけでは手が余る。背中を合わせる相手に不安事項は残したくない。

 

「四の姫さん」

 

「・・・はっ、どうしました?」

 

 海翔に話しかけられて、思考の海に溺れていた四の姫はようやく戻ってくる。

 

「今の元号―――は言われても分からないか。天皇って誰だか分かりますか?」

 

 彼女の自己紹介通りなら四の姫は貴族の一員。三人の中で最も情報を握っていると考えた。因みに元号を聞こうとして止めたのは、短ければ四年ほどでコロコロと切り替わっていた年号を言われたところで分からないからだ。

 

 少し悩んでから四の姫は答える。

 

「天皇・・・陛下のことですか?昨年に譲位がなされて、先帝の従弟君が即位されましたね」

 

「先帝の名前は?」

 

「確か・・・そう、『三条院』が追号されました」

 

「三条・・・聞いたことがあるような無いような・・・その前は?」

 

「一条の帝ですね」

 

 一条天皇。正直120を超える天皇の中で知っている名前が出るか不安だったが、幸運にも子供たちの勉強を教えるために叩き込んでおいた知識にその名前がヒットした。

 

(多分、いや確実にこの人たちは―――)

 

 ファンファンファンファン!

 

 海翔が思考していたその時、けたたましいサイレンが現場に向けて迫ってくる。

 

「あ・・・」

 

 誰が言い放ったか。小さな呟きがやけに煩くあたりに響いた。あれだけ派手な戦闘をしており、気絶した警察官も転がっているのだ。急行してこない方がおかしい。

 

 そして懸念事項がもう一つ。滅炎組の武装は相も変わらず「銃刀法?何それ」状態なのである。確実に逮捕されること間違いなしだ。

 

「おいどうすんだ!」

 

「任せる。全員斬り捨てればいい」

 

「おう、やってやるのじゃ!」

 

「駄目ですよ、(とお)さん。完全に警察を敵に回せばエクセマキナとやらとの戦いの障害になりかねません」

 

 血の気の多い(とお)と妲己を詩音が毅然とした態度で止める。無表情に不服さをにじませながら納刀する(とお)の姿を見て、止めてよかったと心底安堵する。放置していれば間違いなく斬りかかっていただろう。

 

(しかしどうしましょうか・・・)

 

 本来なら警察に捕まるのが正解だ。零課の隊員には幾つか偽の身分が用意されており、その中には警察関係のものも含まれる。一度捕まり、その身分を利用して本部に連絡。対策を練るというのが無難な流れだ。

 

 しかし(とお)らが言うようにここが別の世界なら話は変わる。瀬良詩音という人物がこの世界にも存在している、用意されている身分が存在しない、そもそも零課が存在しない・・・どれか一つでも当てはまるだけで作戦はお釈迦だ。

 

 ならば逃げればいいのではと思われるが、それにも不安が残る。一番大きいのは金銭の問題。切り詰めれば一日分の食費くらいは得られるが、そもそもこの金がこの世界で使えるのかも分からない。別の貨幣が発行されていたら一転して無一文になることとなる。

 

 だが捕まるよりはましか。そう判断しようとしたときに思わぬ方向から助け船が出された。

 

「兄ちゃんたち、こっち!」

 

「章太郎くん!?」

 

 章太郎が海翔と(とお)の手を引いて路地裏に向かう。

 

「ここは?」

 

「秘密の抜け道!兄ちゃんたちみたいに仮面ライダーが困ったとき、助けになるかもって調べておいたんだ。さ、早く!」

 

 章太郎の案内で五人と一匹は薄暗い道に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「1000年後の未来ぃ!?」」」

 

「推定ですけどね」

 

 路地裏に二人と一匹の声が響く。躊躇いの末に海翔が情報を開示したのだ。

 

「1000年もあればここまで発展する・・・のか?」

 

 五郎は唖然としながら両側に聳え立つビルをまざまざと見つめる。「異界だからこんなもん」と受け入れかけていた現状だが、自分たちのいる時代の遥か未来と知って混乱している様だ。

 

「にしても発展しすぎじゃろ!この1000年で何があったのじゃ!?」

 

 滅炎組で一番困惑しているのは妲己。平安時代の時点で2000年ほど生きている彼女だが、発展具合に困惑を超えて恐怖しているようだった。

 

 殷王朝時代末期の紀元前11世紀と西暦1000年の間の文化的差異は小さい。それこそ先1000年の成長度と比べればゼロに等しいほど。そんな変遷を見てきたからこそ、ここが未来だと知って恐怖している。

 

 そして困惑しているのは二人と一匹だけではない。

 

「あの人たちは本当にタイムスリップしてきたと?」

 

 そう小声で問う詩音の目には疑いの感情が浮かんでいる。タイムスリップと言えば古くから創作物で取り上げられているもの。与太話ではという感情の方が大きいのだろう。

 

「そう思うのは仕方がないですが・・・これ見てください」

 

 海翔がボロボロになった新聞紙を詩音に渡す。異常性は何もない、海翔たちの世界にも存在する大手新聞社が発行している新聞紙だ。

 

「二か月前の新聞紙ですね。これがどうかしましたか?」

 

「章太郎君の話によると三日前の日付らしいですよ」

 

「―――本当ですか?」

 

「厳密には僕たちもタイムスリップしてるんですよ。だから世界が違うにしても彼らが平安時代後期の人間であるのは間違いないと思いますがね」

 

 絶句する詩音とは真逆に、海翔は彼らが過去に生きている人間であることを受け入れつつある。非科学的と言われれば確かにその通りなのだが、プレイスターだのレコードカードだの都市伝説めいた相手と関わっているし、ここが別の世界ということも、他者からすれば妄言にしか聞こえないだろう。

 

 そしてタイムスリップを受け入れている人間は海翔だけではない。

 

「凄い!そんな昔にも仮面ライダーっていたんだ!」

 

 集団の先頭を進む章太郎だ。仮面ライダーの中には過去、或いは未来を舞台に戦っている者も何人かおり、彼らの活躍を知っている章太郎からすれば取り立てて驚くことではない。1000年前にも仮面ライダーが存在していたことには興奮しているが。

 

「・・・」

 

「―――どうしたの、(とお)ちゃん」

 

 ここまで発言せず無表情で首を傾けている(とお)を案じるように海翔が声を掛ける。感情の抜け落ちたかに見える彼女の表情は近寄りがたい雰囲気があるが、海翔の鍛えられた直感(女性関係以外限定)は彼女が困っていると囁いていた。

 

「1000年後ってどれくらい先?」

 

 果たしてその直感は当たっていたようだ。直面した年代の幅が大きすぎたのか、いまいちピンと来ていないようだった。

 

「1000年・・・改めて説明しようとなると難しいね。―――(とお)ちゃんは四季って分かる?」

 

「それくらい分かる」

 

 瞳が「舐めるな」と言わんばかりに鋭くなっている―――気がする。何せ表情筋が1mmも動かないので雰囲気でしか推測できないのだ。

 

「春、夏、秋、冬が一周回って一年でしょ?」

 

「ん」

 

「それが1000回」

 

「・・・分からない」

 

「分からないかー」

 

 結構具体的に言ったのにな、と海翔は落ち込む傍ら(とお)は未だに首を傾げている。幾ら海翔とは言え1000年という概念を説明する日が来るとは思ってもおらず、どう言えば分かりやすいか、頭を必死に回転させている。

 

「うーん・・・一番簡単に言えば『凄く長い時間』かな」

 

「どのくらい?」

 

 容赦のない追撃が海翔を襲う!曖昧な表現に逃げるのは許さないと瞳で訴えかけられているように感じる。無表情なのに。

 

 ふと(とお)との距離が近すぎると感じ、こっそりと一歩離れる。(とお)は気が付いた様子はない。ならもう一歩と足を動かした瞬間、いつの間にか海翔の真隣に(とお)の姿があった。

 

 気持ち圧が強くなった気がする。気のせいか首筋が寒い。怖い。

 

「どのくらっ・・・うーん」

 

(とお)ちゃん、あまり困らせるものではないですよ」

 

 悩む海翔。「知らない」「答えられない」と一蹴すればよいものの、律儀に答えようとしているあたりに彼の性格が伺える。そんな海翔に四の姫が助け舟を出した。

 

「・・・困らせてた?」

 

 四の姫の言葉に(とお)は困ったように―――相変わらず無表情のままだが―――彼女に尋ねた。

 

「ええ、かーなーり困らせてました。海翔さん言葉に詰まってたじゃないですか」

 

「ん、ごめん。悪気はなかった」

 

 ぺこりと頭を下げる(とお)。素直に反省する彼女を見て「一方的に怖がっちゃったな」と反省する海翔。そういうところだぞ。

 

「大丈夫だよ。気になったことを尋ねるのは何も悪いことじゃないしね」

 

 なんやかんや言ってるうちに人のざわめきが段々と大きくなってきた。どうやらこの狭い道は終わりが近づいてきたようだ。

 

 先に章太郎が路地裏から出、警察官がいないか確認する。如何やら見当たらなかったようで「出てきてもいいよー」とボーイソプラノの声が海翔たちに届いた。

 

 おそるおそる出てくると章太郎は一つの店の前に立っていた。

 

「ようこそ!喫茶Hamelnへ!」

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