仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ヒューム×滅炎 DIFFERENT TIMES   作:熊澤しょーへい

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今回は会話パートは終わりです。どうぞお付き合いください


心/あなたの理由は何処に?

 権兵衛の料理に舌鼓を打った後、五人は再度作戦会議を行った。一段落した時には既に太陽は沈み、あたりは闇に包まれていた。

 

 そんな中海翔は一人ベランダからぼう、と景色を眺めていた。スマホを取り上げられた現代人とはかくも暇になるのか、などと取り留めのないことが頭の中で浮かんだり消えたりしている。

 

 喫茶Hamelnの二階、数少ない空き部屋は性別によって分けられた。なので五郎と同室な訳だが、その侍少年はこの部屋に見当たらない。それどころか隣の部屋からも人の気配は感じられない。詩音、五郎、四の姫の三人は翌日の決戦に備えて町に繰り出している。

 

 そう、出かけているのは三人だけ。(とお)は万が一エクスマキナが奇襲してきた場合に備えて待機しているはずだが―――

 

「―――うん?」

 

 ベランダからあたりを見回していた海翔は疑問の声を上げる。海翔から見たちょうど真下、喫茶店の入り口に(とお)が立っているではないか。

 

 何かあったのだろうか?そう考えて(とお)に意識を向けていると、何やらこちらの顔をじー、と見てきた。かと思うと視線を逸らし、再び夜景へと視線を戻した。

 

 (とお)。ぶっきらぼうにそう名乗った彼女の感情を読み解くのは難しい。表情筋がピクリとも動かない上に、瞳にはハイライトというものが全くない。詩音はそんな彼女を少し不気味に思っている様だが、海翔には彼女の態度に見覚えがあった。

 

 ―――似ているのだ。保護されてきた子供たち、中でも幼いころから暴力(きょうい)に晒されてきた者に。

 

 海翔が日野森学園に保護されたときから何度も見てきた表情。だからこそ海翔は(とお)のことをどうしても気にかけてしまう。―――まあ、そんな事情が無くても海翔なら彼女を「気味が悪い」と切って捨てるなどしないが。

 

「どうしたの?(とお)ちゃん」

 

 気づいた時には海翔は(とお)の背後に立ち、声を掛けていた。唐突な呼びかけだったが(とお)の表情は崩れることなく、予想していたかのように海翔の方向を向いた。

 

「・・・」

 

 しかし(とお)は何も話さない。沈黙が二人の間を漂い、自動車の通る音だけが二人の鼓膜に届く。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 急かすことなく海翔はその沈黙に乗りかかる。押していけば態度は更に硬化する。これまでの経験からそれを知っていた海翔は、(とお)のペースで話せるようにただ黙って傍に立っていた。

 

「―――」

 

 (とお)の小さな口が何度か開閉する。言葉を探しているようにも思えるその行動を何度か繰り返したのち、ようやく重い口を開いた。

 

「―――海翔はどうして戦ってる?」

 

 実際に言葉にしてみて考えが固まったのか、堰を切ったように(とお)のくちから言葉がつらつらと出てくる。

 

「海翔は戦いに向いてない。誰にも気を使うし、嘘は苦手だし、自分で全部背負おうとする。戦場で真っ先に死ぬ人間」

 

「耳が痛い・・・」

 

 飛んできたのはまさかの批判。だが攻めるような口調ではなく、常在のまま。非難しているのかそうでないか分からないため、海翔は一先ず(とお)の言葉に耳を傾ける。

 

「教える。海翔にはその自覚がある。それでも戦うのはどうして?」

 

 深い双眸が海翔をじっ、と捉える。まるで獲物を逃すまいとする肉食獣の様だ。

 

「少し歩こうか」

 

 (とお)の視線をものともせず、海翔は先導するように夜の街に向かって歩き出す。逃げるような言動ではない。そのことを感じたのか、(とお)は大人しくついてくる。三人ももうすぐ帰ってくるだろう。

 

 少し歩いていると何度か人とすれ違う。太陽が沈んだと言っても日が変わるにはまだ時間がある。日中と比べると少ないが、それでもまばらに人の姿は見える。

 

「戦う理由、か。あまり考えたことなかったな」

 

 往来に紛れながら海翔は呟く。

 

「僕たちの世界にはプレイスターっていう、君たちの世界の怪異とは違う怪物が、時折どこからともなく現れては人間を殺してるんだ」

 

 淡々と言う海翔。その冷淡さとは裏腹に、やりきれない感情が目の奥に宿っている。

 

「僕にはその怪物を止める力があるから戦う・・・いや、そんな義務的なものでもないかな。あんなのと子供たちの命を奪われたくないし、僕の過去にも繋がってるかもしれない―――うん。戦う理由はありすぎる。ありすぎて(とお)ちゃんに言われるまで気にも留めなかったほどにね」

 

 困った困った、と苦笑する海翔を(とお)は無表情のまま見つめる。

 

 しかし海翔の表情は次の瞬間、一転して思いつめたような、後悔するようなものへと変化する。―――まるで別人のように。

 

「それに(わたし)は二度と後悔したくないんだ。あの時こうすればよかった、なんてのは飽きるほど重ねてしまったからね」

 

「―――海翔?」

 

「―――うん?どうかした?」

 

 違和感を抱いた(とお)は殺気交じりに問いかける。すると先ほどまでの気配は綺麗に霧散し、困り顔の海翔がそこにいた。

 

 何もない、と(とお)が首を横に振ると、海翔は疑う素振りなく「そう?」と受け入れた。

 

「僕の戦う理由としてはこんなところかな。でも、(とお)ちゃんが聞きたいのはこんなことじゃないだろう?」

 

「・・・」

 

 大当たり。エスパーとも思える勘の良さに、ふと(とお)の足が止まる。

 

「・・・何で分かった?」

 

「年の功、ってやつかな」

 

 冗談めいた口調だが半分以上は事実。伊達や酔狂だけでは孤児院の院長など到底務まらない。

 

「・・・」

 

 たっぷりとした沈黙の後、(とお)は再び口を開いた。

 

「私は、空っぽ。理由がないまま、それに気づかないまま何年も剣を振るってきた」

 

 あの夜茨木童子に叩きつけられた言葉、それは私の心に楔のように深く突き刺さっている。人間か、怪異か。自分がどちらに属するか決められないまま、それでも醜く足掻いている。

 

「私は自分の心が知りたい。だから海翔が何故戦ってるか聞いた」

 

「・・・そっか」

 

 相変わらず感情は読み取りにくい。しかし読み取れた僅かな感情の揺らぎ、それは彼女が本気であると知るには十分だった。

 

 海翔は言い淀む。心とは人によって千差万別。故に海翔では(とお)の悩みを解決することは出来ない。それができるのは(とお)自身、或いは彼女と近しい人物だけだろう。

 

 そのことを海翔が伝えると、(とお)は目を伏せて息を一つ吐いた。深く探らずとも、落胆しているのが目に見えて分かった。

 

「でも、一つだけアドバイスするなら」

 

 (とお)のまさかの反応に、慌てた様子で海翔は人差し指を立てる。

 

「探そうとするのを諦めちゃいけないよ。諦めたら見つかるものも見つからなくなる」

 

「それでも、分からなかったら?」

 

「もう一度自分の周りや足元を見てみようか。案外身近なところに答えが眠ってるかもよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後一言二言会話した後、用があると言って海翔と別れた(とお)。明かりと人目を避けるようにして昼間通った路地裏に姿を隠す。

 

 誰もいないことを確認し、ぼそりと何もない空間に呼びかけた。

 

「妲己」

 

「ふう、やっと出てこられたわ」

 

 ポン、と小さな紫色の火の玉が出現する。こんなところを撮影でもされたら明日の行動に影響が出るだろう。

 

 固まった身体(火の玉なのに)をほぐすように伸び縮みする妲己。まるで老人のような態度に、しかし(とお)は気にすることなく妲己に詰め寄る。

 

「なんで急に引っ込んだ?」

 

 (とお)の問いかけに妲己はやれやれといった風に答える。そう、彼女は(とお)たちが喫茶Hamelnに入ってから一言も声を発していない。それどころか姿すら眩ませていたのだ。

 

「安部の小娘も分からなんだようじゃったからの。(とお)が分からぬのも仕方ないか」

 

 馬鹿にするような言い草だが、それを大人しく受け入れるような(とお)ではない。丁度落ちていた鉄パイプを拾い、妲己に向けてフルスイングした。

 

「ぐえっ」

 

 つぶれたカエルのような声を上げ、妲己は壁へと叩きつけられた。これは痛い。

 

「なんで急に引っ込んだ?」

 

 先ほどと同じ質問。しかし三度目は無いとばかりの圧力が込められており、妲己は無い目玉を必死に(とお)から逸らしている。

 

「あの喫茶店とやらからほんの僅かに妖気を感じたからじゃ。余は下手人は藤堂と名乗ったあの二人と見て潜伏することにしたのじゃ」

 

 結果は杞憂だったがの、と妲己は付け足した。

 

「誰の妖気?」

 

「分からぬ。怪異である余でさえも把握するのが精いっぱいの残滓しか残っておらなんだ。少なくとも室内にいた七人のものではないの」

 

 そう言うともう回復したのかプカプカと浮かび上がる妲己。全くしぶとい狐だ。

 

「ん」

 

 聞きたいことは聞き終わったとばかりに身を翻す(とお)。そんな彼女を待て、と妲己は引き留めた。

 

「伊藤海翔、やつのことをどう見ている?」

 

「?特にない。いい人」

 

 質問の意図が分からない、というように(とお)はこてんと首を傾げる。そもそも喫茶店に入るまでは普通に会話していただろう。わざわざ海翔について言及する意味が分からなかった。

 

「余もそう思うておった。ただの甘い人間だと、魂の色がおかしいのもこの世界ではこれが基準だとな」

 

 じゃが、と妲己は続ける。

 

「この世界の人間を見て、そして先程の会話を見てこの考えは撤回せざるを得ん。伊藤海翔、あれは間違いなく異端よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など正気を保っている方が可笑しいわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、海翔と(とお)が喫茶Hamelnの前を離れたとき。空になった海翔と五郎の部屋に異変が生じた。

 

 ―――カチャリ

 

 静かに窓の鍵が動く。勿論部屋の中には誰もおらず、それは窓の外も同様であった。まるで怪奇現象のようにスルスルと窓が動く。力が加わったのか、ギシリと窓枠が嫌な音を立てる。

 

「ふう、何とか忍び込めた・・・」

 

 何かが飛び降りたかのように床が音を立てた後、今まで何も居なかったはずの空間に一人の少女が出現した。

 

「まったく、どんだけ結界を張ってんのよ」

 

 やれやれと溜息を吐いた黒髪の少女は、着地した瞬間にはだけたフードを慌てて被りなおす。指輪がはめられた特徴的なネックレス、ビルの屋上から海翔たちを探していた人物だ。

 

 現在喫茶Hameln周辺には防衛のために結界が幾重にも張り巡らされている。これらに自分の存在が気取られぬよう潜入するのは至難の技であった。

 

 しかし侵入するのが目的ではない。一呼吸置く暇もなく、少女は部屋の中を物色しはじめる。

 

「さてと、明日の海翔の服はっと。・・・あっ、これか」

 

 ものの数秒でらしきものを見つけたようだ。念のため、とスマホに保存しておいた写真と見比べていたその時、

 

 ダダダダダ!

 

「まっずい!バレるの早すぎでしょ!」

 

 猛スピードで階段を駆け上がってくる音に少女は驚き、慌てて左手に指輪をはめる。首にぶら下げている指輪たちとは少し形状が異なり、丸く加工された赤い石が収まっている。

 

 少女がスマホを起動させるのと勢いよくドアが開いたのはほぼ同時だった。

 

「曲者覚悟!―――ってあれ?」

 

 突入と同時に四の姫は札を投擲する。込められている霊気はそこらの札とは比べようもない。茨木童子といった上級の妖怪にもダメージを与えられる、決戦用の装備だ。

 

 しかし少女が侵入する前と同様、部屋の中は全くの無人。困惑する四の姫の背後から五郎が声をかける。

 

「どういうことだ?侵入者がいるって話だっただろ」

 

「確かに結界に反応したんですよ!どこかに潜んでいるに違いありません!」

 

 鼻息を荒くして部屋中のものをひっくり返す勢いで捜索する四の姫。一方、その対象となっている少女は既に喫茶Hamelnの外へと逃走していた。

 

「危ない危ない。ここで見つかるなんて、予定にはないもんね」

 

 そう言って彼女はキャンディーを口に放り込み、ポケットに両手を突っ込む。先ほどまであったはずの内容物は既にポケットにない。そしてそれは目的の達成を意味していた。

 

 各々の夜が更け、やがて決戦の朝が来る。




次からようやくクライマックスです
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