綴リ紡グ恋ハ、忘却ノ中ニ。
第一章 ── 再会は、何度目?
(リゼリア視点)
ねえ、君は……私のこと、覚えてる?
――そう訊いたら、君はどんな顔をするんだろう。
驚く?笑う?それとも、困ったように首をかしげるのかな。
(私はもう、何度も見たんだよ。君が私を忘れた“その瞬間”を)
(だから……今さら取り乱したりなんて、しない)
私の名前は、リゼリア・フェルナー。
かつて“記憶を紡ぐ者”と呼ばれた一族の、最後の一人。
今ではただの記録係――というのが、今のこの町での表向きの顔。
でも、本当は違う。
私は忘れられたものを追っている。
誰かの記憶に残らなかった愛や、交わされた約束、ひとことの言葉……
それを、もう一度、縫い合わせるように紡いでいる。
そう。君のことも。
午後の風が、古書店の看板をかすかに揺らす。
ドアの鈴がチリン、と鳴った瞬間、私は指先の震えを止めることができなかった。
そこに立っていたのは、君――セイルだった。
変わらない笑顔。けれど、私の名を呼ばない唇。
まるで、初めて出会ったかのように、無垢な瞳。
「こんにちは。えっと……予約してた本、受け取りに来たんだけど……」
「あら、ようこそ。初めてのご来店、ですよね?」
(……違うよ。君は、ここに何度も来た。私の隣で、本を読みながら笑ってた)
(でも――また“最初から”始めるの。今度こそ、最後まで君が私だけを覚えていられるように)
「よかったら、少しお話でもしていきませんか? 昔、君に似た人がいた気がするの。」
そう言うと、セイルは小さく笑った。
「……へえ。僕に似てる人? ちょっと気になるな。」
(ねえ、お願い。何も思い出さなくていい。ただ……また、私を好きになって)
(だって今度こそ、私から君の記憶を――絶対に離さないから)
――それが、“再会”の始まりだった。
第二章 ── 触れてはいけない記憶
(セイル視点)
古書店の空気は、不思議と落ち着く。
紙のにおい、かすれたインク、静かな音楽。
でも――それ以上に、あの店主の笑顔が、どこか懐かしかった。
……初めて会ったはずなのに。
リゼリアさん。
あの人の名を口にするたび、胸の奥に波紋が走る。
どうしてだろう。俺は、彼女の声を、前にも聞いたことがある気がする。
あの目で見つめられると、逃げ出したくなるような、でもずっと見ていたいような。
「今日も来てくれたのね。うれしいわ。」
微笑みながら、彼女は紅茶を淹れてくれた。
仕草が、妙に慣れていて、まるで――
(……まるで、前にもこんな風に過ごしたことがあるような)
俺は記憶をなくしている。
事故に遭ったときのもの。医者は「断片的な記憶障害」と言っていた。
でも、日常生活に支障はない。
家族の顔も、過去の自分も――ちゃんと、覚えている。
なのに。
リゼリアのことだけは……思い出せない。
「ねえ、セイルさん」
彼女が、俺の名を呼んだ。
「夢、見ることはある?」
「夢……? うん、まあ、たまに。意味がわかんないのばっかりだけど。」
「たとえば――誰かを必死に追いかける夢。声が聞こえるのに、その顔がどうしても見えない……そんな夢、見たことない?」
……ある。
あるんだ。ずっと、同じ夢を見てる。
赤い花びらが舞う中で、誰かが泣いている。
俺の手を掴んで、何かを叫んでいる。でも、声が届かない。
「……どうして、それを……?」
「ううん、なんでもないわ」
カップを置いた音が、小さく響いた。
その笑顔には、確かに“何か”が隠れていた。
(どうか気づいて、セイル。あの日、私が何をしたのか)
(でも、思い出すなら……今じゃなくていい。まだ、君の記憶をほどきたくないの)
「君の夢、きっといつか……現実になるといいわね」
その夜、俺はまた、あの夢を見た。
赤い花、血のように散る記憶。
そして、あの目――深い緑色の瞳が、俺を見下ろしていた。
――「思い出したら、戻れなくなるよ?」
第三章 ── 歪む日常
(リゼリア視点)
今日は曇り空。
こんな日は、記憶がほどけやすい。
私の中にある、セイルの記憶。
笑った顔、泣きながら「好きだ」と言った声、約束を交わした夜。
全部、鮮明なのに――彼の中には、ひとつも残っていない。
(どうして私だけが、こんなに覚えてるの?)
(ねえセイル、君も苦しんでよ。私と同じくらい、ねえ……)
彼が来る時間は、午後三時。
一度たりともズレたことはない。
今日も扉の鈴が鳴って、彼が笑って現れた。
「やあ。リゼリアさん、今日もいい匂いするね」
「ふふ、紅茶の新しいブレンド。試してみる?」
「うん、楽しみにしてた」
私の手からカップを受け取るその指に、一瞬、触れた。
彼は何も気づかず、笑った。
けれど私は――その瞬間、確かに見てしまった。
彼の中にある“かけら”。
ほんの一瞬、私と見つめ合った時の、過去の残像。
(……やっぱり、全部は消えてない)
(君はまだ、私を覚えてる。だから……消しちゃえばいいのね、邪魔なものを)
その日、彼は言った。
「最近、少し変なことがあってさ……」
「変?」
「友達と話してたときに、妙に“噛み合わない”ことがあって。俺、その人と何年も前からの付き合いだと思ってたんだけど、向こうは“昨日知り合った”って言ってて……さ」
「まあ、不思議ね」
「怖いんだ。俺、記憶……また、おかしくなってるのかな」
(……ふふ、違うよ。それは私がちょっと、整えてあげただけ)
「大丈夫よ。そんなこと、誰にでもあるわ」
私はそっと微笑んだ。
彼が心配しないように。彼が他人を気にかけないように。
(だって君の世界には、私だけがいればいい)
その夜、私はセイルの旧友の記憶に手を伸ばした。
彼の中から、セイルの名前を丁寧に、やさしく、ほどいていく。
会ったことも、話したことも、笑いあった記憶も。
ぜんぶ、やわらかく、静かに、なかったことにしてあげた。
(ねえセイル。少しずつ、世界を“君と私”だけにするからね)
――それが、彼の「不安」が始まった日だった。
第四章 ── 探し始めた理由
(セイル視点)
本当に、あの人とは「初対面」だったのか?
……最近、そんなことばかり考えている。
きっかけは、小さな違和感だった。
友人の名前を、リゼリアさんが“知っていた”。
俺が言ってもいないのに。
「偶然よ」と、彼女は笑っていたけど――それは偶然のレベルじゃなかった。
話の内容も、癖も、過去のエピソードまで知っていた。
俺より、俺の記憶に詳しいみたいに。
本棚を漁るうち、偶然見つけた一冊のノート。
古い手帳、誰かの落書き、そして――そこに書かれた“俺の名前”。
セイル、って。何度も、何度も。
その下に、ひとことだけ――こう綴られていた。
「思い出させるのは、まだ早い」
……誰が、こんなことを?
不意に、頭が痛んだ。
そして、またあの夢が――赤い花、消えた声、泣き叫ぶ誰かの姿。
「リゼリア……」
俺は、あの人の名前を呟いていた。
気づけば、図書館にいた。
“記憶災害”に関する資料を探すために。
事故の記録、被害者一覧、関係者の証言……
その中に、“リゼリア・フェルナー”の名前を見つけた瞬間、背筋が凍った。
【記憶災害第二波発生時、最も多くの記憶干渉を受けた人物。
また、特定人物との恋愛関係があったとの報告もあるが、該当の相手は不明。】
俺のこと、じゃないか?
彼女は……俺の記憶を“知っていた”んじゃない。
彼女は――俺の記憶を、持っているんだ。
「……何者なんだよ、リゼリア……」
次に会ったとき、彼女はやさしく笑って言った。
「最近、眠れてる?顔が少し疲れて見えるわ」
その言葉が、妙に怖かった。
まるで、俺の“夜の夢”まで知ってるみたいに。
――彼女に触れてはいけない。
そう思えば思うほど、俺は彼女を知りたくなっていた。
第五章 ── 花が咲いた日
(セイル視点)
あの日、風はまだ少し冷たかった。
でも、彼女が笑った瞬間、春が来たんだと本気で思った。
「ねえセイル、この花、君に似てる気がする」
そう言って、リゼリアは白い小さな花を摘んで俺に渡した。
どこか恥ずかしそうに、でも照れ隠しに笑って。
「俺に? こんな可愛い花が?」
「ふふ、君ってば、意外と照れるのね。……でも、似てるわ。
繊細で、見ていると触れたくなるところとか」
その言葉を聞いたとき、胸の奥が熱くなった。
この人の隣に、ずっといたいって思った。
リゼリアと出会ったのは、ほんの偶然だった。
いや、今になって思えば、偶然なんかじゃなかったのかもしれない。
「忘れられるのって、怖いと思う?」
彼女が突然そんなことを訊いた日のことを、今でもよく覚えてる。
「そりゃあ、怖いよ。誰かの中から自分が消えるのって……もう、生きてないのと同じだろ」
「……だよね」
その時、リゼリアの目がどこか遠くを見ていた。
まるで、すでに誰かを“失った”ことがあるみたいに。
「私はね、セイル。絶対に忘れないよ」
「私の中の君は、永遠に残ってる」
その言葉が、なぜか怖かった。
でも、嬉しくもあった。
俺は、あの人の中で生きてる。
それだけで、救われた気がした。
(今思えば――あれは、誓いだったんだ)
その後、俺たちは何度も笑い合った。
同じ本を読んで、同じ歌を口ずさみ、同じ夢を語った。
リゼリアの手は、いつだってあたたかかった。
だけど――春の終わり、花が散るように、全ては静かに崩れ始めた。
ある日、俺の頭に“空白”ができた。
何気ない出来事を、ぽっかり忘れていた。
最初は疲れてるだけだと思った。
けれど、日に日に“忘れる”ことが増えていった。
リゼリアはそれを黙って見つめていた。
何も言わず、ただ、隣にいた。
そして――最後に見た彼女の涙は、微笑んでいた。
(リゼリア視点)
(……ねえセイル。君が私を忘れるくらいなら、私が全部、君の記憶に入るから)
(だから大丈夫。怖くないよ。もう、誰にも君を奪わせない)
――その日、リゼリアは初めて“記憶を奪う”という選択をした。
それが、彼女の狂気のはじまりだった。
第六章 ── 眠れない夜
(セイル視点)
あの日の夢は、少し違っていた。
赤い花びらが舞う中で、誰かが泣いている。
でも今回は、ちゃんと顔が見えた。
――リゼリアだった。
「お願い……私のこと、忘れないで」
その声が、頭の奥に焼きついた。
目が覚めたとき、額にはびっしょりと汗が滲んでいた。
胸の奥が、ずっと苦しい。
まるで、何か大事なものをずっと見落としてきたみたいに。
俺は、街の資料館に向かった。
昔の事故記録や、失われた人の名簿を閲覧するためだ。
もはや“偶然”なんて言葉で済ませられない。
リゼリア・フェルナー――彼女の名前を検索すると、いくつもの記録が引っかかった。
【特異記憶保持者。記憶干渉能力の疑いあり。長期的な観察対象に指定するも、記憶へのアクセスは不可。】
「記憶干渉能力……?」
俺は、震える指でページをめくる。
【対象“S・M”に対する過去記憶の変質が確認される。対象との過去に“恋愛関係”の可能性あり。】
【現在、記憶接続不可能。記録断絶中。】
……“S・M”。
セイル・ミリアン。
それは――俺の名前だった。
その瞬間、背中に冷たいものが走った。
あの笑顔。あの言葉。
「君の夢、きっといつか現実になるといいわね」
……全部、知っていたんだ。
いや、全部、仕組まれていたのかもしれない。
自分の記憶の中で、何かがくるくると巻き戻っていく。
彼女が近づいてきた理由。
“初対面”だったはずなのに、妙に馴染んでいた距離感。
「……俺は、騙されてた?」
でも、不思議だった。
怒りよりも先に湧いてきたのは、哀しみだった。
彼女は――俺に、何を求めていたんだ?
夜が更けても、眠れなかった。
窓の外で、誰かがこちらを見ている気がして振り返る。
誰もいない。
けれど、耳に残っていた。
あの夢の中で、リゼリアが囁いた言葉。
「忘れたままでいいの。だって、あなたはもう……私だけのものなんだから」
――その夜、セイルは決意した。
真実を知るために。
リゼリアと、正面から向き合うために。
第七章 ── 記憶に触れた日
(セイル視点)
「……リゼリア、話がしたい」
そう言ったとき、彼女は一瞬だけ、まばたきを止めた。
その表情は、悲しみとも、喜びとも、恐怖とも言えない――
何かが壊れる直前のような、危うい笑顔だった。
「もちろん。なんでも聞いて」
(……その“なんでも”の中に、君の正体も入ってるのか?)
そう呟きかけた言葉を、俺は飲み込んだ。
俺たちは人気のない公園のベンチに並んで座っていた。
空には曇り。風が少し冷たかった。
「……思い出したんだ。少しだけだけど」
「何を?」
「君といた夢。花が咲いてて、君が俺に……笑ってた」
「……そう」
リゼリアは紅茶のカップを両手で抱えながら、うつむいた。
「でもさ、夢の中の君は、泣いてたんだ。俺のこと、必死で引き止めてた。
それを見て……なぜだかわからないけど、胸が痛かった」
「夢って、時々、記憶の奥をなぞるものだから」
「……その痛みは、本物よ」
「リゼリア。君は――俺のこと、どこまで知ってる?」
その言葉に、リゼリアの指がピクリと震えた。
「全部。……私の中には、セイルがいるの。君の笑い方も、癖も、好きだったものも、最期に言った言葉も。
……ぜんぶ、全部、私が覚えてる」
(たとえ、君が私を忘れても。私は何度でも君を愛する)
(でも……どうして、君だけが私を、忘れたの?)
「君が俺のことを……“記憶から消した”って、そういうこと?」
「違うの……違うの、セイル。私は、君を守りたかった。
記憶が壊れる前に、君の中の私だけを――私の手の中に、閉じ込めたの」
「そんなの……」
「私がいなければ、君はきっともっと幸せだった。それでも私、どうしても、君を忘れられなかったの。だから
……君だけでも、私の中に残しておきたくて……!」
リゼリアの声が震えていた。
目には涙。けれどその奥には、深く、静かな狂気があった。
「もう一度……思い出してくれる?
それとも――また、私の中に眠る?」
(俺は――どうする?)
――思い出すことは、過去に戻ることだ。
――でも、忘れたままでいれば、彼女をまた“見殺し”にすることになる。
選ばなきゃならない。
でも、まだ俺は――
「答えは、まだ出せない。でも、逃げたりはしないよ」
「君と、ちゃんと向き合いたい」
その言葉に、リゼリアは小さく目を見開いたあと、微笑んだ。
「ありがとう……セイル」
(ねえ、逃げないって言ったからね? もう、絶対に、君を離さない)
――その夜、赤い花がまた夢に咲いた。
第八章 ── 記憶の境界線
(セイル視点)
リゼリアの目を、真っ直ぐ見つめるのが怖くなっていた。
でも、目を逸らすほうが――もっと、怖かった。
「俺は、君のことを……全部、思い出すべきなのかな」
「それは、君が決めることよ」
「私は――その時、君がどうあっても、そばにいるって決めてるから」
静かな声だった。
でも、その奥には、言葉では覆いきれない想いが渦巻いていた。
(ほんとは……ねえ、全部思い出して。思い出させて。私を、世界のすべてにして。お願い、そうじゃないと、私は……)
その日、リゼリアは初めて、俺に“記憶の繭”を見せた。
触れれば過去が流れ込む。触れなければ、今のままでいられる。
「怖くない?」
「正直……怖い。でも、君のことを知りたい。ちゃんと、俺自身の意思で」
俺は手を伸ばした。
次の瞬間、景色が変わった。
まばゆい光と、静寂。
そして――たくさんの記憶の欠片が、音もなく舞い落ちてくる。
笑っていた彼女。
泣いていた彼女。
それでも俺を守ろうとしていた彼女。
そして――俺が、彼女を置いて、走り去っていく記憶。
「やめて……戻ってきて……!」
振り返った俺に、リゼリアが手を伸ばしていた。
だけどその声は、もう届いていなかった。
記憶の中の自分を見て、俺は唇を噛んだ。
こんなにも、愛されていたのに。
こんなにも、大切にされていたのに。
俺は、それを全部――忘れた。
「……リゼリア」
目の前に彼女はいない。
けれど、心の奥で彼女の声が響いた。
「選んでセイル。思い出の中に戻るか、今を信じて歩くか、それとも――」
「私をもう一度、忘れてくれる?」
選択は、すぐそこにあった。
第九章 ── ふたりで紡ぐ記憶
(セイル視点)
記憶は、確かに痛みだった。
でも同時に、それは――彼女が、どれだけ俺を想ってくれていたかの証でもあった。
あの時、置いていったのは俺だ。
逃げたのも俺。
忘れたのは事故のせいじゃない。
覚えていたら、きっと苦しくなるから、どこかで“忘れること”を選んだんだ。
「……ごめん、リゼリア。ずっと、君を……」
「言わなくていいよ、セイル」
「私はね、ずっとここにいた。君が忘れても、泣いても、逃げても、――ここで待ってたの」
リゼリアの指先が、俺の手に重なる。
その手は震えていた。
だけどその中にあったのは、恐怖でも憎しみでもない。
愛だった。
(こんなに苦しかったのに、こんなに孤独だったのに――私は、やっぱり君を……)
「俺は……全部、思い出した。だから、君のそばにいたい。
今度は逃げない。君と一緒に、生きていきたい」
「本当に? 私が、君の記憶を“奪った”ことも、全部……?」
「全部、わかってる。だけどそれでも、俺は――」
リゼリアの瞳が、ゆっくりと潤む。
次の瞬間、彼女は俺の胸に顔をうずめて、ぽろぽろと涙をこぼした。
「……うれしい……うれしいよ……」
「やっと……やっと、君が戻ってきてくれた」
そして――
俺たちは、“あの日”に咲いた赤い花の場所へ向かった。
あの日、君が泣いて、俺が背を向けた場所。
いま、その場所にふたりで立っている。
「君がこの花をくれた時、俺、めちゃくちゃ照れてたよな」
「ふふ。覚えてるのね」
「全部、ちゃんと思い出したよ。……これからも、忘れたくない」
「じゃあ、記憶を分け合いましょうか」
リゼリアはそっと、自分の胸元から糸を取り出すような仕草をする。
薄紅色の、光の糸。
「私の記憶と、君の記憶を、編み合わせるの。ふたりだけの布にして……もう、ほどけないように」
「それ、ちょっと怖いな」
「ふふ、怖がってもダメよ。これは“再生の魔法”なんだから」
糸がふたりの心をつなぎはじめた瞬間、景色が淡く輝いた。
過去も、傷も、後悔も――全部が、“新しい記憶”の糸へと変わっていく。
(ねえセイル。もう、君を閉じ込めたりしない。君のすべてを、ちゃんと信じるから)
(だから、ずっとそばにいて――)
――そして、ふたりは記憶を編み直す。
もう一度、出会い直すために。
最終章 ── 花が終わるその日まで
時は過ぎ、季節が巡る。
あの日の赤い花は、今年も静かに咲いた。
ふたりは手をつなぎ、ゆっくりと歩いている。
かつての記憶を思い出しながら、もう“悲しみ”ではなく、“笑い話”として語れるようになった。
「リゼリア、覚えてる?最初の“初対面ごっこ”」
「ええ。セイルさん、って呼ぶたびに心臓が潰れそうだったわ」
「……ごめんな。君のことを置いてった俺に、もう一度、好きになってくれて」
「何度だって、好きになるわ。たとえ、君が何度忘れても――何度でも、紡ぎ直す」
ふたりの間を、春の風が通り抜けた。
花は、やがて終わる。
けれどその記憶は、もう二人だけのものとして、決してほどけない。
どうでしたでしょうか!
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