言の葉綴り   作:ねるぼう

5 / 7
後日譚?です!


言葉にならない恋だけが エピローグ

エピローグ

 

季節は、秋を越えて、冬の気配を運んでいた。

 

白いマフラーを巻いた澪が、待ち合わせ場所に現れたのは午後4時ちょうど。

駅前のカフェの窓際で、先に席を取っていた彼が、すっと立ち上がる。

 

「ごめん、寒かったでしょ」

 

「平気。……ちょっとだけ、鼻が赤くなったかも」

 

そう言って澪は席に着いた。

並んだホットドリンクの湯気が、ガラス窓に曇りをつけている。

 

(こうして他愛もない話をして、何も考えずに笑えるのが、

 一番幸せなことなんだって……やっと気づけた)

 

彼のカップに手が伸びるのを見て、澪はふっと笑った。

 

「そっちのほうがおいしそう」

 

「交換する?」

 

「……いいの?」

 

カップが入れ替わる。

指が触れそうになって、触れなかった。

でも次の瞬間、彼が澪の手を、そっと包むように握った。

 

「……こういうの、まだ慣れない?」

 

「ちょっとだけ。……でも、嫌じゃない」

 

その言葉に、彼が小さく笑う。

 

「澪ってさ、たまにすごく素直になるよね」

 

「……ずっとツンツンしてるより、たまにはいいでしょ」

 

(本当は、ずっと素直でいたいって、最近思うんだ)

 

外の空は、だんだんと夕闇に染まっていく。

手のぬくもりだけが、ふたりを包み込んでいた。

 

 

 

 

 

番外編:言葉じゃなくても、伝えたい(先輩視点)

 

——あの日の澪は、いつもより少しだけ、遠くに見えた。

 

人混みの向こう。

校舎の裏の通路にぽつんと佇む彼女を見つけたとき、

なぜだかわからないけど、胸がきゅっとなった。

 

「白波?」

 

振り返った彼女は、どこか目を伏せるような表情をしていた。

いつものツンとした声も、どこか弱く揺れていた。

 

「なんでだろうな」

 

自販機でジュースを買って、ひとつを差し出す。

こういうの、いつもなら断られるのに、受け取ってくれた。

それだけで嬉しかった。

 

——でも、澪の目が、どこか濡れている気がした。

 

「最近、距離あるよね」

やっと出した言葉。

ずっと聞きたくて、でも聞くのが怖くて。

 

彼女は否定した。でも、その声は揺れていた。

俺は待った。

言葉が出てくるまで、ちゃんと向き合えるまで。

 

——そして、聞いた。

 

『好きになったとか、…そんなの、言えるわけないじゃん』

 

その一言で、すべてが繋がった気がした。

 

この子は、こんなにも不器用に、

ずっと俺のことを、心の中で叫んでくれてたんだ。

 

だから俺は言った。

 

『俺、白波のこと好きだよ。

 ずっと前から、ちゃんと』

 

彼女が泣きそうな顔で笑ったとき、

やっと、ずっと欲しかった答えをもらえた気がした。

 

(ずっと待っててよかった。……この先も、ちゃんと隣にいたい)

 

彼は今も、澪の手を離さずにいる。

あの文化祭の日から、ずっと。

 

 

 

 

 

番外編:ちょっとした喧嘩

 

土曜日の午後。

カフェの予約時間を過ぎても、彼は来なかった。

 

5分。10分。15分。

 

(また、仕事? 連絡くらい……してよ)

 

スマホを握りしめていた手が、いつの間にか汗ばんでいた。

机の上に置かれたケーキセットが、少しだけ乾いていく。

 

ピコン、と通知が鳴った。

 

《ごめん!バイト長引いた、あと20分で行く!》

 

たった一文。

“またか”という感情が、胸の中でじわじわと広がった。

 

(……なんで私だけ、待ってばかりなの)

 

20分後、息を切らせて彼がやって来た。

気まずそうに笑っている顔が、今だけはどうしても許せなかった。

 

「……遅い」

 

「本当にごめん、店長が帰してくれなくて――」

 

「いい。もう、いいから」

 

「……怒ってる?」

 

「怒ってない。ただ、疲れただけ」

 

それ以上、何も言えなかった。

彼の目を見ると、涙が出そうだったから。

 

(好きな人だから、我慢しちゃう。でも、我慢ばっかじゃ、きっと壊れちゃう)

 

それでも、カフェを出た後、

彼がそっと手を伸ばして握った指は、いつもよりずっと優しかった。

 

「…ごめん。次から、もっとちゃんとする。澪を待たせたくない」

 

「……ほんとに?」

 

「ほんと。次は俺が、早く行って待ってるから」

 

その言葉に、少しだけ頬が緩んだ。

 

(こういうの、ずるい。でも……許しちゃう)

 

 

 

 

 

番外編:卒業後のふたり

 

春。

 

澪は、知らない街の小さなアパートで目を覚ました。

隣には、寝癖のままの彼。

 

「……起きてる?」

 

「んー、あと5分……」

 

「また言ってる」

 

朝の日差しがレースのカーテンをすり抜けて、二人の間に差し込む。

キッチンの向こうでは、湯が沸く音がしている。

 

(大学を卒業して、一緒に暮らし始めて……

 もうすぐ、半年)

 

ふたりとも就職して、生活は忙しくなった。

すれ違う日もある。

イライラする夜も、言い合いになる日もある。

 

でも――

その全部を乗り越えられる気がしていた。

 

彼がいて、自分がいる。

そのことだけが、日々をやさしくしていた。

 

「ねえ、今日の夜、久しぶりに外食しない?」

 

「いいね。……澪が予約してくれるなら」

 

「はいはい。いつも私ばっか、気づいてるんだからね」

 

「だって、澪の方が頼りになるんだもん」

 

(調子いいんだから。……でも、そんなとこも好き)

 

窓の外では、桜がもうすぐ咲きそうだった。

 

新しい生活。

新しい季節。

それでも変わらないものが、ここにあった。

 

彼と過ごす、ささやかで愛しい毎日が――

 

 




この先の展開はあなたの想像通りでしょう!

このふたりの結末がいいものであるといいなぁ

誤字報告、評価待ってます!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。