人形姫のゼーレ   作:Macht und Glück

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回想:フォーリヒ砦にて 後編

 

 フォーリヒ砦に春はまだ遠かった。北から吹き付ける鉛色の風は、まるで獣が吠えるかのように唸りを上げて砦の石壁に叩きつけられ、ひゅう、ひゅうと狭間を抜けるたびに悲鳴のような音を立てた。 空は重たげな雪雲に覆われ、薄暗い光しか届かない。連日、粉雪が舞ったり、時には視界を奪うほどの吹雪になったりするたび、遠くの山並みさえも白く霞んだ。 地面は踏み固められた氷が鈍く光り、解けかけた泥が足元を滑らせる。

 

 ゼーレとミリアルデはしばしの逗留、どこまでも冷気が染み渡る石造りの砦で、暖炉と厚手の毛布に包まれながら兵士たちとの共同生活を送っていた。木が燃えるパチパチという音が、広間の静寂を破り、凍える空気の中にわずかな温もりを灯す。時折、遠くから金属が軋むような音や、当直の兵士の低い声が響き、砦の奥深くまで冷え切った空気が張り詰めているのが感じられた。

 

 

 そんな中、ミリアルデは砦の魔法使いたちに対して、対魔法戦闘を想定した実践的な講習を始めた。

 

「腕立てで魔法は強くならないけどね」と眠たげな目で言いながらも、その淡々とした声色はかえって説得力があった。

 

「機動力をあげるために走り込みをするのは悪くない。魔法使いは戦士の間合いに入ったら終わり。でも、最後まであがくこと。それが生き延びる魔法使いの鉄則よ」

 

 そう語る彼女の言葉には、静かな重みが宿っていた。

 

 講習は特に雪深い地域における戦闘を想定した内容が中心で、水や氷といった自然の力をいかに活用するかが焦点となった。たとえば、降雪で形成された氷や雪を氷の矢に変え射出する《氷の矢を放つ魔法(ネフティーア)》を使用する際は、足場の滑りに注意しつつ、狙いが粗いうちは腰を低く構えることが重要だと示し、実際に自ら氷の矢を正確に標的に命中させて実演を交えて解説した。

 また、雪や水を集めて制御し、《水を操る魔法(リームシュトローア)》を扱う場合には、地形把握と気温の観測が欠かせないとも述べた。

 

「自然物を操る魔法は便利。天候に逆らわず、活かすことが大事」

 

 ミリアルデはそう強調する。

 

 さらに、地上の石を浮かせて飛ばす《石を弾丸に変える魔法(ドラガーテ)》を訓練する兵士には、「弾道を見極める視線と、咄嗟の判断力が鍵」と助言し、自ら手本を見せたうえで一人ひとりに細かな修正を加えていった。

 

 彼女の指導は厳しかったが、その正確性と効率性は兵士たちを圧倒した。

 

 時折、魔法と並行して体術訓練を行う場面もあり、「魔力が尽きたときに生き延びる手段は、いつだって一つでも多い方がいい」と口にしていた。

 また、非常用の《火を放つ魔法》についても教授していた。

 

 

 薄暗い雪空の下、風が吹き荒れる広場で、 氷の張る地面に足を取られながらも、兵士たちはミリアルデの言葉を真摯に受け止め、凍える空気の中でも真剣な眼差しで訓練に取り組んでいた。彼らの頬は赤く凍え、鼻先からは白い湯気が勢いよく立ち上る。それでも、魔法の光が弾け、石が空を切り、水が形を変えるたびに額からは汗が流れ落ち、その熱気が白い息となって雪舞う空に吸い込まれていった。 ミリアルデは一切の賞賛もせず、ただ静かに、その澄んだ碧色の瞳で彼らの動きの一つ一つを見極め続けていた。

 

 ミリアルデは()()、と手をたたく。

 

「じゃあ、今から軽く魔法を撃っていくから、避けるか守るかしてね」

 

 言い切るや否や、ミリアルデは魔力の光弾を次々と放っていく。

 初撃で脱落するような戯け者はわずか一名しかおらず、他の魔法使い達は《石を弾丸に変える魔法》で迎撃する器用な者や防御魔法で堅実に防いでいる者もいた。

 

「うお!」

 

 顔の真横を光弾が通り過ぎていき、思わず声を上げる初老の魔法使い。彼も十分強力な魔法使いであるように見えるが、ミリアルデの魔法の物量と精度、射出速度を前に大した抵抗はできていない。結局、三回ほど魔法を使って抵抗したのち、頭を光弾に撃たれノックアウトされていた。

 

 そうして30分もしないうちに魔法使い達は全滅し、訓練は終了した。

 

「まあまあだけど、もっと反応速度は上げていこう。あと、魔力探知が甘い人が結構いるね。だめだよ、魔法を使っている時も切らしちゃ」

 

 ミリアルデはローブに積もった雪を払い落した。

 

 

 

 訓練が終われば、兵士たちは冷え切った体を温めるため、食堂へと殺到した。そこでは、常に腹を空かせた彼らが、熱いシチューを大鍋から直接かっ込む音が響く。年嵩の兵士が若い兵士の皿にそっと肉を足してやったり、「おい、今日の見張りは風が強いぞ。しっかり着込んでいけ」と声をかけ合ったりする姿は日常の風景だった。互いに軽口を叩きながらも、その視線の奥には、この厳しい砦で共に生き抜くための確かな連帯感が宿っている。

 

 ゼーレも、そんな彼らの輪の中に少しずつ溶け込んでいった。彼らは最初、見慣れない旅の娘にどう接すれば良いのか、戸惑いを抱いていたが、彼女が休憩時間に何気なく口笛で故郷の民謡を吹いたり、時には料理や洗濯を手伝ったりするうちに、少しずつ距離が縮まっていった。ゼーレは彼らに簡単な曲を教えたり、前世の神話や伝説をさも遠くの国の出来事であるという風に語って聞かせたりするようになった。厳しい訓練の合間の、ささやかなひとときが、砦の兵士たちにとって束の間の安らぎとなっていた。

 

 

 

「うっ……切ったか」

 

 そんなある日、訓練中に転倒して腕を深く切った兵士が出た。

 

「腕? 見せて」

 

 張り詰めた冷たい空気の中に、鮮烈な深紅の血が、白い雪の上にまるで絵の具を散らしたかのように飛び散った。その生々しい赤は、一瞬にして周囲の白を染め上げる。 ミリアルデが慣れた手つきで応急処置をしているそばで、ゼーレは流れる血に宿るかすかな魔力の揺らぎを、魂の奥底で感じ取った。鮮やかな紅の中に、揺れる魔力の光がある。それを見た瞬間、脳裏に「飲みたい」という、抗いようのない欲求が、腹の底から湧き上がる熱とともに、ほんの一瞬、稲妻のように閃いた。

 

 ゾッとした。背筋が凍りつくような感覚が全身を駆け巡る。自分の中にある魔族の獣性が、理性の隙間を縫って、わずかにその醜い顔を覗かせたのだ。ゼーレは思わず自分の手を強く握り締め、爪が手のひらに食い込むのも構わなかった。鉄錆のような濃厚な血の匂いが鼻腔を強かにくすぐり、甘く酩酊させる。視界の端で、兵士の傷口から滲む紅い血潮が、まるで生きた宝石のように輝いて見え、意識が吸い込まれるように遠のきそうになった。

 

『ダメだ。こんなものに、飲まれてはいけない』

 

 脳裏で警鐘が鳴り響く。醜いと感じ、吐き気を催すべきはずの衝動が今、自分の内側から湧き上がっている。恐ろしかった。このままでは、自分も彼らと同じ『魔族』になってしまう。人間として生きたいと願う自身の魂が、本能という名の濁流に押し流されていくような感覚に、ゼーレは絶望にも似た恐怖を覚えた。

 

 自らが恐ろしく感じられ、ギュッと瞼を閉じる。魂の底から湧き上がる衝動をなんとかこらえる。一秒が長く感じられた。

 

「ゼーレ……」

 

 その時、隣にいたミリアルデが、何も言わずにゼーレの手を優しく握った。その手は冷たかったが、確かにそこに存在していた。

 

 視線を上げると、ミリアルデは何も言わず、ただ目を細めてこちらを見ていた。その瞳の奥にあるものは、好奇心でも疑念でもない、ただの理解だった。ゼーレは喉を詰まらせ、ゆっくりと、しかし深く頷いた。まだ、理性は残っている。この欲望に、抗うことができる。その事実だけが、今のゼーレにとって何よりも重要だった。彼女の冷たい手が、心の奥底で暴れる魔族の熱を、わずかに鎮めてくれるようだった。

 

 

 

 

 ある昼下がり、訓練の合間にミリアルデは焚き火のそばでぼんやりしていた。彼女の足元には雪が薄く積もり、木の枝のように乾いた焚き木がパチパチと音を立てて燃えていた。兵士たちが木剣を打ち鳴らす音が響くなか、ミリアルデは、まるで気まぐれに星の数を数えるかのように、宙を見つめながら問うた。

 

「この中で誰が一番強いの?」

 

 そんな言葉に調子の良い兵士たちが答える。

 

「俺だ!」「いやいや、俺に決まってる!」

 

 兵士たちが冗談交じりに名乗りを上げる中、訓練に参加していたオルデン卿が顎に手を当てて考え、やがて一言。

 

「では、腕比べをしてみようか」

 

 その瞬間、兵士たちの間に熱気が走り、場は一気に沸き立った。

 

 即席のトーナメント戦が始まった。砦中がざわめき、ゼーレもミリアルデも椅子に座ってそれを見守った。ミリアルデは女神の聖典を広げており、負傷者が出れば即座に回復魔法を行使できるよう待機していた。雪を踏みしめた仮設の競技場には緊張と熱気が立ち込め、兵士たちの息も白く染まって白い靄となって空に消えた。

 

 剣と盾が打ち合う音が空気を震わせ、砦の広場は熱気に包まれた。ゼーレはその光景を見つめながら、戦士という存在の異質さを強く感じていた。魔法使いの戦いは距離と知略、タイミングの芸術だ。だが、ここにあるのは単純で、暴力的で、だからこそ強く、そして、ある種の美しさすら伴うものだった。

 

 若手の兵士は、剣を下段から薙ぎ払うように振り、相手の盾を崩す。その一撃は力強く、剣風が頬をかすめるほどだ。相手は反射的に下がりながらも体勢を立て直すが、一瞬の隙を突かれて鎧の肩を叩かれ、悔しげに敗北を喫した。別の試合では、体格に勝る老練の兵士が、まるで岩が転がるような突進からの膝蹴りで相手を圧倒し、観客席からはどっと歓声が上がった。ゼーレはその一つ一つに目を凝らし、魔法では再現できない人間の動きの複雑さと、命を懸けた生々しい闘争の熱気に、胸の内にわずかな興奮を覚えていた。それは、アウラとの戦いで感じた恐怖とは全く異なる、純粋な高揚感だった。

 

 しかし、広場を震わせる兵士たちの雄叫び、肉と肉がぶつかり合う鈍い音、そして血の匂いを確かに感じ取った瞬間、ゼーレの脳裏に、あの腕を切った兵士の血に湧き上がった飲みたいという、抗いようのない欲求が蘇った。人間たちの力強い生命の輝きが、魔族の本能を呼び覚ます。ゼーレはゾッと身震いした。このままでは、またあの獣性が顔を覗かせてしまうかもしれない。

 

 彼女は小さく震えながら人々の熱狂から逃れるように、そっと椅子を立ち、与えられた自室へと戻ろうとした。

 

 その腕を、隣に座っていたミリアルデが掴んだ。

 

 ゼーレが恐る恐る振り返ると、ミリアルデは何も言わず、ただ静かにゼーレを見つめていた。その碧色のエルフの瞳は、普段の感情の薄さとは異なり、どこか慈愛に満ちた光を帯びていた。まるで、大聖堂で見た女神像のような、全てを受け入れるような深い眼差しだった。

 

 次の瞬間、ミリアルデはゼーレをそっと抱きしめた。その温かさは、極寒の地での唯一の救いのように、ゼーレの全身を包み込んだ。ミリアルデの腕の中で、ゼーレは自分がまるで嵐の中の小舟のように揺れていたことに気づかされた。張り詰めていた心が、ゆっくりと、しかし確実に解き放たれていく。凍てついていた心臓が、長い冬の間に氷に閉ざされた地面が、春の陽光に溶かされるように、じんわりと温かさを取り戻していった。ミリアルデの体から伝わる確かな体温と、かすかに香る草のような匂いが、ゼーレの混乱した意識を現実へと引き戻す。

 

「大丈夫だよ、ゼーレ」

 

 

 ミリアルデの囁きは、耳元で優しく響いた。その声は、かつてないほど穏やかで、ゼーレの恐怖を鎮めていった。その言葉は、凍てついた心を包み込む毛布のように、ゼーレの魂に深く染み渡り、内側で暴れようとしていた(けだもの)を静かに押し鎮めた。

 

「うん……私はまだ、大丈夫」

 

 押し殺した声で囁く。

 

 ゼーレは、ミリアルデに抱きしめられたまま、再び競技場へと視線を向けた。兵士たちの戦いは続いていた。もはや、血の匂いや、肉のぶつかり合う音は、彼女の本能を刺激することはなかった。ただ、目の前で繰り広げられる人間たちの生々しい闘争を、ミリアルデの温かい腕の中で静かに見守っていた。

 

 

 

 そして、ついに決勝戦。雪で白く覆われた広場の中心に、オルデン卿と若手の兵士が向かい合った。若者は、これまでの激戦で体力を消耗しているはずなのに、その目には燃えるような闘志が宿っていた。対するオルデン卿は、重装備にもかかわらず、まるで微動だにしない岩のように静かに立っている。その全身から放たれるのは、歴戦の猛者だけが持つ、研ぎ澄まされた気配だった。

 

「オルデン卿! どうか全力でお願いいたします!」

「当たり前だ。君こそ簡単に沈んでくれるなよ」

 

 開始の合図と共に、若者が吼えた。彼は、その若さゆえの勢いで、嵐のような連撃を叩き込んだ。剣は火花を散らし、盾を打ち鳴らす音が絶え間なく響く。一瞬の隙も与えまいと、全ての力を込めた猛攻だった。広場の空気は熱気に包まれ、観客の兵士たちも息を殺して見守っている。

 

 しかし、オルデン卿は違った。彼は、まるで若者の動きを全て見切っているかのように、最小限の動きで連撃を受け流していく。重い盾は嵐をいなす木の葉のようにしなやかに動き、若者の剣は決して彼の急所を捉えられない。若者の鋭い突きは、水面を滑るようにいなされ、体当たりは柳のように柔らかく受け止められる。その防御は、単なる受け流しではない。相手の攻撃の力を利用し、自身の体勢を崩さずに、次の反撃へと繋げる、まさに流れるような防御だった。

 

 そして、機は熟した。若者の連撃が一瞬途切れた、ごくわずかな隙。その瞬間、オルデン卿の体がそれまでの静寂が嘘のように爆発的な速さで動いた。重い体装備にもかかわらず、その動きは驚くほど素早く、残像が残るほどだった。彼は若者の側面へと一歩踏み込み、その体が触れるか触れないかの距離で、若者の体を体ごと弾き飛ばした。若者は雪の上に叩きつけられ、よろめきながらも立ち上がろうとするが、オルデン卿は静かに、しかし有無を言わさぬ一歩を踏み出す。その一歩が、若者の動きを完全に封じた。

 

 オルデン卿は、剣を若者の首元に突きつける。その切っ先は、微塵もぶれることなく、しかし慈悲深い眼差しがそこにあった。

 

「見事だった。だが、お前にはまだ足りぬものがある」

 

 その言葉は、勝者としての誇りではなく、次代を育む師のような響きを持っていた。

 

 結果はオルデン卿の勝利だったが、若者の健闘に惜しみない賛辞が贈られ、兵たちは誇らしげに彼を讃えた。広場は、熱い拍手と歓声に包まれた。打ち負かされた若手兵士は悔しそうに顔を歪めたが、すぐに周囲の仲間たちが肩を叩き、「よくやった!」「次こそは勝てる!」と励ましの言葉をかける。彼らの間には、勝敗を超えた、互いを認め合う絆が確かに存在していた。

 

 

 

 その夜、砦の広間では小さな宴が開かれ、ゼーレがヴァイオリンを取り出した。焚き火の灯が壁に影を踊らせるなか、ゼーレは弓を弦に滑らせる。

 

 奏でられたのは、広大な雪原を吹き抜ける風のように雄大で、しかし同時に、沸き立つ炎のような情熱を秘めた調べだった。その荘厳な序奏が、兵士たちの高揚した心を静かに包み込む。最初は、遠い故郷の空を思わせるような、切なくも美しい旋律が広間に満ちる。兵士たちは、杯を掲げたまま、あるいは肘をついて、その音色にじっと耳を傾けた。彼らの脳裏には、家族の笑顔や、共に戦った仲間の顔が浮かんでいるのかもしれない。

 

 だが、曲は次第にその様相を変えていく。ヴァイオリンの音色は、まるで訓練で剣を交わす兵士たちの息吹のように力強さを増し、熱気を帯びた激しい舞踏へと変化した。躍動するリズムは、勝利の凱歌を歌い上げるかのように力強く、兵士たちの血潮を沸騰させる。戦場で泥まみれになりながらも掴み取った栄光、そして未来への希望が、その一音一音に込められているかのようだった。興奮した兵士たちは、互いの肩を組み、足を踏み鳴らし、大声で歌い始めた。

 

 ヴァイオリンの優雅な音には似合わない粗野で不器用な歌声だが、そこには明日への希望と、仲間との絆を確かめ合う熱があった。 彼らは自然と手拍子を打ち始め、やがて雄叫びにも似た歓声が上がった。

 

 砦の外では風が雪を巻き上げていたが、室内には確かなぬくもりと一体感があった。ゼーレのヴァイオリンが、その絆をさらに深めるかのように響き渡っていた。それは、凍てついた砦の壁に、確かな人間の温もりと生命の息吹を吹き込む、忘れがたい一夜となった。

 

 


 

 

 数日後、ようやく雪が止み、空には雲一つない快晴が広がった。空気は冷たいままだが、陽光は砦の石壁に反射してまぶしく、雪解け水が屋根から滴る音が、春の訪れを静かに告げていた。

 

「出発には申し分ない日だな」

 

 オルデン卿は、砦の門まで見送りに現れた。その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。

 

「この数日は楽しかったよ。君たちの滞在には兵たちも、砦も、ずいぶん助けられた。また演奏を聴ける日を楽しみにしている」

 

 ゼーレは深く一礼し、少し名残惜しそうに振り返った。砦の兵士たちが、門の奥からこちらを見ているのが見えた。彼らは無言で、しかし確かな敬意を込めて見送っている。

 

「きっと、また。ありがとうございました」

 

 門がゆっくりと開き、ミリアルデとゼーレは中央諸国を目指して歩き出す。

 

 砦の上から兵たちが手を振っていた。ゼーレも、それに応えるように大きく手を振る。風はまだ冷たかったが、確かに春が近づいていた。




Tchaikovsky, Pyotr Ilyich. Violin Concerto in D major
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