ツカサは人生を自由に生きる 作:風見鶏さんの作品おすすめです
「つまりキミにとって、その才能は大きな力になる」
小さな小さなポケモン教室でのこと。
プロのトレーナーに、幼少期のツカサはそう教えられた。
男はそれなりに有名なトレーナーで、若いころから才能を発揮し、地方でも指折りの腕を持ちながら、トラブルメイカーとしてもよく知られていた。
強いトレーナーがいると聞けばそこへ向かい、無理矢理バトルを挑む。男の暴力に怯えたトレーナーは、その要求を避けることはできず、ただバトルの欲を満たすための道具になるというウワサだ。
そんな力を誰よりも知り、扱うようなトレーナーが、ツカサへそう言ったのだ。
だが小さな彼は、その言葉の意味をよく理解できてはいない。
みんな"コレ"が普通だと思っていたし、仮にそれが才能だとして、いったい自分はどう生きていけばいいのか。
仮にもプロのトレーナーなら、そこまで教えてはくれないのだろうか?
「結局、その力をどうしたらいいんですか?」と彼が聞き返したのも、仕方のないことだった。
質問に男は神妙そうな顔をして、しばらく考え込んでいた。子供にもわかりやすいよう、噛み砕いて説明しようとしているのか、男の中でも、答えはまだ出ていないのか。
まぁ手っ取り早く言ってしまうと、という枕詞を付けながら、プロの男は小さな彼にこう答えた。
「キミには権利がある」
「力に義務はないとボクは思うけれど、他の人が持てないような権利を、キミは持っているんだ」
言葉は続く。
「何をするもしないも、キミの自由で、キミの人生だ。
けれど、ある程度の無理を押し通す力があるってことを、知っておくといい」
そんなセリフを最後に吐いて、男はツカサに背を向ける。
すぐに背中は小さくなって、見えなくなった。
⭐︎⭐︎
それから数年経ったいま、ツカサはその権利というものを完全に腐らせたような状態で、ごく普通の学園生活を送っていた。
教室の窓から吹く春の風を味わいながら、暖かな日光を浴びてテーブルで紙パックのイチゴミルクを吸いあげる。
置かれた惣菜パンはいまが昼休憩だということを示していて、「暇そうだな」と、となりの友人、カイトが彼に言葉を投げかけた。
決して孤立はせず、けれども交友関係は広すぎず。
そんな理想的な状態を高校一年の入学時に作れたということは、ツカサの心を完全に弛緩させ切っていた。
「そりゃ暇だよ、昼休憩だし。お前もそうだろ?」
その言葉に、カイトはうーんと唸りながら首をひねる。
このダラッとした空間に、一種の心地よさを覚えているのも確かだが、漠然とした何かに、変わらないといけないように急かされるような、そんな焦りをカイトは感じている。
もしくは、高校に入れば何が劇的な変化が起こるような、淡い期待を裏切られたことによって、少々フラストレーションが溜まっているのかもしれない。
「まぁそうなんだが、華の高校生活を無駄にしている感が否めないし、コレじゃあ中学と何も変わりがない」
「いいじゃないか、変わりがなくて。授業や課題にくだらない文句をつけながら、だらだら昼メシを食べる、これより幸せなことは少ないよ」
ツカサはそう断言すると、焼きそばパンの包装を剥がし、パクりと噛みついた。
炭水化物に炭水化物を掛け合わせた恐ろしい食べ物だが、彼は入学してからの数日、購買では好んでこれを選んでいる。
パサついたパンにもっちりとした焼きそばがマッチして、アクセントの紅ショウガが口をさっぱりとさせた。
満足そうな彼の横顔を見て、呆れた様子のカイトはふと思い出したかのように話題を提示した。
「そういえばツカサ、部活は何に入るのさ?」
「あ〜料理研究部とか、あとDIY部も気になるな、カイトは?」
「...オレはトレーナー部だね、バトル好きなんだよ。お前はやってないのか?」
「前はちょっとやってたんだけどね、ほんのちょっと」
親指と人差し指を近づけて、少しを表すような手の形を作る。
冗談めかしたツカサの顔に、カイトは一瞬不満げな表情を見せたが、気付かないうちに元の表情へ戻っていった。
この公立カナスミ高校では、入学してから入部を決めるまでの数日間、放課後は部活動の体験をすることができる。
一体部活動はどんな場所でやっていて、どんな人たちがいるのか、2人はそれなりに期待を持って、心を踊らせていた。
新作です。
見切り発車で完結するかも怪しいですが、感想とか誤字脱字の報告、アドバイスくれると長く続くと思うのでよろしくお願いします。