白騎のナルカ   作:欲丸出汁

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エピローグ

『ダメだ! 強すぎる! 皆の者、戦勝の祈願が足りぬぞ!』

 

『我ら機士より優れた機体に乗るなど何たる不遜な賊か!』

 

『我が家名の前にひれ伏せ、下賤な輩めが!』

 

 わざわざオープンチャンネルで叫ぶ機士達のあまりに身勝手で他力本願な物言い――自力で困難を打破しようとしない姿勢である。

 

 あーもう、喧しい人達だなー。

 重力装甲で無敵の防御力を発揮する純白の人型機動兵器を操縦しながらナルカは少し呆れてしまう。

 

 何事も自己責任な傭兵(ウォーライダー)の世界で生きる褐色の少女にとっては、信じられないことだった。

 

 別れの挨拶とばかりに斬りかかってきたウォーヘッドを横薙ぎで真っ二つに。旋回ついでに蹴り飛ばす。

 

 長刀を腰部の鞘に納めるとナルカは、フェンリスを沈みかけの夕日の方向に向ける。

 

「それじゃ、バイバイ」

 

 砂漠に生きる貴族気取りの野蛮人たちに無機質に別れの挨拶を告げる声は冷淡だった。

 

 本来、ナルカは殺人マシン的な性格の持ち主ではない。むしろ傭兵としては異端的なほど情緒豊かで、感情的な少女だ。

 

 しかし、機士たちの性根のあまりの醜さ――それに後ろの非常シートに座る少年の気がかりな容態がナルカに冷たい態度を取らせた。

 

(エトの幸運を無駄にしたくないからね)

 

 この砂漠は外界から隔離されている。ナルカが砂漠に降り立ったのは衛星軌道上での仕事で被った損傷のせいだ。わざわざ足を運ぶような場所ではない。

 群都に忍び込んだのは興味本位からだ。エトの処刑の場を通りかかったのは単なる偶然。

 

 だから、シートの後ろで意識を失っている少年は純粋に自身の幸運で命を勝ち取った、ナルカはそう考えている。

 

 褐色の素肌に文字通り隙間なく密着する白色のナノ・プロジェクション・スーツ。その鋭角なハイレグでナルカの長い脚は殊更に長く、扇情的に見える。

 鍛えられていながらも艶やかな褐色の美脚がフットペダルを力強く踏み込み、フェンリスは一気に離脱。

 

 初速はマッハ10に達しており、ナルカと戦っていたあらゆる者の度肝を抜いた。

 

 コクピットにかかっているGは衰弱した少年が十分耐えられるレベルに抑えられている。重力装甲の作用だ。

 

 フェンリスの本体とも言える機械知性体、ハティが機体のデータバンクを頼りに最適な離脱コースを計算、表示した。

 かつてオーストラリアと呼ばれていた大陸から脱出する際には、群都の兵隊より遥かに厄介な無人兵器と遭遇する可能性がある。

 

 沿岸部は特に危険だ。交戦するのなら先手必勝、一撃必殺を心掛けなければならない。

 

「ん?」

 

 安全圏に到達次第、同乗者に応急処置を施すように、とテキストメッセージでハティは簡潔に命じてきた。

 

「そうか。君もこの子が気に入ったのか」

 

 機体の機能を回復させたことで、ハティはエトに一目置いたようだ。

 

 少年は最高のスタッフを揃えても自分の指示通りに整備させるような機械知性体が認めた、最初の人間となった。

 

 

 柔らかく、暖かく、優しい。なのに決して揺るがない。

 

 朧気な意識でエトは感じたこともないほどの安らぎに身を委ねていた。

 

(これが死ぬってことなのか……)

 

 少年はそう直感していた。

 

 信じられないほど強くて綺麗なお姉さんに助けてもらえた。物凄い性能のウォーヘッドをこの手で修復することができた。

 それに機士達が手も脚も出ずやられる様には胸がすく思いだった。

 

 もはや思い残すことはない。エトはより深い眠り――死へと転がり落ちようとする。

 

 だが、そうはならなかった。急に体が軽くなり、光に向かって浮上していくような感覚――エトは目を覚ました。

 

「あっ起きた。おはよう」

 

 頭上からナルカの声が聞こえた。

 

 背中に感じる温かな柔肌、ほんのり汗の匂いが混じった甘い香り。猛々しいアドレナリンの残り香。

 それらが混然一体となってエトを覚醒させ、現状を認識させた。

 

 シートに座った灰白髪の褐色お姉さんに寄りかかるような恰好になっているのだ。

 ぴっちりハイレグスーツ姿のナルカは操縦桿から手を離して、少年を護るように抱き抱えていた。

 

 ナルカの胸はとても薄いので、身体同士が完全密着している。エトは自分の肌で直接、褐色肌の年上美少女を感じていた。

 

 少年はなぜか素っ裸に剥かれており、本来であれば異性に見せるべきではない部分まで曝け出している。しかも全身さっぱりとしている。股間やお尻も。

 それがどういう意味か深く考えないようにするエトであった。

 

「ナルカ、操縦は!? それと僕の服は!? ここはどこ!?」

 

 疑問は同時に飛び出した。

 

 それを待ってましたと言わんばかりに「心配しなさんな~」とナルカの褐色の腕がエトをより強く抱き締める。

 

「オートパイロットに切り替えてる。この辺りは安全だよ。直にボクの船とランデブーする」

 

 ナルカの平らな胸や綺麗に割れた腹筋――白い鋭角が張り付いた局部を肉体で実感すると、目覚めてきた少年のカラダは本能に従った。

 エトの股間に"熱"が集まり始める。

 

「みっ見ないでよ!」

 

「反応してるね、回復した証拠だ」

 

 満足気なナルカ、慌てて両手で股間を隠すエト。顔が真っ赤になっていた。

 

 体は軽く、頭は冴えている。

 死と隣り合わせの過酷な労働で痛めつけられてきたエトだったが、生まれ変わったかのように活力に満ちていた。

 

「服のことはゴメンね、治療用ナノマシンとか栄養剤とか勝手に投与させてもらったんだけど、その時にダメにしちゃった」

 

 フェンリスのコクピットに備え付けられたサバイバルキットは、ナルカに仕える者たちの進言もあり、極めて充実している。

 無針注射で投与した薬品は、夜明けと同時に少年を死の淵から救い出したのである。

 

「いいモノを見せてあげよう。ハティ、エトにも視界あげて」

 

 ハティはすぐさまオーダーを実行し、少年の視界に外の光景が投射される。

 

 時刻は朝。少年が見慣れた砂漠の景色ではなく、深い青色が下方に広がる。

 

 フェンリスは海面スレスレを低速飛行しており、朝日が水面に反射してキラキラと輝いていた。

 

「これは……海!? 本物の!?」

 

「知ってるんだ」

 

 親代わりであった整備奴隷の先達から、砂漠の外の世界を記録したメディアを見せてもらっていた。

 機士達に見つからないよう整備奴隷の間で秘匿されてきたものだ。

 

 映像で観た海の根源的な美しさに憧憬を抱いていたエトは羞恥心を忘れて、眼下に広がる蒼に見入った。

 

 大殲から時を経て、海はその色を取り戻している。

 人類が地上に回帰することは叶わないが、自然は強靱な生命力を発揮して少しずつ回復しつつあった。

 

『ナルカ様。ベルタです、"カララトリ"はランデブーコースに乗りました――――そちらの首尾は?』

 

「わっ!?」

 

 不意に通信ウィンドウが開いたので、エトはびっくりしてしまった。驚いたのは通信相手の容姿のせいでもあった。

 

 侍従(メイド)服を身に着けた女性だった。薄桃色の髪、二十代前半ほどの鋭い美貌。眼差しは氷のようで、冷静沈着な性格が伺える。何となく侍従頭という印象だ。

 

 冷厳な感じがする美女だが、滑稽なほど大きな双丘がメイド服を押し上げている。エトが胸を借りているナルカの平坦な胸と比べたら、残酷なほど質量差があった。

 

「不当な扱いを受けていた現地人を保護した。エトっていうんだ。凄いんだよ、フェンリスの不調を直してくれた」

 

『まあ。ハティが整備を人間に委ねたのですか?』

「そう」

 

 ベルタというメイドの女性は信じられないという口振りだった。エトが裸なことに驚いたり、嫌がったりしている様子はない。

 

 威厳あるメイドさんを前にして、当の素っ裸の少年自身はますます恥ずかしくなり、縮こまっていたが。

 

「こっちももうすぐ着く。エトの着替えをお願いできる? それとメディカルチェックも。治療キットで持ち直したけど、心配だから」

 

『畏まりました。お帰りをお待ちしています』

 

 ベルタが一礼すると通信が切れた。

 

「もしかしてナルカって高貴な身分なの?」

 

「ううん。ただの根無し草の傭兵。ベルタ達はお金で雇ってるだけだよ」

 

「"達"?」

 

 なんだか嫌な予感がする少年だった。

 

「そう。メイドにカララトリの運航クルーや戦闘員をお願いしてるんだ。さっきのベルタはメイド長なんだ。合わせて四十人のお姉さんがキミを待ってる。綺麗だし、優しいよ」

 

 悪戯っぽく笑って告げ、断言するナルカ。エトの予感は的中していた。

 

 

「上昇する。舌を噛まないようにね」

 

 今後が憂鬱になる少年を後目にフェンリスは海面スレスレから急上昇。ソニックブームで海面が裂けて水飛沫が高く昇る。

 

 純白のウォーヘッドは雲海を突き抜け、母艦と合流した。

 

 カララトリは確かに船ではあった。戦闘艦だ。しかも飛んでいる。

 

 群都を構成する陸上艦の残骸と違って現役で稼働しているカララトリは、航空力学的にはまるで飛行に適さない長方形の艦形だった。

 飛行原理は恐らく慣性・重力制御機構を中核としているのだろうとエトは推測する。

 

「すげえ」

 

 空中戦艦を見つめていると、思わずそんな声が口から漏れた。

 

 実物の海に心から感激したけれど。

 しかし、赤銅色の空中戦艦の雄大さや洗練された形状、艦を構成する高度なテクノロジーによる感動と興奮はそれを遥かに上回っていた。

 

 エトは年頃の男の子なのだ。カッコいいモノが好きなのである。

 

 それに加えて。

 ハイレグという様式(スタイル)――――ただの全裸よりも遥かにえっちな極薄スーツを着ており、太股など肌の大部分が露出しているナルカと素肌で接触している。

 

 その嬉しくも恥ずかしい事実が海という女性や生命を連想させる存在よりも、無機質な戦闘兵器に意識を傾けさせたのかもしれない。

 

「何でも持ってるんだね、ナルカって」

 

 超高性能のウォーヘッド、容姿端麗なメイド、空中戦艦。群都でふんぞり返る機士が知ったら嫉妬で怒り狂って死ぬんじゃないだろうか。

 

「偶々だよ。この艦も拾い物なんだ」

 

 誇ることもなく、自然に応えるナルカだった。灰白髪のウォーライダーなお姉さんは今は操縦桿を握っている。

 エトは両腕で「ぎゅ~~」ってする甘々拘束から解放されていたが、代わりにナルカは過剰なほど密着してきた。

 

 抗いたいが幸福感と安心感の大波が押し寄せてきて、磁石でくっついたみたいに離れられない。

 

 薄くてもナルカの胸は柔らかい乙女の感触がした。

 背中で感じる褐色の腹筋は心地よく、頼もしいこと。どんな城壁よりも頑丈なのではないか、という錯覚さえ覚える。

 

 ナルカは股間も密着させており、おかげでエトは耳まで真っ赤になっている。

 

 灰白髪に褐色の長身な美少女が勇ましく開いた両脚の間で、白ハイレグの逆三角形を押し付けられ、すべすべの太股に挟まれている。

 

 空中で踊り子装束を脱ぎ捨て、手足の装飾品や股間のシールを残して素っ裸になったナルカは、眩い閃光を発してハイレグスーツを身に着けた。

 

 褐色お姉さんが着ている衣装が単純に肉体を艶めかしく魅せるだけでなく、高度な戦闘スーツであるのは明白だ。

 

 恐らく高度に発達したナノテクノロジーの産物、手足の装飾品にエネルギーセルがあり――――お姉さんの過激な揶揄いに転がされる少年は、せめてもの抵抗としてナルカのスーツの技術面に注意を払った。

 

 しかし無駄だった。両手で隠したエトの男性の象徴は硬さと熱量を増しており、脈動までしていたし、心拍数も上がっていた。

 ナルカの局部に張り付いている、ほんの僅かな厚みしかないシールインナーは最も秘されるべきカタチを伝えてくる。

 

 ナノマシンと栄養剤による治療が功を奏して、健康さを取り戻しているのも災いしていた。

 

 背徳感、生き物としての本能、そこに否定しようのない嬉しさが入り混じる。

 

「後部デッキから着艦するね」とナルカは宣言。

 

「はっはい」

 

 思わず敬語で返事して、エトは身構えた。

 

 視界に表示された誘導ラインに沿い、純白のウォーヘッドが母艦に降り立つ様子は大迫力だった。

 

 デッキに降り立ったフェンリスはアームで固定され、格納庫に搬送されていた。自動化されているようで、一連の流れにエトは瞬きもしなかった。

 

「さあ着いたよ。大丈夫、リラックスして」

 

 キャットウォークには数人のメイド服を着た女性が整列しており、エトは身を強張らせた。

 

 整列しているのは揃いも揃って、絶世の美女と呼べる容姿端麗なメイドさん達。率いているのはベルタで、彼女はガウンを手にしている。

 

 一様に背が高く、ボリュームのある魅力的な双丘が上品な仕立てのお仕着せを押し上げていた。

 

 無表情な者から陽気な笑顔を見せる者までいて個性的だ。

 

 群都の機士は女の従者に扇情的な衣服を着せることが多かった。

 エトの記憶にあるのは胸元が開き、裾は下着が見えそうなほど短いお仕着せを身に着けたメイドであった。

 

(凄い恰好……)

 

 それに負けないくらいナルカのメイドの服装は過激だった。

 

 上半身こそ謹厳に覆われた装束を着ている。だが下半身、正確には脚は丸出しだ。

 

 両サイドのスリットが脇腹にまで達しており、しかも腰にインナーの布や紐が見当たらない。

 剥き出しの脚は一様にすらりと長く、健康的に鍛えられている。太股の肉感や滑らかさは、主であるナルカと遜色ない。

 

 

「それじゃ開けるね」

 

 股間で暴れ狂う雄の象徴を全力で抑えているとナルカが告げる。

 

 コクピットが解放されると、メイド達の視線は全裸の少年に集中。

 既にエトという名前が共有されている少年が、緊張し怯えた素振りをすれば、身を乗り出さんばかりに興奮が高まる。

 

 歓声を上げそうになる部下を手で制し、薄桃色の髪のメイド長、ベルタは律動的に進み出る。スリットのせいで前後に垂れ、スカートがフンドシのようになっているメイド服。その前垂れは歩けば揺れる。

 

 胸から目を逸らして下を向くが、メイド長の太股や腰付きにエトは目を奪われた。

 

「ナルカ様の侍従長を拝命しているアンナベルタと申します。歓迎いたします、エト様」

 

 アンナベルタ。それが薄桃色髪のメイド長のフルネームのようだ。声を掛けられて目を合わせないわけにはいかないので、顔を上げる。

 メイド服が押し上げる巨乳は間近で見ると迫力があり、エトは息を呑んだ。

 

「ありがとうございます」

 

 片手でどうにか股間を庇いながら立ち上がり、エトは差し出されたガウンを恐る恐る受け取り、身に着ける。

 

「ふふーん」

 

 その様子を後ろのナルカは腕組みして、なぜか誇らしげに見守っていた。

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