担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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ホープフルとインタビュー

 ディープインパクトのメイクデビューから数日経った。反響は、当然の様に凄いことになっている。

 

【衝撃のデビュー戦ディープインパクト!他を寄せつけぬ圧倒的強さ!】

【後方からの追込で大差圧勝!これがディープインパクトだ!】

 

 ついこの前までは、朝日杯とか阪神ジュベナイルとかでキャッキャウフフしてたのが嘘みたいだ。それほどの衝撃を残した、ともいえるが。

 

 こうなるとキツいのは、ホープフルステークスを走るカイザーのことだ。

 

(ぶっちゃけ負ける要素は0に等しいが、今後のことを考えるとかな~り厳しいな)

 

 端的に言えば話題性である。すでにジュニア級王者を決める朝日杯の勝ちウマ娘の影がちょっと薄くなりつつあるし。

 

「これで次のレースもド派手に勝とうもんなら、宝塚記念出走なんて夢のまた夢だなぁ」

「何の話~?」

 

 気づいたらカイザーが俺の肩に顎を乗せてきていた。そのガチ恋距離を止めなさい。いちいち距離感が近いな本当。

 

「カイザーの宝塚記念出走が危ういって話だよ。このままディープが勝ち続けるとな」

「プイちゃんね~。やっぱり強いよね。さすがプイちゃん!」

 

 カイザーはご満悦な表情。うん、今日も担当は可愛い。

 

 ただ、楽観視しているだけじゃないようで。カイザーにも考えがあるみたいだ。

 

「じゃあ、私も同じくらいド派手に勝つ? 勝つ?」

「いや、必要ない。いつも通りに走ってくれればそれでいいさ。宝塚記念出走に関しては、俺に考えがあるから」

「ふ~ん、ならいつも通り走るよ」

 

 申し出はありがたいが、無茶をするのはよろしくない。そのままの君でいてね。

 

 策があるというのも本当だ。これで宝塚記念出走は確実、なんてものではないが、今の世論に負けない衝撃を残せるだろうと確信している。

 

「ホープフルステークス、頑張って来いよ。今までより集中的にマークされるだろうが、お前なら問題はない」

「はいはーい。強い子たくさんいるんだろうな~、楽しみだな~!」

 

 戦闘民族みたいな考え方してますね。別に構いやしないけど。

 

 

 

 

 

 

 迎えたホープフルステークス。中山ではなく阪神の芝2000mでの開催だ。芝の状態は良、晴れ空での出走となる。

 

 カイザーは当然のように1番人気。ここまで重賞を含む2連勝と安定感のある勝ち方が評価された形だ。

 G1なので勝負服初お披露目なのだが、うん。

 

「おや、アレはルドルフの勝負服をモチーフにしているのかな? ふふ、初々しいね」

「可愛いですよね」

 

 カイザーの勝負服はルドルフのデザインを踏襲したような形。テイオーと似たような勝負服だ。ただ、カイザーのイメージカラーに合わせたかのように、色は赤を前面に押し出している。

 クラフトもそうだったけど、勝負服はやはり最高。良いね。

 

 今まさにスタートするその瞬間。会場は静まり返って、隣にいるクラフトは固唾を飲んで見守っている。

 

《最後のウマ娘がゲートに入りました。ジュニア級G1ホープフルステークスが今ッ、スタートしました! 揃って綺麗なスタートを切ります。飛び出してきたのはハレヒノカイザー、グングン加速して先頭を奪いに行きます》

「本当にスタートが上手いなカイザー。しかも、加速が凄いからすぐにハナを取れる」

「彼女の持ち味の一つだね。そら、逃げウマ娘の子が掛かったよ」

 

 ゲートが開くのと同時、とまではいかないが、カイザーは良いスタートを切った。スピードシンボリの言葉通り、逃げの子は僅かに焦っている。逃げようとした矢先に、自分よりも前を走る子がいるんだからそりゃ焦るか。

 

 競りかけようと並んでくるが、カイザーは大人しく引っ込む。これもまた持ち味の一つだろう。

 

「逃げウマ娘を掛からせて自分は大人しく控える……いやはや、ルドルフも恐ろしい子を育てるものだ」

「やってることがエゲつなさすぎるんだよね」

 

 冷静に分析する俺とスピードシンボリ。ジュニア級でこれができるって相当なものだ。本来であればクラシックの後半かシニアに上がって、相当の経験を積んでようやくできるかの芸当。それをこともなげにやってのけるのだから大したもんだ。

 

 

 肝心のレース内容なのだが、カイザーは囲まれている。先行の位置取りゆえに仕方ない部分はあるが、執拗なマークにあっていた。

 

《第2コーナーを過ぎて向こう正面。先頭を走りますエコノアニマル、エコノアニマルを追うクライネキステこの2人がペースを握ります。注目の1番人気ハレヒノカイザーは先行集団を5番手から6番手で進む》

 

 前には1人、隣に1人、後ろに2人。抜け出せないことはないが抜け出すのはちょっと手間取るような位置取り。間違いなくカイザーを意識している位置取りだ。

 

「カイザーさーん、落ち着いていきましょーう!」

 

 クラフトの応援の声が響く中、状況を分析。応援したい気持ちを抑え、カイザーを取り巻く状況について考える。

 

(……苦にしてないというかなんというか)

「相手の子が可哀想になるくらいだな」

「あぁ、そうだね。本来カイザーが不利なはずなのに、あれじゃあマークしている子の方がキツいだろう」

「え?」

 

 俺達の会話が聞こえたのか。応援しているクラフトが驚いた表情でこっちを見ている。

 

 確かに疑問に思うな。マークされているのはカイザーであり、不利なのはカイザーの方と思うだろう。

 だが、実際には真逆。というのも、カイザーのペースがなにも変わっていないからだ。

 

「そ、その。なんでカイザーさんをマークしている子達の方が不利なんですか? マークされているのはカイザーさんですし、不利なのはカイザーさんの方じゃ」

「一見するとそうだね。けれど、そうはいかない事情がある」

「カイザーのペースは何も心配ない。現にほら、向こう正面を走っていても、カイザーは落ち着いているだろ?」

 

 クラフトに講義の意味を込めて解説だ。

 

「本来マークってのは相手のスタミナを削るとか、自分のレースをさせないためにするもんだ。思った通りの走りをさせずに混乱させる、実力を発揮させないとかな」

「けれど、相手が動じないとなると不利になるのはマークしている方。あそこまで効いてないと、焦りが募ってしまうからね」

「そこまでは、まぁ。でも、なんでカイザーさんはあそこまで動じてないんだろう?」

「そりゃ問題ないと判断しているからだ。むしろ、相手をかく乱するぐらいの余裕がある」

 

 マークはとどのつまり、相手の力を削るためにすることだ。十全な力を発揮させず、させたいレースをさせず、取れる選択肢を狭めることで焦りを誘発させる。カイザーは今、先行集団の4人からマークを受けている状況。

 本来ならば、選択肢が相当削られているはずだ。進路も狭く、今の状況が続けばもたつくこと間違いなし。バ群に沈んでしまうこともあり得る。

 

 ただ、そうはなっていない。カイザーの走りが少しも乱れていないことがなによりの証明だ。いつも通り悠々と、他の事なんて気にしてないとばかりに走っている。

 こうなるとキツいのはマークしている側。削るべき相手が削られていないことに焦り、多少強引な手に出る可能性がある。例えばそう、自分のペースを崩してまで削りに来るとか。

 すると今度は自分のスタミナが削られる。相手を焦らせるつもりなのに自分が焦ってしまい、思い通りのレースができなくなる。そのために複数のプランを用意したりするんだが、ジュニア級でそれを求めるのは酷というものだろう。

 

 そして、カイザーが恐ろしいのはここから。カイザーは相手のマークを逆手にとって、焦るように誘発している。

 

「アイツの走りをよく見てみろ。少しペースを崩していることが分かるか?」

「え? え~っとぉ……」

「気づけなくても問題ない。そんだけ分かりにくいからな。アイツは相手のペースに巻き込まれるんじゃなく、自分のペースに巻き込みつつある」

 

 掛からせようとしてくる相手を逆に掛からせるとかアイツはバケモンかと言いたくなる。シンボリルドルフもびっくりだわこんなん。

 割と誰にでもできるのでは。マークされていると分かっているなら、対策も容易ではないかと思うだろう。現実はそう甘くない。

 

「ちなみに、口で言うのは簡単だけどその実とても難しい。私達なら、よく分かるだろう?」

「は、はい。囲まれると焦っちゃいますし、隣を走られると追い抜きたくなりますし」

「加えて、レース中はスピードも出ている。気にする余裕はないんだ」

 

 ウマ娘のスピードは、時速換算で平均60㎞ぐらいだったか。そんなスピードでマークをどうにかしつつ自分の走りを貫こう、なんて難しい。それがジュニア級ならなおさらだ。闘争心も加わるから余計に難しい。

 

 まぁ、つまりなんだ。

 

「全部の物事を何でもないようにやってのけてるカイザーの方が異常だ。ジュニア級なのに完成度が高いってのはそういう意味な」

「動じない精神力、ついていくスピード、逆に相手を掛からせようとする胆力……どれをとっても一級品だ。クラシック級どころか、レースIQに限ればシニア級だね」

「……つまりカイザーさんはとっても凄いってことですね!」

「あぁ。とっても凄いってことだ」

 

 改めてトンデモスペックっぷりが浮き彫りになる。これでさらに成長する余地あり。どうなってんのマジで。

 

(相手はジュニア級。でもカイザーもそうだからなぁ……どうなるんだろマジで)

 

 ちなみに、相手を掛からせているのは進路を確保するためだろう。動じないといっても、進路がなければ抜け出すことができない、勝つことができないからな。展開の先を考えてレースをしている。おかしいだろ4人からマークされてるようなもんなのに。

 

 

 その後のレース展開は、おおよそ予想通りのものとなった。逃げウマ娘の2人は果敢に逃げていたが、先行集団のペースが速かったのもあり自滅。その先行集団も、カイザーによって作り出されたペースを走り切ることはできない。

 

《第4コーナーを越えて最後の直線に入った! クライネキステ懸命に粘るが先行集団に飲まれる! 一気に加速するレース、ここで先頭に立ったのはハレヒノカイザーだ!》

《脚色十分、ですが後続も追い上げてきましたよ!》

《ハレヒノカイザーが先頭に立った、ハレヒノカイザー先頭だ! クライネキステをひょいっと躱してあっという間に先頭へ! アビルダとウェストサイドが必死に追いかけるが後続に飲まれました! 先行集団残ったのはハレヒノカイザーただ一人!》

 

 後続が有利、のはずなのだが先頭に立つのはカイザー。脚色は衰えない、後続の追い上げも届かない。

 

 1と1/2バ身差。派手さはないが完勝に近い内容でホープフルステークスを制した。

 

《差は縮まらない縮まらない! 差をキープしたままハレヒノカイザーがホープフルステークスを駆け抜けたゴールイン! ホープフルステークスを制したのはハレヒノカイザーだ!》

《いや~、これは完勝ですね! 次のレースも期待できますよ!》

「やっぱカイザー最高! カイザー最高! お前らもカイザー最高と言えぇぇぇ!」

 

 やっぱ強いわカイザー。レース内容も文句のつけようがない。あまりにも凄く凄い内容である。

 隣にいるスピードシンボリは拍手をして、クラフトは俺と同じように歓声を上げてカイザーを祝福。ホープフルステークス勝利を、全力で喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

「ホープフルステークス勝利、おめでとうございます。盤石の勝利でしたね!」

「はい、ありがとうございます」

「これで担当のウマ娘がG1を2連勝! ジュニア級とはいえ、鼻が高いのではないでしょうか?」

「嬉しいですね。彼女達と今後とも、頑張っていきたいと思います」

 

 レースが終わればインタビュー。いつも通り笑顔を浮かべて当たり障りのない回答に終始する。前世で上司のご機嫌伺いとか取引先とのあれこれがあったからな。これくらいわけない。

 

 内容はいつもと変わらない。俺の手腕だったりとか、カイザーのことを褒めている。

 つつがなく進行するインタビューで、ついに狙いの質問が来た。

 

「ハレヒノカイザーの今後についてお聞かせください! クラシック三冠も夢ではないと思いますが!」

 

 今後のレース展望、クラシックに出走するか否かの質問である。

 

「それだけの強さはあるよな。カイザーならあるいは?」

「いやでも、先週メイクデビューで凄いのがいたじゃないか。メイクデビューだけどアレは凄いぞ」

「来年のクラシックも盛り上がりそうだな~」

 

 記者のざわめきが大きくなる中、心を落ち着かせるために深呼吸をする。いざ発表するとなると、やはり緊張するものだ。

 

(……大丈夫だ。覚悟を決めろ、俺)

 

 批判上等、このまま突っ走る。

 

「そのことですが。カイザーはクラシックレースには出走しません」

「……え?」

 

 マイクを向ける記者達の素っ頓狂な声。先ほどの盛り上がりが嘘のように静まり返っていた。

 もう一度。

 

「カイザーはクラシックレースを走りません。本人にも了承は取ってありますし、とある目的を考えてと2人で決めました」

「そうだね。私はクラシックに出ないよ」

 

 静寂、圧倒的静寂。誰もが口を開くことを忘れ、大口を開けて固まっている。

 

 ようやく事態を飲み込めたであろう記者達。次いで広がったのは困惑だ。

 

「どういうことだ? クラシックに出走しない!?」

「おいおい、何考えてるんだ? この陣営」

「出走の権利があるのに出ないなんて前代未聞じゃないか?」

 

 そりゃそうだろとしか言えない状況。それでも怒号が飛び交わないのは、民度の良さかそれとも困惑が勝っているのか。どっちなのか判断に困るところだ。

 先ほど俺に質問をしてきた記者がまたマイクを向けてくる。表情は誰が見ても分かるくらいに動揺していた。

 

「な、なぜクラシックレースの出走を見送りに!? とある目的とは何でしょうか!?」

 

 これまた当然の質問。先ほど俺が口にしたとある目的について尋ねてくる。この質問を持ってこさせることが、俺の狙いだ。

 先ほどの淡々とした受け答えから一転して大仰に、芝居を打つように。

 

「みなさん、これまでに三冠ウマ娘は何人出ているかご存じでしょうか?」

「何人って……5人ですよね? それがどうかしましたか?」

「そうですね、5人です。クラシック三冠のレースをすべて制したウマ娘は、これまでに5人いる」

 

 ちなみにトリプルティアラは除外。あくまでここで述べるのは、クラシックの三冠を取ったウマ娘だ。カイザーが行くはずだった路線の話なんでね。

 

「クラシック三冠は確かに偉業です。無敗ともなれば大偉業だ。ただ……どちらも前例がある」

 

 三冠ウマ娘を達成したのは他にもいることを強調。これが、今回の語りでキーポイントとなる。

 

「その偉業に担当ウマ娘が、とは誰もが思うでしょう。ですが私達は、誰も到達したことがない領域へと目を向けました」

「は、話が見えてこないのですが……一体全体何のことですか?」

「みなさんも見たくはないでしょうか……クラシック級ウマ娘の宝塚記念制覇を」

 

 そう発した瞬間、インタビューの場がざわつく。俺の目的について察したのだろう。

 ちなみにカイザーはさっきから何も言わない。ニコニコして俺を見ているだけだ。

 

「シニア級との混合戦、なおかつこれまで誰一人として勝てなかった。二冠ウマ娘のネオユニヴァースもまた敗れています」

「そ、それはそうですが。もしかして目的というのは?」

「はい。ハレヒノカイザーは宝塚記念へと向かいます」

 

 さらに大きくなるざわつき。さすがに無理じゃないか、とか無謀にもほどがある、との声が聞こえてくる。

 

「ハレヒノカイザーならば勝てる、そう思いこちらへ挑戦することを決めました。クラシックを諦めるのも、宝塚記念一本に集中するためです」

 

 これは半分嘘である。実際にはディープインパクトとの対決を避けたいって意図があるんだが、邪推されたり逃げたとか言われるのも癪なのであえて言わない。隠しておくに限る。

 

 反応はというと、半々だ。好意的なものもあれば否定的なものもある。

 

「ハレヒノカイザーならば行けるんじゃないか?」

「まだジュニア級だろ。ここで判断できることじゃない。なによりクラシック捨てるのはどうなんだ?」

「でも、宝塚記念一本に絞るんだろ? なら可能性はあるんじゃないか?」

 

 ここでさらに追い打ち。世論を味方につける、とっておきの秘策だ。

 

「みなさんも見たくはないでしょうか! 前人未到の偉業が達成される瞬間を!」

「前人未到の、偉業っ」

「かつて三冠は厳しいといわれてました。無敗の三冠も空想の夢と思われていました。ですが今はどうですか? 達成者が現れています!」

 

 実際はどうかは知らない。この辺はほぼアドリブでやってる。

 

「どんな夢も、諦めなければ形になる! いつか必ず叶う日が来る!」

「お、おぉっ」

「確かにクラシックレースを諦めるのはどうかと思う声があるでしょう。ですが、私達はそれだけ本気ということです!」

 

 俺に扇動されて、記者達の中で否定的な意見はどんどん消え始める。クラシックを諦める理由も、こっちの宝塚記念にかける情熱を理解しつつある。

 

「ただ、出走には人気投票で選ばれる必要があります。こればかりはルール、我々も従うつもりです」

「「「……」」」

「ですが、この先もどうか覚えておいてください。ハレヒノカイザーというウマ娘の強さを、誰も見たことがない景色へと足を踏み入れるウマ娘の姿を。どうかずっと見守っていてください」

 

 そう締めくくって、インタビューは終わる。気づけば拍手が起こっていた。

 

 帰り際、カイザーが耳打ちしてくる。

 

「かっくいーねトレーナー。ヒュー」

「実情はアレなんだけどな。ま、これで大丈夫だろ」

 

 すでに離れているインタビューの場。おそらく上司に掛け合っているのだろう。電話片手に大忙しの報道陣の様子が見えている。

 

「この調子なら問題ない。後は、結果を出すだけだ」

「はいはーい。ま、任せてよトレーナー」

「それでも、一番はお前の健康だからな」

 

 ポンと頭を撫でて立ち去る。さて、意識は根付かせたぞ。

 おそらくだが、世論を味方につけることもできる。結果は大成功と言ってもいいな。

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