担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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評判と必要条件

 年が明けてもう1ヶ月が経とうという頃、クラシック級へと上がったカイザーとクラフトの調子は順調そのもの。2人とも目標に向けて全速前進だ。

 

 クラフトは桜花賞に出走、前哨戦としてフィリーズレビューにも出る予定。こっちはよっぽどのことがない限り負けないだろうし、特に心配はしていない。

 問題はカイザーの方。ホープフルステークスのインタビューがあるが、果たしてどうなっているのか。

 新聞を片手に、ネットでも情報を精査する。

 

「ふむふむ……中々悪くない。好感触だ」

「なにがかな? 榊トレーナー」

 

 扉を開けて入ってきたスピードシンボリ。彼女はたまにしか来れないと思っていたが、結構な頻度でこちらに来てくれている。ありがたい限りだ。

 

 俺の言葉が気になったであろう彼女に新聞を手渡しつつ、現在の状況について説明する。

 

「カイザーの状況ですよ。若駒ステークスの一件があっても、しっかりと記事にされている。触れている記者は多い」

「あぁ、そういうことか。とはいえ、あまり好意的な反応ではないようだが」

 

 困ったような笑顔を浮かべるスピードシンボリ。彼女の言う通り、記事の内容は今からでもクラシックに出走しないか、というものが多く、好意的とは言いづらい。

 ただ、ここで重要なのは注目があるということ。

 

「話題にされている、ってことが大事なんですよ、こういうのは。注目されているのとされていないのとでは段違いだ」

 

 どんなに活躍しようが、世間の注目が集まっていなければどうにもならない。簡単に言えば、どんなに凄いことをやっていても、それを伝えるメディアがいなければ分からないのである。

 

 例えばスポーツ。注目されている選手の動向は些細な情報でも拡散されるが、それ以外の選手はほぼ分からないなんてことはざらだ。そういうのがなぜ生まれるかというと、需要が絡むからに尽きる。

 

「誰だって話題になるような凄い選手の動向は分かりたくなるでしょう? 逆に、特に結果を残していない一選手の事なんて誰も気に留めない」

「そうだね。厳しいことだが、競技の世界ではありふれた話だ」

 

 厳しい話だがこれが現実。大多数のウマ娘は注目されないし、スターウマ娘の影に埋もれてしまう、なんてことは当たり前だ。現に今、ディープインパクトとそれ以外で大分隔絶しているし。

 

 ディープの人気は凄まじい。メイクデビューの大差圧勝に加え、若駒ステークスも10バ身はあった差を最終的には5バ身で下す圧倒っぷりを披露。すでに世代の顔とまで言われている。

 

「ディープインパクトの勝ち方はとにかく華がある。最後方からの追込一気、しかも全員あっという間に躱すんだからそりゃファンは応援するわ」

「ミスターシービーを彷彿とさせるね。彼女もまた、人気の高いウマ娘だった」

 

 華があって分かりやすく強い勝ち方。だからこそディープインパクトは人気なんだ。

 

 初めてレースの世界に触れる新規ファンにも分かる強さ。これが人気の一因だ。大多数は広く浅く応援するからな。そういったファンは、ディープのような分かりやすく強いウマ娘に惹かれる。

 対称的に、カイザーの勝ち方は良くも悪くも地味だ。強いウマ娘が強いレースをするんだからそりゃ勝つだろ、みたいなもの。派手さも華もない。

 勿論そんなレースが好きといったファンもいるし、俺もその一人だ。

 だが、悲しいことに大多数の人は分かりやすい強さに惹かれる。どんなに勝ち続けても、人気という一点において負けてしまうなんてこともある。

 そうなると宝塚記念の出走は怪しくなる。人気投票で決まるあのレースに出走することなく終わってしまう。目標未達成、なんてことになりかねない。

 

 このままだと他のウマ娘のようにカイザーは埋もれる。そうはさせないために、俺は一石を投じた。それがホープフルステークスのインタビュー。

 

「ディープインパクト一色になる世論……そうならないために、君はあの場で宝塚記念を目標に掲げていることを宣言した。そういうことだろう?」

 

 試すような視線。勿論、今スピードシンボリが言った通りだ。

 

「えぇ。前人未到の偉業ともなれば、メディアは少なからず注目する。メディアは広報の最大手、利用しない手はない」

 

 マスゴミだのなんだのいろいろ言われてはいるが、広報という点でテレビや新聞といったマスメディアは欠かせない。敵になると害しかないが、味方にしておいて損はないのだ。

 

「メディアを利用して風化させないようにする。インタビューの狙いはこんなところですね」

 

 全ては宝塚記念出走に向けた布石。現実は俺の狙い通りに事が運んでいる。ディープの圧勝を受けてもなおカイザーの記事が出ているのが何よりの証明だ。

 

 順調に進んでいるが、スピードシンボリは心配するような目を俺に向ける。その視線の意味も、なんとなく気づいている。

 

「まぁそうだが……とはいえ、君に対する批判も少なからずあるね。それはどう思っているんだい?」

「めっちゃキツいです。言われると予想はしてましたけど、いざ言われると超キツい……」

 

 クラシックレースは依然として栄誉あるレース。そんなレースを回避するんだから、当たり前だけどアンチ記事もあるよね、ということ。

 幸いなのは俺に対するアンチだけってとこか。カイザーやクラフトにもいたら正気を保てていなかった。

 けど、思わず目を覆いたくなるほどの批判をネットで見た時は泣いた。あそこまで言わなくてもいいだろ、と画面の前で思ったね。

 

 気持ちは分からなくもない。分からなくもないがそれとこれとは別問題である。

 

「ディープインパクトとハレヒノカイザーの対決が見たいってのは分かるけどさぁ、俺が無能だのなんだの言いやがって……俺にも傷つく心はあるんだぞ!」

「予想できたことだろう?」

「できましたよ。それでも辛いもんは辛いんですよ!」

 

 今まで対岸の火事と眺めていたことが自分の身に起きている。当事者ってこんな気持ちだったんだなぁとしみじみ感じた。

 

 

 好意的ではない記事もあるものの、反応としては上々。あとやるべきことは一つ。

 

「カイザーが結果を出すこと、なんだけど……まぁその辺は心配いらないってのがある」

「油断禁物、というべきなんだろうがね。あの勝ちっぷりだと君の気持ちも分かるよ」

 

 深く頷くスピードシンボリ。現地で見て肌で感じたのだろう、ハレヒノカイザーの強さを。

 

「あれほど完成されたウマ娘は見たことがないよ。ジュニア級なのにレース運びがシニア級のそれと遜色ない」

「本来なら焦るべき場面で焦らず、むしろ周りを焦らせる始末ですからね。恐ろしいし対戦したくないでしょうよ」

「宝塚記念のクラシック級制覇。難しいが彼女なら成し遂げられるんじゃないか? そう思わせるには十分すぎる内容だ」

 

 かなりの高評価をいただく。そんだけ強いってことだ。

 

「次は共同通信杯。特に有力なウマ娘も出走しないようだし、順調にいけば勝ち進めるだろう」

「そうっすね。ま~後は体調面に気を配るだけでしょう」

 

 いろいろと語ってはいたが、重要なのは勝ち続けること。宝塚記念出走のためにはレースに勝たなきゃいけないわけだ。

 そのためにも、次の共同通信杯は重要。ここを勝って楽にしていきたいところ。

 

 

 後はスピードシンボリと今後の打ち合わせをしていた。余談だが、海外遠征に向けて本格的に始動するべく、夏合宿はフランスに一度赴くらしい。

 

「あくまでトレーニングのみ。向こうの環境に少しでも慣れておきたいからね。環境の違いをしっかりと実感してもらわないと」

「アスリートは特に大事ですよね。少しの違いでもコンディションに差が出るらしいし」

「その通り。私も現役時代は苦労したものだ」

 

 きっとラークシナリオのトレーニングみたいなことをするのだろう。ちょっと楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 で、共同通信杯本番を迎えたわけだが。

 

「スタートから好位置を確保。ホープフルのように重点的にマークされている、けども」

「カイザーさんいけいけー!」

「いつも通りのレース運びにいつも通りの走り。いっそ安心感すら覚えるね、これは」

 

 10人立てで開催されたレースでカイザーは3番手の位置をキープ。逃げウマ娘は今回おらず、結果的に押し出された子が逃げていた。

 

《果敢に逃げます4番。その1バ身後ろに10番と7番のハレヒノカイザーが追走。縦に長くなっていたバ群が固まり始めました、そろそろ第4コーナーを越えて最後の直線、勝負所を迎えます》

 

 この押し出された子もアレだ。カイザーによって押し出されたといっても過言ではないだろう。

 

「ただでさえ外の枠番なのにカイザーに併せたらなぁ。本来なら同じ位置につけたかったろうに」

「カイザーのプレッシャーに負けて、結果的に逃げてしまったね。そして、風除けになっている」

 

 先頭は当然最内を走る。その後ろにカイザーがしっかりとつけているわけで。1バ身後ろから抜き去る機会を狙っていた。

 

 レースは終盤。後はどのタイミングで抜け出すかだが、しっかりと考えてあるようだ。コーナーを曲がり、前を走る4番が外に膨らんだ隙を見逃さない。

 

《まもなく最後の直線に入ります。逃げる4番を追う展開、ハレヒノカイザーが一気に差を詰める! 4番に並んだ並んだ、ハレヒノカイザーが1バ身の差を詰めてきた!》

「うおおおぉぉぉ、いけいけー!」

 

 一呼吸の間に並んだカイザー。4番の子には焦りが見え、すぐにでも離そうとするが。

 

「並ばれて、突き放せない。外に膨らんだところを攻め立てる……毎度やってることがヤバすぎるな」

 

 おそらくだが、4番の子は少しでも後ろを離そうと第4コーナーでスピードを出した。阪神ジュベナイルのクラフトと同じようなことになったのだろう。後続を離すために、多少のリスクは承知の上で挑んだ。

 カイザーに並んでいた10番の子は同じように外に膨らんでいた。その中でカイザーは、最内を陣取ってぶち抜いてくる。

 

(あそこまで綺麗に回ると、他の子が下手なんじゃ? とすら思えてくるのが恐ろしいところだ)

 

 さすがに分かっている。アレはカイザーがおかしいだけ、他の子が正常だ。普通勢いつけて曲がったら外に振らされるし、ロスも発生してしまう。綺麗に回るなんてことはできない。

 だが、カイザーはいつものように回る。簡単に、当たり前のように。これが曲線のソムリエってやつですか。

 

(レース技術が一つも二つも抜けている。シンボリルドルフはどんだけ教え込んだのやら)

 

 十中八九仕込んだのはシンボリルドルフ。教えるのも上手いとかさすが皇帝と言わざるを得ない。

 なんて思っていたが。

 

「あのコーナー技術は、どちらかというとトウカイテイオーのモノが近いね」

「あ~……なんか、教えているのは見たことありますね」

 

 スピードシンボリ曰く、アレはトウカイテイオーの技術だとか。いや、どっちにしても凄いことには変わりないけど。

 

 最内を進んだカイザーと外に膨らんだ前を走る2名。後続が続々と雪崩れ込んでくるが、カイザーの圧倒的優位は変わらない。

 

《最後の直線、先頭で駆け抜けてきたのは4番とハレヒノカイザー! しかしハレヒノカイザーがあっという間に4番を躱して先頭に立った。ハレヒノカイザーが抜け出したぁ!》

 

 レース場の声援も徐々に大きくなる。カイザーは悠々と、まではいかないが、わずかに余裕を見せつつの走りを披露。

 リードは1バ身。人によっては心許ない差と思うかもしれないが、ことカイザーに関しては違う。

 

「1バ身もある、ってところか。多分、半バ身でも安心感が違うんだろうな」

「違いない。安定感抜群の走りだ、本当に」

 

 後続が追い上げてきたが、カイザーを追い込むまでには至らず。カイザーがリードを保ったまま駆け抜けていった。

 

《ハレヒノカイザーだハレヒノカイザーだ。ハレヒノカイザーが駆け抜けたぁぁぁ! 共同通信杯を制したのはハレヒノカイザー! 1バ身のリードを保ったまま、見事に駆け抜けました!》

《まさしく横綱のようなレース。盤石の強さを見せつけましたね!》

《宝塚記念を目標に掲げる彼女。どうなるのかという不安がファンにはありましたが、その不安を一蹴するかのような鮮やかな勝利! 今後のレースにも期待が持てるでしょう!》

 

 う~んこの盤石っぷり。勝てるかどうかなんて不安すら抱かないね、これは。

 

 カイザーのスタイルはいわゆる負けない戦い方。要所要所で満点を取るのではなく、コンスタントに90点を取るみたいな感じ。そんな戦い方がカイザーのレースだ。

 負けに繋がるようなミスを犯さない。どんなに自分有利でも冒険はしない。レコードを狙って走るようなことをしない。

 仮に不利を被っても焦らない。最善手を打ち続けて窮地を脱する。その結果、当然のように勝利する。恐ろしいものだ、本当に。

 

 ま、それはそれとして。

 

「やったぞカイザー! やっぱカイザー最高、カイザー最高!」

「ハレぽんブチ上がり~! ハレぽんしか勝たん!」

「「「ハレぽんさいこ~! テンションぶち上げMAXうぇ~い!」」」

 

 ダイタクヘリオスやクラフトと一緒に肩を組んで喜ぶ。やっぱ最高っすわ。

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