担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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ライバルの思い

 共同通信杯も終わり、いつものように放課後トレーニングタイム。

 

「よ~し、今日も頑張るぞ~!」

「は、はい!」

 

 今日も担当2人は元気です。

 

 今日のトレーニングなのだが、カイザーの希望でゲートのトレーニングになっている。なんでかは分からない。

 

(別にゲート苦手にしているわけじゃないし、なんで今更?)

 

 特段ゲート難というわけでもなく、何なら同世代と比べてもスタートが抜群に上手いのがカイザーだ。今更トレーニングすることなどないと思うのだが。

 ただ、本人曰く考えがあるとのこと。ならその意思を尊重しようと、今日はカイザーの言う通りにした。

 

 果たしてカイザーの考えとは何なのか。気になるところではあるが。

 

「トレーナー、ランダムなタイミングでゲートを開いてよ」

「……って、言うと?」

「そのままの意味だよ。トレーナーが好きなタイミングでゲートのボタンを押して。できる限り遅れないように出るから」

 

 なんのトレーニングなのかさっぱり分からないぜ。まぁいい、頼まれたからにはやってみるとしよう。

 

 ボタンで開閉するタイプのゲート。装置を握りしめながら、ゲートに入るカイザーを眺める。

 

(さて、まずはオーソドックスにいくか)

 

 少し溜めて焦らす。その焦らしが頂点に達するであろう瞬間を見極めて、押す。

 ゲートが開く。瞬間、カイザーが飛び出した。

 

「っとと。もうちょっと捻りを加えてもいいよ?」

「ま、今のは小手調べってやつだ。ただの確認だな」

 

 ゲートを飛び出したらすぐにまたゲートへ。同じように待機する。

 

 次は意表を突くように、ゲートに入ったその瞬間ボタンを押した。当然、ゲートは開く。

 これには虚を突かれただろう、なんて高を括っていたが。カイザーは普通に飛び出してきた。

 

「……は?」

「ん~、悪くないね。私の意表を突こうとしたんでしょ?」

 

 バレバレ~、とでも言いたげな笑顔を浮かべるカイザー。可愛いがまさかすぐに読まれるとは。

 

(ま、まぁ分かりやすかったな。次は狙いにくいタイミングで)

 

 またゲートに戻るカイザー。今度は焦らすように遅く開ける、と見せかけて、さっきと同じようにすぐさまボタンを押す。

 さすがに二連続では来ないだろう、カイザーも出遅れるはずだ。そう思っていたが。

 

「フッ!」

「……うそーん」

「ん~、もうちょっとタイミング早めでもいいかな」

 

 普通に飛び出してきた。いや、あの、なんなんすかこの子。それはないだろ的なタイミングで仕掛けたのに普通に反応したんですけど。

 しかも本人は余裕そう。どういうわけだよ本当に。

 

(こうなったら意地でも!)

 

 相手が分からないタイミングで仕掛けてやる。そう固く誓う。

 

 いろんなタイミングでボタンを押した。

 

「知ってるか、カイザー。最近のお前、かなり注目されているらしい、ぞっ!」

「フッ! ……そうなんだ~。うん、嬉しいね!」

「ふ、普通に反応してる」

 

 会話中に唐突に押して見たり。

 

「あ、蝶々だ、っここッ!」

「……さっきまでよそ見してたのに、なんでカイザーさんは反応できてるんだろう?」

 

 明らかに集中していないタイミングでボタンを押したり。

 

「……」

「なんかもう無心で押してるの分かるよ、トレーナー」

「それにキッチリ反応する君は何なんだい? カイザー」

 

 いっそのこと何も考えずに押してみたり。それはもういろんな方法を試した。全てはカイザーを出遅れさせるために。

 結果は惨敗。カイザーは一度も出遅れることなく完遂した。

 

「どうなってんのマジで? スピードシンボリとクラフトに頼んでダミーのボタンも作ったのに」

「カイザーさんキッチリ反応してますもんね……どういうことですか?」

「俺にも分からないよこんなの」

 

 ほらもうスピードシンボリもびっくりしすぎて素の口調出ちゃってるよ。どうなってるのよ本当。

 当のカイザーは得意げだ。可愛い。やられたことは全く可愛くないけど。

 

「どう、どう? 凄いでしょ?」

「うん、凄すぎて恐怖を感じるわ。なんで分かんの?」

「そりゃあ……ゲートが開いたなってなんとなく分かるから」

 

 あらやだ聞きましたか。感覚で理解しているらしいですよこの子。

 

「なんて言えばいいんだろうね~。ゲートが開くその瞬間だけスローみたいな? ここで開くんだろうなってなんとなく分かる感じ?」

「とりあえずお前の反応速度がえげつないってことは分かったよ」

 

 多分見てから反応しているようなもんだろう。某アメフト漫画の神速のインパルスみたいなもんだ。そう納得することにした。

 

 で、いろいろと試したわけだが、判明したのはカイザーの凄さだけ。これに何の意味があるのかは分からない。褒めてほしいのだろうか。

 

「なんで今更ゲートのトレーニングを? こんだけできれば十分だろ?」

「ん~、もうちょっと極めたいと思ったんだ」

 

 これ以上極めてどうすんの。てかこれ以上があるのか。それこそゲートが開くのと同時に飛び出すぐらいしかなくないか。

 カイザーは一息つく。どうも、満足したようだ。

 

「ただ、うん。後は実戦で詰めるだけかな? ありがとうトレーナー、普通のトレーニングしよっか」

「まぁいいけど。なんにせよ、満足いったならよかったよ」

 

 しかしこのスタート技術とんでもないな。スピードシンボリでさえも目を見開いたし。

 

 

 ちなみにクラフトは普通だった。クラシック級上がりたてならまぁこんなもの、むしろ優秀寄りの成績。

 

「か、カイザーさんみたいにできませ~ん……」

「落ち着けクラフト。どっちかというとカイザーの方がおかしいだけだ」

「えへへぇ」

 

 相も変わらずカイザーは凄いってことが分かった。

 

 

 

 

 

 

 ここまで順調に進んできた。共同通信杯の勝利もあってか、メディアの評判も上々。カイザーの強さを改めて世間に知らしめている。

 

 だが、良いこともあれば悪いこともあるようで。現在進行形でどうしようか迷っている。

 

「カイザーさん。クラシックレースに出走しないって本当!?」

「あ、プイちゃんだ。お久~」

「あ、うん久しぶり……じゃなくて!」

 

 ディープインパクトが突撃してきました。予想はしてたけど本当に来るなんてなぁ。

 

 

 なんとなく思ってはいた。この2人は史実でも深い関係だったのは間違いない、と。

 

(カイザーが唯一違った反応を見せる相手。シンボリルドルフやダイタクヘリオス、ラインクラフトのような親愛じゃない)

「ライバル、ってやつか」

 

 同世代だし、史実での対戦経験も豊富なんだろう。思いが強いのは想像に難くない。

 だからこそ、こうして突撃してくるのはなんとなく分かっていた。信じられないような表情をしているし、それだけのことをしたんだと突きつけられる。当のカイザーはゆるい調子だけど。

 

「クラシックは、一生に一度しか出走できないんだよ? 本当にそれでいいの?」

 

 念押ししている。自分の選択に後悔はないのか、本当にそれでいいのかと詰め寄っている。そんな姿を見せられると俺の罪悪感が半端じゃない。

 ただ、カイザーは変わらない。いつもの調子を崩さない。

 

「う~ん、もう私とトレーナーで決めたことだしね。クラシックには出走しないって決めたんだ」

「そ、そんな……カイザーさんと一緒に走りたかったのに……」

「別にクラシックレースじゃなくてもあるよ? ほら、宝塚記念とか!」

「トレーナーに言ったけど止められたから私走れない……」

 

 止められたのか。というか宝塚記念出走を目論んでいたのか。勘弁してほしい。そうなったらまた出走を見送らなきゃいけなくなるから。

 

 ここから粘られたら堪ったもんじゃない。そう思い割り込もうとした矢先の事。

 

「……でも、カイザーさん達が決めたことなら仕方ないよね。うん、カイザーさん達にも考えがあってのことだから」

「そうだね。プイちゃんには悪いけど、クラシックでの戦いはお預けかな」

「ううん、いいの。なんでクラシック三冠に出走しないのか、トレーナーは分かってるみたいだったし……私も、なんとなく想像できるから」

 

 思いのほかあっさりと引き下がった。引き下がったが、暗い表情は変わらない。

 その理由はやはり、出走を取りやめた本当の理由に心当たりがあるからだろう。

 

(文乃先輩ほどのトレーナーなら気づかないはずがないし、ましてやディープインパクトは当事者だ。よほど鈍感じゃなければ分かるだろう)

 

 ライバルが出走しない。その理由が自分にある。気に病まないはずがない。自責の念に駆られても仕方がない。

 

(ただでさえ一度しか出走できないんだ。罪悪感は段違いに重い)

 

 長い鹿毛の髪が揺れている。ディープインパクトの尻尾も元気がない。耳も、しょんぼりと垂れていた。

 

 あぁ、ダメだな。覚悟していたとはいえ。

 

(文乃先輩がメンタルケアしてくれるだろう。前哨戦の弥生賞までには問題なく仕上げるはずだ)

 

 悲しい表情は好きじゃない。

 自分の出る幕はない。というか、俺が全ての元凶なのだから何を言ったって神経を逆撫でするだけかもしれない。

 

 それでも。

 

「仕方ないことだけど、残念だな。カイザーさんとは戦ってみたかったから」

「プイちゃん」

 

 落ち込んでいる相手を見て、その原因が自分にあると知って。見過ごすことなんてできない。涙を堪えるようにスカートの裾をぎゅっと握りしめているディープインパクトを見て、戦えないから諦めろなどと言えない。

 仕方ない事情なんていくらでも出てくる。いつ爆発するかも分からないバッドコンディション、リスクを最小限にするのは当然の判断だ。俺の判断が間違っているとは思っていない。

 

(けれど、相手の気持ちを無視しているのも確か)

 

 よほど戦いたかったのだろう。今のディープインパクトの様子を見て分からないほど、俺はバカじゃない。

 

 だからこそ、気づいたら声に出していた。

 

「秋だ、ディープインパクト」

「っ、え?」

「秋になれば対決の機会は来る。というか、絶対に用意する。カイザーの言うように、別にクラシックレースだけが戦う舞台じゃねぇんだからな」

 

 待ってほしいと。春や夏には間に合わないが、秋には対決の機会が来ると、そう口にしていた。

 困惑しているディープ。カイザーも目を見開いていた。

 今は関係ない。俺にできることは。

 

「そもそも戦えないのはお前らのせいじゃない。俺が判断して決めたことだ。気に病む必要はない」

「で、でも! 私と走ったら、カイザーさんが……」

「それはまだカイザーの身体が出来上がってないからだ。夏でギリギリ、ダービーには間に合わないと判断した」

 

 どうにかして2人に対戦する機会を設けること、その未来を教えてやることだ。

 

 ぶっちゃけ、秋までにバッドコンディションが解消されているかは分からない。むしろ、解消されない可能性の方が高い。一生つき纏うリスクさえもある。

 問題を先延ばしにしているだけ、これでもし戦えなかったら、彼女達はさらに傷つく可能性がある。

 けど、この場で何もしないよりはマシ。そう考えて俺は、2人を諭す。

 

「さっきも言ったが、お前らが気に病む必要はない。正直に白状すれば、俺が臆病風に吹かれただけだからな」

「そ、そんなこと……ケガするリスクを考えたら当然で」

「だからこそ秋だ。秋になれば、カイザーの身体も完成する。ディープインパクトと走っても問題ない肉体になる。というか、してみせる」

 

 ジャパンカップか、有記念。そのどちらかで激突する。そんな未来を示す。

 

「だから秋まで待ってくれねぇか? 秋まで待ってくれれば、必ず対決の場を用意する」

「さ、榊トレーナーっ」

「……ま! 欲を言うと俺もお前らの対決を見たいからな。模擬レースであんだけ凄かったんだ、本番のレースになればさらに凄いこと間違いなし! 今から秋が待ち遠しくて仕方がない!」

 

 後こいつらの対決普通に見たいと思ってる俺がいる。カイザーが唯一本能を曝け出して走る相手なのもそうだが、カイザーの知らない力を引き出しそうでワクワクしているってのも本音だ。

 できるかどうかは不透明。でもやる。きっとカイザーも、それを望んでいるから。

 

 困惑した様子のディープインパクト。少し経ってから、口を開く。

 

「そ、その。なんだか申し訳ありません……私のワガママで、こんなことになって」

「気にするな。誰だってライバルと戦えないってなったら落ち込むからな。お前は間違ってない」

「……私、どうしたらいいか分かりませんけど」

 

 もう困惑した様子は見られない。覚悟を決めた表情で、強い意志を込めてこちらを見据える。

 

「秋まで、待ちます。カイザーさんと戦うその時までに私は……最強の名を手にしてみせます」

 

 膨れ上がるプレッシャー。とんでもない自信だ。必ずやり遂げる覚悟を感じる。

 

 対峙するカイザーは、ニッと笑う。

 

「うん! 楽しみにしてるよプイちゃん! 秋になったら一緒に走ろうね!」

 

 いつも通りだね、君。そこがいいところなんだけど。

 これには毒気を抜かれたようで、ディープは薄く微笑んでいた。

 

「はい。きっと戦いましょう。それでは今日は失礼しました、本当に」

「気にするな。弥生賞、頑張れよ」

「ありがとうございます。ご期待に添えられる活躍を」

 

 最後、丁寧に頭を下げて彼女は去っていく。

 

 

 ディープが去った瞬間、緊張の糸が切れたかのようにソファに座り込む。いや、にしたってなぁ。

 

(約束、しちまったなぁ)

 

 どうすっぺ本当に。これで秋までにバッドコンディションが解消しなかったら本当にヤバいぞ。な~んで秋には戦わせるなんて約束をしちまったのか。

 でも、この判断が間違っているとは思っていない。お互いのためを考えるなら、これがベストの選択だ。

 

(割り切れない思いはある。ライバルと戦いたいってのは、競技者として自然な感情……それに、カイザーのためでもある)

 

 ディープインパクトが辛そうな表情をしている時、カイザーもわずかに顔を歪ませていた。

 なんとなく、罪悪感を感じていたのだと思っている。俺と同じように。

 

(カイザーだってディープと戦いたい、そう言ってたからな。だからこそ、この選択は正しい)

 

 正しくなくても正しいと思えるようにする。選んで間違いじゃなかったと思えるような結末を。それが俺のやるべきこと、ってね。

 

 物思いに耽っていると、カイザーがこちらへと寄ってくる。いつもと変わらない調子だ。

 

「それで、本当に秋に戦わせてくれるの?」

 

 先ほどの言葉。真意を探っているのか、俺の目を覗き込んでくる。相変わらず吸い込まれそうな瞳だ。

 

「……戦わせるといった手前、必ずな」

「ふ~ん。不安要素が解消しなくても?」

「解消しなくても、だ。どうにかするのが俺の仕事だし……あ~、絶対に仕事が増える、考え事が増える~」

 

 なんだってこんなことに。自業自得と言われたらそれまでなんだけど。なんでこう、仕事を増やしてしまうのか。

 けど仕方ないじゃないか。あんなに落ち込んだディープインパクトを見て、冷静でいられるはずもない。自分にできることを模索するのが当然ではなかろうか。

 

 なんとかするか、なんとかなるべ。その精神で仕事をしよう。そんな俺に、カイザーは。

 

「やっぱり君は良いトレーナーだね」

「っ!?」

「ふふん。それじゃ、楽しみにしてるからね~」

 

 手をひらひらさせて去っていくカイザー。いや、それよりも。

 

「……不意打ちで囁きボイスは止めてくれ。心臓に悪い」

 

 耳元で囁いてきやがって。小悪魔属性まで獲得したんか。

 

 この距離感もいつかは正してやらないとなぁ。そんなことを思いつつ、未来の自分に仕事を丸投げするのだった。

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