担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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幕間 太陽ウマ娘のレース

 正直な話、レースにはそこまで興味を持っていなかった。妹であるポラちゃんの勧めがなければ中央にいなかったぐらい、私の興味は薄かったから。

 

 認識としては、レース場で走ることってだけ。格とか重賞とかいろいろ聞いたけど、私の頭にあったのはみんなと一緒に走れるんだな~、くらい。

 

「重賞に出走できるのも一握り。最高位の格付けであるG1レースはさらに狭き門であり……」

 

 先生がレースのことを説明している最中も、いろんな子と一緒に走れるな、G1にもなればさらに楽しくなるんだろうなってことしか考えてなかった。

 

(どんな子がいるんだろうな~、楽しみだな~)

 

 私にとってレースはそんなものだった。

 

 

 けれど、いざレースを走って認識は変わる。

 

(凄いなぁ、みんな)

 

 全員ががむしゃらに走っている。勝つために全力を尽くしている。闘争心をむき出しにして走っている。

 常に勝利のために考え、敗北を糧にして研鑽を積み、次のレースに向けて万全の体勢を整えるべくコンディションを整える。

 本番のレースでは全員が敵とばかりに睨みつける。勝つのは私だ、お前たちを負かしてやる。そんな気概を感じるほどに、レースの世界はギラギラしていた。

 

 私は、そんな世界に足を踏み入れたんだ。

 なんて言えばいいのだろう。想像よりも凄かったレースの世界は、凄くキラキラしていて。

 

(みんな一生懸命で、うん)

「楽しいなぁ~!」

 

 とっても楽しい場所である、と私は認識を改めた。

 

 併走や模擬レース、普段走る時には味わえない一生懸命さ。このレースしかない、この一瞬に全てを賭けるとばかりに死力を尽くすみんなの姿は格別だ。

 全ては勝つために。一人しか勝ち取れない栄光を掴み取るために。

 そしてなにより。

 

「最後まで向かってきてくれるもんね。一分一秒も諦めない、凄く楽しい世界!」

 

 諦めなんて言葉がないくらいに、熱くてバチバチの場所なんだ。

 

 小学校の頃、気づいたらみんな走ってくれなくなった。私の後ろをついてくるばかりで、一緒に走ってくれる子なんてポラちゃんだけ。

 学園も、基本的にはスズさんとかラモさんぐらいしか走ってくれない。他のみんなに声をかけても、断られることが多くなった。

 別に寂しくはない。一人で走るのもまた乙なもの、特段気にしたことはない。

 

「でもやっぱ、多人数で走るのもいいんだよね~。一人で走るのでは味わえない快感がある」

 

 楽しいが上乗せされてさらに楽しく。こんな場所で走れる私は超幸せ、中央に来てよかったと思っている。ありがとうポラちゃん、私の大好きな妹よ。

 

 

 なんにせよ、私は中央で楽しくやれているってことだ。

 

 

 

 

 

 

 現在私はターフの上。周りにいるみんなは私を睨みつけて、闘志をぶつけてきている。もう慣れたギラギラだ。

 ストレッチをして身体をほぐす。伸びをしながら、今日の意気込みを。

 

「今日も頑張るぞ~!」

 

 それだけ。楽しく走るぞ、ってね。

 

 ストレッチが終わればゲートに入る。ゲートが嫌いな子は一定数いるらしいけど、私は特に問題じゃない。

 

(閉塞的な空間、だけど落ち着く。悪くないね)

 

 開くのを待つ。ゲートが開くその瞬間を見極める。

 

《今、最後のウマ娘がゲートに入りました。中山1600m、G2ニュージーランドトロフィー。まもなくスタートです》

 

 すでに理解した。どんなタイミングで開くのか、どう抜け出すのが正解なのか。

 

(このタイミング、だよね)

 

 ゲートが開くタイミング、よりも一拍置いてスタート。今回はこれで大丈夫だ。だって、他の子よりも上手いスタートを切れたから。

 

 真っ先に飛び出す。15人のウマ娘を引っ張るようにハナを取る。

 

《スタートしましたっ。飛び出したのはハレヒノカイザー、綺麗なスタートを切ってハナを取ります! 他のウマ娘もまずまずのスタート、大外枠の16番が果敢にいきます》

 

 ハナを取ってこのまま後ろに下がる。いつものように下がろうとしたけど。

 

(ん~、私に逃げさせようとしてるのかな)

 

 下がればその分だけ下がる。ペースを上げれば同じように上げる。音でなんとなくの位置は把握できるし、実際に後ろをちらっと見て確認した。

 今回逃げの子もいたはず。その子は私に競りかけてくるが、無理に前に出ようとはしない。どちらかというと同じ位置でマークするように動いている、か。

 どんなことを考えているのか想像はつく。

 

(私をペースメーカーにする気かぁ。うんうん、その方が都合がいいからね)

 

 あわよくば私の自滅狙い。逃げさせて、マークして、スタミナを奪って。落ちてくるのを待っている。そう仮定した。

 

 悪くない作戦だ。私は意図的でもない限りペースを乱さない、レース中はずっと勝つための最善手を打ち続けることを心掛けている。

 なんでかって言われたら、ルドルフ会長の教えだから。私は賢いから、自分と同じようなレース運びができるっていつも言ってた。

 

(むふふ~、そうですそうです。なんたって私は賢い子ハレヒノカイザー! お茶の子さいさいだからね!)

 

 誰がどの位置にいるかを大体想定して、どこで仕掛けるべきか、どのタイミングで動けば相手が嫌がるかを想像する。

 これも全部ルドルフ会長の教え。相手を乱して好きなレースをさせない、勝負における最善の走りだ。

 だからこそ、ペースメーカーとしてはもってこいの存在。動きに惑わされさえしなければ、ペースを乱さない存在として動いているのだから。

 

(それにしても……うん、いいね)

 

 勝利に向かってひたむきに。あらゆる状況を想定し、私の動き出しに合わせようとしている。

 15人分のマーク、は言い過ぎか。それでも決して少なくない圧が私に突き刺さっている。

 

(これだけの子が遊んでくれる。楽しくってたまらない!)

 

 私に勝とうと、私を落とそうと向かってくれている。こんなに嬉しいことはない。

 なんでかと言われたら、楽しいから。本気のバチバチ、負けたくない思いは気分が高揚するし、みんなのギラギラした熱い闘志は受けていて心地がいい。テンションが上がって、ついつい私も楽しくなっちゃう。

 

《第3コーナーに向かって進みます各ウマ娘。先頭を走るのはハレヒノカイザーと11番。この2人が競り合ってレースを展開していますが、これは珍しいですね》

《ハレヒノカイザーは先行策を好んでいましたからね。ですが、スタートが良すぎた影響で押し出されました。奇しくも前走で逃げたクライネキステと同じ形になります》

《逃げがどう影響するのか? まもなく第3コーナー、ペースとしてはまずまずか。逃げるハレヒノカイザーと11番を追う13人、3番手は2バ身遅れた位置から窺っている。どういった展開を見せるのか注目です》

 

 11番の子は無理には競り合ってこない。それでも鋭く睨みつけてきて、警戒しているのが伝わってくる。

 楽しいな、楽しいな。向かってきてくれて嬉しいな、楽しいな。

 

「ック!」

 

 走るのは最短経路の最内。逃げで走っているからこそ走れるこの位置は、中々気持ちがいい。スズさんが誰にも渡したくないのも分かるな。

 まぁ、固執する気はない。今回に限れば誰も来ないから結果的に逃げてるだけだしね。

 

 

 第4コーナーに入れば、後続もどんどん追い上げてくる。中山の直線は短いから、少しでも早めに仕掛けないといけないからだろう。

 

(足音が近づいてる。後ろも……追いついてきてるね)

 

 熱い気持ちが伝わってくる。レースの終盤、雰囲気がさらに尖ったものに。

 

《第4コーナーを進む各ウマ娘、先頭はハレヒノカイザーだハレヒノカイザーだ。11番が競り合う半バ身の位置。3番手以下もペースを上げてきたぞ、脚は残してあるかハレヒノカイザー?》

《道中のペースはややスロー。問題はないように思えますがどうか? 後続も、脚を残していますよ!》

 

 どんどん近づいてきている。足音と一緒にプレッシャーが増してる。

 

 もうすぐ、もうすぐだ。もうすぐで、レースの一番楽しい瞬間がやってくる。

 

(良くないことだってのは分かっている。杖さんにもやめておいた方がいいって言われたし)

 

 ルドルフ会長のトレーナーさん、杖さんにも、教官にも言われたことがある。笑って走るのは止めた方がいいって。

 よくない行為。ヘリオスさんも矯正したらしく、スタミナを余分に消耗するからしない方がいい。理屈としては理解している。

 

 でも、ついやってしまう。気づいたら笑って、抑えきれなくなる。

 

(だって、楽しいから!)

 

 迎える最後の直線。私にとって、レースの一番楽しい瞬間だ。

 

 直線に入ると、みんなの気持ちが最高潮に達する。抑えるものがなくなって、濁流のように押し寄せてくる感情。

 彼女達の本能が伝わってくる。何が何でも勝ちたいって気持ちが分かる。前を走る私を追い越そうとしているのが理解できる。

 

(勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい。そんな思いが溢れている)

 

 何度感じても堪らない。気づいたら笑みがこぼれて、楽しくなっちゃう。

 

「アハハ、アハハ!」

 

 楽しいな、楽しいな。みんなの一生懸命な気持ちを感じて、嬉しいな。

 一生懸命私と走ってくれる。それの、なんて嬉しいことか。

 

 でも、勝ちは譲らない。勝ちを譲るのは失礼だから、そんなことをされても誰も楽しくならないから。だからこそ私は、勝ちを譲ったりはしない。

 

《ハレヒノカイザー先頭で最後の直線へ入りました! 11番は少しずつ後退していく。なんとか粘るがハレヒノカイザーが突き放す! 後続が追い上げてきたぞ、果たしてこれは間に合うかどうか!》

 

 追いつこうとしてくる彼女達が追い付けないスピードを出す。勝てるだけの速さで駆け抜けることを意識する。

 別に舐めプじゃない。ルドルフ会長からの教えだ。

 

(レコードを意識するんじゃなくて、勝つことを意識する走り。レースを支配し、勝利を手繰り寄せる走り)

 

 ルドルフ会長にテイオーさん、いろんな人達から教えてもらった技術をフル活用して走る。少しも手を抜かない。

 

 みんな私に追いつけない。けれども、最後の一秒まで諦めない気持ちを感じる。

 あぁ、やっぱり。

 

(レースって楽しいなぁ!)

 

 こんな楽しい世界があったとは。今まで目を向けなかったのは失敗だったね。

 でも、今こうして走れているから問題はない。バチバチのギラギラを感じながら走るこの感覚を、ずっと大事にしないと。

 

《ハレヒノカイザーがリードをキープする! 2バ身のリードを保ったままゴール板を駆け抜けたゴールイン! 1着はハレヒノカイザー、ニュージーランドトロフィーを見事に制しました!》

《完璧なペース配分、先行だけでなく逃げもできるとは! これは、あるかもしれませんよ!》

《クラシックに出走しないのが惜しいこの走り。ディープインパクトの強大なライバルとなっていたことは間違いないでしょう! それでも、今はおめでとうを伝えましょう!》

 

 ありゃ、気づいたら終わっちゃった。すぐさま減速してクールダウンだね。

 

 

 息を整える。周りの子達に声をかけたいけど、かけないように気をつけなきゃ。

 

(私が話しに行ったら良い気分はしないだろうし。勝者と敗者だから、これは仕方ないか)

 

 負けたら悔しい、ものすごく悔しい。みんなはそうだ。だから、下手に話しかけない方がいい。

 私のやるべきことは勝利を喜ぶこと。今回の勝利を、誰よりも喜ぶことだ。

 

「やっっっったー! 勝った勝ったー!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。こうするとファンのみんなが喜んでくれる。特に問題もないから、ルーティーンみたいになっていた。

 

 それにしても、レース後の空気も好きだ。

 

(ファンの喜ぶ声が聞こえる。私が勝ったら嬉しいんだ)

 

 私のファンが大勢いるんだろう。口々に賞賛の声が聞こえてくるし、拍手で迎えてくれる。

 勝ったら嬉しい。そのことは覚えておかないと。

 

 でも、なによりも。

 

「カイザー最高! カイザー最強フォーエバー!」

「ハレぽん逃げ切り最高だべ!? これからも逃げかますしかないっしょ~!」

 

 トレーナーとヘリオスさん。2人揃って喜んでいる姿が目に入る。

 

「やったよトレーナー! 勝った勝ったー!」

 

 思わず私も、飛び跳ねて喜んじゃう。トレーナーと一緒に勝利を分かち合う、この瞬間も好き。

 

「最高だぞカイザー! カイザー最強すぎだぜー!」

 

 クラちゃんはいない。桜花賞に向けての調整があるから、まぁ仕方ないよね。桜花賞明日だし。同じ理由でスーさんもいない。クラちゃんの保護者的立ち位置だ。

 私が勝てばこれだけの人が喜ぶ。勝ったらみんなが嬉しいんだ。

 

(これから先も頑張るぞ!)

 

 次走は宝塚記念、の予定。出走できるかどうかはかなり怪しいラインらしい。これからの人気投票次第になるってトレーナーが言ってた。

 もし出走できれば、ロブロイさんやハーツさんと戦うことになる。うん。

 

(かなり楽しみだね。きっと、凄く熱く楽しい勝負が待ってる!)

 

 今まで戦ったことがない人達と走れる。そのことが何よりも楽しみだ。

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