ニュージーランドトロフィーから一夜明けて。カイザーと一緒に強行軍で関西へと向かい、スピードシンボリと合流した。
「お疲れ様。ニュージーランドトロフィーは映像で見ていたよ」
「お疲れ様っす、スピードシンボリさん。危なげなく勝ちましたよ」
「勝った! ブイブイ」
Wピースで勝利を報告するカイザー。スピードシンボリの眼差しも優しいものになっている。
さて、阪神レース場ではラインクラフトの桜花賞がある。フィリーズレビューも1着、ここまで無敗で来ているクラフトとしては、勢いのままに勝ちたいレースだな。
「彼女と仲の良いウマ娘も出走だね。特に、君はシーザリオに注目していたかな?」
「そうですね。切れる末脚もそうですけど、クラフトと同じ無敗で勢いに乗ってますから」
シーザリオは重賞1つを含む3連勝、クラフトは重賞3つを含む4連勝。凄いのはクラフトの方だが、勝ったレースはそこまで関係ないと思っている。
「どっちも勝利の波に乗っている。どちらがより維持できるかが、勝負の分かれ目になるなと」
「そうだね。私の見立てでは、2人の実力は拮抗している。自分の武器を理解して押し付けることができるかだね」
先行策からの押し切り勝ちを狙うクラフトと、鋭い末脚で一気に撫で切るシーザリオ。どちらに軍配が上がるか、ってところだ。
また、それだけではない。他にも警戒すべきライバルは多数いる。
「デアリングハートは2度とも下しているが、だからこそ警戒すべき。3度目の正直ってことわざがあるくらいですからね」
「エアメサイアも外せないだろう。彼女には光るものがある、あのエアシャカールも協力しているようだ」
ま、ここまで行くと全員警戒すべき、って考えるになるのだが。俺とスピードシンボリの考えとしては、その中で注目する相手を絞っていき、最後に残ったのがシーザリオってわけだ。
「みんなと走るの楽しそうだね~」
なお、カイザーはどこで買ってきたか知らない山盛りの串カツを食べていた。いつ買ったんだよそれ。
レース場で他のレースを観戦している最中、カイザーから串カツのおすそ分けをもらう。美味しいな、これ。
「それにしても、ラインクラフトのローテは思い切ったことをしたね。まさか、オークスの出走を保留にするとは」
「あ~、なんでもこのまま他の子が通ったレールの上を走るだけでいいのか、って言われたらしいですよ。スイープトウショウに」
「自分だけの道を切り開く……それもまたいいだろう。先達が歩んできた蹄跡を進むのも悪くないが、時として未開の道へ舵を取るのも必要だからね」
話題に挙がったのはクラフトのこと。今のクラフトはアプリの育成ストーリーの流れを踏襲している。
(スイープトウショウが気づかせてくれた、なりたい自分。憧れを追いかけるんじゃない、自分だけの輝きで、誰かの憧れになれるように)
スイープトウショウがね、いい味出してるんですよ本当。ワガママだけど芯が通っているというかなんというか。ティアラウマ娘の先輩として、なんとも頼れるウマ娘だ。
なお、それとは全く関係ないところでまた俺に対する批判が飛んできた。なんでや。
「ただ、やっぱり君の評判に響いたね。カイザーの件もあるからなおさらだ」
「な~んでちょっと回避しただけでいろいろ言われるんでしょうね本当。良いじゃねーかよ桜花賞は出走するんだからよ~! NHKマイルにだって出るじゃねぇか!」
「トリプルティアラを放棄したからこそ、だろう。もっとも、今回に関しては距離不安があるから、で一蹴された。直に落ち着くさ」
今回の批判に関してはただの賑やかし。メディアはクラフトの距離不安から出走を回避した、との声が大半であり、俺に対する批判はゴシップ紙や掲示板が主だ。誰も彼も本気になっちゃいない。
だとしても傷つく心はある。いじけるぞ、大の大人が。
「大丈夫? トレーナー。よ~しよし、大丈夫だからね~、私がいるからね~」
カイザーに頭を撫でられながらあやされる。なんだろう、傷心の心が回復していくと同時に情けなさでどんどん傷ついていくような気がしている。
ま、ともかくとして。クラフトは育成ストーリーと同じように、桜花賞からのNHKマイルカップのローテ。オークスはいったん保留といった形だ。
「後進が憧れるようなウマ娘に、か。眩しいぜ畜生」
「ところで、君の見立てではどうかな? ラインクラフトはシーザリオに勝てるかい?」
「勝算がなけりゃ来ませんよってのを前提に、勝てると踏んでますよ」
スピードシンボリの言葉に自信満々に返す俺。頭によぎるのはステータスを見ることができる目だ。
現在、クラフトとシーザリオの差はこのようになっている。
ラインクラフト
スピード:C
スタミナ:E+
パワー:D+
根性:E+
賢さ:D
シーザリオ
スピード:D+
スタミナ:D
パワー:E+
根性:E+
賢さ:D
スピードが抜けているクラフト。総合的にも勝っているので問題はない。
さらにはスキル面だ。この目はスキルも見れたりするので本当に便利。
ラインクラフト
・マイルコーナー〇
・集中力
・鍔競り合い
・スタミナキープ
・向こう見ず
スキルは他の子からコツを教えてもらうことで習得したり、自分の中で気づきを得たりすることで獲得可能。ただ、習得にも一苦労するので、現在時点のクラフトでも割と評価は高い方だ。
シーザリオも同じくらいスキルはあるが、やはり中距離に偏っているせいかマイルの桜花賞では発揮できないだろう。デアリングハートもエアメサイアも少なめ。
で、これを踏まえた上で隣で新たに追加した串カツを食べているカイザーを見る。いつの間に買ってきたのあんた。
ハレヒノカイザー
・円弧のマエストロ
・コンセントレーション←進化可能!
・ハヤテ一文字
・王手
・ライトニングステップ
etc.etc.
なんなんだよ本当。なんでこの時期ですでに金スキルを多数獲得してんだこの子は。つーか進化可能ってなんだ。シナリオも終わってないのに進化スキルは無法が過ぎるだろ。
(てかクラシックの序盤も序盤だぞ!? その時期に進化ってどうなってんだ!)
もうこの子がハイスペックなことには異論はないが、それでも驚きは止まらん。シニア級とかだとどうなってんだろうな。
「どうしたの、トレーナー。串カツ食べたいの?」
「いや、お前が食っていいぞ……改めてお前が凄いなぁって思っただけだ」
「ふふ~ん、そうでしょそうでしょ?」
ドヤ顔を披露するカイザー。可愛い。この可愛さなら何でも許せちゃうね。対戦相手以外。
「スーさんも食べる? 美味しいよ!」
「いや、脂っこいものはちょっとね……気持ちだけもらっておくよ」
苦笑いで差し出された串カツを断るスピードシンボリ。理由はなんとなく察しがつく。
さて、そろそろ時間か。
「じゃあクラフトのところいってきますよ。作戦とか伝えなきゃなんで」
「あぁ、行ってらっしゃい」
「クラちゃんに応援してるって伝えてね~」
クラフトが待つ控室へと歩く。調子はどうか、少し緊張していた。
◇
控室にいるクラフトは思いのほか落ち着いているようで。目を閉じて集中しているようだった。
(邪魔はしないように立っておくか)
集中を乱してはいけない。そう思い、クラフトが気づくまで無言で待つ。扉の音にも反応しないくらい、深く沈み込んでいた。
やがて、目を開いたクラフトと視線が合う。
「……あ、トレーナーさん! すみません、ちょっと集中してて」
「いや、気にしないでくれ。緊張は……ないみたいだな」
クラフトの様子はいつも通り。元気いっぱいで、やる気十分とばかりに滾らせている。
「はい。ついにティアラの第一戦が始まるんだって思うと、緊張よりもワクワクが勝っちゃいました」
「はは、これは大物だな。だが、そういう気持ちが大事だ。一生に一度しかない夢舞台、緊張で力が出せなかった~、は悔しいからな」
「そうですね。よ~し、頑張るぞ~!」
むん、と気合いを入れるクラフト。この調子なら大丈夫だな。
作戦会議という名のすり合わせ。今回警戒すべき相手のことを2人で確認したり、応援席でカイザーが観戦していることを伝える。
「シーザリオには特に注意しないと、ですよね?」
「そうだ。お前と同じで連勝中、波に乗っている。油断したら差し切られるぞ」
「はい! ティアラウマ娘の先輩達に負けないような輝きを放ちます!」
う~んもう眩しい。肩の力も程よく抜けているし、これは好走が期待できる。
「それに、カイザーさんにも負けられませんから!」
「カイザーな。結果はもう聞いたんだっけ?」
「スピードシンボリさんと一緒に、こっちで見てました。見事な逃げ切り勝ちだったって」
カイザーのニュージーランドトロフィーは見事としか言いようがない、とのこと。というか、あのレースでカイザーは逃げもできることが周知された。本当は追込以外できるんだけどな。
「カイザーさんの勢いに負けないように。わたしも!」
「その意気だ。ただちょっと肩の力が入ってきたから落ち着こうな。空回りするのは良くないぞ」
「あ……えへへ、ごめんなさい」
力が抜けたようで何より。これで本当に大丈夫だな。
「トレーナーさん、頑張ってきますね!」
「おう、頑張ってこいクラフト」
笑顔で飛び出していくクラフトを見送る。俺も観客席に戻るか。
◇
観客席に戻り、しばらく待つと始まる桜花賞。バ場の状態は良バ場であり、芝のコンディションも悪くないと来た。
クラフトの位置は先頭から少し離れた4番手の位置。デアリングハートの後ろだ。
《桜花賞半分を過ぎました。クライネキステがペースを握ります。1番人気のラインクラフトは前から4番目、デアリングハートの後ろにつけています》
《いつもの先行策ですね。ペースを考えると理想の位置取りです》
《前を走るデアリングハートはラインクラフトを気にした位置取り。2番人気シーザリオはバ群の後ろ内側、少し窮屈なところにいます。近い位置にエアメサイア、落ち着いてペースを見極めています》
序盤はハイペースになるかと思われた展開はゆったりとしたペースへ。前につけるデアリングハートとクラフトが有利だ。
だが、思った以上に上がらなかったペースに痺れを切らしたか、エアメサイアが外から上がっていく。
「ん~、ちょっと早いかな? メサちゃんの脚だと大分キツいと思うけど」
冷静に分析するカイザー。第4コーナー中ほど、エアメサイアの仕掛けを早いと判断している。
ただ、ここで動かなければ前に届かない可能性も十分にあり得る。遅いペースで先行勢が脚を溜めているのだからなおさらだ。
クラフトは、動かない。状況を見極め、最適なタイミングを計っている。
シーザリオは動こうにも動けない。まだ囲まれている。デアリングハートは動き出しを待っている。クラフトの動き出しを。
緊張が走る最後の直線。動いたのは、クラフトだ。
《最後の直線に入ります、ここでラインクラフトがスパートをかけた! ラインクラフトが上がってくる! ラインクラフトの動きを見てデアリングハートの動いた動いた! 一気に勝負が動き出します!》
《エアメサイアも上がってきてますね。シーザリオは少しもたついているか!》
《残り300でデアリングハートが先頭に変わります、しかしラインクラフトが追い付いてきた! 内のデアリングハート外のラインクラフト! 激しく競り合って上がってくる2人!》
入った瞬間に一気にスパートをかける。デアリングハートはすぐさま反応、ほぼ同じタイミングでスパートをかけた。2人が先頭に変わる。
「いっけぇー!」
「頑張れーハートー!」
2人だけではない。外からエアメサイアが猛烈な勢いで上がってきた。すぐにでも先頭に届き得る末脚を発揮している。
「お、ここでザリちゃんも来るね」
カイザーの言葉に反応するように、シーザリオもバ群を縫うように上がってきた。さっきまで囲まれていたはずのウマ娘は、気づけばトップスピードで先頭へと襲い掛かっている。
ハラハラドキドキの展開。ここから競り合いが始まる、なんてことにはならなかった。
《残り200m! ラインクラフトがデアリングハートを躱して先頭に立つ! ラインクラフトが先頭だ、デアリングハート必死に粘るがラインクラフトが抜け出す! エアメサイアとシーザリオがデアリングハートに追いつこうとしているが、ラインクラフトが抜け出したァァァ!》
先頭に立ち駆け抜けるクラフト。勢いは衰えることを知らず、見事な直線一気で抜け出す。
必死に追い縋ろうとするデアリングハートら3人。しかし、クラフトは一瞥することもなく圧倒的強さのままでレースを駆け抜ける。
「頑張れクラちゃーん! いけいけー!」
「そのまま突っ走れクラフトー!」
声に出して応援する。声援に応えるように、クラフトは桜花賞を制した。
《ラインクラフト、ラインクラフトだ! 桜の女王に輝いたのはラインクラフトだァァァ! 5戦5勝、無敗の桜花賞ウマ娘がここに誕生! 2着シーザリオを2バ身差で下しました!》
《最後の直線でライバル達を一蹴! 見事なレースでした!》
《2着はシーザリオ、3着はアタマ差デアリングハート! 3番人気エアメサイアは4着です! 新たな桜の女王に万雷の喝采を! 祝福に包まれますラインクラフトお見事でした!》
終わってみれば圧巻の勝利。文句のつけようがないレースでクラフトは勝つ。
「やっっっったぁー!」
勝利を噛みしめる。憧れだった舞台、勝ち取った栄光を心の底から喜ぶクラフト。
俺達は、惜しみない称賛の言葉を送った。
「やったなクラフトー! いやっほぉぉぉう!」
「おめでとうクラちゃーん! がんばったねー!」
ガハハ、桜花賞の勝ちでさらに勢いがつくぜ。