担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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この先の展望

 無事に桜花賞を制したクラフトにニュージーランドトロフィーを勝ったカイザー。2人の道のりは順風満帆といっても過言ではない。

 クラフトは王道の先行策でシーザリオといった強敵たちを寄せつけることなく下した。カイザーも、逃げで走れることを印象付けることができた。こう、アレだな。

 

(ただ勝つだけじゃない。今後に良い影響を与える勝ち方をしてくれた)

 

 完勝に近い内容で制したクラフトは今後も注目を浴び続けるだろう。次のレースはNHKマイルカップ、ここ次第ではティアラの顔としての道を進むはずだ。

 カイザーはただでさえ完成度の高い走りを誇っているところに、逃げられるリスクも考えなければならなくなった。対戦する側は堪ったものじゃないだろう。

 

 世間からの評判も上々、だったんだがなぁ。

 

「皐月賞でぜ~んぶひっくり返されちまったなぁ。なんだあの勝ち方は」

「……さすがの私も、あの勝ち方は予想外だったな。ラインクラフトの走りも悪くはなかったが、あの走りの前では霞むだろう」

 

 もはやトレーナー室にいることも慣れたスピードシンボリも、難しい表情で考え込んでいる。あんなのを見せられたら誰でも同じような顔になると思うが。

 

 つい先日、クラシック三冠の第一戦皐月賞が開催された。俺とスピードシンボリは敵情視察もかねて観戦、今後を見据えて中山レース場へと足を運ぶ。

 そこで見せられたのは、圧倒的なまでの実力差だ。

 

「あわや失格寸前のスタート、にもかかわらず最後には全員ぶち抜いての3バ身差完勝。とことん突き抜けてるな、本当」

「スタートに難があるが、あれだけの勝ち方だ。ファンの注目は、一気にディープインパクトへと集まった」

「そこなんですよねぇ。あまりにも痛い」

 

 1番人気のディープインパクトは支持率60%超えとかいうイカれた数値。その期待に応えるかのように、完勝に近い内容で制した。

 

 レースはファンからすればハラハラする内容だっただろう。なんせディープインパクトはスタート直後に躓いたのだから。

 ゲートから飛び出したかと思えば、躓いて失格寸前になるという不安な立ち上がり。観客席からは悲鳴が上がり、当たり前のように最後方を進んでいた。

 さらには向こう正面で他のウマ娘と接触寸前まで。もう勝利は絶望的だろう、ってレベルの不利を背負わされる。

 終わりだ、そう思った瞬間のことだ。

 

「観客の誰もが、ディープインパクトの勝利を疑問視した。けれど」

「始まったのはディープによる蹂躙。あんな走りをされたら、他のウマ娘はなすすべもないだろう」

 

 スピードシンボリの言うように、そこから先は蹂躙だ。

 大外をぶん回して上がってくるディープインパクト。一人、また一人とあっという間に躱していき、気づけば先頭集団へと襲い掛かる。

 最後の直線。中山の直線は短いことで有名だが、まるで問題ないとばかりに末脚を発揮するディープインパクト。

 

「飛んでいる。文乃先輩はインタビューでそう答えていましたが……ありゃ確かに飛んでるわ」

「鮮やかな走行フォーム、思わず見惚れるほどの強さ。成程、圧巻の強さだ」

 

 一瞬の出来事。残り200mで先頭を捕まえ、抜き去り、最後には3バ身突き放しての勝利である。

 

 完勝、とは言ったものの、レース内容自体は褒められたものじゃないだろう。

 

「スタート直後の躓き、アレがなければもっと着差は開いていた。勝てばそれで問題はないけど」

「さすがにアレはいただけないね。今後も同じ様なことになる可能性もあるわけだから」

「スタートが課題なんだろうなぁ。文乃先輩も頭を悩ませてそうだ」

 

 派手に出遅れるわ、最後方のスタートからになるわ、向こう正面で他のウマ娘に接触しかねないわ。本来であれば勝つのを諦めるようなスタートの悪さだ。陣営の心労は察するものがある。

 しかし、それでも勝つ。どれだけの不利があろうと、まるで問題ないとばかりにレースを勝つことができる。ディープインパクトはそう印象付けた。

 

「【ディープインパクトに敵はなし!このままクラシック三冠に向けて一直線!】、ねぇ。あまりにも気が早いだろ。つっても」

「皐月賞でこれだ。これから先距離が伸びていく、ディープインパクトにとって有利になる。記者の文言も、間違いじゃなくなる可能性が高い」

「おまけにライバルのド本命候補だったカイザーはクラシック三冠に出走しませんからねぇ。いまだに出走を煽られてますけど」

 

 この皐月賞制覇をもって、ディープインパクトは世代最強の地位を確立した。たった一走で頂点に君臨したのだ。

 

 思うところがないわけじゃない。カイザーだって負けてねぇ、と言いたいところだが。いかんせん走ってきたレースの格が足りない。

 片や世代の代表戦。片や代表戦の裏ローテだ。言っちゃ悪いが、メンバーの層の厚さとか諸々のモノが違いすぎる。カイザーが下とみられるのも仕方ないことだ。

 

(それにまぁ、アレだ。実際に対決してみないことには分からん)

 

 ディープとカイザーどちらが上かは分からない。2人がレースで対戦したことがないからな。ただ、実績だけで判断するなら現時点ではディープの方が上、ってことか。

 ディープの方が上、か。

 

「……許せるもんじゃないけど仕方ない時ってどうしたらいいんでしょうね」

「いきなりどうしたんだい。なにかでストレス発散するのがいいんじゃないかな?」

 

 そうします。

 

 

 まぁ皐月賞はこんなところだ。現時点の世論はディープインパクト一色になりつつある。

 新聞はどこを見てもディープディープ。ファンも口を開けばディープインパクトの名を口にするほど。他の子が可哀想になるくらいには、話題が完全にかっさらわれていた。朝日杯の勝ちウマ娘なんて、弥生賞に皐月賞とディープインパクトにやられたおかげで完全に影が薄くなってしまったからな。

 

「クラフトの記事も埋もれるしよ~! もうちょっと話題にしろや能無し記者共が! 強い勝ち方やぞ!?」

「ディープインパクトと比べたら、ラインクラフトの勝ち方は派手さが足りないからね。いや、あの皐月賞に勝る派手な勝ち方はもはやない気がするが」

 

 それはそう。あれ以上派手ってなるともはや30バ身差を覆して勝つとかしかない気がする。

 

 社会現象になりつつあるディープインパクトの人気。すでに世代の評価はディープとその他大勢という図式になっている、と思われたが。幸いにもカイザーの評価は落ちていない。というよりは、ディープ人気に比例するかのように上がっている。

 これに関して俺も予想外だったのだが、クラシックレースに出走していないのが響いているのだ。遅れてやってきた秘密兵器、みたいな。

 

「まさか、出走しないことで逆に期待を高まらせるとは。今でもファンの間で議論されているらしいっすね。ディープとカイザーどちらが上か」

「派手さはないが堅実だ。ニュージーランドトロフィーの逃げ切り勝ちが記憶に新しく、他を寄せつけない完勝。ファンとしては気になるんだろう」

「いや~、嬉しいな。このままいくと、カイザーの話題も埋もれると思ったから」

 

 直接対決がないことで、逆に想像を膨らませる余地がある。実際に対決してみて、どちらが勝つのかは気になるところなんだろう。だからこそ、記者もクラシック出走をいまだに煽り続けているんだろうが。そんなに煽られても出走しないけど。

 さらには文乃先輩の言葉だ。皐月賞のインタビューにおいて、先輩はカイザーのことについて言及していた。

 カイザーはディープのライバル。もしクラシックレースに出走していたら、今以上に神経を張り詰めて挑まなければならなかっただろう、と言葉を残している。

 

「さらには奈瀬トレーナーの言葉がある。カイザーを最大のライバルとして見ている発言が、記者やファンの期待を生んだ。名トレーナーが言うんだ、カイザーの実力も飛び抜けている……そう判断するのは想像に難くない」

「そこまで評価してくれて嬉しい限りですよ……あ、文乃先輩は奈瀬って呼ばれるの好きじゃないみたいなんで、下の名前の方がいいですよ」

「そうなのか? なら気をつけるとしよう……それで、カイザーの評判も少しずつ上がってきている。これなら、宝塚記念出走も問題はないかもしれないな」

 

 未来の三冠ウマ娘のトレーナーが注目する最大のライバル、として有名になった。ちょっと複雑だが、名声を得られるという点では悪くない。

 少なくとも、文乃先輩ほどのトレーナーが評価しているウマ娘なのだ。話題性もばっちり、きっと好走してくれる、なんて期待が出てくる。

 さらには、ディープインパクトのライバルが宝塚記念に出走し、結果を残すことができれば。ディープインパクトの世代がトゥインクル・シリーズの新しい顔として君臨する、なんて可能性もあるわけだ。そりゃ期待も高まるというもの。

 

 ここまでの声を裏付けるように、掲示板とかではカイザーの宝塚記念出走を望む声が増えてきているのだ。書き込みにはハレヒノカイザーに投票するつもり、との報告が多数上がってたりする。

 

(ぶっちゃけ真偽は分からんが、そんな声が上がっているだけでも儲けもの。埋もれていないだけでも上出来だ!)

 

 さらにわがままを言うならクラフトのことも話題に挙げてくれと思うが。いや、本当に。

 

 

 宝塚記念の出走問題も解決の糸口が見えてきた。この調子ならば、出走にこぎつけることができる。

 

「クラシックレースを使えないってのが響くと思ったけど、どうにかなりそうで一安心だ」

「フフっ、大胆な目標とも思ったが、夢物語では終わらなくなったな? 後は、結果を残すだけだ」

「ぶっちゃけそこは心配してないんですよね。シニア級相手でも好走しますよ、アイツは」

 

 スキルがアホほど多いので。ステータスで劣っててもスキルでぶん殴ってくるからなカイザーは。仕込みすぎだろシンボリルドルフ。

 ただ、頭に浮かぶのはスキルのコンセントレーション。なんか進化可能とかあったけど、どう進化するのだろうか。まぁスタート時の出遅れが少なくなって基礎能力が上がるとかか。バレンタインのミホノブルボンが同じ進化スキルを持ってたし。

 

(……考えても仕方ないし、地道に基礎トレを積み上げますか。クラフトのNHKマイルも近いし)

 

 今考えたって答えは出ない。そのうち進化するでしょ、スキルに関しては。それよりも今は、クラフトのNHKマイルカップだ。

 ただ、こちらも心配していない。目下のライバルはデアリングハートくらいか。

 

「クラフトのNHKマイル。まぁ問題はないだろう」

「クラシック組も何名かが出走してくる。けど、桜花賞の走りができればまず負けないね」

 

 スピードシンボリも高く評価している。それだけ、今のクラフトは勢いに乗っているのだ。

 日に日に成長している。カイザーとのトレーニングが良い影響を及ぼしているのか、常にやる気が絶好調に固定されているような気がするのだ。

 

「カイザーに対する対抗心、なんですかね? いつもやる気に溢れてトレーニングしてるんですよね~クラフト」

「アレは対抗心なのかどうか、少し怪しいところだけどね。なにか違うような気がするが」

「ま~やる気があるのは良いことですよ、うん」

 

 やる気があればよい影響を及ぼす。さらに強くなれるってことだ。

 カイザーは、うん。アイツは何もなくても常に絶好調固定みたいなもんだから。なんなら走れれば絶好調どころか超絶好調みたいな状態になるから。

 

 

 目先のレースはこれくらいか。総括すると、クラフトへの注目以外は大変順調に進んでいる、ってところだ。

 で、今からするもう一つの話はさらに将来的な話になるわけだが、海外遠征の件についてだ。

 

「そうそう、榊トレーナー。メイの協力を取り付けることができたよ」

「マジですか!」

「本当さ。とはいっても、宝塚記念の結果次第だけどね。現状カイザーには実績が足りてないから、その実績を積み上げられるか否かが焦点になるだろう」

 

 佐岳メイ。URAの人で、凱旋門賞に並々ならぬ思いを抱いている。

 カイザーとクラフトの海外遠征は企画段階ではあるものの、選択肢の候補の一つだ。クラシック級はお世話になることはないが、シニア以降は分からんからな。遠征のプロフェッショナルがいるのはありがたい限り。

 

 協力してもらうのに難航していたが、スピードシンボリの力もあって前向きに検討されていることを知る。いやはや、ありがたい限りですわ本当に。

 

「好走できれば、メイは将来性を見出して力を貸してくれるはずだ。ただ、ディープインパクトの存在がね」

「あ~……全ては日本ダービー次第ですけど、あの調子なら普通に勝ちそうっすよね」

「あぁ。分かりやすく強いディープインパクトに注力する可能性もある、という点に気を付けてくれ。だからこそ、宝塚記念が大事になってくる」

 

 そんな楽な道じゃないな、本当。

 

 

 ま、希望があるというのが大事。なんとかなるべ、うん。

 

「んじゃま、そろそろカイザーたちも来ますし」

「そうだね。トレーニングの準備をしようか」

「いつもありがとうございます。お忙しいだろうに」

「構わないよ。俺も、彼女に夢を見始めているからね。できる限りのことはしてあげたいんだ」

 

 どこか遠い目をするスピードシンボリ。その目は、キラキラと輝いている、ような気がした。

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