担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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レース後のこと

 ジャック・ル・マロワ賞を制したカイザー。レースを勝ったら当然のようにインタビューがある。

 

「『飛び入り参戦でこのレースっぷり! 今はどんなお気持ちでしょうか!』」

「『鮮やかな逃げ切り勝ちおめでとうございます! 勝利の秘訣は何でしょうか!』」

「『マークしていたウマ娘はいましたか? どんなことを気を付けてレースに臨みましたか!』」

 

 とんでもない量の質問攻め。タイムセールの人混み並に押し寄せてくるメディア。そりゃこんな結果を残したら当然なんだけども。

 

(フランス語まだ流暢に喋れねぇよ俺。勉強したけど実際に話すのとは訳が違うよ)

 

 喋れないことはない。だが、片言もいいとこであり、内容もほとんど聞き取れていない。言葉の洪水をワッと浴びせるのは止めてくれ。

 

 一応、佐岳さんが通訳として付いてくれている。彼女を介してインタビューに一つずつ答えていった。

 

「『嬉しいですね。ジャック・ル・マロワ賞は欧州マイルレースの最高峰ですから。この結果は本当に嬉しいです』」

「『変わらないメンタルで臨めたことが一番かなと。出走までリラックスしていましたし、レースもいつもの調子で走れてましたから。いつも通りが一番です』」

「『出走メンバーはこっちで名を馳せていたメンバーばかりでしたから、全員警戒していました。一人挙げるとすれば、ディユシンメトリアですね』」

 

 佐岳さんが翻訳してくれて本当に助かっている。後でちゃんとお礼を言わなければならない。ちなみにカイザーは普通に受け答えしている。やだ、この子頭良すぎ。

 

 

 なんとか捌いて最後の質問。それは今後に関することだった。

 

「『なにかお伝えしたいことはありますか? 次はどのレースを走るとか』」

 

 おそらくだが、次走に海外のレースを選んでいるかどうか、という意図の質問だろう。これまでの質問は好意的なものばかり、カイザーの実力を高く評価しているのがよく分かった。

 ただ、申し訳ないが海外のレースは今回だけである。次は日本のレースだ。

 

「『次走は日本に戻って、天皇賞を走る予定ですね。一度あちらに戻ります』」

 

 そう答えるや否や、残念がる声が聞こえてきた。ごめんて。

 しかし、考えがないわけではない。あくまで今回は出走しないだけで、将来的に走る可能性はある。というか、シニア以降は海外のレースを走る。

 

「『ですが、どうかハレヒノカイザーの名を覚えておいてください。ジャック・ル・マロワ賞を制したウマ娘の名を。いつかまた、こちらに戻ってきますので』」

「「「おおお!」」」

 

 色めき立つメディア。これでインタビューは終了である。中々の好感触で終えることができた。

 

 

 にしても、今の段階でこれだけの反応か。

 

(懸念が当たる可能性が高くなったな。ま、そん時はそん時か)

 

 忙しくなることが確定した。残業しない程度に頑張りますかぁ。

 

 

 

 

 

 

 カイザーが衝撃的なレースを残したジャック・ル・マロワ賞から日が経ち。ゼンノロブロイのインターナショナルステークスも終わり、海外遠征の全日程が終了した。ちなみにゼンノロブロイは勝った。最後はクビ差抜け出しての勝利である。

 レースも終わったので後は帰るのみ。ホテルでゆっくり過ごしていたところ、佐岳さんとスピードシンボリに呼び出されてロビーにいる。

 佐岳さんはなんというか、目に涙を浮かべていた。

 

「明日には帰る予定、だが。あたし様は感無量だぞ榊トレーナー!」

 

 どうやら感動の涙だったらしい。ジャック・ル・マロワ賞にインターナショナルステークス、2つの海外G1を制したんだから気持ちは大変よく分かります。

 いやね、本当に凄いことをやってくれましたよカイザーは。海外のレースを勝つことがいかに難しいかはよく教えられた。なのに勝ったわけなのだから。感動で涙が出るのも当然というもの。

 スピードシンボリも同じ気持ちの様で、佐岳さんの言葉にうんうん頷いていた。

 

「ルドルフと古曾部トレーナーからの紹介を受けて、本当に良かった。君達に出会えて、本当に良かった」

「止めてくださいよ、まるで今生の別れみたいに。向こうでも普通に会うじゃないですか」

「その通りなんだがっ、それだけ俺達は感動している。日本のレベルは、着実に上がっていることを実感しているんだ」

 

 ぶっちゃけ2人にもらい泣きしそうになっているのは内緒。いやね、俺だって勝って嬉しいもの。こっちのレースはレベルが高いって言われてきたことだし、そんなところの最高格のレースを制したんだからそりゃ嬉しい。勝った日は佐岳さん達と夜通し飲み明かしたぐらいには。

 

 そんな一幕もあったが、佐岳さん達とは今後も良い付き合いをしていきたい。また海外遠征でお世話になるのだから。

 

「今後ともよろしくお願いします、お2人とも。また年明け以降に海外遠征をする予定なので」

「本当か!? 榊トレーナー! ということはやはり、ドバイが始動戦か!?」

 

 めっちゃ詰め寄ってくる佐岳さん。あくまで予定段階の話ではあるが、来年の始動戦はドバイワールドカップミーティングを走ることに決めた。こういうのは早い方が良いからね。

 ただし、この情報はまだオフレコ。伏せておく必要がある。

 

「予定ではドバイターフに出走しようと考えています。マイルを走れることが分かりましたし、大阪杯よりもこちらに目を向けてみようかな、と」

「うんうん、悪くないとあたし様は思うぞ! ドバイは近年勢いを増しているからな。欧州の強豪たちも集いやすくなった!」

「日本のウマ娘も好走することが多い。私もその意見に賛成だ」

「ひとまず、この情報はまだ伏せたままで。今公開するものでもないですし」

 

 頷く2人。その後は今後の予定とスケジュールを合わせつつ、遅くならないうちに別れた。

 

 

 別れた後はホテルの自室へ。明日の準備を適当に済ませつつ過ごしていると、部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞ~」

 

 入ってきたのはクラフトとゼンノロブロイである。あら、珍しい2人。

 

「あの、トレーナーさん。わたしたち、聞きたいことがあって」

「カイザーさんの事、この前のレースなんですけど」

 

 2人揃って聞きたいことはカイザーのジャック・ル・マロワ賞。時間も有り余っているし、何も問題はないからそんな申し訳なさそうな表情せんでも大丈夫よ。

 

「カイザーのレースか。俺に教えられることならいいよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 適当にお茶を用意しつつ、2人には柔らかいベッドに座らせる。俺は椅子で十分だ。椅子も椅子でふかふかしているし、中々乙なものである。

 

 改めて2人の口から出てきたことを整理すると、俺がどうしてカイザーの勝利を確信的だったのか、についてだった。確かに、佐岳さん達にもほぼ勝利を確信している、みたいに言ってたな俺。

 

「確かにカイザーさんは強かったです。でも、他の人も強かったから」

「それでも榊トレーナーはカイザーさんの勝利を確信していましたよね? あぁいや! 担当の勝利を信じるのはトレーナーとして当然だと思いますけど!」

「そんな失言でもないから慌てなくてもいいよ。なんで妙に確信的だったのか、だろう?」

 

 頷く2人。まぁ気になるよな。どうして俺がカイザーの勝利を確信していたのか。

 

 勿論、ただカイザーのことを信じていただけじゃない。ちゃんとした理由がある。

 

「一番はカイザーしか勝たんってことなんだが、これは良いとしてだ。勝利を確信していたのは、カイザーのペースにある」

「確かに、スピードシンボリさん達との会話でもペースが良いって言ってましたよね」

「そ。クラフトの言う通り、カイザーのペースは絶妙だった。マイルだから他のウマ娘も相当早いラップを刻んでいたが、カイザーもそん色ないタイムを刻んでいたからな。これが勝ちを確信していた大きな理由の一つ」

 

 マイル戦では早いラップタイムが刻まれる。稍重の影響は多少あったが、それでもそれなりのタイムを刻んでいたのが今回のジャック・ル・マロワ賞だ。

 

「ドーヴィルレース場は最後の瞬発力勝負になる。最後の場面でどれだけ脚を残せるかが重要なレースだ。カイザーは、しっかりと残していたな」

 

 カイザーのタイムと2番手以下のタイムはほとんど変わらない。この変わらないというのがミソである。

 同じペースを刻んで、同じだけ脚を残していたんだ。そりゃカイザーが勝つというもの。今回のレースをシンプルに要約すれば、やることやったんだから勝った、という感じか。

 

「同じタイムを刻んで走ってるんだったら、そりゃ前を走るカイザーが圧倒的有利だ。同じだけのスピードを出せば勝てるんだからな」

「で、でも。レースはそんなに単純じゃないです。カイザーさんは逃げで走っていたんだからなおさら」

「それも間違いじゃない。ただ、他の出走者はプレッシャーをかけるだけで詰め寄ってこなかった。あそこで詰めてれば、もう少し追い込まれていただろうな」

 

 プレッシャーをかけるだけじゃカイザーを崩すことはできない。アイツが自分からペースを乱すことなんてないんだから。だからこそ、他がすべきだったのは、カイザーと同じ位置で走ることである。

 同じ位置で走れば、純粋な瞬発力の勝負になる。まぁ、そうなってもカイザーが勝つ可能性の方が圧倒的に高いんだが。

 

(アイツのスプリント力えげつないからなぁ。そうそう勝てんよ)

「ま、他が詰めなかった理由もわかる。序盤から体力を消耗するわけにはいかないからな」

「ロケットスタート、ですよね?」

「そゆこと。序盤で3バ身の差が開いていた。その差を埋めるのは容易じゃない。相応に体力を消費する」

 

 体力を消耗すればまず勝てない。最後のスプリント勝負でカイザーに負ける。よくよく考えれば詰みみたいな状況だな、コレ。怖すぎ。

 

「おまけにカイザーは平均的なスピードがかなり高い。他のウマ娘にとってのハイペースがアイツにとってのノーマルペースってのもざらにある話だ」

 

 実際のところはどうなのか知らん。統計的に割り出すことは可能だけど、食い違う可能性だってないわけじゃないし。今回のレースに限れば、ノーマルペースがほぼ全員一緒だったけど。

 そのことにクラフトも気づいたみたいで。青ざめた顔をしていた。

 

「じ、じゃあ、カイザーさんにマイルで勝つってかなり難しいんじゃ? 同じ位置で走らなきゃ勝負できないのに、ロケットスタートがあるから同じ位置は無理ですよね?」

「相当厳しいってかほぼ無理ゲーだな。極まればマジで無法じみた強さを発揮するぞ、アイツ」

「今でも十分無法な気がしますけど」

 

 同じように気づいたゼンノロブロイも青い顔をしている。そりゃ恐ろしいでしょうよ。

 つってもまぁ、カイザー自身もある程度セーブしなければならない都合上、スプリント戦は結構厳しい勝負を強いられる、かもしれない。適性もBだし。これは走ってみないことには分からんね。

 

 内容を総括すると、カイザーに勝つには同じ位置で勝負することが必要条件。ただし、ロケットスタートで必ずハナを取られるものとする。

 

(どんなクソゲーだよ。史実のコイツどんだけ強かったんだよ)

 

 とにかくスタートが上手かったってのは分かる。でもこんだけ無法じみた強さしてたのになんで有名じゃないんだよ。どんだけディープインパクト強かったんだよ。これが霞むってマジ?

 

 相手の強大さが分かってか、さっきから青ざめた顔をしている2人。教えるべきではなかったかもしれないが、いずれは知ることになるだろうしなぁ。遅いか早いかの問題だ。

 

「今の話が本当なら、カイザーさんの走りって本当に完璧なんですね。弱点なんてないかぁ。やっぱりカイザーさんは凄いなぁ」

「いや、あるぞ。カイザーの弱点」

「そうですよね、ありますよねってあるんですかぁ!?」

 

 おぉ、クラフトの良いノリツッコミ。可愛い。

 そう、別にカイザーに弱点がないわけじゃない。勝てる方法だってちゃんとあるのだ。

 

「確かにカイザーの走りは限りなく完璧に近い、が。だからと言って絶対に負けないわけじゃない。アイツにだってちゃんとした弱点がある」

「「そ、それって何ですか!?」」

 

 いや、うん。食い気味に反応するお2人には悪いんだけどさ。めっちゃ詰め寄ってきてるのに申し訳ないんだけどさ。

 

「それ教えちゃいかんでしょ。仮にもライバルの弱点よ? 教えたらまずいって」

 

 クラフトはともかくとして、ゼンノロブロイはこれからも対戦する機会があるバリバリのライバルだ。そんな相手に弱点を教えるのはほら、ダメだろ。どう考えても。

 当たり前のことを言われて恥ずかしいのか、顔を赤くして離れていく2人。まぁ、うん。確かに今のはちょっと恥ずかしいかもしれんな。

 

「教えて欲しい気持ちは分からんでもないけどな。強い相手なんだからなおさらだ」

「うぅ、すいません……」

「いやいや、気にしないでくれ。教えてあげることはできないが、強みをしっかりと理解できれば、答えにたどり着くことができるはずだよ」

 

 俺から教えてあげられるのはそれだけだ。申し訳ないけどな。

 

 

 聞きたいことは聞けたのか、2人はぺこりと頭を下げる。

 

「あの、ありがとうございました。疑問に答えてくれて」

「満足のいく答えだったのなら何よりだ。明日は早いから、準備を済ませてもう寝た方がいいよ」

「は、はい。そうします。ありがとうございました、榊トレーナー」

 

 部屋を退出する2人。さて、俺も準備だけしときますかね。

 適当にゆっくりと過ごす中、ふと頭によぎるのはカイザーの今後。

 

(懸念すべきことがある。カイザーの強さと、世間の反応的に)

「どうにか対策をしたいが、厳しいよなぁ」

 

 どうにもならないことを悟っている。こればかりは、俺がどうこうできるものじゃない。

 それでも、最善の選択ができるように。これからもいろいろと考えていかねば。




カイザーにも弱点はあります。勿論、ガラスの身体以外にも。
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