担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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帰国と今後の予定

 日本に戻ってきた我らが海外遠征組。当然だがメディアに囲まれた。

 それも当然の話だ。なんてったって、今回の海外遠征は大成功に終わったわけだからな。

 

(ロブロイが無事にインターナショナルステークスを勝っただけじゃなく、予定にはなかったカイザーのジャック・ル・マロワ賞もあるからな。そりゃ浮足立つというもの)

 

 近年海外で好成績を残してきているとはいえ、やはり嬉しいものだからな。こうして取材に来るのもまた当然ってわけか。にしたって疲れているんだから後にしてほしいけど。

 

 メディアの質問を躱しつつトレセン学園へ。理事長に報告したり、今後の予定について話したりと、日本に戻った直後は大忙しだ。

 

「え~っと、まず1週間はトレーニング休みだ。海外遠征の疲れもあるし、時差ボケを治さないといかんからな」

「はーい! 走るのはありですか!」

「限度を弁えればいいぞ」

 

 カイザーに釘を刺すことも忘れず。走ってもいいって言うと無限に走るような子だからな。それだとトレーニングを休みにする意味がない。身体を休めて秋のレースに備えてもらわなければ。

 

「カイザーさん! わたしも一緒に走っていいですか?」

 

 おおっとクラフト、お前もか。お前もカイザーのように走りたい欲を爆発させたいのか。そりゃ一人だけ海外のレース走ってないからな。フラストレーションが溜まっていてもおかしくないというもの。

 カイザーはというと、笑顔で了承。走るだけでも嬉しいのに、他の人が加わるのとその相手がクラフトということでテンション爆上がりだろう。

 

「いいよ! それじゃ、どこまで走りに行こうか?」

「その時の気分次第でいいんじゃないでしょうか?」

 

 ただ、クラフトの表情、というよりは態度。そこに微かな違和感を覚える。

 不自然に力を込めている手、そわそわしているような気がする。普段なら目的地を決めたり、良い日向ぼっこの場所を知ってると提案するクラフトが、明確な目的地を設定していない。少しばかり不自然だった。

 

(ふむ。なにか、焦っている?)

 

 ただカイザーと走りたいだけじゃない、なにか別の目的があるんじゃないか。そう察した。俺の気のせいならそれで構わないが、なにもないと断定することはちょっとできない。

 焦っている理由は不明。なんも分からん。そもそも俺の気のせいかもしれない。

 

「あ~、クラフト。あんまり遠くには行こうとするなよ。てか、どっちかというとありがたいわ」

「え? ありがたいって、どういうことですか?」

「ほら、カイザーの場合どこまで行こうとするか分からんからな。この前だって箱根まで行ってただろ」

 

 明確に止める理由がない以上、クラフトの提案を断ることはできんな、これは。気のせいなら気のせいで構わないし。

 名目上はカイザーのお目付け役として、クラフトも走ることをOK。あまり遠出はしないように約束させた。

 

「楽しみだな~、クラちゃんとどこまで走ろうかな~」

「わたし、カイザーさんにどこまでも着いていきますから!」

「そうなの? それは楽しみだね」

 

 2人で楽しそうに計画している。うんうん、仲良しってのは良いね。

 

 

 お話はこれくらいで、あまり遅くならないうちに解散。2人が帰った後、俺はトレーナー室にて一人、日本の状況についてチェックする。

 

「お、シーザリオの状態は良好、ジャパンカップに出走予定、か。そいつは良かった」

 

 ふと目に入った記事、シーザリオの脚の状態のニュースが目に入った。記事曰く、良化傾向にありレースの出走も問題はないというもの。このニュースにはクラフトもニッコリだろう。

 いやはや、本当に良かった。メインストーリーと育成ストーリーで異なる歴史を歩む子だったからな。メインストーリー軸に進んでいるのだったら、あの子はここでリタイアだったから。

 

(日本のオークスとアメリカンオークスを制した二国の女王。アメリカンオークスに出走って聞いた時は肝を冷やしたが、こうして無事なら何よりだ)

 

 育成ストーリーとメインストーリーが複合した感じ、になるのだろうか。なんにせよ、無事に走れているのであればこれ以上に嬉しいことはない。

 秋華賞は大事を取って回避、ジャパンカップを視野に出走を予定しているらしい。カイザーとかち合うな。

 

「強力なライバルになることは間違いない。チェックしておかなければ」

 

 なんか、アスケラのトレーナーからトレーニングのお誘いとか来てたし、一緒にやるのも悪くない。要検討だ。

 

 細々としたニュース記事を見ていき、日本の情勢がどうなっているかを確認。やはりというか、一番注目されているのはディープインパクト。ここは変わらない。

 

「前哨戦を走るってだけで、ここまで大々的に取り上げるのもまぁ珍しいよな。三冠に王手をかけているから当然だけど」

 

 それもシンボリルドルフ以来の無敗の三冠が確実視されているんだ。掛かるのも仕方ないこと。

 これは良いんだ。菊花賞にはもう出走しないって決めてるし、俺にとってはあまり関係のない記事。宝塚記念の出走が絡んでいたから意識はしていたが、すでに目的は達成した。そんな深く考える必要もない。

 俺が考えているのは、カイザーの評価だ。

 

「ふぅむ、やっぱりというか、かなり注目されてきているな。それも、嫌な方に」

 

 宝塚記念の勝利以降、メキメキと評価を上げてきたカイザー。ジャック・ル・マロワ賞でさらに爆発し、今ではディープインパクトに負けないぐらいの知名度を誇っている。

 嬉しいことだ、喜ばしいことだ。カイザーも大変喜んでいることだろう。ファンの笑顔が大好きだからな、アイツ。いつもぴょんぴょん跳ねて喜んでいるし。

 だが、喜べない問題が出てきているのも事実だ。ファンの母数が増えるということは、厄介なのもまた増えるということ。

 

「あのレースに出走しろ、このレースの方がいい。可能性を模索しろって点は分かるんだけどなぁ」

 

 とりわけ多いのが出走レースに関するあれこれ。海外G1であれだけの結果を出したんだから、海外の方が向いてるんじゃないか論調である。菊花賞はマイルG1を勝ったからネタ以外で言われなくなった。距離適性が不安だからね。

 凱旋門賞だのチャンピオンズステークスだの、日本よりも海外で走れってコメントする人が増えてきた。これがちょっとした悩みの種になっている。

 

(気持ちは分からんでもない。今回のジャック・ル・マロワ賞は豪華メンバーが集っていたからな。完勝すれば相応に夢を見たくなるというもの)

 

 ドバイの至宝関係者に無敗のダブルティアラ、他にも輝かしい実績を残したメンバーが出走していたレースを完勝した。良くも悪くもカイザーは注目の的になってしまったのである。

 特に凱旋門賞だ。スピードシンボリの挑戦から始まったこのレース、アプリでもシナリオになるくらいには日本の悲願と言ってもいいだろう。ここに挑戦しろって声が大変多い。

 

 言わんとしたいことは分からんでもない。初めて走る洋芝で、あれだけのレースができたんだ。まだ誰も勝ったことがない凱旋門賞に挑戦してほしいとは誰もが思うこと。

 インタビューでも言われた。なぜ凱旋門賞に挑戦しないのか、と。丁度遠征しているのだから、今のうちに挑戦した方がいいとか言われた。もっともらしい言葉を並べて、走った方がメリットが大きいなんて語っていた。

 とはいっても、とはいってもだ。俺の腹積もりはすでに決まっているのだ。この秋はディープインパクトと戦わせると。ディープインパクトに使うと決めている。

 

(俺はこの秋約束したんだ。ここでカイザーとディープを戦わせると)

「すでに決まっていた予定を覆すのはねぇ。仕方ないけど、ファンの方には諦めてもらうしかない」

 

 それに、挑戦の機会なんて来年もあるわけだし。今年じゃなくてもいいでしょ、うん。

 この件に関しては佐岳さん達も了承済み。ちょっと残念そうな顔をしてたけど、俺達が選んだことに口は挟まないと言ってくれた。良い人達だ、本当に。

 

 けれども、声がどんどん大きくなってきているのは事実。カイザーが持つポテンシャルに目をつけ、あれこれ口を出す輩がどんどん増えてきている。

 良い風に言えば、夢を見ている。カイザーが持つ強さに目をつけ、偉業に手が届く瞬間を見たいファンが増えている。

 悪い風に言えば、こちらの事情を何も考えていない。自分たちの理想を押し付けている、ってところか。

 

「悪いとは言わんけどね。現状カイザーはケガをしていないから、なにが問題なのかさっぱり分からん状態だし」

 

 小さいケガはあった。ディープインパクトとの併走であった炎症が。そのことを大多数のファンは知らないだろう。出走回避した際に小さく載っただけだし。

 だからまぁ、ケガのリスクとかそこまで考えていない。好き勝手言えるってのは羨ましいね、本当。それだけカイザーに夢を見てくれるのは嬉しい限りだけど。

 

「ガラスの身体は一向に改善しねぇしよ~。本当になんなんだよアレ、どうやったらあのバステ解消されんの?」

 

 なお、いまだに頭を悩ませる最大の問題点、【ガラスの身体】は改善する兆しを見せない模様。いい加減何とかなってくれ。

 アレか、ディープと大舞台で戦わないと解消されないとかそういう系か。本当の強さを知らないと解消されないとか面倒な条件があるのかこれは。本当の強さってなんだよ。

 

 ガラスの身体は時が解決するのを祈るしかない。だが、時が経てば経つほどファンの声はさらに大きくなっていく。

 

「あ~考えるのめんどくせ~。なんでファンのことでこんなに頭を悩ませなきゃいかんのだ」

 

 なんでこんなに考えているのか。それはカイザーの考え方にある。

 

 カイザーは俺と契約を交わした際に言った。俺はカイザーに対して何を願う、と。その時からずっと懸念していたことがあった。

 もし、カイザーがファンにも同じようなことをし出したらどうなるのか、ということを。

 

(アイツの場合だと、間違いなくファンの願いや思いを尊重する。自分よりも他人を大事にするタイプだ。自分の持てる力全てを使って、ファンの期待に応えるだろう)

 

 なんて言うかカイザーは、時折人間味を感じさせない。思考がちょっと逸脱しているような気がするのだ。めっちゃ失礼なことだけど。

 

 普段接している時はそんなこと感じさせない。年相応に笑うし、いつもニコニコしているから、つられてこっちも笑ってしまうようなウマ娘。それも間違いじゃない。

 だが、ことレースに限れば一変する。カイザーにはこのレースに出たいという意欲がないに等しい。走ることができればそれでいいで完結しているのだ。

 

「栄誉に執着しない、実績に拘らない。良いように聞こえるが、悪い捉え方をすれば」

 

 自分のことを考えずに他人優先で物事を考える思考の持ち主。それがカイザーだ。

 極端な言い方をすれば、レースへの欲を持たないウマ娘、とでも言うべきか。走ることにリソースを割いた結果、ともいえる。

 

 とにかく、カイザーには懸念すべき点がある。それが、ファンの願いに応えようとした時どうなってしまうのか、ということ。

 ぶっちゃけて言えば、俺にはもう未来が見えている。というか、嫌でも分かる。

 

(アイツは際限なく応えようとする。ファンの期待を背負い続けて、答えようと努力し続ける。アイツの性格を考えれば容易に想像がつくわ)

 

 ファンに応え続けようとするだろう。彼ら彼女らの願いに、己の全力をもって応えようとするだろう。俺が知っているハレヒノカイザーはそういう子だ。

 自分の限界を超えて応え続けようとしたらどうなるか。そんなもん、俺が一番よく知っている。

 

「破滅。自分の限界を見極めなかった、引き際を見誤った結果が前世の俺だからな」

 

 ブラック企業からさっさと抜け出さなかった自分が悪いとはいえ、考えうる限り最悪の未来が待ち受けている可能性がある。カイザーも同じ道を歩む可能性があると考えたら、ファンが増えるというのも一概に良いこととは言えない。

 

 これがちゃんとした自己を持っているのであればいい。レースで結果を残したいとか、有名になってお金を稼ぎたいとか。目標がちゃんとあれば、引き際を見極められる。

 カイザーにはそれがない。自分よりも他者を優先するあの子の場合、限界すら超えて動くことは想像に難くない。

 

「ディープインパクトとの対戦は、アイツにとっても大切なことのはずだ。それを蹴ってまで、俺の意見を尊重した」

 

 だからまぁ、いろいろとまずいことが起きる可能性があるのだ。あくまで俺の想像でしかないけども。

 

 

 要約すると、ファンが増えて嬉しいこともあるが、カイザーの他人優先思考を考えるとあまりいいことばかりとは言えない、ってところか。

 現状、カイザーに対するファンの希望は膨らみ続けている。実績を上げるのに比例して、期待し始めた。

 彼女ならば偉業を達成してくれる、悲願を成し遂げてくれる。ハレヒノカイザーというウマ娘に、夢を見始めている。

 

(決して悪いことじゃない。良いことでもあるんだ)

 

 しかし、どんなことでもやりすぎというのはよろしくない。ほどほどにするのが一番だ。

 夢を見るのは良いこと。だが、相手のことをちゃんと見るのも重要だ。

 

「ま~俺もカイザーの事よく分かってないんだけど。アイツの思考はよく分からん」

 

 俺のやるべきことは一貫している。カイザーを楽しく走らせてやること、ただそれだけだ。

 

 そのためには、ちゃんとした計画を組まんといかんな。頑張りたくないけど頑張らなければ。後、クラフトの件もあるし。

 なにか焦った様子のクラフト。気のせいじゃないかもしれない。

 

「俺の杞憂で終わればいいんだけどなぁ。無理そうだよなぁ」

 

 色々と目を光らせておかなければ。そう思う日だった。

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