担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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妹との邂逅

 チーム・アスケラ。アプリのメインストーリー第2部における主役であり、キングヘイローなどが所属しているチームである。俺が担当しているクラフトも、本来ならばこのチーム所属だ。

 そんなチームからトレーニングのお誘いが来ていた。向こうの狙いは十中八九カイザーの存在だろう。

 

(シーザリオの次走はジャパンカップを予定している。ぶっつけ本番でカイザーに挑む前に、一度この辺で実力を測っておこう、って魂胆か)

 

 ちなみにお誘いは勿論受けました。カイザーの実力がバレるデメリットよりも複数人でトレーニングできるメリットの方が大きいんでね。何より、クラフトとシーザリオは同室かつ大の仲良し。トレーニングの影響も期待できる。

 カイザーの実力に関しては、まぁ、大丈夫だろう。いろいろと。特に問題はない。

 

「ほらほら、ストレッチはしっかりなさい。ケガをしないためにも、トレーニングを効果的にするためにも。ストレッチは重要よ!」

 

 キングヘイロー主導の下、トレーニングに励んでいる姿が目に入る。甲斐甲斐しく世話をしており、ウチのカイザーやクラフトにもよくしているようだ。

 

「こらカイザーさん! むやみに走りに行こうとしない! まだストレッチは終わってないわよ!」

「はーい」

「クラフトさん、そんなに気負わなくても大丈夫よ。むしろカイザーさんぐらいグイグイ来ても構わないわ」

「は、はい、キングさん!」

 

 2人も素直に言うことを聞いている。打ち解けているようで何よりだ。

 

 

 さて、今回のトレーニングを受けた理由はもう一つある。それは、アスケラに所属している一人のウマ娘だ。

 そのウマ娘の名はブランポラリス。カイザーの妹である。

 

「そ、そのぉ。わたしに何か御用でしょうか? あいにくですけど、ねぇねほどじゃないですよ?」

「そんな緊張しなくても大丈夫だ、ブランポラリス。君にちょっと聞きたいことがあってね」

「はぁ。わたしは軽めのトレーニングの予定だから大丈夫ですけど、何を聞きたいんですか?」

 

 どこか恐縮した様子のブランポラリス。そんな彼女の警戒を解いてリラックスしてもらうために、できる限り柔らかい言葉を使うよう心掛ける。俺がアスケラの誘いを受けたのは、この子からも話を聞きたかったからだ。

 

 ブランポラリス。アプリではアスケラどころか名前すらも見かけなかったウマ娘。そんな彼女はどうやら、カイザーの妹にあたるらしい。

 シンボリルドルフに似ているカイザーとは違い、ブランポラリスはトウカイテイオーに似ている。身長もそこまで高くなく、カイザーよりも吊り目気味なのが特徴か。

 アプリにいなかったのに、なんで知っているのか。理由はカイザーがよく名前を挙げていたからだ。

 

「君のことはカイザーからよく聞いているよ。目に入れても痛くない、可愛い妹だってね」

「もう、ねぇねったら」

 

 まんざらでもない様子のブランポラリス。姉妹仲はかなり良好らしい。良いね。

 

 なんでこの子が目的かというと、カイザーのことを聞くためだ。カイザーの小さい頃はどうだったのか、とかいろいろと。俺よりも確実に知っているはずだろうし。

 

(アイツが他人優先思考になった理由とかを聞ければ万々歳だな。なんにせよ、こんな貴重な体験はない)

 

 善は急げと早速聞いてみよう。軽めの予定とはいえ、向こうの時間をあまり取らせないようにしなければ。

 

「今日は君に、カイザーのことを聞きたくてね。早速だが、小さい頃のカイザーはどんな感じだったんだ?」

「小さい頃のねぇねですか? 今とそんなに変わらないですよ。走るの大好きで、気づいたらいつも走り回っていましたし」

 

 成程、昔から走るのは大好きと。

 走るのが好きだった、と語るブランポラリスの表情は、どこか呆れのようなものが見えている。なんでそんな表情を。

 

「それも凄かったというか。なんせわたしが隣町のケーキが食べたい、なんて口にしたら、ねぇね隣町まで走っていきましたし」

「はい?」

「そのまんまの意味ですよ。ねぇねはよく隣町まで走って行ってたんです。わたしの食べたいケーキを買うという名目で」

 

 ちょっと待てい。確かにウマ娘の脚力ならば問題はないだろうが、距離によってはかなり大変だぞ。子供ならばなおさらキツいはずだ。

 ただ、嘘を言っているようには見えない。懐かしさを思い出しつつも、呆れた表情は変わってないからだ。

 

「なんなら別にいらない日でも買いに行こうとしてましたし。そんなだから、父さんも母さんもねぇねから目を離さないようにしてました」

「妹をだしに、隣町まで走る理由を作っていた、ということか?」

「そういうことです。わたしも、うっかり口を滑らせないようにしてました」

 

 家族ですら手を焼くほどの走り狂か。もうあれだ、サイレンススズカの同族だわ本当に。

 

 さて、この質問はあくまでジャブ。次からが本命だ。

 

「走るの大好きなのは変わってないんだな。性格なんかも昔からあぁなのか?」

「あぁなのか、と言うと?」

「ほら、カイザーってあんまり自分を出そうとしないだろう? 何と言うか、他人優先主義というか。自分のワガママを押し付けることが少ないように感じてね」

 

 聞きたかったのはカイザーの性格について。彼女の人格形成にどういった影響があったのか、という質問だ。

 我ながら、かなり踏み込んでいるとは思う。間違いなく初対面の相手に聞くようなことじゃない。

 それでも気になった。カイザーが今の性格に至るまでに何があったのか、大きな出来事があったのかと気にならずにはいられない。

 

「カイザーには出たいレースもないし、レースにかける思いもどことなく薄い気がしてね。闘争心が希薄、って言うべきか」

 

 少し言いにくそうにしているブランポラリス。俺が今言ったことに心当たりがあるのだろう。手を組んでは解いてを繰り返していた。

 

「学園の子にしては少し、というか、かなり珍しいタイプだ。だから気になったんだ。幼い頃カイザーに何かあったんじゃないか、ってね」

「そう、ですか。まぁ、確かにねぇねは昔から勝ち気が薄かったですけど」

 

 昔からなのか。それもまた、随分珍しい話である。

 

 ウマ娘は闘争心が高い。競争意識が強く根付いており、どんな些細な勝負事でも全力で勝ちに行く子が大半だ。

 主にレースだが、レースに限った話ではない。本当に些細なことでも、勝負とあれば勝ちに行くのがウマ娘。じゃんけんですら本気を出すらしい。じゃんけんで本気を出すとは。

 闘争心が薄いウマ娘は大成しない、とも言われており、時にはコンディションにすら影響を与えるほど。サクラチヨノオーのシナリオが良い例か。

 確かに言えることは、人間よりもはるかに負けず嫌いということ。それがウマ娘、なのである。

 

 だが、どんなものにも例外はつきもの。ハレヒノカイザーというウマ娘は、間違いなく例外側だ。

 これまで付き合ってきた中で、負けず嫌いなんて単語が出てきたことは一度もない。負けたことがないのもそうだし、レース中競り合っても平気そうにしているのだ。闘争心が薄いところしか見たことがない。

 

「勝ち気が薄い、なんてものじゃない。ねぇねには勝ち気がないんです。負けてもずっとニコニコしていて、楽しかったねって、いつも言ってました」

「うぅん、容易に想像がつくな」

「闘争心が薄い子は強くなれない、なんてよく言われてますけど。ねぇねを見たら絶対にそんなことはないって思います。だって、ねぇねはあんなに強いんだから」

 

 ゲームとかで負けても笑っている姿が鮮明に出てくるわ。それにしても、勝ち気がないとまで来たか。

 しかも、それだけじゃない。勝ち気がなくてもカイザーは凄く強かったそうだ。ブランポラリスは下唇を噛んで、声を絞り出す。

 

「ねぇねは凄く強かった。初めて遊ぶようなゲームでも2、3回プレイすればすぐにコツを掴んで、いろんなスポーツでも負けたことがなかった」

「お、おぉう」

「特に顕著なのが走りだった。ねぇねは地元の子達の誰よりも速くて、一度たりとも負けたことがなかった」

 

 マジかよ、小さい頃から走りで負け知らずだったのか。てかスポーツ全般得意ってどういうことだ。頭も良けりゃ走る以外のスポーツも得意なのかよ。

 

「ねぇねは地元の誰よりも速かった。笑いながら走って、他の子達を千切って。どんな時でも楽しそうに走るねぇねの姿は、凄く眩しい」

「小さい頃から笑って走っていたのか。癖なんだな」

「ねぇね曰く、気づいたら楽しくて笑っちゃうそうです。ただ、ねぇねと走る子は次第に少なくなっていきました。勝てないって思わされるから、それも仕方ないと言いますか」

 

 それも想像がつくな。誰だって負けるのが分かってて走りたくはないだろう。しかも、相手は笑いながら走ると来たもんだ。勝ちよりも負けの方が印象付けられて、一緒に走る気力を削がれてしまう。心を折られても仕方がない。

 

 ここまでの話を聞く限り、カイザーの他人優先主義は勝ち続けてきた影響か、なんて推測する。いろんなことで勝ってきたからこそ、他人を立てるために、みんなと仲良くいるために、みたいな感じになったのかと考える。

 しかし、それはブランポラリスの言葉によって崩壊した。

 

「ただ、これがねぇねの性格に起因しているとは思っていません」

「そりゃあ、またなんでだ?」

「だって、ずっと小さい頃から変わらないんですから。それこそ小学校低学年の頃から、ねぇねは今の性格です」

 

 これまでの経験はなんの関係もなく、人格形成に多大な影響を与える小学校時点で今の性格だったと教えられた。

 おい、待て。小学校時点であぁなのか? いくらなんでも衝撃的な情報過ぎるぞ。

 

「自分の幸せを考えない、身体が弱くても気にもしない、一人で走っても何も変わらないっ! ねぇねはいつもそうだった!」

「お、落ち着けってブランポラリス。ちょっと声が大きくなってきたぞ」

 

 少しずつ強くなる語気。周りから何事かと視線を向けられている。俺とブランポラリスは注目を集めていた。

 

「自分がどんなに辛くてもわたしたちの心配ばかりして、自分が一番大変なのに他の子ばかり優先して! 母さんや父さんを心配させないためにって明るく振舞ってっ」

 

 泣きそうになっている。この態度から、彼女とカイザーがどんな道を歩んできたのかは想像に難くない。

 

 周りの視線に気づいたか、それとも気持ちが落ち着いたか。ブランポラリスは謝罪するように一礼した後、また声を潜める。

 

「わたしには、ねぇねのことがよく分かりません。お医者さんから全力で走れない、って宣告されても笑って走ることのできるねぇねが」

「全力で、走れない?」

「ねぇね、身体が弱いんです。奇跡でも起きない限り全力で走ることはできない、ってお医者さんが」

 

 ガラスの身体、ってコンディションに影響が出るくらいだから相当なのだろう。解消できるかどうかは奇跡にすがるしかない、ってことか。

 

 

 ふと、視線をカイザーの方へと向ける。今はどうやらシーザリオとトレーニング中らしい。

 

「アハハ、楽しいねぇ!」

「こ、れがっ、世代最強候補の実力っ!」

 

 どうにかついていってるシーザリオと、まだまだ余裕そうに見えるカイザー。いや、うん。えげつないな。仮にも相手は二国のオークスを制した女王なのに。

 

(ケガの影響が多少あるとはいえ、それでも強い。カイザーは、圧倒的だ)

 

 いやはや、本当に。何もかもが常軌を逸している。レースの強さも、メンタル面も。全てが規格外だ。

 ブランポラリスも笑っている。姉の楽しく走る姿を見て、彼女もつい笑ってしまうのだろう。気持ちは分からんでもない。

 

 一度こちらに向き直って、また頭を下げる。

 

「ねぇねの性格に関してですけど、ごめんなさい。わたしにもよく分からないんです。どうしてねぇねが今の性格になったのか、その理由が」

「まぁ、小さい頃からあぁだったのならそりゃ分からんよな。ごめん、考えもせずに聞いて」

「いえ。聞かれることも珍しくはないので。ただ、わたしも家族も、みんなねぇねのことはよく分かりません」

 

 それは、あまりにも精神が乖離しすぎているせいか。普通から逸脱しすぎているせいか。

 

「ねぇねが笑顔の裏で何を考えているのか、それがわたしには分からないです。ねぇねのことは、わたしは理解できない」

「そう、か」

 

 カイザーの方へと視線を向ける。相も変わらず楽しそうに走る姿、あの笑顔に裏なんてないんじゃないか、って思わされる。

 

 いや、てか待てよ。

 

(マジで裏とかないんじゃないか? 本当に楽しいから走っているだけでは?)

 

 ちょっと冷静になって考える。今のカイザーに関して。

 

 確かに、境遇を考えると笑顔に裏があるように思えるだろう。本気を出せない身体、走ってくれなくなった友達。他人を優先する思考に周りの笑顔が大好きという性格。みんなが笑顔でいるために、自分が無理やり笑顔になっている、なんて考えも出てくる。

 だが、アイツはどんな時でも笑っているのだ。ジュニア級の時からずっと変わらず、それこそ誰と走っている時でも変わらない。なんなら誰もいなくても笑顔で走る。アイツはずっと、笑いながら過ごしていた。

 本当にただ笑顔で過ごしているだけなのではないだろうか。心配させないため、ってのもあるかもしれないが、それよりも今が楽しいから。だから笑っているだけ、なんて考えもあるわけで。

 

(アレだ、深読みすると自滅するタイプじゃないだろうか?)

 

 たまにいるじゃん。なんか壮大なことを考えていると思っていたけど、実はそんなことありませんでした、みたいなキャラ。勘違い、とでもいうのか。そんな感じのキャラ。カイザーもそのタイプじゃないだろうか。

 そりゃどうしてあんな性格になったのか、なんて疑問は出てくるが、あまり考えすぎるとドツボにハマるのではなかろうか。俺が考えるのめんどくさがるタイプなのもあるけど。

 

 まぁ、うん。アレだ。

 

「ありがとう、ブランポラリス。なんとなく、アイツのことが分かったような気がするよ」

「ほ、本当ですか? あまりいい情報なかったと思いますけど」

「いや、貴重な情報だった。おかげで進展したよ」

 

 実はそんな進展してないけど、なんとなく分かった気になれたからいいでしょ。

 

 

 話が終われば、俺も合同トレーニングの方に合流。走り終わったであろうカイザーが俺の方へと近づいてきた。

 

「ポラちゃんと何の話してたの? 途中声がこっちにも聞こえたけど」

「お前のことについて聞いてたんだよ。小さい頃どうだった、とか」

「私に聞けばいいのに。なんでも教えるよ?」

「お前にはいつでも聞けるからな。ブランポラリスはこういう機会でもないと聞けないし」

 

 なんかさらっととんでもないこと言ってたような気がするが、スルー。気にするだけ無駄だ。

 

 その後は何事もなく進行していき。アスケラとの合同トレーニングは大成功に終わったと言えるだろう。

 

「今日はありがとうございました。貴重な体験でした」

「いえ、こちらの無理なお願いにも対応していただいてありがとうございます。こちらも良い経験になりました」

 

 また機会があれば、と握手をしてカイザーたちと一緒に帰る。

 さて、もうすぐ秋のG1戦線が始まるわけだし、頑張りますか。まずはクラフトのスプリンターズステークスだ。

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