シンボリルドルフがトレーニングにやってきた衝撃からさらに日は経ち。
(あれからも他の子が代わりばんこにやってきたなぁ)
カイザーがルドルフ会長以外にも呼んでいいか、みたいなことを聞いてきたので快諾。さすがにシンボリルドルフ以上の衝撃はないだろうと思っていた。
で、カイザーが連れてきたメンバーはというと。
「ハレぽんマジのガチテンあげリミックスでオールナイトうぇーい!」
「うぇーい! ヘリオスさんうぇーい!」
ダイタクヘリオス。テンション高いな。カイザーのテンションも高いから青天井で上がるわ。ダンスフロア湧きまくり。
「むっふっふ~、このテイオー様に任せるといいぞよ~」
「お願いします、テイオーさん!」
トウカイテイオー。シンボリルドルフ繋がりで当然か。ツルマルツヨシはいなかったけど、予定が合わなかっただけだろう多分。
「そ、その。お力になれるかは分かりませんが、よろしくお願いします!」
「──共同Mission、だな」
「クリスさんロブロイさんよろよろ~」
ゼンノロブロイにシンボリクリスエス。どういう繋がりだ? しかもロブロイとはかなり親し気だし。カイザーに押され気味だけど。
「あら、熱心なのね」
「ラモさん今日は頑張ろうね!」
メジロラモーヌ。なんで呼べたんだよ。この辺からよく分からなくなってくる。
「か、カイザーさん! 今日はよろしくお願いします!」
「クラちゃん頑張ろうね~」
ラインクラフト。君達2人距離感近いね。いいね。ちなみに呼んだ回数がダントツで多いのがラインクラフトである。いいね。
「ハーイ、カイザー! 遅れてごめんなさいのギュー!」
「じゃあこっちは許しちゃうのギュー!」
タイキシャトル。どういう繋がりなんだ本当に。あんま接点なさそうに見えるけど。
と、呼んだメンバーは多岐に渡る。渡りすぎてもはや訳分からん。
(単純に交友関係が広いなカイザー)
世代はバラバラだし、接点が特に見当たらない連中もいる。主にメジロラモーヌ。こっちもシンボリルドルフ繋がりかもしれんがよく分からん。
まぁそんな感じのトレーニングが続いていたのだが、ここで一つ気になったことがあった。なので、カイザーと2人で話す。
「なぁカイザー。お前って出たいレースとかあるの?」
「ん~? 別にないかなー」
今後の進退を決めるうえで大事になること。目標レースの設定だ。なお、当の本人がこの調子である。
当然だがアプリにいなかった子なので、カイザーの目標レースを俺は知らない。
目標の設定は超重要だ。頂上が見えている山に登るのと頂上が見えない山、どっちが物事を明確に決められるかって言われたら当然前者。与えられている情報量が違うからな。
なので知りたいのは大目標。例えば日本ダービーを目指してます、とかG1を7勝するのが目標ですとか。たとえどんなに高い目標だって構わない。明確な分どうすればいいのか分かりやすいから。
だが、ここにいるのは普通じゃない天才児ハレヒノカイザー。あっけらかんとした調子で、いつものように笑みを絶やさず。
「レースだとみんな走ってくれるし。楽しく走れたらいいよね~」
「楽しく走れたら、かぁ」
「うん。楽しく走れたらそれでいいかな。後はトレーナーが欲しいタイトルがあれば、私はそのレースを走るよ」
とんでもないことを要求してくるわけだ。全選択権を俺に委ねてきやがって。
てか待て。今さらっととんでもないこと言わなかったか?
「みんな走ってくれる? 普段は走ってくれないのか?」
カイザーは基本的に一人でいることが少ない。いつも囲まれているし、みんなと仲良くしていることが多い印象だ。
明るい性格に誰とでも仲良くなれる愛されキャラ。ウマ娘はみんな走ることが好きだし、負けず嫌いも人一倍。てっきり走ってくれる友達は多いと思っていた。
なのに違うみたいで。カイザーは少ししょんぼりとした様子を見せている。
「うん、みんな私とはあんまり走ってくれないんだよね」
落ち込んだ、のは一瞬のこと。すぐさま元通りになる。
「ま、一人で走るのも好きだからいいんだけどね! それに、きっと予定が合わないだけだから。いつかみんな走ってくれる!」
素敵な笑顔でなんて悲しいことを。まぁ本人が気にしてなさそうだからツッコむのも野暮か。
ウマ娘によっては並々ならぬ思いを抱くレースが存在する場合がある。ウイニングチケットのダービーが代表的な例だろう。
それだけではなく、トウカイテイオーのシンボリルドルフを超えるという目標。これもまた明確で分かりやすい。事前知識がなくてもなんとなくこうすればいいんだな、ってなるから。
ただ、カイザーはそれすら存在していない。ただ漠然と、楽しく走れたらいいとだけ思っている。ハルウララか何かでしょうか。
(どうすりゃいいんだろうね、本当)
ま、純粋にファン数を稼げばいいってことだから気が楽っちゃ楽か。
考えるべきことはもう一つ。俺が欲しいタイトルのレースに出走するというもの。
「なんか、契約の時にも言ってたよな? 君は私に何を願う、って」
似たようなことは契約時にも言っていた。そういやあの時の答えをまだ出してないな。今思い出したからなんだけど。
「言ったね。トレーナーが走ってほしいレースがあるなら、私はそのレースを走るよ?」
「……俺が海外のレースいくぞ! って言ってもか?」
実際に行くわけじゃないけど、ここはちょっと確認しておきたいことがある。俺の予想が正しければカイザーはきっと。
「うん、構わないよ。トレーナーがそれを望むなら、私は海外のレースだろうと走る」
「……なんで?」
「決まってる。それが君の望みだから」
雰囲気が変わる。天真爛漫な少女から、他を圧倒する上位者へ。口調も大人びたものへと切り替わる。
「凱旋門賞を取れというなら、私は走る。ブリーダーズカップを走れというなら走る、キングジョージで勝てというならば走る」
「……はぁ」
「私は君の願いに全力で応える。それだけの話」
一切揺らがない自信。俺が望むことを絶対に叶える、強い意志のようなものを感じた。
(予想通りの反応だな)
なんとなく似たようなことを言うんじゃないかと思っていた。
言いたいことは言ったとばかりに雰囲気がまた変わる。上位者から少女へ、いつもの笑顔を浮かべた。
「任せてよトレーナー。私、頑張るから!」
「おう、頑張れ。観客席で応援してるから」
この切り替えの早さビビるね。二重人格みたいに思えるわ。
ハレヒノカイザーは走るレースに拘らない。そう、日本だろうと海外だろうと変わらない。
トレーナーである俺が望むのならば、海外だって喜んで走る。ヨーロッパだろうがアメリカだろうがオーストラリアだろうが、どこだろうと出走する。
いやはや、凄い覚悟だ。
(願いが原動力、ってやつなのかね? 人々の願いや期待に応えるウマ娘、それがハレヒノカイザー)
一体どんな史実だったのやら。ま、分からんことだからもういいけど。
しっかし、欲しいタイトルか。
(無難にクラシック三冠? 海外のレースを勝てるポテンシャルも秘めてるっぽいし、三冠取ってシニアで凱旋門賞ってのもあるな)
カイザーの耳飾りは右の位置。太陽と月の耳飾りが今日も輝いております。
右ということはクラシック路線に進むということ。クラシック三冠は既定路線だろう。
三冠を取る上で障害になるのは、やっぱりディープインパクトか。
(ルドルフと同じ無敗の三冠だったわけだし、シナリオの強ボスな立ち位置にいるのは間違いないな)
カツラギエースシナリオのミスターシービーとか、シュヴァルグランシナリオのキタドゥラコンビとか。あの辺を想定して動かなきゃならん。勝てないわけではないが勝つのにめちゃくちゃ苦労する、そんな相手。
(このポテンシャルの鬼を倒した上で三冠取ったってバケモノすぎんか?)
今から戦うのが怖くなってきた。史実でコイツに勝ったディープインパクトはさらにバケモンが確定しちまったな。ま、先のことは先で考えればいいか。
なんとなくの指標は固まった。後は間近に控えたメイクデビューに関してだが。
「そろそろ出走者が固まってくる頃だな」
「どんな子と走れるかな~? 楽しみだな~!」
「出走は11人。特に目立った相手はいないな」
こっちも問題はないだろう。現時点でカイザーに勝てる方が稀だ……というか、コイツがガチで強すぎる。そのせいで、別の問題が浮上するぐらいには。
前に他のウマ娘と実践形式のレースをしたことがあった。他のトレーナー付きのウマ娘とメイクデビュー前の対戦会みたいなことをやろうってな。
新人というお情けもあってか俺も参加。カイザーはみんなと走れる、とウキウキ気分で出走。和気あいあいとした雰囲気で進んでいたんだ。
で、結果はというと。
「お前と同時期にデビュー予定だった子、なんかデビューズラすらしいぞ」
「あり? そうなんだ」
「……まぁ、あんなことされちゃあ心配になるよなぁ」
全員もれなくカイザーに笑いながら千切られましたとさ。いやはや、強すぎてまいったね、どうも。多分次回以降は呼ばれないな。
カイザーは笑いながら走るんだが、これがよく思われていない。みんなから良い顔されていないのが現状だ。いや、当然なんだけどね。
(本気で戦っているのに笑顔で千切られたら、そりゃメンタルにクるよなぁ)
真剣勝負の場、って程じゃないけど近い状況、真剣で斬り合っているのに相手が笑顔だったら恐怖が先に来るだろう。
多分だが、走るのを断られるのもこれが起因している。カイザーは笑顔で走る。笑顔で走るのにとんでもなく強い。
(真面目に取り組んでいない、と思われてるんだろうな。実際はそんなことないんだけど)
本人の行動と周りからの評価が違うってのはありがちな話だ。カイザーは真面目に走っているつもりだけど、周りから見たらそうじゃない。バカにされている、と思われているわけだ。
なんかな。気持ちは分からないでもないけど、だからといってそれはどうなの、って話でもあるが。
(こういう手合いが今までいなかっただけ、と言えばいいのか。別にいいじゃないか、カイザーみたいなウマ娘がいても)
笑顔で他を千切るウマ娘がいたっていいじゃない。俺はそう思っているわけだ。
いや、そりゃいざ対峙するとなったら可哀想とは思うよ。ただでさえコイツの強さはおかしいし、本気で戦ってるのに良い気はしないと思う。
それでも、カイザーの笑顔は人を惹きつける。思わずこっちも笑ってしまいそうな、みんなを笑顔にするようなウマ娘だ。
(別に一人ぐらいいてもいいはずだ。こういう子がいても)
笑顔で走って、みんなを楽しませるようなウマ娘。世界に一人ぐらいはいたって構わない。俺はそう思う。
ま、これも俺が競技者じゃないから言えること。実際に当たったらブチギレそうだけど。
なんにせよ、カイザーに願うことは大体決まっている。
「俺の願いな、決まったぞ」
「本当!? 教えて教えて!」
だからそんなガチ恋距離で詰め寄るんじゃありません。もうちょっと距離感ってものを大事にしなさい。
「俺はお前に、楽しく走ってほしい」
「……ほえっ?」
「別に三冠の栄誉とか日本初のなんちゃらとか史上初のなんちゃらとかいらん。お前が楽しく走ってくれれば、俺はそれでいい」
俺だって人間、欲ってもんはある。クラシック三冠欲しいな~とか、日本のウマ娘で凱旋門賞取りて~な~とかいろいろあるよ。それは否定しない。
つってもこの子のポテンシャルなら普通に叶っちゃいそうというか。俺が願わなくても普通に勝てそうな気がするのだ。相手にバケモンが一人いること確定しているけど。
なので願うことは一つ。このまま笑顔で走り抜けてほしいってことだけ。
(後バッドコンディションが心配すぎるからな。無茶なことを願った結果、時限爆弾が爆発する可能性だってある)
ガラスの身体の存在も怖いからな。このバッドコンディション、いつどこで爆発するのか分かったもんじゃない。そんな爆弾を抱えたまま無茶させる気はさらさらねぇよ。無茶したらどうなるか、俺はよく知っているからな。
カイザーの呆けた表情。かなりレアな顔だ。
正気に戻って、ふっと笑ったかと思うと。
「……あの時と同じことを言ってくれるね、君は」
「え?なにか言った?」
「ん~? なんでも!」
ぼそりと何かを呟いて、万人を魅了するような笑顔でこっちを見ていた。うおっ、すっげぇ美人。
ひとまず決まった今後の目標。
「それじゃ、楽しく走り抜けるために。頑張るぞー!」
「おー!」
トゥインクル・シリーズを笑顔で駆け抜ける。目標に向かって、全速前進だー!
◇
それからしばらく。そろそろメイクデビューかななんて時。
「トレーナー。クラちゃんが担当してほしいんだって」
「お、お願いできませんか、トレーナーさん!」
すいません、なんで? 制限があるわけじゃないから別にいいけども。