担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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天皇賞・秋と挑戦権

 天皇賞までの時間はあっという間に過ぎていった。秋華賞や菊花賞もいつの間にか終わってたし。

 

「秋華賞はエアメサイア、菊花賞はディープインパクトが順当に勝ったな。これで無敗の三冠だ」

「やっぱ凄いね~プイちゃん。圧倒的だね圧倒的」

 

 菊花賞を3バ身差で堂々の1着。2着の子が完璧なレース運びをしたというのに、そんなもん知らねぇとばかりにぶち抜いて勝った。

 2着の子は逃げる子を徹底してマーク、長めのスパートをかけることで抜け出し、完璧なタイミングで仕掛けたともっぱらの評判。中には勝った、と立ち上がったファンもいたそうだ。

 しかし、そこに立ちはだかるディープインパクト。最後の直線で一気に捲り、最終的には差をつけて完勝。あんなんやられたらどうしようもないって。

 

(そもそも、気づいたら第4コーナー時点で先頭付近にいたもんな。いつの間に上がったんだよ本当に)

 

 ちょっと目を離した隙に、ぬるりと来ているのだ。最後方を走っていたはずなのに、先行集団に交ざっていたなんてことがざらにある。上がり3ハロンのタイムも文句なしの最速33.2秒。上がり2位の子に1秒近い差をつけていた。こりゃ強い。

 

 これにはファンも大喜び。ディープインパクトの人気はとどまることを知らず、三冠を記念した三冠弁当なるものが発売されていた。味は美味しかったです。

 

「ちなみにシンボリルドルフの時もあったの? 三冠弁当」

「いえ、私の時はなかったですね。最近は親しみやすくなるように、URAも試行錯誤しているとスーさんが言ってました」

「その一環、ってやつなのかね」

 

 飛ぶように売れていたから、URAの目論見は大成功と言えるだろう。その調子でカイザー弁当とかも作ってほしいものである。

 

 

 さて、菊花賞が終わったということは、次は天皇賞・秋。カイザーが出走するレースだ。ここに向けて今トレーニング中である。

 いつものようにペース走をしているのだが。

 

(全然変わらんな。タイムもブレなく綺麗に走れているし、息が整うのも早い)

 

 相変わらず、恐ろしいほど正確なラップタイムを刻んでいる。アイツの体内時計どうなってんだろうか。

 何本目かを走り終わったカイザーがこちらへ。すぐさま息を整えており、すぐにでも走れる雰囲気を醸し出していた。

 

「トレーナー。後どれくらい走っていいの?」

「今日は後もう一本走ったら終わりだな。本番も近いし、疲れを残さないように気をつけろ」

「はーい」

 

 練習に戻っていくカイザーを見て、ふと思う。これまでのレースに関してだ。

 

(思えば、レース後もめちゃくちゃ息が乱れてる、なんてことはなかったな)

 

 あの宝塚記念でさえも、だ。いつものようにピョンピョン飛び跳ねて喜び、まだまだ走れますよみたいなオーラ。レコード決着で初のシニア級相手に、凄まじいレースを展開したのにだ。

 別になにかあるわけじゃない。凄いレースをしたんだ程度で終わること。それでも、妙に気になるというか。

 

(気のせいだったらいいけど、これまでのレースを考えるとなぁ)

 

 一瞬、とんでもない結論が頭をよぎるが。

 

「ま~さすがにないだろ」

 

 考えるのが面倒くさいので止めた。それよか今度の秋天だ秋天。頑張っぺ。

 

 

 

 

 

 

 やってきました待望の天皇賞・秋。いつも以上にビシッと決めた観客が多い晴れ空の下、出走する18人のウマ娘が次々とゲートに入っていく。

 

 観客席で様子を見守る俺達。今回はスピードシンボリさんと佐岳さんもいる。後はシンボリルドルフとダイタクヘリオス。いつものメンツだ。

 

「お久しぶりな感じがしますね、お2人とも」

「最近は忙しくてね。トレーニングにも中々来れなかったよ」

「そうだな。次年度以降の海外遠征に向けて、いろいろとごたついていたんだ」

 

 どうも仕事が忙しかったらしい。海外遠征、というのはカイザーとクラフトのことが中心だろう。お疲れ様です本当に。ありがたい限りです。

 

 

 カイザーは6枠の11番で出走。外目の枠だ。

 

《各ウマ娘、態勢整いました。太陽が見守る中、18人の選ばれたウマ娘達が東京レース場を駆け抜けます》

 

 静まり返った観客席。誰かの喉を鳴らす音が聞こえたその瞬間、ゲートが開いた。天皇賞・秋が始まる。

 真っ先に飛び出したのはカイザー。完全にモノにしたロケットスタートを披露し、他との差をグングンつけていく。

 

《天皇賞・秋が今ッ、スタートです! さぁやはり飛び出してきたハレヒノカイザーのロケットスタート1番人気! 完全にモノにしたこのスタートは誰も捕まえることができない!》

《いやぁ、相変わらず凄いスタートですね彼女は。ここから控えることもできるんですから、なおのこと恐ろしいです》

《ハレヒノカイザーが差を広げにかかる、追いかけるのはタップダンスシチーそしてエフェメロン、この2人が飛び出してきた。注目の先行争い、飛び出したのはやはりハレヒノカイザーです》

 

 逃げウマ娘の2人は追いかける。ま、追いかけるしか方法がないから仕方ないか。

 

「逃げウマ娘だからこそ分かっている。ペースが狂わないカイザーを逃げさせたらまずい、と」

「必ずハナを取れる、レースにおいて絶対的優位を作れる。相変わらず、クラシック級とは思えないな」

 

 スピードシンボリもこのお言葉。レジェンドとも言うべき人にここまで言わせるのが、カイザーの凄さを物語っている。

 

 この2人が追いかけてくるか、と思っていたところ、先行集団に交じっていたゼンノロブロイも飛び出してきた。ほう。

 

《まもなく最初のコーナーを越えて向こう正面へ。先頭はハレヒノカイザー、タップダンスシチーとエフェメロンが追いかけます。ゼンノロブロイが先行集団を引っ張っている、これは珍しいゼンノロブロイの積極策だ。コーナーの坂を下るウマ娘達、逃げウマ娘の2人がハレヒノカイザーからハナを奪おうとしています》

 

 飛び出してきたゼンノロブロイ。まだ目的ははっきりしないが、向こう正面に入ったところで狙いに気づく。

 無理やりハナを奪った逃げウマ娘の2人。タップダンスシチーは控えたが、エフェメロンが飛びだして先頭へ。ここはまぁいいだろう。重要なのはゼンノロブロイの位置だ。

 カイザーのすぐ近く。外の半バ身以内に収まっている。成程、カイザーをマークする、というよりはカイザーのペースに合わせるのが目的か。

 

「ゼンノロブロイほどの実力者なら、カイザーの惑わしにもある程度対応できる。ペースメーカーにもってこいだしな」

「ペースが狂わないのを利用する、ってことだね。良い手ではある」

 

 それだけで勝てるほど甘くはないが、あの位置取りは悪くない。対カイザーならば最善の位置だ。

 

 

 向こう正面はエフェメロンが先頭。タップダンスシチーよりもさらに前の位置で逃げている。明らかに掛かっており、暴走に近いペースだ。

 対するタップダンスシチーは冷静。前の位置についたら自分のレースを展開。消耗したスタミナを回復することに専念している。

 

 カイザーの位置はタップダンスシチーの2バ身後ろ。先行集団の先頭を走っている。

 外にゼンノロブロイがつけ、後ろに3人のウマ娘が追走。囲まれているわけではないが、結構キツいマークを受けている状態だな。

 

《まもなく第3コーナー。エフェメロンが先頭でレースを引っ張ります。タップダンスシチーは1バ身後ろに控える形、タップダンスシチーからさらに2バ身離れたこの位置にハレヒノカイザーだ。先行集団を引っ張るハレヒノカイザーがここにいる》

《控える形のレース展開。これがハレヒノカイザーの強みですね。王道のレースを展開しています》

《前年度覇者ゼンノロブロイはハレヒノカイザーをマーク。最後方に控えていたスイープトウショウがじわじわと上がってきた。スイープトウショウが上がってくる》

 

 第3コーナーにもなれば、後方に控えていた子達もじわりじわりと差を詰めてくる。前を走るカイザーたちには影響ないが、最後の直線に向けての位置取り争いが起きようとしているな。

 

 カイザーはというと、特に何も変わりない。いつものように悠々と、余裕すら感じさせる走りで3番手追走。安定感抜群の走りを貫いていた。

 

(本当になにも変わらんな。カイザーのレースに対する姿勢のおかげなんだろうが)

 

 普通のウマ娘は勝ちを意識する関係上、相手に仕掛けられたら多少気持ちがブレるものだ。どんなに自信があっても勝ちを狙う以上、些細な状況変化を見逃すわけにはいかない。負けに直結する可能性があるからだ。

 だが、カイザーは勝ちへの意識が低い。それゆえに彼女が考えているのは、いかに楽しく走ることができるかだ。自分の世界で完結している、というべきか。言い換えれば、自分のマックスパフォーマンスを発揮することに重きを置いている。良い意味で他者に左右されない走り。

 自分ができる最高の力を発揮するために、最善の道を選択し続ける。その結果、カイザーは最後までブレず勝利への道を走ることができる。カイザー独自の強みだ。

 

 冷静にレースを分析する中、ふとある事を思い出す。それが、領域と固有スキルについてだ。

この世界にもある、半ば都市伝説扱いされている技術。カイザーもまだ至れていない。

 

(これまでのレースで、カイザーは一度たりとも領域を使っていない。そんな簡単に至れるものでもないが、カイザーなら使えると思うんだが)

 

 領域は漫画の表現、固有スキルはアプリの表現だがほぼ同一と考えていいだろう。

 自分の知らない剛脚。限界の先の先。時代を作るウマ娘のみに許された、究極の末脚といったところか。

 

(負けたくないという思いが必要かもしれない。けど、マルゼンスキーやミスターシービーのように、楽しく走ることで発現、なんて可能性もあるはず)

 

 カイザーにも十分に資質があるはずだ。あんだけ強いわけだし、領域に至れてなんも不思議ではない。

 だが、今のところ兆候すらない。クラフトはスプリンターズステークスで兆候があったが、カイザーには何もない。宝塚記念も普通に勝ったし、ジャック・ル・マロワ賞も発揮するまでもなく勝った。

 

(この秋天で見れたりするんだろうか? 知らんけど)

「他にも考えはあるが、まさかな」

 

 恐ろしい考えが頭によぎったが、答えを知るのはこの秋天が終わる頃かもしれない。そんな予感がした。

 

 

 前のレースが動いたのは第4コーナーに入った頃。仕掛けたのは、カイザーの外にいたゼンノロブロイだ。

 

《第4コーナーを走ります各ウマ娘、ここでゼンノロブロイが動いた動いた! ゼンノロブロイがハレヒノカイザーの前に出る、外から内へ、タップダンスシチーへと襲い掛かる! エフェメロンは早々に力尽きたか? 脚色が鈍っているぞ》

《序盤からハイペースで飛ばしていましたからね。かなりキツいはずですよ。タップダンスシチーはまだ余裕があります。ゼンノロブロイはロングスパートでしょうか?》

《ハレヒノカイザーはまだ動かない、先に動いたのはゼンノロブロイだ。最後の直線に向けて、一気にレースが動きます天皇賞》

 

 ま~そうだよな。弱点があると分かってたんだから、ゼンノロブロイは気づくよな。

 シンボリルドルフも腕に力を込め、苦い表情を浮かべている。彼女も気づいているのだろう、カイザーの弱点について。

 

「カイザーにとって嫌な展開だな。あぁなるとカイザーは弱い」

「え? い、今の展開がカイザーさんの弱点なんですか?」

「というか、彼女に弱点なんてあったんだな」

 

 実はあったんですよ佐岳さん。無敵ってわけじゃないんで。

 もはや隠す意味はないだろう。ゼンノロブロイが明確に対策を取ってきたわけだからな。遅かれ早かれ、クラフトも気づくだろうし、他の子達も気づく。教えるのは後にするけど。

 

 カイザーの弱点は長いスパートをかけられないこと、ロングスパートができないことにある。瞬発力に優れる反面、末脚を持続させることができない。これがカイザーの弱点だ。

 一見するとどこが弱点? と思うかもしれないが、距離が長ければ長いほどこれは効いてくる。今回は許容範囲かもしれないが、ゼンノロブロイが相手だしなぁ。

 

(これまで上がり最速を記録し続けたが、全部ロングスパートじゃない。ノーマルのペースから、残り1ハロンで一気に加速する。それがカイザーのスパートだ)

 

 ノーマルペースがスパートに見える時点で大分おかしい気がするが、これが現実。恐ろしいやっちゃ。

 つまるところ、カイザーにとっての天敵は好位置からスタミナですり潰すことを得意とするウマ娘。シンボリルドルフやメジロマックイーンに代表される、先行型のステイヤーが弱点なわけだ。

 

 カイザー対策でもっとも簡単な方法が今のゼンノロブロイの走り。カイザーと同じ位置に陣取って、ロングスパートで一気に突き放す戦法。これをやられると、最後まで届かない可能性が出てくる。カイザーを負かすことができる。

 

《最後の直線に入りました。先頭で入ってきたのはタップダンスシチー、タップダンスシチーがエフェメロンを躱して先頭に立った! すぐ後ろをゼンノロブロイが追走、ゼンノロブロイがその差を半バ身まで縮める!》

《おっと、ここでダンスインザムードも来ましたよ。タップダンスシチー、ゼンノロブロイ、ダンスインザムードの戦いになります!》

「いけー! 頑張れカイザーさーん!」

「ハレ吉まだまだいけんべ! バイブス上げまくってけ~!」

 

 カイザーが負けるかもしれない。相性最悪の戦法を取られている。なのに、不思議と俺は落ち着いていた。なんて言えばいいんだろうな、ほぼ確信している、というか。

 

 カイザーはというと、現在6番手まで位置を下げている。スイープトウショウが上がってきており、もうすぐ追いつきそうな位置にカイザーはいる。

 まもなく東京の上り坂。心臓破りと言われる坂を駆け上がるウマ娘達。どうしても末脚は鈍る。

 

 苦しい場面、前との差が3バ身から4バ身はつきそうな、もうすぐ取り返しのつかない差になりそうなその時。

 

「アハハ」

 

 カイザーは笑った。いつものように、楽しくて仕方がないとばかりに。スイープトウショウに躱されてなお、カイザーは笑う。

 

 坂でカイザーは加速した。何言ってんだと思うかもしれないが、そうとしか言えない。

 

「坂でスパートをかけた!? いや、それにしても」

「他と比べてスピードが違う。カイザーだけ、明らかに突出しているっ」

「……始まるか」

 

 佐岳さんとスピードシンボリは驚き、シンボリルドルフはなにかに気づく。俺も、シンボリルドルフと同じような反応をしていた。

 

 ジワリと差を詰める。前との差をグングン縮めていく。

 しかし、ゼンノロブロイたちも末脚をしっかりと残している。見た感じ、1ハロン11秒前半だろうか? それくらいのスピードはちゃんと維持できている。

 

《ゼンノロブロイ、タップダンスシチー、ダンスインザムードが競り合う残り200m! スイープトウショウとハレヒノカイザーが上がってきた、2人が上がってくる! 残り200m最後の戦い! 天皇賞の盾を賜るのはどのウマ娘か!》

 

 声援の熱が増す。レースのドキドキが、ワクワクが。最高潮に達しようとしている。

 カイザーと前との差は2バ身ちょっと。末脚を残した状態でこの差は厳しいか。今までのカイザーならば、ここから追いつくのは厳しい。それだけの差。

 

 カイザーは加速する。全てを置き去りにするかの如く、並んでいたはずのスイープトウショウを躱し、さらに速く駆け抜ける。

 美しく無駄のないフォーム。力強さとしなやかさを共存させた、思わず見惚れてしまうような走りは、あっという間にゼンノロブロイたちに並んだ。

 ロングスパートにも見える。だが、違う。

 

(そういうことかい。ようやく分かったわ、なんで領域に至れねぇのか)

 

 今の走りで気づいた。というか、疑惑が確信に変わった。やっぱ、あの時思ったことは間違いじゃなかったってわけだ。

 

 領域ってのはとどのつまり、限界の先の先だ。使うためには、自分自身の限界に到達していなければならない。一発逆転にもなりえる切札、限界を超えた力だ。

 マルゼンスキーもミスターシービーも、より楽しく走るために至ったに違いない。自分の限界さえも超えた力を発揮して、更なる楽しさを得ようとした。そう考えることもできる。

 じゃあどうしてカイザーは至れないのか? その答えは単純明快。

 

(今までずっとそうだった。宝塚記念も、ジャック・ル・マロワ賞もそうだ)

 

 ゼンノロブロイたちを捕まえたカイザー。勢いはとどまることを知らず、一気に突き放す光景を見て、思わず呟く。

 

「勝ち、だな」

 

 あまりにも完璧すぎる勝ち方。ファンからすれば、いつものように勝ったと思うのだろう。

 見事なまでのルドルフ戦法。他のウマ娘のスタミナをすり潰し、カイザーのペースに持ち込んだことで勝利した。大多数はそう考えるはずだ。

 

 実態は、あまりにも違うわけだが。

 

《ハレヒノカイザーが抜け出した! ハレヒノカイザーがあっという間に躱す! やはりこのウマ娘がレースを支配していた、これが全てを支配するカイザースタイル! ハレヒノカイザーが天皇賞・秋を駆け抜けたぁぁぁ! ハレヒノカイザー1着! 2着のゼンノロブロイに半バ身差で勝ちました!》

《2着から5着まで接戦ですね。ですが、ハレヒノカイザーはお見事です!》

《クラシック級での天皇賞制覇はバブルガムフェローとシンボリクリスエスに続く偉業! なんとなんと成し遂げた! これがハレヒノカイザーの実力だ! もはや疑う必要なし!》

 

 圧倒的な格の違い。ハレヒノカイザーは、天皇賞・秋を制した。

 

 

 ま、いろいろと考えたわけだが。

 

「うおおお! カイザーはやっぱ最高だぜぇぇぇ!」

「ホントそれな! ハレぽんしか勝たん過ぎて尊みがヤバい!」

 

 っぱ担当ウマ娘の勝利は嬉しいわけよ。最高だね。

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