担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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挑戦の意志

 秋天を勝ったカイザー。祝福の声援がいたるところから聞こえ、ファンが勝利を喜んでいる。

 

 ただ、これだけでは終わらなかった。ターフの上で飛び跳ねていたカイザーが、おもむろに人差し指を天高く掲げたのである。おいおいおい。

 

「待て、アレは!?」

「シンボリルドルフの三冠宣言のポーズ? けど、クラシック三冠は終わったんじゃ」

「もしかして、ここから秋シニア三冠全部取るって宣言じゃないか!? そうに決まってる!」

 

 表情は笑顔。むふーとか効果音がつきそうなぐらいのドヤ顔を披露している。可愛いけども。隣にいるシンボリルドルフは苦笑いしてるし。

 唐突の秋シニア三冠全取り宣言。これにはファンも大喜び。なお、カイザーの場合特に関係なくやってそうな可能性が大だ。

 

(ディープインパクトが似たようなことやってたし、その繋がりでやったんだろうなぁ)

 

 ファンにそんなことなど分かるはずもないし、分かっていたとしてもメディアが面白おかしく脚色するだけだ。なにを叫んだところで意味はないだろう。大変なことをしてくれました、えぇ。

 

 案の定、インタビューでもツッコまれる始末である。

 

「最後のポーズ、アレは秋シニア三冠を全て取る宣言ですね!?」

「多分本人にそんな意図は」

「まさか、クラシック三冠の代わりに秋シニアの三冠を取る予定だったとは! これも全て榊トレーナーの作戦と!」

「なんか俺のせいにされてるし。全然違いますからね?」

 

 カイザーの三冠宣言に記者達は大喜び。そりゃ話のネタを俺達側から作ってきたんだからこうもなろう。当の本人はニコニコ笑顔でインタビュー受けてるし。

 

「プイちゃんがやってたのを見たんだよね~。ルドルフ会長もやってたし、カッコいいから私も真似ようと思って!」

 

 ほら聞きましたか? こういうことなんですよ。やっぱ特別な意図もなにもないって。2人がやってたからカイザーもやってみようと思ってただけですって。深い意味はないですって。

 

「これから秋シニア三冠のレースが楽しみです! 意気込みをどうぞ!」

「体調的にダメそうなら出走止めますよ。なんにせよウマ娘の体調第一なので」

「いやはや、これで秋シニア三冠まで取れば、史上初のクラシック級での秋シニア三冠ウマ娘の誕生です! しかもいまだ無敗、これは期待が高鳴りますね!」

「人の話聞いてます?」

 

 テンションが高くなりすぎて俺の話なんて聞きやしねぇ。明日の新聞とかニュースが怖すぎる。

 

 

 最後の最後で特大級の爆弾を置いていったカイザー。本人はいつも通りニコニコ笑顔だったのは言うまでもない。

 

「とんでもないことやったなカイザー。記者さん達大喜びしちゃったぞ」

「ルドルフ会長もプイちゃんもかっこよかったからね。どう、どう? 私もかっこよかった?」

「かっこよかったかっこよかった」

 

 渾身のドヤ顔。可愛いし癒される。なんでも許してしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 最後にとんでもない爆弾を落としていった秋天から一日が経って。世間がカイザーの三冠宣言で賑わっている今日この頃である。

 もうね、とんでもないわ。どの新聞もカイザーが指を一本立ててる例の写真を使ってんだから。一面をでかでかと飾っている。

 

「むふふ~、私有名人!」

「安心しろカイザー。宝塚記念が終わった後ぐらいからお前は有名人だ」

 

 新聞を眺めて大変嬉しそうにしているカイザー。ちなみにだが、カイザーは毎日新聞を読んでいるらしい。なんなら定期購読者なんだとか。

 

 それにしても、元から秋シニア三冠は既定路線だったとはいえ、ここまで注目を浴びることになるとはなぁ。

 

(負ける気は一切しないが、問題は有記念だよ。あのディープインパクトが出走してくるんだからな)

 

 菊花賞が終わった後のインタビューだったか。文乃先輩が今後のローテを明かした。その時に明言したのが、ディープインパクトは有記念に出走する、というもの。

 カイザーも出走予定。つまり、2人の直接対決がここにきて実現する、ってわけだ。待ち望んでいたファンはかなり多いだろう。なんなら俺もちょっと望んでいた。

 

(共に世代の頂点と言える2人。無敗の三冠を制したディープインパクトと、今から秋シニアの三冠を取ろうとしているカイザー)

 

 ここにきてとんでもない話題性を出してきたのもあり、すでに有記念に注目が集まっている。ジャパンカップもあるというのに、だ。気が早すぎる。

 ディープインパクトがシニア級相手でも無敗を貫くか、カイザーが無敗の秋シニア三冠という大偉業を達成するか、他のウマ娘が2人を下して頂点を証明するか、か。

 

「まずはジャパンカップだな。今年は海外から凄いウマ娘が出走してくるらしいからな」

「あ、知ってる。プランシェットさんでしょ」

「そ。向こうの年度代表ウマ娘を獲得したこともある、今海外で注目を集めているウマ娘だな」

 

 2つのティアラにアメリカのブリーダーズカップを制した経験もあるウマ娘。ジャパンカップに出走予定らしく、陣営も気合いを入れてくることが予想できる。海外ウマ娘では最優先で警戒すべき相手だ。

 

「後は引き続きゼンノロブロイ。そして今回はシーザリオも出走予定だ」

「お~、ザリちゃん! クラちゃんとも走ったね!」

「ケガの影響もないらしいな。ただ、復帰明け初戦だから警戒は薄めで構わない」

 

 こまごまとしたことを伝えていると、日直だったらしいクラフトが遅れてやってきた。息を切らしているところを見るに、急いできたんだろう。

 

「お、遅くなりました~」

「日直だったんだろ? 気にするな。ただ、クラフトには来て早々悪いが対策会議をするぞ」

 

 ジャパンカップの打ち合わせが終わったタイミング。丁度いいので、このままクラフトの方に移ろう。

 

 クラフトが出走するのはマイルチャンピオンシップ。京都の芝1600mのレースだ。

 

「人気を集めているのは、クラフトと同じローテできているデュランダルだな」

「デュランダルさんっ」

「現在二連覇中。次も勝てば前人未到の三連覇。短距離も勿論強いが、この距離なら彼女の追込はさらに脅威を増すだろう」

 

 一応、スイープトウショウ相手にトレーニングすることで追込の対策はできる。ここが救いか。てか、一応スイープトウショウと一緒のチームなんだけどな、デュランダル。その割には何度も来るというか。

 これは気にしなくていいだろう。他にも注意すべきウマ娘はいる。

 

「次は天皇賞・秋からくるダンスインザムード。クラフトと同じ桜花賞ウマ娘で、こっちのマイルの方が彼女の主戦場だな」

「……負けられませんっ!」

 

 なんか違う意味で闘志を燃やしてそうなクラフト。気にすることはないか。

 

「後はダイワメジャー。長期離脱してた皐月賞ウマ娘で、着々とマイラーの地位を確立しつつあるウマ娘だ」

「あ、メジャーさんだ」

「メジャーさんって確か、喘鳴症で長期休養を余儀なくされたんですよね?」

「そう。今年の4月に復帰して、前走の毎日王冠を5着に入っている。復調してきているらしいし、警戒は上げておいて損はないだろう」

 

 それでも、優先度は前2人と比べて下がるが。

 

 出走するメンバーのおさらい、その中で特に警戒すべき3人の名前を挙げ、レースに向けて態勢を整える。クラフトは不安があるのか、少しだけ俯いていた。

 相手の強さを知っているからこその不安。分からないでもない。

 けれど、クラフトには積み上げてきたものがある。

 

「いいか、クラフト。自信を持つんだ」

「は、はい」

「確かに相手になるウマ娘は強い。だが、相手からすればお前の存在の方が脅威だ」

 

 未だ無敗のウマ娘。世代の桜花賞ウマ娘で、NHKマイルとの変則二冠を達成した猛者。スプリンターズステークスでは香港最強と呼ばれたウマ娘を、6cmの差で下したんだ。警戒度は段違いだろう。

 勢いに乗っている。勝利の波に乗れている。相手からすれば、これほど怖い存在もいない。

 

「知ってるか? お前は世代の3番手なんて呼ばれているんだぞ? ディープとカイザーに次ぐ評価を得ている」

「そ、そうなんですか!?」

「そうなんだよ。だが、3番手で満足していいのか?」

 

 怪物と呼ばれる2人に次ぐ3番手の評価。クラフトからすれば嬉しいことだろう。しかし、そこで満足するのはクラフトの目標に反する。

 

「お前だけの道を進んで、ディープやカイザーを押しのけるくらいになれ。ここらで一皮むけるんだ」

「一皮、むける」

「あぁ。自分だけの道を進む開拓者としてな。あ、でもそれはそれとして無事に帰ってきてね」

 

 ケガは本当に洒落にならないから。それだけは注意して走ってほしい。

 

 意図は伝わったようで、クラフトは深く頷いた。

 

「分かりました。スプリンターズステークスで不思議な体験もしましたし、カイザーさんに負けないように頑張ります!」

「クラちゃん頑張って~」

「はい、頑張りますねカイザーさん!」

 

 うんうん、良かった。

 

 

 対策会議は一段落。トレーニングも休みの予定だし、このまま2人は帰るかな、なんて思っていた。

 

「あ、あの、トレーナーさん。ちょっといいですか?」

「なんだ? なにか分からないことでもあるのか?」

「えっと、昨日の秋天の事なんですけど」

 

 だが、クラフトに呼び止められる。カイザーが出て行った後に話してきた。

 話というのは秋天の事。大体の察しはついた。

 

「もしかして、カイザーの弱点の事か?」

「はい。なんとなく気づいたんですけど、腑に落ちなくて」

「うぅん……ま、答え合わせがてら話を聞くとしよう」

 

 クラフトもあのレースを見て気づいただろうしな。なお、答えが間違っていた場合は教えずに去る予定。一応ライバルだからね。

 

 再びソファに腰を据えて話すことに。

 

「で、クラフト。カイザーの弱点ってのは?」

 

 聞いてみるが、口をもごもごさせて言いづらそうにしている。果たしてどんな胸中なのやら。

 そんなに長くは待たなかった。意を決した表情のクラフトは、まっすぐに俺を見ている。

 

「ロブロイさんはカイザーさんにぴったりと張り付いて、カイザーさんよりも先にスパートをかけました。その時、トレーナーさんとルドルフさんが言いましたよね? あぁなると弱いって」

「確かに言ったな。てことはつまり」

「カイザーさんはロングスパートをかけられない。瞬発力がある反面、長く持続する末脚を発揮できない、ってことですよね?」

 

 某クイズ番組みたいに焦らそうとも思ったが、面倒なので止めた。言葉にする代わりに、拍手で答えを示す。ヒントはあったし、気づいてもおかしくはない。

 

「そう。カイザーはロングスパートをかけられない。ほとんどのレースはラスト1ハロンでぶっ飛ばす、ってのが大半だ。アイツに勝つには、同じ位置からロングスパートで先に抜け出すしかない」

「スパートに見える今までのアレも、カイザーさんからすれば」

「ノーマルのペースに戻しただけだ。全く、とんでもないスピードだわ本当に」

 

 さて、ここで気になるのは、クラフトの疑問だ。

 彼女は腑に落ちない、と言った。この弱点を知って、気になることがあるに違いない。

 

「で、腑に落ちないってのは?」

 

 単刀直入に聞く。今更取り繕っても仕方ないしな。

 どこか不安げな表情のクラフト。今度はさっきよりも待つ時間は短かった。

 

「その、確かにロングスパートをかけられないのは弱点かもしれませんけど。でも、カイザーさんの場合特に問題じゃないような気が」

「そりゃまたどうしてだ?」

「だって、対策を取ったロブロイさんを最後には躱したじゃないですか。対策取っても勝てるなら、弱点じゃないような気がして」

 

 クラフトの疑問はとてもシンプルだった。弱点を突いても問題なく勝ったのに、それは果たして弱点と言えるのか? という問題。

 当然の疑問だ。弱点を突かれてなお勝てるアイツの方がおかしいとはいえ、そんなものが弱点と呼べるのか。そりゃ疑問に思うわな。

 

 ただ、これに対する答えもまたシンプル。

 

「勝負はギリギリだった。なんとか半バ身差乗り出して勝っただけだ」

「で、でも!」

「確かに勝ちは勝ちだ。だが、カイザーにとっての弱みであることは事実だ」

 

 あの展開が、カイザーにとっての弱点であることに変わりない。そう、たとえあの展開に持ち込んでも世代最強レベルのステイヤーじゃなけりゃ勝てない、としてもだ。なんだアイツの強さ、バグかよ。

 

「弱点突いただけで勝てるほど、アイツは甘くねぇってだけだよ。それに、アイツにとっての天敵はステイヤー以外にも存在している」

「そうなんですか? それって、誰ですか?」

「クラフトも知ってるウマ娘だ。サイレンススズカ……彼女もまた、カイザーにとっての天敵に等しい」

 

 落ちない巡航速度を維持して、最後には二の足を炸裂させる天性のスピード。サイレンススズカもまた、カイザーにとっての天敵である。届かない位置でのスパート勝負になったら、後ろにいるカイザーの方が不利だからな。

 もっとも、それも今のカイザーの話だが。

 

(まだまだ底じゃない。アイツは本当に、どこまで成長するのやら)

「なんにせよ、アイツにとっての弱点であることには変わりない。カイザーに勝つための最適解に近いのが、同じ位置からのロングスパートだ」

「は~……」

 

 呆けた表情のクラフト。可愛い。

 

 

 話はこれだけだったようで、クラフトも帰り支度を済ませる。

 

「ありがとうございました、トレーナーさん。それではまた明日!」

「お~う、また明日な」

 

 どちらも順調。この調子を維持したいものである。

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