担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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開花する才能

 場所は京都レース場。気づけばこの日がやってきた。

 

「さて、と。ついにこの日が来たな」

「はい。マイルの頂点を決める戦いの一つ、マイルチャンピオンシップですね!」

 

 控室にいるクラフトの気合は十分、今すぐにでも走りたそうにうずうずしている。G1の舞台にも慣れてきたようで、メンバーに対する怯えはなくなっていると言っていいだろう。

 

(それに、今回出走するメンバーではクラフトの戦績が一番だからな)

 

 世代限定戦とはいえ、マイルG1を3勝、混合戦でも短距離G1を1勝だ。すでにG1級を4つ制しているクラフトは、世代の頂点と呼ばれてもおかしくはない。上にいる2人がさらにおかしいだけだ。

 

 自信を深めていることだろう。そういう時こそ怖いんだが、クラフトならしっかりと分かっていることだ。

 なので、俺からアドバイスすることなんてほぼないが。あえて言うのであれば。

 

「クラフト。苦しい場面こそ前を向け」

「え? ど、どういうことですか?」

「アレだ、気持ちのありようってやつだな。苦しい時は下を向きがちになるが、そうなるとさらに苦しくなっちまう。だから、前を向くことが大事だ。なんなら空を見上げるくらい、思いっきり上げろ」

 

 ついでに進路を見やすくなるし。良いことづくめなので前を向くのが一番だ。

 

 あいにくと、俺にはコイツに気をつけろとか、最近伸びてきたから注意が必要だ、とか曖昧なことしか言えない。クラフトならば、余計な情報を与えて混乱させるよりも、自分の実力をいかに発揮させるかに絞った方が間違いないだろう。

 

「空を見上げるくらい前を、ですね。分かりました!」

「あ、でも本当に空を見上げるなよ。進路見えなくなるから」

「も~、分かってますよ」

 

 笑うクラフト。意図せずして緊張がほぐれたようだ。結果オーライってやつだな。

 

 

 伝えることは伝えたので観客席へと戻る。強豪揃いのマイルCS、クラフトがどんな結果を残してくれるか。

 

(後は気負わない程度に頑張ってほしいな、うん)

 

 クラフトの無事を願って。観客席へと戻っていく。結構長いんよな、ここ。

 

 

 

 

 

 

 天気は晴れ、芝は絶好の良バ場日和。ウマ娘が走るにはもってこいの舞台だ。季節の影響か、日が沈む時間も早くなっているけど。

 レースプログラムはよどみなく進み、メインレースであるマイルチャンピオンシップを迎える。ウォーミングアップを終えたウマ娘達がゲートへ足を運び、発走の時を待つ。

 

《京都レース場の芝1600m、秋のマイル王者決定戦マイルチャンピオンシップ。前人未踏の記録を打ち立てることができるか? 現在二連覇中の7枠14番デュランダル! 2番人気での出走です!》

《今回勝てば三連覇。枠番も、彼女の脚質を考えれば悪くないでしょう。後は展開が向くかどうかですね》

《このマイルチャンピオンシップで復活を図る皐月賞ウマ娘、6枠12番のダイワメジャーは4番人気。そして堂々の1番人気には現在無敗、世代のマイル王者ラインクラフト! 最内枠の1枠1番、これがどう影響するか!》

《ラインクラフトも良い枠番をもらえましたね。彼女の脚質には合っているのではないでしょうか?》

 

 クラフトは絶好の枠番、最内枠の1枠1番だ。これが貰えたのはでかいな。後は、立ち上がりがどうかってところか。

 

 最後のウマ娘がゲートに収まり、京都レース場全体が静まり返る。この瞬間だけは、今でも慣れない。緊張してしまう。観客席にいる俺ですら緊張するんだから、クラフトたちはなおさらだろうな。

 

《態勢整いました。秋のマイル王、その座に輝くのはどのウマ娘か? 全てを薙ぎ払う聖剣か、皐月賞ウマ娘の復活か、新時代の開拓者か! マイルチャンピオンシップが今、スタートしました! 揃って綺麗なスタートを切ります、誰がハナを取るか、注目の先行争い!》

 

 そんなことを考えていると、ゲートからウマ娘達が一斉に飛び出してきた。レースが始まる。

 

 観客席にはいつものメンバー。ダイタクヘリオスがいないぐらいか。

 

「さて、今回のメンバーで注目を集めているのは、やっぱりラインクラフトだな」

「クラちゃん1番人気だもんね~。大人気ウマ娘だよ」

「マイルCS二連覇のデュランダルに、皐月賞ウマ娘のダイワメジャーを差し置いての1番人気だ。彼女の地位も確立されつつある」

 

 言いながら鋭く視線を向けているスピードシンボリ。その先にいるのは、見事なスタートを切って最内を駆け抜けるクラフト。カイザーほどじゃないが、クラフトも先行脚質のウマ娘。スタートはお手の物だ。

 

 熾烈な先行争い。ラインクラフトとダイワメジャーが同じ位置、後は逃げの子達が差を広げようとかなり飛ばしている。

 

《スプーキーナイトが飛び出してきます。競り合うようにオリジナルシャイン、その後ろ内側の位置にラインクラフト、世代のマイル王者がこの位置。ラインクラフトをマークするダイワメジャー、ダンスインザムードも先行策。ここからどういった展開を見せるでしょうか?》

《やはり、早めのペースになると思いますよ。ラインクラフトが先行策である以上、逃げウマ娘は逃げなければ、という意識をしなければなりませんからね》

《そうなると、怖いのは最後方に控えるデュランダル。いつものように出遅れてまたも最後方だデュランダル。だが、この位置こそが彼女のベストポジション。全てを薙ぎ払う聖剣の末脚、京都の舞台で輝くかどうか?》

 

 デュランダルは追込、出遅れたと言っても予定通りみたいなもんだ。大した不利にはならない。マイルチャンピオンシップはバ群がバラけやすいから、その分外を回らなきゃいけないってことぐらいか。

 

(思えば、レースに関する知識も随分と蓄えたもんだ。トレーナー試験の必須科目だったとはいえ、前世よりもはるかに増えている)

 

 坂がどこにあるとか、ここのレース場はこういう展開になりやすいとか。結構考えることは多い。勉強すればするほど、二度同じレースはありえない、なんてのがよく分かる。

 

 現在のレースは、クラフトにとって追い風になっているな。逃げの子が1人前を走っているが、勢いのままに駆け抜けている。あのままだと外に振らされるだろう。

 

「ラインクラフトはベストポジションだね。最内の枠を活かして、最短経路を進めている」

「出遅れもないし、バ群に揉まれなかった。こりゃ、良い調子で走れるぞ」

 

 分析するシンボリルドルフ。他もおおむね同意見なのか、口を挟まさずにレースを静観だ。後は、ダイワメジャーやダンスインザムードがどのタイミングで動き出すかに掛かっている。

 資料は確認した。ダイワメジャーたちがどんなウマ娘で、どこで仕掛けるかの予測を立てた。考えられるのは、第4コーナーに入ってから。

 

(長く使える脚が持ち味のダイワメジャー、ダンスインザムードはクラフトと同じ位置で勝負を仕掛けてくる。デュランダルは最終直線、か)

 

 あくまで予測に過ぎない。彼女らがどこで仕掛けるかは、俺にも分からない。それでも、この予測が合っていることを信じるしかない。

 心臓がバクバク鳴っている。早く答えを出してくれと、そう口にしたくなる。クラフトは現在4番手、順調に自分のペースを展開していた。

 

 

 運命の分かれ目第4コーナー。俺が立てた予測は、当たった。

 

《第4コーナーの中間。ここでダイワメジャーが動きます。ダイワメジャーが動いた動いた。ダイワメジャーが単独2番手に浮上、逃げるスプーキーナイトを追いかけるダイワメジャー。この動き出しにはっ、つられないラインクラフトは最内を虎視眈々と進みます》

《彼女もまた強いメンタルの持ち主ですよね。全く動じずに、自分のレースを展開しています。ここで焦れば、ダイワメジャーの思うつぼですから》

「動じない、か。それもそうだろう。ねぇ、ルドルフ?」

「こちらを見ないでいただけますか、スーさん」

 

 恥ずかしそうに頬を染めているシンボリルドルフ。ちょっとレアだ。

 それはさておき、シニアの猛者相手に動じず、自分のレースを展開するのは確かに凄いことだろう。これに関しては、まぁ、うん。普段から相手にしてきたのがヤバかっただけというか。

 

「普段からシンボリルドルフにカイザーを相手にしてれば、そりゃあねぇ」

「アッハッハ! 確かに、その2人を相手にしているんだ。よっぽどの相手じゃなければ彼女は動じないだろう!」

「榊トレーナーに、佐岳さんまでっ」

「アハハ! ルドルフ会長顔赤いね!」

 

 咳払いをするシンボリルドルフだが、仕方ないじゃん事実だし。お前とカイザーを相手にして動じないウマ娘はほぼいないぞ。プレッシャーが半端じゃないから。

 

 なんにせよ、ここでダイワメジャーについていかなかったのは正しい判断だ。長く使える脚が武器のダイワメジャーについていったら、クラフトのスタミナがもたない。ここはグッとこらえて、最後の直線に向けて力を溜めるのが正解だ。

 後警戒すべきは、どこまで離されないか。つられなかったのは大事だが、最終的には追い抜かないと意味がない。勝つためには、どこで仕掛けるかも重要になってくる。

 

 

 後続が差を詰め、さらにペースが上がるレース。先頭はスプーキーナイトで変わらず、ダイワメジャーが2番手で最後の直線に入る。

 バ群は予想通りばらけていた。あぁなると紛れはなくなる。前が壁になるとか、抜け出すのに手間取るとかもなくなるだろう。

 そうなると怖いのは、中団や後方に控えていたウマ娘達。先行集団よりも脚を残している彼女達が牙を向く。

 

《ここからは怒涛の展開、最後の直線に入りました! 早々にスプーキーナイトを躱したダイワメジャー、単独先頭に躍り出る! しかし最内からラインクラフトが追い上げてきた、ラインクラフトが末脚を爆発させる! 外からはダンスインザムード、そして後ろからデュランダルが飛んできた!》

《最後の直線を向けば、そこは彼女の独壇場! ここからデュランダルが伸びてきますよ!》

《ダイワメジャー先頭、ダイワメジャー先頭。ここからの粘りが彼女の持ち味! 最内ラインクラフトがダイワメジャーへ襲い掛かる! ダンスインザムードも負けられない、同じ桜花賞ウマ娘として負けられない!》

 

 白熱するレース、追い上げるクラフト。ダイワメジャーの脚色は衰えていない、ここからどこまで詰められるかが勝負の分かれ目。

 

 現在の差は3バ身程。距離は残り300m。壁になるようなウマ娘はおらず、純粋な末脚の勝負だ。

 じわり、じわりと差を詰める。どうにか差を詰めているが、ダイワメジャーの勢いが衰えていない。追いつくのには、かなり厳しい。

 懸命に力を振り絞っているのが見える。必死に、前を走るダイワメジャーに追いつこうとしているのが見える。

 

「頑張れクラちゃーん! いけいけー!」

「頑張れクラフトー! まだまだ終わりじゃねーぞー!」

 

 無意識に力が入る。誰に祈るわけでもなく、どうか届いてくれと願う。

 

 そんな時だった。ふと、クラフトが空を見上げた。

 

「っ」

 

 思い出すのは控室でのやり取り。苦しい時、下を向くくらいなら前を見ろ。むしろオーバーに空を見ろと言ったことを思い出す。クラフトは今、それを実践した。

 はは、まさか本当に空を見上げるやつがあるかよ。思わず笑いそうになるが、大事なのはここからだ。

 

《ラインクラフトの勢いがさらに増す! 世代のマイル王者が、日本のマイル王者になろうとその末脚を爆発させる! これは凄い脚、これは凄い脚! まさに剛脚を響かせるラインクラフト! 3バ身の差が見る見るうちに縮まっていく!》

《しっかりと脚を残していましたからね。ここから粘れるかダイワメジャー! デュランダルも伸びてきていますよ!》

《ダンスインザムードも食らいつく、ダンスインザムードも喰らいついている! デュランダルはどうか、デュランダルはまだ中団! 残り100m、ラインクラフトがダイワメジャーを捉えにかかる!》

 

 クラフトの末脚がさらに増した。纏っている雰囲気が、別物に変わる。あぁ、これはアレだな。

 同じように気づいたシンボリルドルフも、笑みを零している。まるで祝福するように、新たな時代の産声を喜ぶように。

 

「ようこそラインクラフト。君の到達したその世界こそが──【領域(ゾーン)】だ」

 

 領域の世界に足を踏み入れたラインクラフトを、歓迎した。

 

 

領 域

 

 

開花する開拓者

 

 

 勢いは完全にクラフト。ダイワメジャーも必死に粘るが、クラフトの勢いに押されてしまった。2バ身、1バ身と縮まる。その差は、最終的に0になる。いや、0からプラスになった。

 

《ラインクラフトが捕まえた! 先に抜け出したダイワメジャーを捕まえた! 並んで! 追い抜いて! 躱した! これが日本の新たなマイル王者、大輪の開拓者・ラインクラフトだァァァ! 最後に発揮した凄まじい剛脚、まさに圧巻の一言! ラインクラフトが突き抜けました!》

 

 最後にはダイワメジャーを躱して、クラフトは無事にマイルチャンピオンシップを制した。

 

「やったやったー! クラちゃん勝ったー! いぇーい、ブイブイ!」

 

 これにはカイザーも大喜び。ぴょんぴょん跳ねて我がことのように喜んでいる。

 

 ダイワメジャーと二、三言交わした後、笑顔でこちらを向く。

 

「勝ちましたよー! カイザーさん、トレーナーさーん!」

 

 まるで花が咲いたような笑顔だった。眩しいぜ、畜生め。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに後日。

 

「さぁクラフトさん。レースしましょうレース。今日は負けません」

「な・ん・で! レース終わった直後に受けてもらえてると思ってんのよこの姉は~!」

 

 いつの間にか仲良く? なっていたダイワメジャーとクラフト。模擬レースを仕掛ける対象が増えた。

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