担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

38 / 82
本番に向けてのインタビュー

 今日は有記念の出走直前インタビューの日。メディアからの質問に答えなければならない日だ。

 

 仕方ないとはいえ、これが結構面倒くさい。いや、記者がどうこうという問題ではなく。それもあるが単純に面倒だ。

 

(最低でも何時間かは拘束されるわけだからな。順調にいっても、しばらくは記者の質問に受け答えしなきゃいけない)

 

 そんなに、と思うかもしれないが、今のカイザーはディープインパクトに並ぶ世代の顔役、それくらいは拘束される。あれこれ聞かれるのだ。全く、1時間もしないうちに終わった頃とはえらい違いだぜ、本当。

 

 長い時間拘束される。それすなわちトレーニングができずに走ることができない。カイザーにとって多大なストレスになるのではないか、そう思っていた時期もあった。

 

「それではハレヒノカイザーさん。次の質問なのですが、注目しているライバルなどはいますか?」

「うーん、やっぱりプイちゃんかな。ここでようやく初対決だからね」

「クラシック戦は見送りましたからね。ですが、その代わりたくさんの偉業を成し遂げました。例えば宝塚記念制覇だったり」

 

 ただ、意外にもカイザーは普通だ。ストレスを溜め込むことなく、記者の言葉に一喜一憂したり、よどみなく答えたりする。特に不満を抱えているようには見えない。

 おかげさまで、インタビュー関連で苦労したことはない。だってカイザーに何も問題がないからね。俺がやらかさなければ最短時間で終わる。ありがたい限りだ。

 

 まぁ、インタビューで苦労しなくても世間での書かれ方には苦労するんだが。これはもう有名税みたいなものだ。一定は仕方がない。

 

(ディープインパクトのライバル、カイザー自身もそう発言しているから、メディアは面白おかしく書き連ねるからなぁ)

 

 向こうも生活が懸かっているとはいえ、ちょっと誇張するのはいかがなものかと思う。割と多いのだ、そういうことが。

 代表的な例でいえば、やはり天皇賞・秋の一件だろう。カイザーが指を立てたアレだ。シンボリルドルフがクラシック三冠の時にやっていたパフォーマンス。

 アレは本来、カイザーがカッコいいから真似ただけ。しかしメディアはそう捉えなかった。

 

(ハレヒノカイザー、秋シニア三冠宣言! だもんなぁ。これはメディアが全部悪いわけではないが、俺の言い訳なんて聞きやしねぇ)

 

 何を言おうと暖簾に腕押し。全く意味がなかったし、結局アレは秋シニア三冠宣言として受け取られてしまった。これで負けようもんなら俺がなんか言われるんだろうなぁ。あはは。

 

 有名人が苦言を呈する理由を身をもって理解したわ。むしろ良くキレ散らかしたりしないな。アンガーマネジメントが完璧なのだろうか。

 

「カイザーさんと言えばやはり三冠宣言! ディープインパクトが相手でも負けるつもりはない、そう捉えても大丈夫でしょうか!?」

「う~ん、とはいってもプイちゃんも強いからね。一筋縄じゃいかないかな。それに、プイちゃんを警戒しすぎたら他の子に負けちゃうかもだし、一筋縄じゃいかないね、うん」

 

 カイザーは本当にね。いつもと変わらない受け答え、普段の彼女からは想像ができない完璧な受け答えだ。ライバルはディープインパクトだけではない、意識を割きすぎたら他に負けると念頭に置いている。

 それに加えて。

 

「でも、それでも勝っちゃうよ~? 私のファンが応援してくれるからね、頑張っちゃう!」

「う~ん、素敵な笑顔ありがとうございます! 今日も可愛いですね~」

「むふふ~。もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

 

 この愛嬌だ。他人を立てつつも自分のアピールを忘れずに。謙遜だけではなく、確かな自信を誇示して嫌味を感じさせない。まさかのインタビューも完璧である。

 これもあってか、カイザーはメディア相手でも好印象を残している。なんなら嫌いな相手でもグイグイ詰めてくるからな。

 

(嫌味なメディアもいるにはいた。だが、カイザーにインタビューしたらファンになって帰っていったな)

 

 ねちねちチクチクとカイザーに質問していたが、カイザーは全ての質問に笑顔で答える。しかも、嫌味な質問にも気を悪くすることなく、だ。なんだコイツは、聖人か?

 結果、カイザーの笑顔で浄化される人が多数。今では立派なカイザーファンである。今日も元気にトゥインクル・シリーズの記事を書いていることだろう。

 

 余談だが、このインタビューは基本カイザーへのものだ。俺に対する質問は少ない。なので、インタビューには特に関係ないことを考える余裕がある。

 

(俺は本当にいるだけ。ま~そのうち質問されるから、その時に適当に答えておけばいいや)

「それではハレヒノカイザーさん、最後にトレーナーと一緒に笑顔の写真を撮りましょう」

「はーい!」

 

 なお、唐突にカイザーから腕を組まれたことで思考を現実に引き戻される。なんだお前は唐突に。

 

「ほらトレーナー、写真撮ろ写真! ピースピース!」

「分かった、分かったから腕を組むのは止めなさい。距離感が近いのよ君は」

「そうなの? クラちゃんとかプイちゃんとはよくこうしてるけど」

「その2人にはどんどんやりなさい」

 

 年上の男相手にやるのと、同じ学生相手にやるのとでは需要が違う。どう考えても後者の方が需要がある。なんなら俺が見たい。

 

 写真を撮ったら終わり、なんてことはなく。

 

「それでは、次は榊トレーナーへの質問です」

「あ、はい。どうぞ」

 

 当然俺へのインタビューが控えていました。そりゃカイザーが終わっただけだからな。俺にもあるわそりゃ。

 

「ずばり、今回の有記念で一番注意している陣営はどこでしょうか?」

「ある意味では予想通りかもしれませんが、ディープインパクトですね。トレーナーも学園トップの人ですし、ディープインパクトの実力も相当なもの。やはり最優先で警戒しています」

「おぉ、やはりディープインパクトですか! 強いですものね、彼女!」

 

 露骨にテンションが上がる記者さん。ライバル関係を売りに出したいのかね、知らんけど。

 ただ、ディープインパクトだけじゃない。もう一人いる。

 

「同じくらい警戒している相手がいます。それが、ハーツクライです」

「ハーツクライ、ですか。直近の成績は天皇賞・秋が7着、ジャパンカップが4着ですが、なにか気になるところがあるのでしょうか?」

「えぇ。ジャパンカップでいつもの戦法を変えて挑んできてました。おそらくですが、カイザーに向けた対策を練っていると思われます」

 

 ハーツクライ。こちらも警戒しなければならない。何を仕掛けてくるのか、全く予想がつかないのだから。

 

 

 俺に対するインタビューも中々の密度。とにかく、全員をライバルとして見ていますマインドを前面に押し出して、当たり障りのない回答に終始した。

 

「と、こんな感じでしょうか」

「ありがとうございます! 現在一番勢いのある、新進気鋭の新人トレーナーですからね。担当はどちらも無敗、しかもG1を複数勝利! 話題性もばっちりです!」

「ありがたい限りですね。これからも驕ることなく、先輩達に並べるよう頑張っていきたいと思います」

 

 新進気鋭、と言われて悪い気はしない。しかも、若手ではトップらしいですよ俺。フハハ、最高の気分だ。表には絶対に出さないけど。

 

「恐縮です。みなさんの応援が励みになりますので」

 

 これで俺達のインタビューは終わり。さて、この後はトレーニングじゃい。

 

「さて、カイザー。練習しに行くぞ。後日放送されるらしいから、気になるなら見てみるといい」

「はーい。楽しみだな~、いつ放送されるかな~?」

 

 スキップを踏むカイザー。今日も担当は楽しそうです。

 

 

 

 

 

 

 後日、練習終わりのある日。【有記念特番!あなたの私の本命ウマ娘は!】と銘打たれたテレビの放送が始まった。言わずもがな、この前インタビューされた奴の本放送である。

 俺は勿論視聴、なのだが。

 

「なんでカイザーもクラフトもいるの? 寮で見た方がいいんじゃないのか? みんないるし」

「え~? どこで見ても変わらないし、別にいいかなって」

「寮だとカイザーさんと見れないですから。わたしとカイザーさん、寮が違いますし」

 

 そういやそうだった。クラフトは栗東、カイザーは美浦だったな。ならいいか。いや、本当にいいのか?

 

 放送で俺達の番が来るとカイザーが大はしゃぎしている。

 

「ほらクラちゃん、私私! ふっふ~ん、この地上波デビューでさらにファンが増えるね」

「み、見えてますよカイザーさん。それに、カイザーさんは何度もテレビに出ているじゃないですか、もう」

「まぁまぁ、それだけ嬉しいってことだろ。何度経験しても、嬉しいものは嬉しいもんだ」

 

 この天真爛漫さですよ。カイザーの癒されるところ。本当にね、いい子なんですわ。

 

 

 順番が進んで、ハーツクライの番がやってきた。やってきたのだが、気迫が凄い。テレビ越しでもオーラが伝わってきそうなほどだ。

 

《まもなく有記念。全員を警戒していると思われますが、一番警戒しているのはどのウマ娘でしょうか?》

《ハレヒノカイザーです。先の2戦、宝塚記念を含めて3戦、彼女にいいようにやられているので。ディープインパクトよりも彼女を最優先で警戒しています》

《おぉ~》

 

 しかも、直々に指名されたと来た。カイザーは、ニコニコ笑顔である。

 

「ハーツさん気合入ってるな~。これは、次のレースも楽しみだな」

 

 うん、いつもと変わらんね君。安心したよ。

 

 ハーツクライの気合の入りようは凄まじい。インタビュアーのお姉さんもたじたじしている。

 

《え、え~っと、かなり気合が入っていますね! それはやはり、今度こそはという思いが強いからですか?》

《そうだ。あと一歩、あと一歩と言われ続け、これまで何度もG1の栄光がこの手からすり抜けていった。あの屈辱は、何度味わっても慣れるものではない》

 

 鋭い目。睨まれているわけじゃないのに、自然と委縮してしまう。ハーツクライの纏う雰囲気は、すでにレースのモノと遜色がない。

 手を力強く握りしめ、決意を固めている。ゆるぎない信念をもって答えた。

 

《今度こそは、勝利してみせる。誰に何と言われようが関係ない。俺の走りで、衝撃の英雄も、太陽の皇帝すらも超えてみせる。これは、俺の証明だ》

 

 めっちゃ気合入ってますやん。修羅だよ修羅。眼光も相まって、対戦する時が怖いわ。

 てか、さりげなくカイザーのことを太陽の皇帝って称しているのか。これがカイザーの二つ名なのだろうか?

 

「最近言われ始めてきたらしいですよ。会長さんの後継者で、太陽のように明るく笑顔でレースをするから、太陽の皇帝らしいです。後はハレヒノの晴れにかけてるんだとか」

 

 説明してくれるクラフト。そうなのか、初めて知ったよそんなこと。

 二つ名がつくと、こう、なんか嬉しいな。しかも太陽の皇帝って結構いい感じじゃないか? これにはカイザーもご満悦の表情。

 

 

 ハーツクライが終わって、今度はディープインパクトの番がやってきた。やってきた、のだが。

 

「んん?」

「どうかしましたか? トレーナーさん」

 

 クラフトの心配する声が聞こえてきたが、ちょっと気になることがある。ディープインパクトの調子が、前見た時よりも落ちているような気がするのだ。

 

 前回トレーニング場で見かけた時は絶好調だった。それこそ、1週間前とかそれくらいの話。なのに今は、好調まで落ちている。

 

(インタビューは普通に受け答えしているが、なんというか)

「いや、ディープインパクトの調子が悪そうに見えてな。なんつーか、調子を落としている、というか」

「え? わたしはそんな風に見えませんけど」

「私も。プイちゃんはいつも通りじゃない?」

 

 まぁ、絶好調と好調でさして変わらないってのもあるだろうが、判断は難しいだろう。チートで調子も見れるからこそ、かもしれん。

 それにしたって、ディープインパクトは気負いすぎのような気がする。

 

《ついにハレヒノカイザーさんと戦えますから。この時を、ずっと楽しみにしていました》

《そうなんですね。やはり彼女は大切なライバル、と!》

《そうなんです! 学園でも凄く綺麗な走りをする子で、気づいたら目で追いかけちゃってて》

 

 随分とおいおいおいだったりあら~なエピソードを語っているが、それ以上になんていうか。

 

(カイザーと走るのが楽しみすぎて、遠足前みたいな気分になってる? なんつーか、楽しみすぎて興奮が収まらない、みたいな)

 

 いやいやまさか。そんなことがあり得るのか。まさか、楽しみすぎて夜眠れないタイプだったりするのか? ディープインパクト。

 そもそも、ディープインパクトがゲート苦手な理由が、入れ込みすぎる性格のせいって言われてるしな。他のトレーナー陣がそう判断していた。

 もしかしたら、あるのか? 本当に。そんなことが。

 

「わ、分からん。とりあえず、どうなるんだ本当に」

「ねー、プイちゃん強いもんねー」

「ディープさんは強いですからね。強敵ですっ」

 

 心配している部分がズレているが、そんなことが気にならないほどにディープインパクトが心配だった。これ以上調子を落とさないといいんだが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。