担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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突然の家庭訪問

 担当の2人と初詣に行った帰り、カイザーの実家に寄ることになった。本来なら断る予定だったのだが、カイザーが外堀を埋めまくってきたので無理だったね。断る理由がどんどん削られていったよ。

 

 そんなわけでカイザーの実家に着いたわけだが、ちょっと豪華な一軒家みたいな感じだ。見るからに分かる金持ちの家とかではないが、裕福なんだなとは分かるぐらい。

 

「お父さーん、お母さーん、帰ったよー」

「お、お邪魔しま~すっ」

 

 チャイムを鳴らすことなく玄関の扉を開くカイザー。恐る恐る入るクラフトと俺の構図だ。

 まず出迎えてくれたのは、顔立ちがカイザーに似ているウマ娘。見た目はめちゃくちゃ若く見えるが、おそらくこの人がカイザーの母親なのだろう。

 

「お帰り、カイザー。ご来光の山登りは楽しかった?」

「うん、楽しかったよ!」

 

 笑顔で返事をするカイザーに顔を綻ばせる母親。笑顔になるとカイザーの親なんだなってのがよく分かる。顔立ちがそっくりだ。

 

「そう。それは良かったわ。それとあなたたちが」

「ら、ラインクラフトです!」

「初めまして。榊幸光と申します。トレセン学園でハレヒノカイザーさんのトレーナーを務めています」

「これはどうもご丁寧に。カイザーの母です。立ち話もなんですから、どうぞおあがりください」

 

 丁寧に頭を下げて社交辞令のあいさつ。お言葉に甘えさせて、カイザーの実家に上がることに。

 

 中では父親と思しき男性と、アスケラの合同トレーニングの際にもいたブランポラリスがのんびりとテレビを見ていた。こちらに気づいたブランポラリスが慌てふためいている。

 

「あ、あれ? なんでねぇねのトレーナーさんが?」

「私が呼んだんだ。初詣済ませるついでにどうかなって」

「あ、あ~……大変ですね、榊トレーナー」

 

 憐みの視線を送られる俺。姉妹だから大体のことを察したんだろうな。

 

「これはこれは。こんな格好ですみません。ハレヒノカイザーとブランポラリスの父です」

「いえ、大丈夫です。私は榊幸光、ハレヒノカイザーさんのトレーナーをしています」

 

 父親とも握手を交わしてあいさつ。父親の第一印象は、物腰の柔らかい人。優しそうな人だなぁと思った。

 

 

 さて、お招かれされたのはいいが、いかにして過ごそうか。そう考えている矢先の出来事のことである。

 

「それじゃあクラちゃん、トレーナー。私の部屋で遊ぼうよ!」

「待て、クラフトはともかく俺はヤバい。さすがにお前の部屋に入るわけにはいかん」

「そ、そうだよねぇね! さすがにそれはまずいって!」

 

 唐突にカイザーの部屋にお邪魔することを提案された。ここに来ることまでは許したが、お前の部屋は無理だぞ俺は。年頃のウマ娘の部屋にお邪魔する成人男性とか絵面がヤバすぎるんじゃ。

 ブランポラリスにクラフトも止めにかかる事態。なお、当のカイザーは何が問題なのか分かっていない様子。嘘でしょあなた。

 

「え~? だって私の部屋に隠すようなものなんてなにもないよ? 別にトレーナーがいてもいい気がするけど」

「そういう問題じゃないのねぇね! 前々からそうだけど、ねぇねはトレーナーさんとの距離感を間違えてる! 友達みたいな距離感はまずいよ!」

「そうかなぁ?」

 

 首を傾げているがブランポラリスに全面同意である。というか、この話を親御さんの前でされる俺の気持ちを考えてくれ。お前の両親の表情を見ろ。なんともいえない困った表情を浮かべているから。

 

「まぁまぁカイザー。私達はちょっとトレーナーさんとお話しするから、あなたはクラフトちゃん達と遊んでてね?」

「ん~」

 

 不服そうな顔をするんじゃないよ。別に俺がいなくてもいいだろ。というか俺がいない方がいいだろ。

 

 最終的に、カイザーは渋々といった感じで了承。2階に上がって、クラフトやブランポラリスと遊ぶことを決めたようだ。

 しかし、カイザーの距離感よ。

 

「どこか俺を友達だと思っている節があるな、アイツ」

 

 基本的にアイツは誰に対してもあぁだ。なので、勘違いする要素はないに等しい。恋愛感情? ないない。

 

「うふふ、カイザーはトレーナーさんにとても気を許しているんですね」

「そうですかねぇ。誰に対しても同じ様な感じだと思いますよ?」

「それも否定できませんね。同級生の子に対してもあんな感じでしたから」

 

 勘違いする男の子は数知れずいたんやろなぁ。距離が近いからなおさら。

 

 俺だけ残され、カイザーのご両親と向かい合う。なんだろう、三者面談みたいな雰囲気だ。本人はいないから二者面談か。

 お茶とお茶菓子を出されたが、ちょっとばかり気まずい。誰が最初に口を開くか探り合っているような感じだ。す、凄い居心地が。

 

 その雰囲気を壊してくれたのは、カイザーの父親だ。

 

「その、榊さん。どう、でしょうか? 学園でのカイザーは」

 

 当たり障りのない質問。よ、よし。ここから話を広げていこう。

 

「学園でのカイザーさんは普通ですよ。友達も多いですし、いつも楽しそうに過ごしています」

「そ、そうですか。いえ、そこはあまり心配はしていませんでしたが、元気だと分かったのは嬉しいですね」

「あはは。まぁカイザーさんはあの性格ですからね。変わらない調子ですよ」

 

 誰にでも分け隔てなく接するウマ娘。異名である【太陽の皇帝】に相応しい明るさだ。そりゃみんな気を許すわ。

 誰かが一度口を開けば、後は適当に話題を提供する。カイザーに関することを挙げればいいからな。2人が気になっているのもそこだろう。

 

「レースもご覧になられましたか? かなりの大活躍ですよ」

「あ、見ました見ました! もう~凄い人気者になって。これもトレーナーさんのおかげです」

「いえ、カイザーさんご自身の才能ですよ。私は特になにも」

 

 レースの話をすると、母親の方が食いつく。日常生活の話をすれば、父親の方が食いつく。こうして、少しずつ打ち解けていった。

 

 緊張した空気が和らぎ、良い感じにほぐれてきた頃。

 

「その、ですね、榊さん。あなたに一つ、お聞きしたいことがあって」

「私にですか? 一体どのような?」

 

 ここからが本題、とばかりにご両親の表情が引き締まる。いったいどんなことを言われるのか、少しばかり身構えた。

 飛び出してきた質問は、やはりカイザーに関すること。それも。

 

「カイザーは、どこか無茶をしてはいないでしょうか?」

 

 現状を心配するものだった。無理なことをしていないか、身体を壊したりしていないか、体調を心配するものだ。

 表情は良いものとは言えない。心配が勝っているのか、とても不安げだ。

 

(両親だからだろう。カイザーのことを、よく分かっている)

 

 アイツがどんな性格で、無茶をしかねない人柄であることを。この人たちは見てきたはずだからな。

 

 だからこそ、心配することは何もないと伝える。実際、今のところ大きなケガはしていないからだ。ディープとの併走で起きた炎症は、うん。それは素直に打ち明けるけど。

 

「一度だけ脚の炎症を起こしましたが、それっきりです。体調面で特になにかあったことはありませんね」

「ほ、本当ですか? 隠したりはしていないでしょうか? カイザーから、口止めされていたりは?」

「されていませんね。なにより、お子さんの体調に関することで嘘は吐きたくありません」

 

 そう告げると、あからさまにホッとするご両親。それほどまでに心配だったのか。それも分かるような気がするが。

 

「心配なさっているんですね。彼女のことは、小さい頃から変わらずですか?」

「……そう、ですね。あの子がずっと小さい頃から変わりません」

 

 晴れない表情の母親が語りだす、カイザーの小さい頃の話。驚きの連続だった。

 

「あの子は自分自身を主張しない子でした。周りのことを優先して、自分のことは後回しにする、そんな子です」

「周りに合わせた生き方をする、というべきでしょうか? これが大人なら分かるのですが、カイザーの場合は小学生の頃からです」

「小学生の頃から、ですか」

 

 かつてブランポラリスに聞いたことがある内容。言ったのは俺だが、否定しなかったからな。カイザーが他人優先主義であることを。

 

「自分の趣味も、走ること以外に関心が薄くて。それに、とても聡い子でした。学校での成績も常に一番で」

「確かに、カイザーさんは学業も優秀ですよね。ポラリスさんに聞いたお話ですが、スポーツも優秀だったとか」

「そうですね。少し触ればすぐさま理解する、まさしく天才肌の子です。教え方も上手で、教えられた子はメキメキ上達していました」

 

 学業優秀でスポーツ万能、さらには育成能力もあるとかどこの完璧超人だアイツは。とんでもねぇハイスペックウマ娘だよ本当。

 だからこその懸念点、とも言うべきか。ご両親が心配していることはやっぱり、カイザー自身の欲求だ。

 

「ただ、あの子は本当に自分を後回しに考えてしまう子なんです。本当はみんなと走りたいのに、ゲームと言われたらゲームをして」

「それでも精一杯笑って、なんでもないように過ごして。カイザーのことだから楽しんではいるんでしょうけど、その笑顔にもどこか影があるような気がして」

 

 いくらなんでも考えすぎではないか、と思わずにはいられないが、それだけ心配しているのだろう。自分を主張しないカイザーのことを。

 

「それだけなら、まだ良かったのかもしれません。優しい子に育ってくれた、そう思うことができた」

 

 だが、そこが問題の本質ではない。本質はここから、カイザー自身が抱える問題点。

 

「あの子は小さい時、ケガをしたことがあるんです。走っている時、突然脚が痛いと言い出して」

「っそれは、どのような?」

「結果的には、あまり大きなものではありませんでした。ただの脚の炎症だと、お医者様からは診断されて」

 

 語るのも辛そうなご両親。それでも、覚悟を決めたように話し出す。

 

「ただ、何度も続くようになって。心配になって精密検査を受けたんです。その時の、診断結果が」

「カイザーは生まれつき、全力を出せない身体なのだと言われました。カイザーが出せる力は、ウマ娘の限界を超えている。もし本気を出してしまえば」

「……壊れてしまう、と。そういうわけですか?」

 

 こくりと頷くご両親。母親は今にも泣きそうで、父親は彼女を支えている。そりゃあ、辛いだろうな。

 

「奇跡でも起きない限り、あの子はこの先一生全力を出すことはできないとっ。あの子の身体は虚弱なのだと教えられて……っ」

「それでもあの子は、気丈に振舞うんですっ。なんでもないように笑って、今を走れるから私は大丈夫って、いつも笑って……っ!」

 

 自分に原因の一端があると考えているのか、母親の方は今にも崩れ落ちそうだ。父親が必死に支えているが、その父親も辛い表情が拭えない。

 

 親としては気が気じゃないだろう。彼らのおかれている状況を、今一度確認してみたい。

 カイザーは他人優先主義だ。これは小さい頃からそうであり、今も変わらない彼女のスタンス。これだけなら、まぁいいだろう。優しい子なんだなぁで済む。

 そこに加わるのが今語られた虚弱体質だ。虚弱体質、というよりは出せる力が大きすぎるが故の制限、か。生まれつき全力を出せない身体であること。全力を出すには、一縷の望みに賭けるしかないわけだ。

 知っての通り、ウマ娘の本能は凄まじい。競争意識が人間の比じゃなく、時には限界を超えて力を出してしまう時もある。

 

(だが、カイザーは全力を出すことができない。出してしまえば壊れてしまう。つまりは、闘争本能を封じられた状態だ)

 

 母親は同じウマ娘だから分かるのだろう。本気を出せないことが、どれだけ辛いことなのか。

 しかも、カイザー本人はそれを気にしていないかのように振舞う。両親を心配させまいと、明るく振舞っている可能性があるわけだ。鋼の理性で自らを律し、心配かけまいと日常生活を過ごす。

 

(そりゃ心配にもなるわ。本当なら他の子みたいに全力で走りたいだろうに、アイツはそれすら許されないんだから)

 

 アイツは笑顔が好きだと言っていた。みんなが笑顔でいるために、アイツは自分の気持ちを押し殺しているかもしれない。そう考えたらやるせないし、自己犠牲が過ぎる。

 

 まぁ、うん、なんだ。

 

(……想像以上に重いな。どうすんだ、これ?)

 

 打ち明けられた情報が重すぎる。いってしまえば、ご両親の目からはこう見えているのだろう。カイザーは自分の気持ちを犠牲に他人の笑顔のために頑張っている、と。

 そりゃ心配するわ。誰だってするわそんなこと。正義の味方とかじゃないんだから。

 

「あの子はワガママも言わないんです。ダメと言ったら素直に聞き分けて、自分の好きなものも他の子に分けてあげて」

「できる限りあの子のワガママは叶えてやりたい。でも、我々ではあの子の気持ちを完全に理解してあげることはできないっ」

 

 自分の気持ちを出さないから、本心が分からない。これはブランポラリスも似たようなことを言っていた。カイザーがなにを考えているかは分からない、と。

 

 もうね、頭を抱えたくなるね。やっぱ俺ってとんでもないウマ娘を担当してないか? と。

 

(ケイエスミラクルのようなタイプか? いや、あんまそんな感じしねぇけどなぁ)

 

 似てるけど違う、みたいな。同じタイプではあるけど、細分化すると違くね? みたいな。上手く言えないけどそんな気がする。

 

 

 話したいことはこれで全部なのか、ご両親はそれっきり黙り込んでしまった。なんて言えばいいんだろうね、俺は。

 

(下手なことは言えない。俺の言葉が、今後の彼らを左右する)

 

 あまりにも重い選択を突きつけないでくれますかね神様。

 

「あー、その、ご両親のお気持ちはよく分かります。カイザーさんは自分を出さないから、何を考えているのかよく分かりませんよね」

「っはい。親として恥ずかしい限りですが」

「すみません。そんなつもりはなくて。なんて、言えばいいんでしょうか」

 

 もう、アレだ。なるようになれだ。今の気持ちを言葉にするしかない。

 

「あの子の笑顔を、ありのままに受け止めてあげればいいんじゃないでしょうか?」

 

 そう答えると、ご両親は目を見開いていた。

 

「っえ?」

「そのですね、考えても分からないわけですから、カイザーさんの笑顔をそのまま受け取ればいいと思います。そうした方が、彼女も嬉しいでしょうし」

「なぜ、そんなことが言えるんですか?」

 

 怒っている、とはちょっと違う。俺の言葉の真意を探っているような視線。別に深い意味はないんだけども。

 

「カイザーさんは笑顔が好きですよね? でしたら、ご両親も苦しい表情を見せるよりは、笑顔を見せた方が嬉しいと思うんですよ」

「それは、そうですが。しかし」

「心配する気持ちは分かります。彼女の境遇を考えると、ご両親の気持ちは察するに余りある」

 

 けれど、あまり深読みしすぎるのも良くない。ドツボにハマる可能性があるからだ。

 

「ただ、あの子は今を楽しく走っています。今は、それでいいんじゃないでしょうか?」

「今を、楽しく走る」

「全力を出せずとも、彼女はレースを楽しんでいる。だからこそ、今はあまり深読みはせずに、彼女の笑顔をありのままに受け取ればいいんじゃないかな~、と。個人的には思うわけです」

 

 なお、俺のこれは考えるのを放棄しただけともいう。でも仕方ねぇじゃん。考えたって分かんねぇんだから。だったら、表面上だろうが何だろうがそのまま受け取った方がいいだろ。

 

「私のはただの一個人の意見。ご両親が何と思うかも自由です。心配する気持ちは、凄く分かりますから」

「榊、さん」

「その、カイザーさんは今を楽しんでいます。これだけは確かです」

 

 そう短くもない付き合いだ。アイツが楽しんでいることぐらいはなんとなく分かる。俺の主観だけど。

 

 

 再び訪れる沈黙。1分、2分と気まずい時間が流れ、俺はやってしまったかと思い始めるが。

 ご両親は先ほどまでの表情とは打って変わって、柔らかい笑みを浮かべていた。

 

「ありがとうございます。なんとなく、気が楽になりました」

「あ、あぁいえ! 気の利いたことが言えなくてすみません!」

「いいえ、そんなことはありません。ありがとうございます、榊さん」

 

 ご両親が立ち上がったので、俺も反射的に立ち上がる。お辞儀をするご両親を前に、俺は困惑していた。

 

「どうかこれからも、カイザーのことをよろしくお願いします」

「あの子のことをよろしくお願いします、トレーナーさん」

 

 これはもう、答えは決まっている。

 

「俺にできる限りのことはします。その、確約はできませんけど、ケガだけはしないように気をつけますので。これからも、カイザーさんのことを応援してあげてください」

「フフ、正直なんですねトレーナーさんは」

 

 すみません、こういう時でもつい考えちゃうんです。本当にすみません。

 

 

 結果的に、カイザー家への家庭訪問は大成功、だったのかもしれない。ご両親から夕飯も一緒にどうかと誘われたし。好印象を持たれたのは良かった。

 クラフトはカイザーたちと遊んでいたらしい。そのまま泊まるそうな。

 

「う~、カイザーさんにゲームで勝てませんでした」

「クラフトさんずっとアチョーアチョー言ってましたね」

「この後も楽しもうね~!」

 

 俺? 俺は帰るよ。夕飯だけご一緒させてもらって我が家に帰る。泊まるのはさすがに悪いからな。

 

「トレーナーも泊っていけばいいのに」

「客間もありますし、我々は構いませんよ」

「いえ、流石に他にやるべきこととかありますので。お気持ちだけありがたく頂戴します」

「暇だって言ってたのに。ブー」

 

 ほら、ぶー垂れるんじゃありません。体裁ってもんがあるんだよこっちには。担当の家に泊まったなんて知られたら、たづなさんにシメられるわ。あの人そんなことしないけど。

 

 

 こうして唐突な家庭訪問は終わった。我が家に帰ってネットサーフィンの続きでもしますか。

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