担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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幕間 太陽ウマ娘の変化

 正月から最高のスタートを切ることができた。とても嬉しいね、うん。

 

「綺麗ね、ディープ、カイザー」

「そうだねぇ。わざわざ山に登った甲斐があるねスズさん」

「それに、道中も凄く気持ち良かったね! 空気に清涼感があったもの!」

 

 スズさんやプイちゃんと一緒に、ご来光を拝むために山に登ったことから始まる。ご来光を拝むため、というのはあくまで建前。スズさんもプイちゃんも、もちろん私も。走るのを目的として集まったんだよね。

 2人は同志。全員走ることが大好きで、みんなでどこまでも走っていることが多い。おかげでトレーナー達には怒られることも多いけど、この時間もとても楽しい。

 お互いにお互いの考えていることが分かる。今この瞬間、考えていることは。

 

「「「走るの楽しいなぁ」」」

 

 おっと、やっぱりそうだった。みんなして同じことを考えて、同じタイミングで口を開いていた。

 顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。

 

「アハハ!」

「うふふ」

「揃っちゃいましたね」

 

 寒いけれど、走ったおかげで私達の身体はあったまっている。あったまった身体で受ける風は、なんとも心地の良いものだ。

 

「ディープに感謝しなきゃね。この山を登るには許可がいるけど」

「プイちゃんが許可取ってくれたもんね。ありがとうプイちゃん!」

「ううん、お礼なんていりません。お2人とこうして走ることができたんですから」

 

 それもこれも、全部プイちゃんのおかげである。プイちゃんのお姉ちゃんであるタイドさんに結構無理を言ったらしく、呆れながらも許可を出してくれるよう掛け合ってくれたんだとか。ありがたやありがたや~。

 

 和気あいあいと話しながらご来光を拝む。う~ん、絶景。

 

「そういえば、2人はこの後どうするの? 私はまた走る予定だけど」

 

 みんなで拝んでいると、スズさんが切り出してきた。この後の予定、かぁ。

 一応決めている。そのためには、一度山を下りないといけないから、できるだけ早めに下山しないといけない。

 

「私はお姉ちゃんと一緒に、方々のパーティに出席する予定です。ここで無理を言った分、正月はパーティで拘束されるかなって」

「なんだかごめんなさいね? ディープ」

「いえいえ、良いんですよ。どの道、出なければいけないものなので」

 

 プイちゃんはどうやらいろいろとあるみたいだ。お金持ちの義務、ってやつなのかな。ノブレスオブリージュとかそういうの。いろいろと拘束されることが多いみたい。

 

「カイザーさんはどうするの? やっぱり、スズカさんと同じで走る予定?」

 

 こちらの方を向くプイちゃん。ふっふっふ、私の予定は違うんだな~これが。

 

「えっとね~、トレーナーとクラちゃんを誘って初詣に行くんだ! 楽しみだな~」

「初詣か、いいわね。もう誘ってあるのかしら?」

「ううん、下山したら誘う予定」

「嘘でしょ……」

 

 スズさんがちょっと引いた、というか信じられないような目を向けてくるけど、いいかな。断られたら断られたで、どこかに走るだけだし。

 

 あーでも、トレーナーやクラちゃんに断られたら寂しいな。うん、凄く寂しい。

 

(ま、そんなことはないだろうけど。トレーナーも暇しているだろうし)

 

 トレーナーは仕事をあまり作りたがらないタイプだ。こう、いかにして効率よくサボるか、みたいなことを考えるタイプ。私達に接する態度は、そんなこと感じさせないけどね。メディア対応とかは凄いめんどくさがってる。

 そんなトレーナーが正月に仕事を作るはずがない。

 

「そもそも、学園のトレーナーって正月は休みって聞いてるから。大丈夫だよスズさん」

「そ、そうなのかしら? けど、当日に誘うのは良くないと思うけれど」

「大丈夫大丈夫。トレーナーは私の誘いには大抵乗ってくれるもの」

「そういう問題かしら」

 

 なんせ私のこと大好きですので。トレーナーマイフレンド。クラちゃんも、呼んだら来てくれる可能性がかなり高い。クラちゃんもマイフレンド。

 

 初詣はどこへ行こうか、なんて考えていると、プイちゃんとスズさんが私を見て笑っていた。なんでだろうか。

 

「どうしたの? スズさんプイちゃん。私の顔に何かついてる?」

「あ、ううん。そういうわけじゃないの。ただ、なんというか」

「カイザーさん、榊トレーナーやクラフトさんには凄く気を許してるんだなって」

 

 私が、気を許している? なんでそんなことを思ったんだろう。

 

「カイザーって、あんまり自分のワガママを押し付けないでしょう? この登山だって、元々は私の発案だし」

「自分から提案するってことがほとんどないから。そんなカイザーさんが自分から積極的にいくなんて珍しいな、って思ったんだ」

「う~ん、そうかなぁ? 結構私もいろいろ提案したりするけど」

 

 別にワガママを言わないわけじゃないと思うんだけどな。あんまり必要性を感じないから、基本的には他の子の意見を聞いてるけど。

 

 でも、2人はそうは思わなかったみたい。スズさんは私の頭を優しく撫でてくれる。

 

「トレーナーさん達、カイザーの誘いを受けてくれるといいわね」

 

 なんでこんなことを言い始めたのか、よく分からない。けれど、特に気にしないことにした。

 

 

 ご来光も拝んだので下山。2人と別れて、早速トレーナー達に連絡を入れる。

 2人ともオーケーしてくれた。ふっふっふ、やっぱり受けてくれた。

 

 急いで準備を済ませて神社に向かい、初詣を済ませる。トレーナーに願い事の内容を聞いたり、出店の食べ物を奢ってもらったり。楽しい時間を過ごすことができた。

 その後はトレーナー達を我が家へご招待。理由なんてものはない、ただ2人に来てほしいから。

 

 泊ってほしいと思ったけれど、泊ってくれたのはクラちゃんだけ。トレーナーは泊ってくれなかった。ぶー。でも、クラちゃんがお泊りしてくれるので嬉しい。

 晩御飯を食べ終わって、これから何をして遊ぼうか。そう考えていると、お母さんが笑った。

 

「ふふ、それにしてもカイザー。あなたトレーナーさんのことを凄く気に入ってるのね」

 

 理由はトレーナーに対するもの。気に入っている、か。

 それは当然だ。トレーナーみたいな人は凄く珍しかったから。気になるし、なにより一緒にいて飽きない。

 けど、なんで突然? やっぱり、トレーナーを家に招待したからだろうか。

 

「まぁね。トレーナーは凄く面白いから。でも、なんでそう思ったの?」

 

 聞き返すと、自分でも気づかなかったことを言われた。

 

「あなた、トレーナーさんに泊ってほしいってワガママを言ったでしょう? それが珍しくて」

 

 あ、確かに。私はトレーナーにも泊ってほしい、なんて考えていたな。

 

「普段から周りの子優先で動いていたあなたが、珍しく自分のことを口にしていたんだもの。それだけで、あなたがあの人に気を許しているのが分かるわ」

 

 これは自分でも気づかなかった。無意識の目覚め、ってやつかもしれない。それにしても、私はそんなに普段からワガママを言わないだろうか。結構欲求に素直だと思うけど。

 

 

 お泊りは楽しかった。クラちゃんと一緒に夜遅くまでゲームしたり、一緒に寝たり。寮が違うから、凄く新鮮だった。

 

「楽しかったねクラちゃん!」

「は、はい! とっても!」

 

 クラちゃんも楽しかったようで一安心だね。

 

 

 

 

 

 

 時は流れて学園が始まり。ファンの反応とかを調べていた時のこと。

 

「うおおお! やったぁぁぁ!」

 

 突然トレーナーが声を上げて喜んでいた。どうしたんだろうか。

 

「どうしたの、トレーナー。なにかあったの?」

「凄く大きな声で喜んでましたね。なにかあったんですか?」

 

 クラちゃんと一緒に聞いてみると、トレーナーは興奮を抑えきれない様子で画面を見せてくる。

 

「見ろ、コレ! お前たちがURA賞を受賞したぞ!」

 

 URA賞、ってアレか。トゥインクル・シリーズでその年一番活躍した人に贈られる賞。去年も受賞したものだね。最優秀ジュニア級ウマ娘、だったかな。クラちゃんはジュニアクイーンだったはず。

 そんなに嬉しいものなのかな。こんだけ喜んでるってことは、嬉しいものなんだろうな。

 

「え、えぇ!? 本当ですか!」

「嘘じゃない! ほら、これ!」

 

 見せてきた画面には、私が最優秀クラシック級ウマ娘、クラちゃんが最優秀クラシック級ティアラウマ娘を獲得していた。ついでに、私は年度代表ウマ娘も獲得してるみたい。あんまり興味はないけど、トレーナーが喜んでいるなら私も嬉しい。

 

「いや~、最後までディープと接戦だったわ。最終的には、カイザーの方が評価されたらしい」

「そうなんだ。なんで?」

 

 クラちゃんが凄い目で見ている。これの理由も聞きたいけど、今はトレーナーの方が先かな。

 

「無敗で秋シニア三冠、さらにはクラシック級での宝塚記念制覇。ディープインパクトが経済に与えた影響を加味しても、お前の方が総合的に上だと判断されたんだ」

「そうなんだ。ファンも大喜び?」

「そりゃ大喜びだろ。お前のファンはみんな喜ぶぞ」

 

 そうなんだ。年度代表ウマ娘になれば、私のファンはみんな喜ぶってことだね。これはしっかり覚えておかないと。

 

 小躍りして喜ぶトレーナーをよそに、私はスマホでネットの反応を見る。どんな反応されてるのかな、っと。

 

【ハレヒノカイザーが年度代表ウマ娘取った!マジ嬉しい!】

【ずっと応援してたからちょ~最高!ハレヒノカイザーの年度代表ウマ娘ありがとー!】

【最後までディープと接戦だったな。W受賞もあり得たかもしれんがおめでとうハレヒノカイザー!】

【カイザー最高!カイザー最高!】

 

 おぉ、凄い好反応。これは嬉しいね。中にはプイちゃんの受賞逃がしを残念がっている声もあったけど、これは仕方ないかな。

 

 見ているうちに、ふつふつと沸き上がってくる。

 

(やっぱり、私が勝つとみんな嬉しいんだな)

 

 ファンは私の勝利を願っているんだな、と。私の勝つところを見たいのだと。

 

 多分だけど、これが普通なんだ。トゥインクル・シリーズのレースに出る度に感じさせられたこと。

 

【カイザーが勝ってピョンピョン跳ねてるの可愛すぎ!何時間でも見てられる!】

【ハレヒノカイザーが勝つとこっちも嬉しくなる】

【これからも頼むぜカイザー。グッズも買って応援や】

 

 特に、前回のレース。有記念で、ハーツさんの意地を強く感じた。

 ゲートではなく、私を見ることで可能にしたロケットスタート。あんなこと、常識的には考えない。

 

(私が失敗すればゲートに激突。レースで勝つのは絶望的になる)

 

 それでも、私のことを徹底的に洗い出して、私が絶対にミスをしないと信じて選んだ。リスクなんて考えない。違う、リスクを承知の上で取ってきた。

 なんでかと言われたら、勝つことに一生懸命だから。あれだけの気概で来ないと、私には勝てないと踏んでいたから。だからこそハーツさんは。

 

(私をマークし続けた。レースに勝ちたかったから)

 

 あれほどの思いは体感したことがない。全てを投げ打ってでも勝つという気概は初めてじゃないけど、ハーツさん程の思いは初めてだった。

 あの気合があるからこそ、ハーツさんは強い。私も、負けが頭によぎった。だからこそ、少しだけ笑顔が消えた。

 

 レースは勝ち負けが絡んでいて、そこに全てを注ぎこんでいる。だからこそ、みんな全力でこの世界を走っている。

 じゃあ、私はどうだろうか。

 

(勝ち負けなんて二の次、楽しいレースを走りたい。そう思っている)

 

 みんなの一生懸命を感じて、私は楽しくなる。楽しくなって、つい笑ってしまう。

 よく思わない人の方が多い。現に、ネットとかでも私の笑う姿は物議を醸しているみたいだ。

 

 これまではあんまり気にしてこなかった。どんな応援の声を聞いても、私は私を貫けばいいって思っていた。けれど、いつの日か。

 

(変わらなきゃいけない日が来る。勝つことが難しくなって、笑っていられない日が来る)

 

 前々から思っていたことだ。楽しいだけじゃダメな日が、いつか来るんだって。ファンが多くなって、応援の声が大きくなる度に、そう思うことが増えた。

 

 それに、凱旋門賞。スーさんやメイさんの悲願で、日本のウマ娘にとっての憧れ。世界の頂点を決める戦いだ。

 スーさんやメイさんから聞かされた。あの舞台で勝つことは相当に厳しいって。

 

(ジンクス、ってやつかな。芝の影響はないけど、力を発揮できないことが多い)

 

 この時ばかりは、私も笑うのを封印しないといけないのだろうか。そんな時が、来るのだろうか。

 

 なんて言えばいいのか分からない。これで本当にいいのか、と思うこともある。

 けれど。

 

(ファンやみんなが願っている。私の勝利を)

 

 私はすでに海外遠征することを発表している。その最終目標が、凱旋門賞であることも発表済みだ。

 書き込みでは、私の勝利を願っている声が多い。

 

【凱旋門賞頑張れ!今度こそ日本が勝つんや!】

【カイザーってフランスの芝に即対応したんだろ?ならいけるべ】

【ハレヒノカイザーなら凱旋門賞を勝てる!今度こそ日本の悲願を達成してくれ~!】

 

 記事も、ウマッターの声も。私の凱旋門賞勝利を願っている。

 

 願われた、望まれた。あぁ、なら。

 

「やらないと、だね」

「ん? なんか言ったか、カイザー」

「うぅん、なんでもないよトレーナー」

 

 私は頑張るだけだ。

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