URA賞を受賞したので、正月から報道陣に囲まれる俺達。相変わらずマイクを押し付けられて面倒くさいことこの上ない。
「今のお気持ちは!」
「さいこーっすね」
「担当ウマ娘が2人もURA賞! さらにハレヒノカイザーさんは年度代表ウマ娘まで! これは凄いことですよ!」
「そーっすねー」
なんだろうか、宝塚記念前はあんなに切望していた状況だというのに。
(こうなったらこうなったでめんどくせー! マジでだるい!)
そりゃあね、カイザーにクラフトも結果を出して実績を作ったんだ。こうなるのは予想通り、むしろならなかったら記者共を血祭りにあげるところだ。
だけど、いざやられると面倒くささが勝ってしまう。話題作りに必死なためか、記者達も一生懸命だし。
(一応、ディープインパクトはもたらした経済効果が大きいから特別賞を受賞していた。でも、三冠ウマ娘がクラシック賞を受賞できなかったのは初だ)
三冠ウマ娘と言えば世代の代表格。全てのレースを皆勤して、なおかつ勝ったのだから当然の話だ。無敗の三冠ともなれば、年度代表ウマ娘は確実だ。
今回はそうならなかった。なぜなら、三冠ウマ娘はもう一人いたから。
「無敗の秋シニア三冠、ディープインパクトすら超えた偉業です! これについて一言お願いします!」
「じゃあ、超えたって表現を止めていただけるでしょうか。どちらも凄くて、どちらも褒められるべき偉業ですので」
「え? ですが、確実に超えたと言えるもので」
「私は超えた、と思っていません。これはトリプルティアラだろうが同じこと。凄いものは凄い、そこに優劣はない。それだけの話ですよ。ですが、カイザーのことを評価してくださってありがとうございます。とても嬉しいです」
無敗の秋シニア三冠。さらにはクラシック級の宝塚記念制覇。諸々のことを勘定に入れて、カイザーが最優秀クラシック級ウマ娘と年度代表ウマ娘に輝いたわけだ。
実績という面では、ディープインパクトを超えたかもしれない。ただ、超えたって言われるとちょっとモヤる。結局一度しか対戦してないし。
(勝つには勝ったけど、な)
後アレだ。期待されているみたいでだるい。期待されるのは疲れるからな。なので、時々こうして釘を刺しておかなければ。
「これから先の展望について一言お願いします! やはり、大目標は凱旋門賞を勝つことですか!」
「どっちかというと、カイザーの笑顔を世界に届けるためですね。ほら、彼女の走りはみなさんを笑顔にしますので」
「ですが、ハレヒノカイザーさんなら凱旋門賞を勝てるとの声が」
「そうですね、我々にも勿論届いています。ですが、どんな時でもハレヒノカイザー第一、ラインクラフト第一で進めます。その際はファンの期待に応えられない時もありますので、ご了承ください」
こういう場で言うことではないのでは? と思うかもしれない。だが、こういうのは言っておくのが大事だ。言っておかないと、後からやいのやいの言われるのが目に見えてるからな。そうならないためにも、宣言しておく必要がある。
「と、言いますと?」
「できる限りの対策はします。ですがケガや病気など、どうしようもない事態、予測できないことが起こります。その時は勿論、出走させません」
「なるほど。確かに、出走が危うい状態で走ることはできませんものね」
「そういうことです。ま、ただの予防線ですよ。風邪もケガも、予防が大事ですからね」
ま、こんなところだろう。後は2人の次走についてか。
「お2人の次走についてお願いします!」
「2人ともドバイのレースに出走予定です。カイザーはドバイターフ、クラフトはアルクオーツスプリント*1ですね」
「ほう! ドバイワールドカップミーティングですか! 近年の盛り上がりは凄いですよね!」
「はい。なので、ドバイのレースに目標を定めました。それに、今年は海外遠征の予定ですからね。なので」
マイルのドバイターフとスプリントのアルクオーツスプリント、これに出走予定。海外から有力ウマ娘が集まってくるけど、やることは変わらんべ。
俺のインタビューはこれくらいか。後は適当に流して答えればいい。
カイザーとクラフトも記者にインタビューされている。カイザーは余裕綽々に、クラフトは少し緊張しつつもしっかりと。この辺は性格が出ているな。
「ファンの期待にバリバリ応えちゃいますよ~」
「は、はい! 頑張って走ります!」
うんうん、良い感じで答えているわ。特に問題はないだろう。
1月末にはドバイへ遠征。頑張っていきますか。
◇
気づけばもう1月の末。ドバイへ遠征する日がやってきた。場所は空港、ハーツクライのトレーナーが見送りに来ている。
「それじゃあハーツ、榊トレーナーの言うことをちゃんと聞くんだヨ?」
「トレーナーは俺をなんだと思っている?」
「ワガママ気性難娘」
頭をはたかれるハーツクライのトレーナー。今回はハーツクライも長期の遠征をすることで、俺のチームに帯同することになった。
つってもなぁ、この子のことはよく知らん。アプリにはいなかった子だし。ワガママ気性難って言われてる時点で察するものがあるが。
ひとまずはハーツクライのところへ。
「今回はよろしく。俺は」
「知っている。榊幸光だろう。自己紹介は不要だ」
「あ、はい」
と、なると。ハーツクライの自己紹介も気にしない方向で行くか。多分しないだろうし。
「そうか。なら、話は早い。ドバイワールドカップミーティングに向けて、頑張っていこう」
「頑張る、ではない。勝つだ。そこを履き違えるな」
「分かっているさ。君が勝てるように全力を尽くすよ」
ある程度納得してくれたのか、一つ鼻を鳴らして空港のゲートへと向かった。俺達のことを無視して。
ま、いいか。別に気にすることでもないだろう。後から知っていけばいい。
「それじゃあスピードシンボリさん、佐岳さん。いきましょうか」
「そうだな。準備も終わっていることだし、ドバイに旅立とう!」
佐岳さんの号令の下、俺達は飛行機へ。別れ際に、ハーツクライのトレーナーから。
「ハーツクライのこと、お願いシマス、榊トレーナー。悪い子ではないのデ」
「分かっていますよ。ハーツクライのこと、任されました」
改めてお願いされた。勿論頑張らせていただく。頑張るのは嫌いだけど、よそ様の大事なウマ娘だ。万が一が起こらないようにしないといけない。
カイザーとクラフトの体調は問題なし。いざ、ドバイへ。ちなみに飛行機ではなんもなかった。しいて言うならハーツクライが初の飛行機で苦しそうにしてた。ケア? スピードシンボリがやってくれました。
1日目は素直に休み。2日目は現地の環境に慣れるがてら、軽めのトレーニングで調整だ。
なのだが。
「おい、榊トレーナー。このメニューはなんだ?」
「ん~? 軽めの調整用に組んだやつだな。それがどうかしたのか?」
怒りの表情を滲ませているハーツクライ。眼光も相まってえらい怖い。
「いくらなんでも軽すぎる。これでお前は勝てると思うのか?」
「まだ勝てるどうこうのフェイズじゃないからな。ひとまずは環境に慣れること、これが大事だ」
「それはいつまでだ? このメニューは具体的にどのあたりまで続ける?」
「状態を見て、だ。まだここでどれだけやれるのか分からない以上、冒険する必要はないからな」
挑んだことがない未開の地。そこで最初から強度の高いトレーニングはよろしくないだろう。何が起きるか分からないし。ちなみに、メニューを作ったのはスピードシンボリだ。
ただ、ハーツクライは納得した様子を見せない。それでもと反論しようとしている。
「冒険せずに勝てるほど、海外のレースは甘くない。多少の無茶はすべきだ」
「その無茶で全てを棒に振るよりはマシだと思うが?」
「問題ない。俺のことを見くびってもらっては困る。今より強度を増やそうが問題はない」
状況を見たスピードシンボリがこちらに来ようとしているのを手で制す。まだ大丈夫だ。
「そうか。確かに、少しばかり見くびっていたところはあるかもしれん。なら、もう少し増やそう……これくらいでどうだ?」
多少プラスしたメニューをハーツクライに提示するが、まだ納得いってない様子。どんだけ求めてるんだこの子は。
能力をONにして、ステータスを見る。不足しているものを確認して、伸ばすべき箇所を確認。ハーツクライの体調や体力を見つつ、メニューに反映。こちらが意固地になる必要はない、か。
ぶっちゃけ、これ以上増やしても問題はない。本当に軽いメニューだし、今増やした分も日本でやってた奴よりだいぶ少なめだからな。お願いを聞いてあげるのは簡単だ。
それでも、譲れないラインというものはある。多少は聞いてもらわないといけない。舐められっぱなしは困るんでね。
「これ以上強度を増やしてほしかったら、伸ばすべき箇所を伸ばしてもらおうか。量を増やすかどうかはこれから次第だ」
「……俺を試すつもりか?」
「試す? 違うな。勝つために必要なことだ。がむしゃらに量を増やしたところで意味はない、冒険も何もない」
メニューを改めて手渡す。ハーツクライにとって足りないものを補うためのものを。目を通した彼女は、目を見開いていた。
「しばらくはそれをこなせ。増やすかどうかはこれから次第だ。ま、頑張ってくれい」
これでもちゃんとメニューを組むことはできる。曲がりなりにもトレーナーなんでね。
しっかりと目を通すハーツクライ。やがて納得したのか。
「分かった。では、このメニューで行かせてもらう」
「おうそうか。それは何よりだ」
「だが、すぐにでも強度は上げてもらうぞ。全てはドバイシーマクラシックを勝つために」
それだけ告げて、ハーツクライはトレーニングを始めた。ものすごく気合いを入れて。
一生懸命、ストイックと言えば聞こえはいい。だが、ハーツクライはどこか焦っているようにも見える。結果を出すことに執着しているような、そんな気が。
(まだ全然過ごしてないのに分かるぐらいだからな。それだけ、この海外遠征に本気ってことなんだろうが)
手の掛かりそうな子だわ。カイザーとクラフトが素直だった分余計に。
スピードシンボリと佐岳さんがこちらへ。表情には安堵が見える。
「大丈夫だったか? 榊トレーナー」
「問題ないですよあれくらい。最終的には納得してくれたんで」
「それは良かったのだが、今後を考えると頭を悩ませるな」
佐岳さんの言葉に頷く。ありゃこの先苦労しますよ。
「どうも、焦っているように見えますね。その焦りの原因も、なんとなく察しがついてますが」
「昨年の有馬、だろうね。あれだけ対策を重ねても、カイザーには勝てなかった」
「届いたと思った栄光が目の前ですり抜けた。焦るのも無理はない」
ハーツクライは結果を出すことに焦っている。前々からG1の栄光に手が届くことを願っていたし、予想できたことではある。
有馬記念で届きかけたが、最終的にはカイザーに半バ身差負け。さらに追いつめられた。気持ち的に焦りが生まれるのも無理はない。
これをどうするかが、彼女を操縦する肝になるだろう。
(カイザーやクラフトとは違うタイプ。善戦で終わってしまうことに我慢ならない、勝利に固執するウマ娘か)
なんにせよ、上手くやらなきゃいけない。ハーツクライのトレーナーとも約束したしな。
「焦っていること、突きつけなくても良かったのかい?」
考えていると、スピードシンボリが疑問を口にした。焦っていることを教える、か。
「下手すりゃそれは最悪手だと思ったんで。焦っているやつに焦ってる、なんて言っても聞き入れないでしょうよ。あぁいうタイプは特に」
「そうだね。むしろ、反発して更なる負荷を望む。気持ちは増長していき、人の話を聞かなくなる。やがて」
「破滅。なんでまぁ、アイツには目標を与えました。これだけやれば次のステップを用意してやる、ってね」
ハーツクライみたいな手合いには、目標を設定してやる。まずはこれだけやることを提示して、無事に終われば次のステップへ。これを繰り返して、彼女の人となりを知っていけばいい。
視線の先で、もくもくと課題をこなしているハーツクライ。彼女がどうなるのか、この先どうするか。頭を悩ませることになるだろう。
んで、頭を悩ませることになるのはもう一人。
「まだまだ、頑張らないと」
クラフト。アイツもまた、焦っているように見えた。これは付き合いの長さで分かったことだ。アイツも年明け以降、正確には有馬以降焦りが生まれている。
こっちの原因は、まぁカイザーだろうな。マイルチャンピオンシップではなんとか宥めることができたが、再発したか。
頭を掻く。どうするべきかを考える。
(まだ様子見、か。警戒を続けておかないと)
カイザーは、うん。特に変わってない。いつも通り楽しくトレーニング中だ。
「ふんふふ~ん。こんな感じで走ればいいんだね。後でクラちゃんやハーツさんに教えないと!」
ついでにドバイの走り方もマスターした。日本と近い芝とはいえマジかよ。本当に天才だよこの子は。