担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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抱いた違和感、ぬぐえぬ不安

 ドバイのインタビューは代わり映えしなかった。クラフトとカイザーでは特に言うこと変わらんし。

 ただ、ハーツクライの件では先んじて言っておかなければいけないことがある。日本からやってきたメディアを通じて、しっかりと断言しておいた。

 

「今回のドバイシーマクラシックで初のG1勝利! 秘訣はなんでしょうか? やはり榊トレーナー直々の」

「ありませんよそんなもの。秘訣になるかは分かりませんが、ハーツクライは日本にいるトレーナー達と通話を介して交流していました。だから、いつもの気持ちで勝負に臨めたんだと思います」

「と、いいますと?」

「日本にいる彼らとハーツクライの絆の勝利ですね、これは」

 

 やってることは日本のトレーニングとほぼ変わらない。トレーナーが俺に変わったからといってG1を勝てたわけじゃない。そう思われないためにも、先んじてここで制しておく必要がある。

 

 だが、日本と変わらないトレーニングやってました~、とか当たり前のことをやっただけですよ~、なんて言葉はNG。迂闊に発言しようもんなら、メディアや世間の人間は間違いなく曲解する。

 

(ハーツクライのトレーナーは当たり前のこともできない、ってな。めんどくせ)

 

 向こうの格を落とさず、俺の発言が謙遜に当たらないラインの言葉。それがビデオ通話でのやり取りだ。これを利用させてもらった。ちょっと人聞きが悪い言い方になるが。

 通話があったことは事実、それでハーツクライがリラックスでき、日本と変わらないパフォーマンスを発揮できた可能性がある。真相はハーツクライのみぞしる。

 

 とにかく、俺だけじゃなくハーツクライのトレーナーの力があったと証明するのが重要。ただでさえ忙しいのに、さらに忙しくなるのはごめんだ。

 

「ハーツクライも気合いが入ったんだと思いますよ。日本にいる彼らが応援しているわけですからね」

「そんなことは断じてない。アイツらがいようといまいと、俺が成すべきことは変わらん」

「またまた~。本当はいつも以上に気合入ってたんじゃないの~?」

 

 軽く脛を蹴られた。確かに今のはうざかったわ。

 メディアの人間からは好印象。良い感じに俺の影響だけじゃないことを分かってくれたようだ。

 

「ほうほう。日本に残ったトレーナー達との絆、それがこのドバイシーマクラシックの勝利に繋がったと。そういうわけですね?」

「そうなります。ま~ちょこっとは俺の力もあるかもしれませんけどね」

「フン」

 

 これにて無事にインタビューは終了。後は記事の出来上がりがどうなるかである。なんとかなってくれるといいんだが。

 

 

 ま、心配は杞憂だったようで。後日発行された新聞には【ハーツクライと日本のトレーナーの絆!初のG1制覇は海外で!】と、ハーツクライたちの絆の勝利を前面に押し出した一面が発行されていた。

 

(よかったよかった。過度に下げるような発言はされていない)

 

 ゴシップ記事は知らん。アレはもう救えんものだ。無視するに限る。

 

 クラフトとカイザーの記事にも目を通しつつ、考えるのはこれからのこと。課題は山積みなのである。

 

「つっても、アイツらの問題は何一つ解決してねぇんだよなぁ」

 

 ハーツクライはG1を取ったが、変化は何も起きず。焦りは多少緩和されているようだが、それでもあまり変わってないのが現状。

 クラフトはドバイターフを見て、さらに焦りを募らせていた。まだ何とか出来る範囲だが、その内できなくなりそうで今から怖い。

 で、肝心のアイツ、カイザーのことだ。

 

「レース映像はダウンロードしてあるし、イギリスに向かう途中で改めて見直すか」

 

 まさかカイザーにもなにかあるかもしれん、とはなぁ。アイツにもなんかあるんじゃね、が現実になるとは思わんやん。そんなところでフラグを回収するなよ。俺も俺で不用意なことを思うんじゃねぇよ。いや、気づかなかったらヤバいことになってた可能性があるんだけども。

 

 

 これでドバイ遠征は終わり。次は欧州遠征である。

 

 

 

 

 

 

 イギリスへと向かう飛行機内にて、タブレットにダウンロードしたドバイターフの映像を見る。周りの客は俺達以外にいない貸し切り状態なので、迷惑はかからない。

 

 立ち上がりはなんら変わらない。いつものようにロケットスタートを決めて、逃げウマ娘の焦りを誘発させる。ここから相手に控えるか競り合うかの二択を押し付け、状況によって変えるのがカイザーの戦法だ。

 今回選択したのは逃げ。全員が控えていたので逃げていた、なんて簡単なものじゃない。

 

(カイザーの強さは世界でも認知されているはずだ。ジャック・ル・マロワ賞を勝ったんだから、当然警戒されているはず)

 

 なのに、カイザーは逃げていた。警戒されているはずなのに、マークされているのに逃げた。なんなら、競り合おうとしているウマ娘だっている。それでも、カイザーは先頭に立ちハナを譲らない。

 

 これが不可解な点第一。今まではなし崩しで先頭に立っていたアイツが、初めて先頭を譲らなかったかもしれない点。

 アイツのスタイルでは珍しいことだ。別に、何が何でも先頭を走るような奴じゃない。なのに今回は、先頭に立って引っ張っていた。少し疑問が残る。

 

「つっても、別に無理をしているようには見えないし。どういうことなんだ? 本当に」

「どうかしたのかな、榊トレーナー? なにやら熱心に見ているようだけど」

 

 気づけばスピードシンボリがこちらに。佐岳さんもきていた。丁度いいし、2人の意見も聞いてみるか。

 

「いや、ちょっとドバイターフで気になる点があって。お2人の意見も聞かせていただけませんか?」

「カイザーのドバイターフ、か。私の意見で参考になるなら構わない」

「あたし様も大丈夫だ。最初から再生してもらえるか?」

 

 頷いて、2人にもレース映像を見せる。ちなみにカイザーたちは後ろの方で談笑している。こちらの様子には気づいてないし、会話も聞こえていないようだ。それでも念のため移動する。

 

 

 2人にも映像を見てもらった。反応は、やや懐疑的なもの。どれに疑いの目を向けているのかは不明だが、少なくとも疑問を抱いているのは間違いない。

 口を開いたのはスピードシンボリ。彼女の意見から。

 

「確かに、ハナを取って逃げる展開は珍しい。なし崩しで先頭に立ったことはあれど、このペースは逃げウマ娘のペースだ」

 

 あの時は気づかなかった、と一言添えて意見をくれた。やはり、スピードシンボリもカイザーのペースに違和感を抱いたらしい。

 次いで佐岳さん。彼女も同じ様な疑問を抱いたようだ。

 

「資料を見比べると、この展開なら控えても問題はないはず。逃げるのは確かに珍しいな」

「そうなんですよ。2番手の子、競り合おうとしているのにそれすらさせてない」

 

 マイルだから早いペースで流れる。なので控える選択肢を取らなかった、って解釈もできるが、それにしたって不自然だ。それでもちょっと余裕そうなのが一番不可解だけど。

 

 2人とも同じように疑問を抱いた。なので、俺が抱いた2つ目の不可解な点についても2人の意見を聞きたい。

 

「今回のカイザーのレースなんですけど、違和感みたいなものはありませんでした? なんか、いつものカイザーと違う、みたいな」

 

 カイザーが笑顔を見せなかったレース。有記念でも似たようなことはあったが、今回が初かもしれない。2人はどう感じたのか、それを知りたい。

 2人は首を傾げた。どうも、この意見は共感を得られなかったらしい。

 

「すまない、珍しく逃げている、以外の違和感はないな。それ以外はいたって普通だ」

「あたし様も同意見だ。榊トレーナー、君には何か別の違和感があるのかい?」

「まぁ、そうですね。ほら、なんか足りなくないですか?」

 

 該当箇所、とりわけ見分けやすい最後の直線に絞ってレースを見せる。

 

「ほら、これ。カイザーが笑って走ってないんですよ。いつもなら笑顔で走っているのに」

 

 言われて気づいたようだ。確かに、と口を揃えるお2人。意識して見なきゃ分からんからな、こういうのって。

 けれど、確かにと思っただけ。笑顔じゃないがそれがなにか? みたいな反応をされる。

 

「真面目に走っている、ということじゃないのか? 少なくとも良いことだとあたし様は思うわけだが」

「メイに同感だ。笑って走るのはスタミナの消耗が激しいし、良いことではないからね」

 

 いや、まぁ、そうなんだけど。言われるまでもなくそうなんだけど。

 

「まぁ、これに関しちゃ俺のワガママみたいなもんです。アイツの笑って走る姿が好きなんでね。珍しく笑顔じゃないから、何かあったのかなって思って」

「真面目になった、というよりは勝ちに拘り始めた、ということじゃないか? 成長したともとれる」

 

 スピードシンボリの言うように、良いことなのは間違いない。世間一般の良いことで、カイザーにとっての良いことなのかは分からんが。

 

 そして気になった第3の疑問。第2の疑問と繋がっているが、外さずにはいられない。

 

「なんか、今回のカイザーのレース運びに冷たさを感じませんか?」

「冷たさ?」

「なんて言えばいいのか分からないんですけど、いつも以上に冷静というか。それこそ、スピードシンボリさんの言うように勝つことに拘っているというか」

 

 ドバイターフのカイザーは、何と言うか冷たい。うまく表現できないが、あえて言うのであれば。

 

「人間味を感じさせない、レースに勝つことを至上にしている、って言えばいいんでしょうか? 少なくとも、普段のアイツとは何もかもが違った気がして」

「ふぅむ」

「俺の気のせいかもしれません。レース後のアイツはいつも通りでしたから。けれど、無視もできないかなって」

 

 アイツにも勝ちの意識が芽生えた、他のウマ娘同様勝ちに行った。成長なのかもしれないな、うん。

 でも、心のもやもやは晴れない。

 

「このままでいいのか、って漠然と思ってしまって。あのまま進ませるのもいいかと思いまして。お2人はどう思いますか?」

 

 カイザーの走りが良い方に変わっている。喜ぶべきことなんだろうけど、素直に喜べないというか。アイツに勝ってほしくないわけじゃないけど、これじゃあダメだろみたいな意識がある。本当になんて言えばいいのか分からん。

 

 厳しい表情のスピードシンボリと佐岳さん。なんて言われるのか、甘いことを言うなと言われるのだろうか。そんな風に思っている中で、スピードシンボリが口を開く。

 

「間違いなく良いことだ。今まで足りなかったものが埋められるわけだからね、カイザーの走りはさらに進化する」

「まぁ、そうっすよね」

「あたし様も同意見だな。やはり、彼女達の根底には勝つことがある。本能を抑えなくなってきた、言い換えれば強くなることを目指し始めたってことだからな。悪いことじゃない」

 

 やっぱ、2人ともそう考えるか。じゃあ、これに関しては俺の方が間違っているんだな。

 そう思った矢先である。スピードシンボリは依然として厳しい表情を崩さないまま、まっすぐに俺を見据えている。

 

「だが、榊トレーナーの意見も無視できるものじゃない」

「え? なんでですか?」

「決まっているだろう」

 

 厳しい表情を崩し、先ほどとは逆に柔らかい笑みを浮かべていた。

 

「カイザーのことを一番よく理解しているのは君だからだ。そんな君が抱いた不安は、到底無視できるものじゃない」

 

 出てきた言葉はちょっと信じられないようなもの。そうか? と言いたくなる言葉だった。表情から嘘じゃないんだろうけど。

 俺も未だにアイツのことはよく分からん。それで一番の理解者と言われても疑問しか出てこないが。

 

「一番理解してるって、言うほどですか?」

「あぁ。現状において、カイザーは君に一番心を許しているからな。心を許すのは、君がカイザーのことを理解しているからだ」

 

 う、うーん。そう言われるとそんな気がしないでもない。分からんけど。

 

 スピードシンボリが俺の肩に手を置く。励ますように。

 

「難しいかもしれないが、彼女にとっての最善を君が導いてあげるんだ。無論、俺達も協力は惜しまない。力になれることがあったら遠慮なく頼ってくれ」

「あたし様も、カイザーの動向には注意しておこう。何かあってからでは遅いからな」

 

 佐岳さんも同じ気持ちらしい。スピードシンボリと同じように、笑顔を浮かべていた。

 

 そういうことなら、お言葉に甘えて。

 

「まぁ、俺の気のせいかもしれないですけど。分からないことがあった時はまた相談に乗ってください」

「任せてくれ。力を尽くさせてもらう」

「あたし様もな。これでも人生経験は豊富だぞ? 君達の相談くらいはわけない」

 

 歳に関しては、はい。聞かないでおきます。

 

 

 

 

 

 

 スピードシンボリたちとの会話を終えて、元の座席に戻る。その際に、カイザーがこちらへと歩み寄ってきた。

 いつもと変わらない笑顔で、俺達のことに興味津々で。

 

「スーさん達と何の話してたの?」

 

 軽い調子で尋ねてくる。3人も一気に離れたらそりゃ気になるわな。

 嘘は言わない。

 

「ドバイターフの映像を見てたんだよ。意見交換会、みたいなやつだな」

「ふーん、そうなんだ。私のレース、凄かった?」

「凄かったさ。やっぱお前は強いな」

 

 ご満悦そうにドヤ顔を披露するカイザー。可愛い。

 

 

 一応、聞いておくか。

 

「なぁカイザー。ちょっと聞いてもいいか?」

「ん~? どうしたのトレーナー。なんでも聞いていいよ!」

 

 1つ深呼吸をし、意を決して、禁忌とも思える質問をする。カイザーがどんな反応をするのか、これで決める。

 一体どんな反応をされるのか。図星を突かれて表情が無になるか、怒りを買うか。これはないにしても、呆けた表情をされるかもしれない。それでも、突き進む。

 

「ドバイターフは、楽しかったか?」

「え? 超楽しかったよ! いや~、いろんなこと走れて楽しいし、ファンの人達も笑顔で楽しいことづくめだったね!」

 

 覚悟を決めたのに、返ってきたのはあっけらかんとした調子の言葉。楽しかったと、面白いレースだったと口にしている。

 いや、マジかよ。

 

「レース中、いつもと意識を変えてたりしたか? なんか、珍しく逃げてたけど」

「う~ん、確かに変えてたね。いつもより勝ちを意識したかな」

 

 あ、やっぱりそうなんだ。勝ちを意識していたのか。

 

「それでも楽しかった、と」

「うん。新鮮な気持ちだったし、なにより走れるだけで私は超絶ウルトラハッピーうれCからね!」

 

 ピースしながら喜ぶカイザー。眩しい笑顔だ。

 

 嘘を言っているようには見えない。本心から楽しいと思っている。少なくとも、嘘じゃないことは確かだ。

 

(成長、なのか? でも、この疑問を無視してはいけない、って言ってるしなぁ)

 

 うん、アレだ。

 

「お前が楽しいならよかったよ。これからもレースを楽しめ」

「はーい!」

 

 自分の席へと戻っていくカイザー。今のやり取りで、なんとなくアイツにも意識の変化があるんだなってことは分かった。

 

 

 ひとまず、今は現状維持だ。本能が振り切れないことを祈りつつ、カイザーの動向には気を配っておこう。

 

(なんでこう、フラグを綺麗に踏み抜くのか俺は。勘弁してほしいわ本当に)

 

 シニア期はまだまだ始まったばかりだというのに、考えることは山積みだ。1つずつ消化していきますかね。

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