担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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幕間 太陽に憧れるウマ娘

 わたしにとってカイザーさん、ハレヒノカイザーは強い憧れ。

 

「アハハ! 楽しいねぇクラちゃん!」

「は、はひぃ、はひぃ」

 

 ニコニコ笑顔で楽しく走って、一緒に走っているわたしもつられて笑っちゃうような、そんなウマ娘。シーザリオと一緒にアスケラに入る予定だったけど、そんな予定を覆しちゃうくらい、わたしはカイザーさんに惹かれてました。

 

 一緒のトレーナーのところでトレーニングして、一緒に強くなって。

 

「トレーナー、走ってきてもいい!?」

「どんだけ走るのよあんた。ま~いいけど、あんまり遠くには行くなよ?」

「はーい! じゃあ行こうクラちゃん!」

「待て、クラフトまで行くのは聞いてねぇ」

 

 とても楽しい日々を過ごしていました。やっぱりカイザーさんの側は温かくて、とても安心します。

 

 トレーナーさんも凄く良い人。いつもはお仕事が面倒くさいとかできる限り働きたくないって言ってるけど、キッチリと仕事はこなすトレーナーさんだ。トレーナーさん曰く、後でさらに面倒くさくなるくらいなら早いうちに終わらせる主義ってことらしいです。

 わたしたちに寄り添ってくれる。自分のことよりもわたしたち優先。わたしも凄くお世話になりました。

 

(焦っているわたしに、まずは目標を持つことが大事だって教えてくれた。カイザーさんに追いついたって思えるような目標を)

 

 カイザーさんが笑顔で走れるように、わたしも強くならなくちゃいけない。だから、もっと努力を重ねないといけない。立ち止まってなんていられない。もっともっと頑張らないと。

 そう考えていたわたしに道を示してくれたのがトレーナーさんでした。

 

「コツコツと積み重ねて、自信をつける。自分はこれだけのことをやれた、だから誰にも負けない、ってな」

 

 わたしにできることを教えてくれて、こうした方がいいよって示してくれた。トレーナーさんがいるからこそ結果を残せたし、今のわたしがいる。間違いなくそう言えます。

 

 順調な道のりを歩んでいた。このままいけば大丈夫だって思っていた。でも、ゆっくりはしていられなくなった。

 

 

 初めは年末の有記念。ディープさんとの初対決で、ハーツさんとも初めて対戦したレース。

 ハーツさんからの徹底マーク。同じようにロケットスタートで飛び出して、カイザーさんの後ろにぴったりと張り付いていた。

 

(凄い。なによりも、ハーツさんの気迫が違う!)

 

 観客席にいても伝わってくる気迫。絶対に勝つんだって強い気持ちを感じました。

 

 ハーツさんの気合に触発されたのか、カイザーさんもいつもと違った雰囲気を纏っていました。

 

(なんだろう。いつも以上に、カイザーさんの雰囲気が冷たい?)

 

 ちょっとした差。わたしやトレーナーさんぐらいしか気づかないような違い。カイザーさんは確かに、纏う雰囲気が変わってた。

 

 レースはカイザーさんが勝ちました。けれども、カイザーさんが見せた強さに焦りを覚えます。

 

(ジャパンカップよりもさらに速くなってる。カイザーさんは、どんどん強くなっていく)

 

 わたしを置き去りにするぐらい速く。カイザーさんはみんなを置いていくぐらいに強くなる。それがわたしは、我慢できませんでした。

 

 だから、年明け以降は頑張った。カイザーさんに置いていかれないように、追いつけるように。秘密のトレーニングをしちゃうぐらいに頑張った。結局トレーナーさんに見つかっちゃったけど。

 トレーナーさんは止めなかった。わたしの思いを汲み取ってくれたんだと思います。

 

(わたしの追いつきたいって気持ちを知っているから。無理に止めるんじゃなくて、自分が監督することで無茶をしないようにしてるんだ)

 

 トレーナーさんの優しさ。わたしの気持ちを尊重しつつ、決して無茶はしないように見守る。わたしの行動を責めないし、最大限理解を示そうとしてくれる。

 本当なら怒られても仕方ないことなのに。まずは理由を尋ねて、その先でなにをするべきかの目標を決めてくれる。わたし一人だけで考えさせてくれない、寄り添って考えてくれる。

 

「本当に優しいなぁ」

「なんか言ったか? クラフト」

「い、いえ! なんでもないですよ!?」

 

 トレーナーさんなら大丈夫。この人に着いていけば、きっとカイザーさんに追いつける。そう、思っていました。

 

 

 

 

 

 

 年明けの海外遠征。最初のレース、ドバイワールドカップミーティング。カイザーさんがまた速くなっていた。有記念の時よりもさらに速く。

 

(わたしがどんなに努力しても、カイザーさんはわたし以上に速くなっていく)

 

 やっぱりカイザーさんは凄くて、輝いていて。みんなを照らすお日様だ。ファンを引き付けてやまない、魅了するようなウマ娘。カイザーさんの凄さがどんどん知れ渡って、嬉しい気持ちがあふれてくる。

 

(カイザーさんは凄い。才能に溢れて、キラキラ眩しくて)

 

 そして、分かってしまう。自分じゃどうしても、カイザーさんに追いつくことはできないって。カイザーさんにはこのまま離されていくだけだって、この前のドバイターフでさらに強く思わされた。

 

 わたしもアルクオーツスプリントを勝った。ドバイのスプリントG1、勝つことだけでも凄いこと。順調に積み重ねていってる。

 けれども、カイザーさんは圧倒的だった。一度たりとも影を踏ませない逃走劇を披露して、後続のウマ娘を追いつかせることなく勝利した。

 

 やっぱり凄いな、なんて思ったけれど。重要なのはそこじゃなくて。

 

(カイザーさん、雰囲気が変わってる。この前までは笑顔で走っていたのに)

「ちょっと、怖いっ」

 

 最後の直線で笑いながら走るカイザーさんの姿がそこにはなくて。わたしたちと同じように、勝ちを意識したレースをしていました。

 ちょっとだけ嬉しかった。わたしと同じって思えたから。わたしには、カイザーさんみたいに笑いながら走る余裕はないから。

 

 けど、その喜びはすぐに消えました。だって、カイザーさんがあまりにも強すぎるから。

 

《ハレヒノカイザーが逃げ切った! これは見事な逃げ切り勝ち、日本勢は2勝目! 最初から最後まで先頭を譲らない逃走劇! 逃げのスタイルで見事勝利を手繰り寄せました!》

 

 盤石の勝利、番狂わせの気配すら起こさせない強さ。これがカイザーさんの本気なんだって思うと、今までのは? なんて考えてしまいます。

 それだけじゃない。ドバイターフのカイザーさんは、冷たかった。

 

(いつもみたいな明るさがない。太陽みたいな笑顔が、レース中になかった)

 

 今までとはまるで違うカイザーさんの姿。勝利の喜びよりも先に、カイザーさんの強さに対する恐怖を覚えました。

 

 圧倒的なまでの才能差。トレーニングを重ねていけば、いつかはきっと追いつける。そんな甘い考えを切り捨てるかのような走り。

 

(甘かった。わたしの考えが甘かった)

「このままじゃ追いつけない……」

 

 カイザーさんに置いていかれる。それはまだいい。良くないけれど、まだ我慢できる。

 けれど、このままいけばカイザーさんが孤独になってしまう。想像に難くない、あり得るかもしれない未来。

 圧倒的な強さが、カイザーさんを孤独にしてしまう。そのことが、わたしには耐えられない。

 

(優しいカイザーさんが一人ぼっちになってしまう。そんなの、絶対にダメ!)

 

 カイザーさんは何でもないようにふるまう。気にしてないよって、それよりも走ろうってわたしに言ってくれる。

 でも、心の底ではきっと全力で走りたいはず。本気の勝負をしたいって思っているはずなんです。カイザーさんの心の内は分からないけど、同じウマ娘だから分かる。だって、わたしがそうだから。

 競い合えるライバルがいないのは寂しいから、一人で走るのは辛いことだから。

 

(わたしが、頑張らないと!)

 

 一人ぼっちにしないように、優しいカイザーさんが笑顔でいられるように。わたしは、もっと頑張らないといけない。

 

 ディープさんがいるのは分かっている。きっと、これはわたしのワガママだ。カイザーさんの全力に追いつきたい、置いていかれたくないって思うのは。

 

 

 ドバイの遠征が終わって、今度は欧州に遠征。日本を経由せずに、直接こちらに来ました。久しぶりですね、ここの空気も。

 

 1日目と2日目は1日中休み。3日目から本格的なトレーニングを始めます。その時に、トレーナーさんにお願いしました。

 

「あの、トレーナーさん。練習の量を増やしたりできませんか? もっと強くなりたいんです!」

「今より増やすの? 危ないからダメ」

「そこをなんとかお願いします!」

 

 トレーナーさんに一生懸命お願いして、トレーニングを増やしてもらうように相談します。追いつくために必要なのは努力。カイザーさんの強さに追いつくには、生半可な努力じゃダメ。それこそ、120%の努力をしないと!

 

「お願いしますトレーナーさん!」

「ダメダメ。今でも十分やってるでしょ。頑張りすぎは体に毒だからダメ」

「そこをなんとかお願いします!」

「腰に引っ付くな! 絵面がヤバくなるだろうが!」

 

 トレーナーさんの腰に抱き着いてお願い。良いって言ってくれるまで離しませんし、良いって言っても離しません!

 

「お・ね・が・い・し・ま・す・~!」

「放せ! てか、いい加減にしないと」

「何やってるの? クラちゃん。私もやる~!」

「ほらも~! カイザーまで真似しちゃったじゃん!」

 

 カイザーさんと2人揃ってトレーナーさんの腰に抱き着く。こうすれば、トレーナーさんはお願いを聞いてくれるはずです!

 

 けど、ダメでした。

 

「ダメなもんはダメ! せめて今よりもっと量を増やすメリットを示せ!」

「うぐっ。だ、ダメ、ですか?」

「泣き落としに移行するな。思わず許可しちゃうだろうが。まずはしっかりと理由を教えてくれ。じゃないとこれ以上増やすことは許可できない」

「今だって多い方だからね。榊トレーナーの意見に同感だよ」

 

 スピードシンボリさんにもダメって言われたので、諦めるしかありません。こうなったトレーナーさんは梃子でも動きませんし、なにより分が悪いですから。

 

 ですが諦めません。隙を見てまたお願いをしましょう。

 

(カイザーさんを孤独にさせたくない。わたしがいるって伝えてあげたい)

 

 カイザーさん。わたしのお日様で、みんなを照らす太陽。あの人が曇っちゃうなんて、絶対にダメだから。

 

 頑張らないと。追いつくために、もっともっと強くならなくちゃ。

 

 

 だけど、このままでいいのか? って気持ちも出てきている。

 

(トレーナーさんに迷惑をかけてまで強くなるのは、本当に正しいことなのかな?)

 

 トレーナーさんはいつだってわたしのために手を尽くしてくれている。そんなトレーナーさんに、わたしは迷惑をかけようとしている。

 本当にこれでいいのかな? わたしのやっていることは、正しいことなのかな?

 

 カイザーさんに追いつきたいのは本当のこと。今の努力では足りないことも本当。

 勝ちたいって気持ちはある。カイザーさんに負けたくないのも本当だ。

 

 でも、他の道もあるんじゃないかな。カイザーさんを孤独にさせないための、もう一つの道が。わたしだけにできることが、もっとあるんじゃないかな。そう考えてしまう。

 それに、トレーナーさん達の意見が正しいんだと思う。わたしのことを思って、わたしにできる最大限のことをやってくれている。

 わたしの中でトレーナーさんは、とても大きな存在になっている。

 

(トレーナーさんに迷惑をかけたくない。お世話になっているトレーナーさんに、苦労をかけたくない)

 

 分からない。考えても答えは出ない。さっきから2つの意見が頭の中をぐるぐるしている。

 

カイザーさんを孤独にさせないために強くなりたいわたし

トレーナーさんに迷惑をかけたくないわたし

 

 どっちも大切で、どっちもやりたくて。どっちを優先したらいいのか、分からなくて。

 

「どうしたら、いいんだろう」

 

 口から、そう漏れ出てしまいました。

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