担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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心配は止まず

 ディープインパクトが合流してからのトレーニングはいつも以上に順調だ。主に、カイザーのテンション的な意味で。

 

「よーし、準備運動は終わったな? それじゃ、さっそくトレーニングするぞー」

 

 カイザーは基本的に分け隔てなく接するが、例外に属するのが2人いる。それがクラフトとディープインパクト。今までもクラフトがいることから、トレーニングは大変やる気を出していたのだが、ディープインパクトが加わったことでさらにやる気を出すようになった。

 

 例えば併走。2人よりも3人、的な感じでいつも以上に力を発揮している。

 

「よーし、負けないぞー!」

「私も負けないよ、カイザーさん」

「が、頑張ってついていきますっ!」

 

 カイザーが走り、ディープが競り合い、クラフトが食らいついていく。あの2人に食らいついていけるクラフトもまぁバケモノクラスなんだよな。あんまり無茶はできないから、適当なところでやめさせるけど。

 ジュニア級の頃はカイザーの方がもたなかったが、今ではしっかりともつように。身体も頑丈になってきている、ということだろう。バステが治らない理由はもう知らん。

 

 カイザーのやる気がみなぎる。そうなるとどうなるか? ディープインパクトもやる気を出す。

 この2人、根本的な部分で似ているためか、相乗効果でトレーニングの効果が凄いコトになるのだ。アプリで例えるならアレ、2人友情が3人友情とかに化けるくらいには凄い。カイザーに限って言えば、ディープインパクトは2人分の友情が乗るみたいな感じだ。

 

(ここまで性格的に合うとはな。史実でも大層仲が良かったに違いない)

 

 ウオダスのようにケンカするほど仲が良いわけではない、オグタマのような関係性でもない。純粋に仲が良くて、心の底から共鳴するような仲間。いわゆるソウルメイトと呼ぶ奴だ。仲が良いようで大変良きです。

 

「カイ×クラも良いですが、カイ×ディーも良いと思うんですよ」

「何を言ってるんだい君は」

 

 呆れたスピードシンボリの視線が突き刺さるが、どちらにも良さがある。捨てがたいな。

 

 ただ、油断は禁物。相乗効果でトレーニングは順調だけども、気を付けて見ておかなきゃいけない。理由はシンプル、目的すら忘れて突っ走るからだ。

 この2人は限度ってもんを知らない。さすがは日本にいた頃、府中から箱根まで走ったことがあるようなウマ娘だ、面構えが違う。

 

「おーい、もうその辺で止めておけよー! 併走だけで体力消耗したら、別のことやれねーぞー!」

 

 なので、適当なところで止めさせる必要がある。幸いにもカイザーは言うことを素直に聞いてくれるんでね、大変助かっております。

 

 トレーニングをピタッと止めるカイザー。続くようにディープとクラフトも切り上げた。よしよし、良い感じだ。増えたとはいえ、中心になっているのはカイザー。彼女がトレーニングを止めれば残り2人も止める。我ながらナイス判断。

 休憩で戻ってくる3人。流した汗を拭こうとするのだが。

 

「トレーナートレーナー、汗拭いて」

「はい?」

 

 唐突にタオルを渡された。そして、汗を拭いてくれと頼まれた。それくらい自分でやんなさいあんた。

 なお、ニコニコ笑顔のカイザーに逆らえるはずもなく。仕方がないので汗を拭いてやることに。担当のケアもトレーナーのやることですから。いや、これはトレーナーのやることじゃないだろ。

 しかしあれだな。

 

(親御さんはあまりワガママを言わない子、って言ってたけど俺に対してだけなんか違くないか? 俺だけやたらと押し付けられてないか?)

 

 信頼の証、なんて言われたが怪しいところ。小間使いとかその辺にしか見ていられないような気がする。それにしてもコイツの髪さらさらだな。

 邪な気持ちはない。カイザーの汗を拭いてやる、のだが。

 

「と、トレーナーさんわたしも! わたしもお願いします!」

「増えるな増えるな。なんで増えるんだよ」

 

 クラフトからもお願いされる始末。カイザーの真似をするんじゃありません。なんで2人して俺に頼むんだよ、同性のスピードシンボリか佐岳さんに頼めよ。もしくは自分でやってくれよ。

 

 視線をお2人に向けるが、何も言ってくれない。なんなら苦笑いでやってやれ、と言わんばかりのセット付だ。おのれ、俺の味方は誰もいないのか。

 

(まぁ、こんなことでやる気ダウンされても困るし)

 

 やる気ダウンイベントは敵、トレーニングの効果が下がるし嫌なことしかない。やる気を下げないためにもこれは対応するのが吉だろう。それにアレだ。妹に接するような感じで行けばいいだろう。俺に妹いないけど。

 

 2人の汗を拭いていると、ディープインパクトの視線に気づく。ジーっとこっちを見ていた。まさかとは思うが、お前まで同じこと言わないよな?

 俺の視線に気づいてか、手をわたわたさせて弁明し始める。

 

「あ、すみません。2人と良い信頼関係を築けているんだな、って」

 

 信頼関係、信頼関係か。これは本当に信頼関係なのか。体のいい小間使いにされているだけでは?

 

「自分の体を触らせるなんて、本当に気を許した人にしかしないと思いますから。汗を拭いてもらっても何も言わないなんて、凄く珍しいことですし」

「そういうもんか? 俺にはよく分からんが、親にやってもらうのと同じような感覚じゃね?」

「ふふ、そうじゃないかもしれませんよ?」

 

 薄く微笑むディープインパクト。うーんこの美人でロイヤルな雰囲気。さぞ高貴な身分のウマ娘なのかもしれん。ファインモーションに通ずるものがある。

 

 

 汗を拭き終わったのでタオルを返却。さて、次のトレーニングに移りますか。

 

「それじゃ、次のトレーニングすっぞ。早く準備しろ」

「はーい」

 

 こんなことはあるものの、トレーニング自体はすこぶる順調。ジャック・ル・マロワ賞とインターナショナルステークスが近いし、追い込みをかけていこう。

 

 

 

 

 

 

 トレーニングが終わってホテル内。カイザーたちは今頃部屋で遊んでいる頃だろう。大人の俺はまだ仕事が残ってる。

 繰り返しになるが、経過は順調そのものだ。加速度的に強くなっていくし、今度のレースも心配はしていない。ジャック・ル・マロワ賞もインターナショナルステークスも勝てる算段があるし、よっぽどがなければ負けん。それくらい強くなっている。

 クラフトに関しても、もう問題はない。この時期だと眠りが深くなることが多いシナリオだったが、そんな兆候は一度も現れなかった。知らない間に、史実は超えたとみていいだろう。

 

(なんか、シナリオにも差異があるんだよな。そういうもんだと思って気にしてないけど)

 

 やっぱりいろいろとあるのかね。知らんけど。

 

 順調ではあるが、懸念事項が2つある。1つ目はファンの雰囲気だ。

 

(面倒なことに、どんどん期待が膨らみ続けている。もはや凱旋門賞の出走回避なんて択は取れないほどに)

 

 元々回避の選択はないが、ファンの期待がすんごいことになっている。もはや回避でもしようもんなら、暴動が起きそうなレベルだ。ディープインパクトクラスの盛り上がりになるなんて、昔の俺に言っても信じてもらえないだろう。

 仕方ないところはある。デビューから無傷の連勝記録を継続中、勝ち方も圧倒的なものばかりで、どうしても期待してしまうものだ。

 だからといって、ファンレターにまでいろいろと書き込むのはどうかと思う。検閲のために俺が中身を見ているのだが、これがま~凄いこと。

 

「まさか俺に対する信頼がないせいで凱旋門賞回避するなよと脅しかけてくる奴がいるとは。クラシックの件をどんだけ根に持ってんだよ」

 

 かつてクラシックを回避する選択をした俺に対する信頼はないに等しい。凱旋門賞だろうと、ディープインパクトが出るなら回避しかねない、なんて論調があるのだ。おう、有記念どうなったか言ってみろや。

 そもそも、俺自身ウマ娘の体調が整わなかったから出走させないと明言している。それなのに出せと言われても、知らんわそんなの案件だ。

 

 こんなものはファンレターでも何でもない。日本にいるたづなさんにクーリングオフしてる。当のたづなさんは憤りを隠せていなかった。

 曰く。

 

「ファンレターに紛れ込ませて、脅迫紛いの要望を書くなんて言語道断です! トレセン学園としても、到底看過できる状況じゃありません!」

「警告ッ! 今後似たようなファンレターを書いた者には相応の処置を取らせてもらう! 榊トレーナーにおいては、安心して業務に励んでほしい!」

 

 らしい。電話越しでも怒っているのが分かるぐらいには憤っていた。いやはや、とんでもない事態に発展しているものである。なお、理事長達の申し出はありがたく享受させていただいてます。足を向けて寝られないなこれは。

 まとめると行きすぎた信仰は厄介なことこの上ないってことだ。菊花賞のライスシャワーとかもホンマか? と思うようなものだったが、強ち間違いじゃないのかもしれん。

 

 2つ目の懸念事項。どこまでもつきまとうバステ問題だ。いまだ解消の兆しが見えない上に、問題となるディープインパクトが近くにいる。いつ爆発してもおかしくない状況なのも確か。

 

(幸いにも今は問題ない。この後も問題ないとは言えないが、安心はできる)

 

 トレーニングでも無茶はしないし、しっかりと自重してくれている。なんとありがたいことか。

 ただ、この先も大丈夫という絶対の保証はない。しっかりと観察し、おかしなところがあればすぐさま対応しなければならない状況だ。

 

「健康は特に問題なし、脚の状態も悪くなく、メンタル的にも安定している。順調すぎて怖いぐらいだ」

 

 順調だからこそ、しっかりと警戒しなければいけない。何事も、何も起きていない時が一番怖いからな。何か起きてからじゃ遅い、何か起きる前に起こさせないことが大事だ。仕事においても、な。

 俺に対する問題は、うん。アレは回避不可能だから仕方ないんだ。

 

「悪口スレまで建てやがってよ~。有名人も辛いねぇ……本当に辛い」

 

 これが有名人の立場って奴か。割と心にクるんだな。涙が出てくるわ。負ける気はさらさらないけど。

 

 

 この2つが問題として挙げられる。1つ目はともかく、2つ目が解消するのはいつになるのやら。

 それに、レースに対する姿勢だ。世間では真面目になったとか、ついに全力で取り組むようになったとか言われているが、なんというか。

 

「不思議なんだよなぁ。表情は抜け落ちているのに、楽しそうってのは変わらないんだから」

 

 カイザー自身、笑顔じゃなくなっているのは無意識らしい。本人も気づいていないようだった。そうなの? って返されたぐらいだし。

 だから、真面目になったのは間違いじゃないと思う。けど、楽しまなくなったって言われたらちょっと違うというか。

 

「うーん分からん。アレはアレで楽しいらしいからな。無暗に否定するのも何と言うか」

 

 ほら、アレだ。楽しくないように見えても、本人は楽しいと思っている節がある。外野が勝手に決めつけてどうこう言うよりも、本人の意思を尊重してやるのが大事だと思うんですよ。

 なお、カイザーの場合尊重しすぎたら大変なことになるとする。この見極めがめちゃくちゃ大変だ。なんせ、カイザーは傍目には何が大丈夫なのか分からないのだから。

 限界がどこか分からない。何がダメで何が大丈夫なのかてんで分からない。割と付き合いは長いのに、アイツの全容はなにも分からんのだ。分かっているのは、俺は結構信頼されているってことぐらい。

 

「ま、今後も深く考えずに付き合っていこう。考えすぎてドツボにハマったら最悪だ」

 

 これまでのことが無に帰す可能性も十分にあり得る。良い付き合いを続けるためにも、変わらない日常を過ごすことが大事だ。

 

 

 ま、こんなものか。次のレースまで日がないし、そろそろ調整するべ。

 

「ディープとの走りもある程度控えるように言っておかないとな。疲れを残したら大変だし」

 

 これもま~面倒なこと。勿論、やりますけどね。

 

 ジャック・ル・マロワ賞とインターナショナルステークス。そしてディープの愛チャンピオンステークス。頑張りますか。

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