8月では2つのレースに出走。クラフトのジャック・ル・マロワ賞、カイザーのインターナショナルステークスだ。調整は万全、2人とも最高の状態でレースに出走する。
ジャック・ル・マロワ賞。クラフトはどうなったかというと。
《ラインクラフトが突き抜ける! 短距離の女王はマイルでも強い、マイルでもこの強さ! 日本のスプリント女王がマイルでも強さを発揮する! これがラインクラフトの強さだ残り100m! G1ウマ娘を蹴散らして! ラインクラフトが突き抜ける!》
「うおおおぉぉぉ! いけぇぇぇクラフトォォォ!」
「クラちゃん頑張れー! ファイト、ファイト! オー!」
好位置からの先行策で見事に抜け出し、最後は2着の子を競り落としての勝利を飾る。うーん強い、これは横綱相撲ですわ。
《ラインクラフトだラインクラフトだ。短距離だけではない、マイルでも女王の座に君臨するのは日本のラインクラフトだ! 世界のスプリント女王、そして世界のマイル女王の座も戴いた! ラインクラフトが最後は突き抜けたぁぁぁ!》
「わーい! やったやったークラちゃーん!」
「クラフトさんも凄いな。走ってみたいな」
これにはカイザーもニッコリ。大変素敵な笑顔でクラフトの勝利を讃えております。俺はすでに限界化しすぎて喉が枯れそうになっている。レースの度に枯れそうになってるからもう慣れた。
こっちにブンブンと大きく手を振るクラフトに手を振り返しながら、ジャック・ル・マロワ賞は終わる。インタビューはそつなくこなした。次のレースも考えないとな。
で、カイザーのインターナショナルステークス。結果のほどは、うん。
《ハレヒノカイザー止まらない、ハレヒノカイザー止まらない! 圧倒的強さ、圧倒的速さ! スピードの次元があまりにも違う! これこそが日本のハレヒノカイザーだ1着! インターナショナルステークスを勝ったのはハレヒノカイザーだ! 2着以下を全く寄せ付けない6バ身差の圧勝劇! もはやこのウマ娘を止める術はあるのでしょうか!?》
「やっぱカイザー最高! カイザーしか勝たん!」
「カイザーさん、さらに強くなってる。滾るなぁっ!」
なんなんだろうね彼女は。もう驚かなくなっちゃったよ俺。インターナショナルステークスを6バ身差で圧勝しても、まぁカイザーならやるでしょぐらいにしか思わなくなったよ。おかしいな、一応欧州の中距離路線でもメジャーなレースなんだけど。
いつものニコニコ笑顔。うーん、眩しいね。この笑顔はいずれ癌にも効くようになる。セラピー効果もありますよ。
と、2人とも問題なく勝ったわけだ。
「いや~、ハレヒノカイザーとラインクラフトの活躍でURAに良い報告ができているよ! 本当にありがとうな榊トレーナー!」
「ありがとうございます。さらに予算が増額されるといいですね」
「これは倍どころか3倍、4倍は固いかもしれんな。アッハッハ!」
佐岳さんも超上機嫌、報告を聞いたURAもかなり機嫌が良いらしい。日本ではカイザーとクラフトのグッズが飛ぶように売れているんだとか。ここまで有名になったか、2人とも。
それだけじゃない。なんと、欧州でもカイザーとクラフトのグッズが展開されるようになった。正確には、プリンスオブウェールズステークスの頃には発売されていたかな? ぱかプチとかタオルとか、それはもういろいろなグッズが。ちなみにハーツクライのもある。
現在世界中で大人気。それがカイザーとクラフトなわけだ。ディープインパクトはこれから人気になるでしょ。こっちのレースには出走してないし。あんな派手派手なレース見たらファンは増えるよ、多分。
順調、傍から見たら大変順調な旅路だ。そう、外野から見ているだけなら。
だが、内情を知る俺達は違う。
「ハレヒノカイザーさんとラインクラフトさんの独占取材を!」
「せめてアポ取ってから来てください。突然言われても困ります」
「『日頃のトレーニング風景を見せてください!』」
「『アポをお願いします。希望の日付はこちらの方にご記入を』」
「『お2人を育てた手腕、なによりお2人の強さの秘訣を何卒!』」
「『だからアポ取れって言ってんだろうが』」
連日連夜マスコミが押し掛けてくるのでさぁ大変。そりゃこんな人気になったらそうなるわな。
別に普段からマスコミ対応してないとか、そんなことはない。どちらかと言えばマスコミの要望はできる限り叶えている方だ。インタビューだってちゃんと答えているし。
それでも来る。なんでかと言われたら、金になるから。注目ウマ娘の動向は誰だって気になるものだしな。
彼らの名誉のために言っておくが、ちゃんとした手続きを踏んでくるマスコミの方が多数だ。数こそ多いものの、多くはしっかりとアポを取ってくる。
しかし、あまりにも母数が多すぎる。その結果、我先にとインタビューするためにアポを取らない奴が出てくる始末。
そういうのはしっかりと門前払いだ。アポ取ってから出直してこい。
対応するのは大体俺。スピードシンボリや佐岳さんにはトレーニングを見てもらわなきゃいけないし、俺は不足しているステータスのトレーニングを指示するだけだから、少しの間いなくても問題ない。
これのまぁ多いこと。中には侵入を画策する愚か者すら現れる始末だ。どんだけ特ダネが欲しいねんお前ら。警備が厳重な練習場に侵入しようとする根性だけは認めてやる。
「『それじゃ、今日もお願いしますガードマンさん』」
「『お任せを。それにしても、いつもお疲れ様です榊さんも』」
「『慣れましたよ。何事も慣れです』」
「『榊さんも、犬の扱いには慣れてきたようですね』」
あんなペットいらんわ。
と、レース終わりはいつもマスコミ関係でごたごたしている。いい加減、ほとぼりが冷めてほしいもんだがそれも難しい。カイザーとクラフトが勝ち続けているからな。
(マスコミからしたら、こんな特ダネは放っておけない。金のなる木と同じだ)
前に、ディープインパクトが注目されていたことを思い出す。あの時のスピードシンボリとの会話を。
今や2人は、ディープと同じ立場に立っている。注目選手の動向は誰もが知りたくなる。知りたくなるからこそ、マスコミはこぞって集まってくる。
注目されるから、金になるから。理由なんてそれだけだ。たまに熱心なファンがいることもあるけどな。乙名史さんみたいに。そんな例はごく少数なのが悲しいところ。
今日もマスコミ対応を終わらせたら、カイザーのトレーニングに合流。疲れはない。何事も慣れだ慣れ。
「戻ってきたね。いつもお疲れ様、榊トレーナー」
「あたし様も手伝うぞ? いつも大変だろう」
スピードシンボリと佐岳さんの優しさがあったけぇ。本当に問題はないから、お気持ちだけもらっておく。
「大丈夫ですよ。あぁいうのには慣れてるんで」
「慣れてる、か。実際、苦情が少ないから問題なく対処しているんだろうな」
「なんで慣れているんだ? 新人なのに」
いろいろとあるんですよ。主に前世絡みで。主に話を聞かない上司とかの対応で。アレと比べればマシよ。
3人は問題なくトレーニングをこなしている。次はディープの愛チャンピオンステークスだからな。その頃には文乃先輩も来るだろうけど、練習はしっかりとさせておかなければ。
(大事なウマ娘を預かっているわけだからな。万が一を起こすわけにはいかん)
ハーツクライの時もそうだったが、無茶をさせるのは厳禁だ。ケガでもさせたらハラキリせねばならん可能性が出てくる。目を光らせておかないとな。さっきまで俺いなかったけど。
トレーニングを眺めている間は大体世間話。2人と話していることが多い。
今回の話題は丁度上がったマスコミについて。同情するような視線を俺に向けていた。
「彼らもしつこいな。何度も何度も……年明けからずっとだ」
「ま~大ブレイクしてますからね、カイザーもクラフトも。この機を逃すわけにはいかんでしょう」
「それは分かるが、こちらの事情を考えてほしいものだ。ウマ娘に悪影響が出たらどうしてくれるんだか」
スピードシンボリの表情には怒りが見える。そりゃ怒るだろうよ。ウマ娘のコンディションに悪影響を与えかねないんだから。
実際、俺も断り文句は体調の話を持ち出す。カイザーやクラフトが調子を落としたら責任取れるのか? と。
とはいえ、彼らの心理は分かる。言うなればあれだ、商機を逃さないようにしているわけだ。
「脂がのっているウマ娘の情報を逃すわけにはいかない。他社よりも先に情報を出して、自社の利益にしなきゃいかんわけですから。言い分的には理解できますよ」
そういうと、お2人は思いっきり顔をしかめた。いや、うん。気持ちは分かるよ? なんでお前擁護してんだ、って感じですもんね。十分に理解できます。
睨みつけてくる佐岳さん。これもきっと、ウマ娘達を思ってのことだろう。
「君はアレか? 彼らを庇うつもりか?」
懐疑的な目。事と次第によっては海に沈められかねん迫力を前に、俺は思ったことをそのまま口に出す。
「んなわけないでしょ。アイツらがカイザーとクラフト、それにディープに影響を与えようもんならぶっ飛ばしますよ」
「なら、どうして庇うような発言をするんだい?」
「別に庇ってるわけじゃありません。客観的な事実を述べただけですよ。その上で、俺が言いたいのはただ一つ。お前らの事情なんか知るかバカ、です」
商機を逃したくない、ブレイクしているウマ娘の情報が欲しい。彼らの言い分は理解できる。理解できるが、それを受けるかは俺が決める。理解は示してやるが、だからと言って受けるかどうかは別の話ってだけだ。
「俺はウマ娘ファーストなもんで。最優先事項は担当と預かっている子達です。アイツらの優先順位は、彼女らに比べたらはるかに劣ります」
「言い切るんだな」
「そりゃあもう。悪影響を与えたら末代まで祟るレベルです」
これが俺のスタンスだ。変えるつもりはない。
ほっと安心したのか、2人の表情も和らいでいる。ちょっと怖かったのは内緒だ。
「一応聞いておくが、君はマスコミは嫌いかい?」
「嫌いでもなければ好きでもありませんよ。無です、無」
「ある意味、一番酷いな」
苦笑いを浮かべるスピードシンボリ。マスコミとの付き合い方なんてこれでいい気がする。利用する時は利用する。お前らも利用するなら勝手にどうぞ、ってだけだ。
あまり明るくない話題だったが、その後は今後のレースプランについて。とりわけクラフトについてだ。
「やはり、アベイ・ド・ロンシャン賞だな。欧州の短距離路線でも最重要タイトルに数えられている」
「ま~そうなりますよね。カイザーが凱旋門賞に出走する関係上、ちょうどいいですし」
「あぁ。同時制覇ともなれば、さらに注目は集まるだろうがね」
クラフトの次走に据えたのはアベイ・ド・ロンシャン賞。日本のウマ娘も勝ったことがあるレースで、ジュライカップに並ぶレースらしい。にしても、アプリでは聞いたことがない名前がポンポン出てくるわ。世界のレースっていろいろとあるのね。
後、スピードシンボリが注目どうこう言っているが。今更さらに注目が集まってもどうでもいい気がする。誤差だよ誤差。
そんな話をしていると、トレーニングを終えた3人が戻ってきた。戻ってきたのだが。
「トレーナー、汗拭いて~」
「トレーナーさん! わたしもお願いします!」
「自分で拭きなさい。もしくはお互いで拭きあいなさい」
タオルを差し出してくるカイザーとクラフト。何? 君ら最近俺に何かしてもらうのがトレンドなの?
スピードシンボリたちは苦笑いでこちらを見ているだけ。助けてほしいんですが。ディープインパクトも何か言えよ。
「信頼、されているんですね?」
「疑問符を浮かべてないで助けてくれ。俺はウマ娘の力には勝てん」
不思議そうに首をこてんと傾げるんじゃない。君はアレか、天然か、天然お嬢様なのか?
いろいろとあるトレーニング。最終的には俺が拭くことになりました。調子に関わるなら仕方ねぇよ。
カイザーたちの頭を拭いてやっていると、ディープがこちらに。
「榊トレーナーは本当に信頼されているんですね。先程、スピードシンボリさん達と剣呑な雰囲気でしたが、カイザーさん達は心配ないと言っていました」
「ほ~ん、なんで?」
「榊トレーナーなら心配はないと。そう口を揃えていましたよ」
優雅に笑うディープインパクト。嬉しいことを言ってくれる2人だが、汗ぐらいは自分で拭いてくれ。
後はそうだなぁ。
(スキルのことも、だよな。アレなんなんだろうな本当)
なんかえらいことになっていたが。なんも分からんので放置だ放置。とりま分かっているのは、アイツの進化スキルが凄く凄いことになりそうってだけ。どうなることやら。