担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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到着と愛チャン

 そろそろ愛チャンピオンステークスの日が迫っている今日。文乃先輩が日本からこちらへとやってきた。

 

「お久しぶりです、文乃先輩。それとサイレンススズカも。日本での活躍は耳に入っていますよ」

「それを言うなら君の方が凄いだろう? 全く、とんでもない新人だ。こちらの立つ瀬がない」

「お久しぶりですね、榊トレーナー。こちらではよろしくお願いします」

 

 それほどでも。にしても、サイレンススズカまで来たか。うん、カイザーたちが喜ぶな。それ以外に関してはノーコメント。一言でまとめるなら大変なことになる。

 

 立ち話はほどほどにして、ディープインパクトたちが待つ練習場へと向かう。空港から結構距離があるため、移動はタクシーだ。

 

「それにしても、よくこちらに来れましたね。文乃先輩もたくさんのウマ娘を担当しているのに」

「そちらはスーパークリークが見ているので。面倒見も良く、後輩たちからも慕われています。僕も安心して任せることができる」

「クリークさん、後輩からも慕われていますから。みんな不満なく受け入れてました」

 

 タクシー内では世間話に花を咲かせる。日本での状況だったり、他の担当ウマ娘の話だったり。サイレンススズカだけ着いてきた理由について尋ねたり。

 

「なら、どうしてサイレンススズカだけこちらに? 彼女も他の子達同様日本に残るって選択肢は」

「それもまぁ、考えたのですが」

 

 言いにくそう、というか苦笑いをしている文乃先輩。どういう感情だろうか。いったい、何があったのだろうか。

 

「カイザーにディープもいるんでしょう? じゃあ、私もいないとダメじゃないかしら」

 

 代わりに答えたのはサイレンススズカ。どういう理屈だ。なんでカイザーとディープがいるからじゃあ自分も、ってなるんだ。

 文乃先輩に目を向けると、気まずそうに顔をそらされた。あぁ、うん。これで押し切られたんだな。特に問題があるわけじゃないからいいけど。

 それに、どちらかと言えば好都合だ。

 

(サイレンススズカは逃げの名手。スタートも抜群に上手いし、ディープのスタート技術向上に役立ってくれるはずだ)

 

 それに、逃げのペースで走ることも教えてくれるかもしれない。あわよくば逃げの金スキルとかもらえるはず。おまけにカイザーとディープとの相性も言わずもがな、間違いなく好影響になるはずだ。クラフトとも悪くはないだろう。カイザー経由で知り合ってるだろうし。

 

 

 練習場に着いた瞬間、カイザーとディープが嬉しそうにこちらに来た。

 

「あれー、スズさんだ!」

「スズカさんもこちらに来たんですね」

「えぇ。私もこっちに来させてもらったの。トレーナーさんには感謝ね」

 

 うーんこの3人は相変わらず仲が良い。クラフトはあまり面識がないためか、最初こそあわあわしていたが。

 

「ほら、クラちゃんもこっちに来て! 一緒に走ろうよ!」

「え、あ、はいっ」

 

 そこはコミュ力最強のハレヒノカイザー。クラフトが悩んでいる隙に、一気に引き込んだ。4人で仲良く、和気藹々としている。

 

「今日くらいはトレーニング休みますか」

「そうだな。明日からまた、本格的に再開しよう」

「休息も必要だ。特に、ディープインパクトはレースが近いからね」

 

 今は丁度お昼時。天気も良いからトレーニングには絶好のコンディションだが、今日はお休みだ。4人で仲良く過ごしてもらおう。

 

 海外遠征に文乃先輩とサイレンススズカが合流した。周りが騒がしい中での嬉しいニュースだな。

 

 

 

 

 

 

 そうして始まる愛チャンピオンステークス。ディープインパクトが出走し、やたらと名前を見るプランシェットも出走。後はアイルランドのダービーウマ娘パトリオディランがいる。

 1番人気はディープインパクト。理由は多分、世間での認識だろう。欧州で大ブレイクしているカイザーのライバルだし、日本での活躍は耳に入っているはずだ。マスコミや世間も、こちらに来ることを楽しみにしていた。

 つまりは、欧州での人気はかなり高い。実力を隠すのはほぼ無理だろう。そんな気はしてたけど。

 

 スタートは五分。ディープインパクトは出遅れこそしなかったが、すぐに後方待機の構えで走る。いつものスタイルで勝負をするつもりらしい。

 

(ま、ここで下手に先行できます、ってするのもな)

 

 凱旋門賞まで隠す予定のものを公開する意味はない。奇襲することができなくなるからだ。なので、ここは大人しくいつものスタイルで勝負をすることに決めたようだ。

 もっとも、凱旋門賞最有力候補のカイザーはここで見ているし、ディープの応援をしているが。そもそもカイザーには奇襲全般が通用しないのが辛いところさん。なんにでも対応するし、どんな奇襲も即座に適応するぶっ壊れスペック。奇襲とは、と問いたくなる。

 

 少しそれたが、レースそのものは順調。スタートしてから徐々に位置を下げ、今は最後方を走っている。特に問題はなさそうだ。

 

《800mの下りを越えて、まもなく上りに入ります。先頭を走るのはスペード、スペードが先頭でペースを作る。スペードから遅れること2バ身この位置にパトリオディラン注目のダービーウマ娘。プランシェット、マスタヴィアンデと続いて、最後方にディープインパクト。マスタヴィアンデから遅れること3バ身の位置につけています》

「頑張れプイちゃーん、いけいけプイちゃーん!」

 

 まぁ、位置取りについていろいろと考察したものの。

 

「こんな少人数じゃあ位置取りもクソもないよな、うん」

「5人だからな。元々愛チャンピオンステークスは少人数での出走が多いとはいえ、まぁ少ない」

「日本だと競走成立ギリギリですね、これ」

 

 文乃先輩の言うように、日本だったらギリレースが成立レベルの少なさだ。めっちゃ少ないわ本当。

 出走回避が相次いだり、元々出走するつもりじゃなかったりと、愛チャンピオンステークスに出るウマ娘がいなかった。その結果とはいえ、だ。本当に少ないわコレ。欧州のレースってどこもこんなもんだったりするけど。

 

(マジで凱旋門賞が特別なんだろうな。去年が15人、一昨年が19人とからしいし)

 

 フルゲートすれすれまで行く凱旋門賞。それだけ、特別なレースなのかもしれない。

 

 しかし、今回はその凱旋門賞すらめちゃくちゃ少なくなりそうなのだが。なんだ現時点で出走者8人って。いくらなんでも少なすぎるだろ。

 

「なんで凱旋門賞すら8人になりそうなんですか? 少なすぎるでしょ」

「これはもう陣営の狙いとかがあるからなぁ。あたし様に聞かれても分からんよ」

 

 佐岳さんにも分からないらしい。これから増えることを祈る……祈ってもいいのか? どちらにせよ、凱旋門賞が無事開催されることを祈るばかりである。

 

 

 レースは上り坂。ディープインパクトは苦にすることなく上がっていくが、このレパーズタウンレース場は上り坂が中心だ。

 

「さて、クラフト。このレパーズタウンレース場の特徴は覚えているか?」

「あ、はい。確か、後半に上り坂が集中しているから、想像よりもパワーとスタミナを求められるレース、ですよね?」

「そう。スピードだけじゃ勝つことができないのが、この愛チャンピオンステークスだな」

 

 コースの設計はそこまで特徴的じゃないから割愛。後半に上りが集中しているから、思っている以上にスタミナを消費するコースだ。

 とはいっても、ディープインパクトには関係ない。日本とはいえ、3200mの春天を走破するスタミナに、小柄ながらパワーもある。走破することはそう難しくないし、海外のウマ娘相手にも負けていない。

 さらには、スピード。ディープはスピードも一級品、どころじゃない。超一級品というか、カイザーさえいなければ時代の最速クラスだ。

 

《最後方に控えたディープインパクト。コーナーを目前にしてスピードを上げてきました。じわりじわりと上がってくるディープインパクト、4バ身あったマスタヴィアンデとの差を1バ身まで縮めます。まもなくコーナー、レースを動かしたのはディープインパクトだ》

 

 ディープが動き出す。彼女が動けば、前にいるウマ娘も動き始める。一番に警戒している相手だからだ。

 何かを仕掛けてくる、その準備を万全に整えなければならない。何もせずに静観するのは、勝負を諦めていることに他ならないから。

 

 内の進路を狭め、大外以外の追い上げを封じる。オーソドックスな、教科書通りの封じ込め方。

 追い上げる側はかなりキツい。走る距離が増えるし、距離が増えるということはそれだけスタミナの消費も激しいということ。

 おまけに、縫って走ることができないくらいの隙間でバ群がバラけている。結構なロスだな。

 後方脚質の辛い点が集約されている。自分でレースを作ることができず、展開に左右されてしまう弱点を突かれた。抜け出すのは容易じゃない。

 

 だが、飛び抜けた強さを誇っていれば話は別だ。

 

「ここからだな、ディープインパクトは」

「その通りだ、榊トレーナー。ディープはここから強い」

 

 文乃先輩が答えると、ディープインパクトは一気に進出を開始した。コーナーの真ん中ぐらいの出来事である。

 

 まず、前を走るマスタヴィアンデに追いついた。追いついたかと思えば、一気に抜き去る。

 元々固まっていたバ群、追い抜くのは容易だ。大外からだろうと構わず走るディープインパクトは、一気に前との差をなくしていく。

 

《コーナーを回るウマ娘達。ディープインパクトが上がっていくぞ、ディープインパクトがマスタヴィアンデを追い抜いた。マスタヴィアンデ負けじと競りかける、ディープインパクトは捕まらない。一度前に出たディープインパクトは瞬く間に駆け抜けていく!》

 

 速い。ディープインパクトのレースに出てくる感想はそれだけだ。カイザーと一緒で、ひたすらに彼女は速い。

 

 だからこそ、残酷だ。

 

「ディープインパクトは速い。速いからこそ、対処法は限られてくる」

「ディープと同格か、それ以上に速くなる。もしくは、徹底して自由にさせないか」

 

 自由にさせなかったら、今度は自分が勝てなくなる。ディープインパクトをマークするのは、それだけきつい。てか、マークしても振り切られる可能性が高い。

 恐ろしいわ本当。年末のクラシック以上に速くなってるじゃねぇか。カイザーと同格はあるぞこれ。やっぱバケモノだよディープインパクト。カイザーも同じくらいバケモノだけど。

 

 一気に3番手まで浮上したディープインパクト。プランシェットの位置につき、後はスペードとパトリオディランが前を走るだけ。最後の直線手前で、すでに追いついた。

 そして、ディープインパクトがさらにギアを上げる。前を走るパトリオディランへと襲い掛かった。

 

《まもなく最後の直線に入ります。先頭はスペードですが表情は苦しそうだ。パトリオディランが前に出ようとしているが、ここで大外からディープインパクト。日本のディープインパクトが上がってきた!》

 

 スペードはペースを作っていたからもうキツい。パトリオディランは突き放しにかかるが、ディープインパクトには敵わない。

 最後の直線に入る頃にはディープが先頭に。こうなればもう、独壇場だ。

 

(中距離約2000mでスタミナが尽きるはずがない。今回のバ場は良バ場だし、そもそもカイザーが海外での走り方を教え込んでいる)

「勝敗は決しましたかね。やっぱ強いわ、ディープインパクト」

「当然だ。有記念のことがよっぽど悔しかったのだろう……悔しい理由はさておいて」

 

 うん、悔しい理由はカイザーと全力で走れなかったから、だろうな。ディープは体調を崩してたし。ちなみに、隣にいる佐岳さんは大興奮している。そりゃカイザー並に強いウマ娘が増えたわけだからな。テンションも高くなるというもの。

 

《ディープインパクト、日本のディープインパクトが海外でもその翼を広げる! これが日本の【英雄】! 暴君に並ぶウマ娘、【英雄】ディープインパクトがこの欧州にやってきた! 残り200を切って先頭はディープインパクト! 2番手のパトリオディランとプランシェットとの差を4バ身は広げているぞ!》

 

 最後の直線は大体400m。半分走っただけで、2番手との差を4バ身まで広げたわけだ。う~ん速い。

 

 先頭を走るディープインパクトに疲れは見られない。上り坂を軽やかに駆け抜け、後続との差を広げていく。

 にしてもあれだな。カイザーと走ったらアイツも楽しみそうだ。

 

(元々2人とも気質が似てるし、これだけ強い相手となればアイツも楽しいこと間違いなしだろう)

 

 惜しむらくは【ガラスの身体】である。ホンマ許さんからなお前。凱旋門賞が近いってのに解消されねぇしよ。もう出走取消できねぇとこまで来てんだよ。早く無くなれお前は。

 

 

 愛チャンピオンステークスの結果は、言うまでもないだろう。

 

《ディープインパクトだ、日本のディープインパクトがアイルランドのG1を制しました! その差はなんと6バ身差! 圧倒的速さ、圧倒的強さ! 欧州に君臨した暴君、ハレヒノカイザーと並ぶ強さは伊達ではない! 日本の英雄が、暴君が、女王が! 欧州のレースを支配する! アイリッシュチャンピオンステークスを制したのは日本のディープインパクト!》

 

 カイザーの嬉しそうな声、ファンの歓声、佐岳さんと文乃先輩のガッツポーズ。周りはディープインパクトの勝利に酔いしれている。なお、俺も声を張り上げてディープの名前をコールしている。そりゃ勝ったら嬉しいからね。カイザーとクラフトもいないし。

 

 

 これでディープインパクトは無事に勝利。後は凱旋門賞が無事に終われば、海外遠征の全日程が終了だ。アメリカのブリーダーズカップは知らん。予定にないし。

 なんにせよ。

 

(ガラスの身体をどうにかしないことには、だな)

 

 最大の懸念事項が解決しないままここまで来た。何とかしないとなぁ。

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