担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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未来の展望

 ディープインパクトとの邂逅から時間が経ち、炎症も治ったのでいろいろと試してみた。この言い方だと実験みたいで嫌だが、言い方がそれしかない。

 

 試したというのはガラスの身体について。模擬レースでついにその牙を剥いてきたわけだが、これの詳細な発動条件が知りたかった。

 まずはディープインパクトとのレース以外で発症する可能性はあるか? これはラインクラフトやゼンノロブロイなどと戦うことで検証。

 

「カイザーさんと模擬レース……が、頑張ります!」

「わ、私もですか?」

「無理を承知でお願いしたい、ゼンノロブロイ。頼めないか?」

「……いえ、大丈夫です。私でお力になれることがあれば!」

 

 結果は、一度も発動することなく終わった。2人以外もたくさんのウマ娘と模擬レースをしたが兆候は見られず。ディープインパクト以外は大丈夫だという結論に達する。

 

(炎症も、脚の異常もなんもなかった。少なくとも現状はディープインパクトだけだな)

 

 とはいえ、なにか別の条件が重なっていたのかも、ということでレースへ。新潟ジュニアステークスは炎症の時期とモロ被りしていたので出走を見送った。こればっかりは仕方ない。

 走ったレースは東京スポーツ杯ジュニアステークス。少し格上になってしまったが、カイザーなら十分勝てるのとより格の高いレースになれば発動するのかを検証。走ることになる。

 

 こちらの結果は、変わらず。普通に2バ身差で勝ったし特に問題も起きなかった。

 

《ハレヒノカイザーが強い、強いぞハレヒノカイザーまさに独走! 2番手を全く寄せ付けずに今ゴォォォルイン! 東京スポーツ杯ジュニアステークスを制したのはハレヒノカイザーだぁぁぁ!》

「うおおおぉぉぉ! カイザー最高! カイザーしか勝たん!」

「マジそれな! ハレぽん爆上げうぇーい!」

「ごめんねヘリオスが……カイザーのこと凄く気に入ってるみたいで」

「いえ、盛り上がって楽しいです!」

 

 ダイタクヘリオスと肩組んで喜んでた。カイザーとクラフトしか勝たん。

 

 ならばトレーニングはどうか、と考え負荷が強めのトレーニングをしてみたが。

 

「大丈夫かカイザー? 問題はないか?」

「ん~、特にないかな。問題なくこなせるよ」

 

 これもまた結果は変わらず。ジュニア級ウマ娘ならばバテる量のトレーニングも涼しい顔でこなしていた。

 

 

 で、これまでの検証を踏まえた上で出た結論は。

 

「ガラスの身体の発動条件はディープインパクトと併走、もしくは一緒のレースに出走すること……その可能性が一番高いな」

 

 やはりディープインパクトが起因しているのだろう、となった。彼女との走りがハレヒノカイザーに影響を与える、そう考えるのが自然だ。

 

 しかしまぁ、なんとも限定的なバッドコンディションだ。特定の誰かと一緒に走ることが条件だなんてな。

 

(思えば、あの模擬レースのカイザーはどこかおかしかった。いつもよりテンション高めというか)

 

 普段はもう少し抑えて走るカイザーが、初めて抑えなかった。理性的な走りから本能的な走りに変わったといえばいいのか。とにかくディープインパクトとの競り合いを心から楽しんでいた。

 

 別に他の子と走るのが楽しくないわけじゃない。きっと差なんてないのだろう。

 だからこそ、考えられる線としては。

 

「史実の縁、ってやつか」

 

 ハレヒノカイザーとディープインパクト。この2人はやはりライバルであり、深い関係ってことだ。

 

 例として挙げるならダイワスカーレットとウオッカ。2人は史実でもライバル関係だったらしく、ウマ娘にも反映されてかよく張り合っている。

 ディープインパクトとハレヒノカイザーは同世代。だからこそ、この2人もウオスカと似たような関係である可能性が高いのだろう。お互いに意識し合ってる節があるし。

 

(ディープは無敗の三冠って考えると、カイザーは無冠。そうなるとバリオルとかジェンヴィルみたいな関係性が出てくるが)

「あんまりそういう感じはしないよな。そもそも愛を超越して憎しみになるなんてカイザーには似合わんし」

 

 人を憎むことすら知らなそうな子がカイザー。ディープインパクトもそんな感じはしないし、どっちかというとカツラギエースとミスターシービーが近いか。

 

 

 しかし、ディープインパクトと走ることがガラスの身体の発動条件なら少々、かなり困ったことになる。

 

「クラシック三冠、走れなくね? ガラスの身体が発動するわけだし」

 

 相手は確実にクラシック三冠レースに出走してくる。カイザーもまた、クラシック三冠に出走予定だ。つまりはかちあうことになる。

 そうなると、ガラスの身体が不安要素すぎる。模擬レースは炎症で済んだが、本番のレースとなるとそれではすまない場合もあり。つまりは、最悪も想定して動かなければならない。

 

(加えてクラシックの身体が完全には出来上がっていない時期……菊花賞はともかく、皐月賞と日本ダービーは中々厳しいな)

 

 秋になればバッドコンディションが解消される可能性もあるだろう。ただ、あまり楽観視はできない。万全を期するならば、クラシック三冠での激突は避けるべきと考えるのが自然か。

 

 けれど、クラシックは一生に一度しか出走できないレース。この機会を逃せばもう二度と出走することはできない。だからこそ、クラシックレースは特別なんだ。

 とりわけ日本ダービー。ダービーを勝つことは最大の栄誉であり、全トレーナーが目指すレースとして有名だ。これはトレーナーになる過程で学んだことだけど。

 そんなレースを回避してもいいのか、そんな思いもある。

 

(本当にガラスの身体がなぁ)

 

 マジであのバッドステータスがノイズ過ぎる。どんな影響が出るか分からないからこそ、慎重にならざるを得ない。大怪我でもしたら立ち直れんぞ俺は。

 

 

 悩みに悩んだ。頭を捻って、どうにか最善の答えを得られないか考えていたが。

 

「カイザーに聞くかぁ」

 

 結局大事なのは本人の意思。ということで、個人的な面談をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 トレーニング後にカイザーと2人で話す。クラフトは外で待っているらしい。

 手短に済ませるとしよう。

 

「なぁカイザー、一つ確認なんだが。クラシックレースに出走したいか?」

「それを君が望むなら」

 

 まぁそう答えるな、ってのが返ってきた。なのでこれは軽いジャブ、ここからいろいろと質問していって、是非を決める。

 

「この前ディープと模擬レースをしたよな。やっぱり強く意識する相手なのか? いつもと違う感じがしたし」

「うん? ん~……特別なライバルなのは間違いないね。プイちゃんが相手だと、こう、いつもより頑張るぞ! って感じがする」

「ふむふむ。魂とか本能的なアレが反応してるの?」

 

 頷くカイザー。ちなみにクラフトは一緒にいて居心地が良いらしい。良いね。

 

「クラシック三冠となると、必然的にディープが出走してくるわけだ。そうなると、また模擬レースのような楽しいレースができるだろうな」

「へ~、それは楽しみだね!」

 

 うん、カイザーはディープとの対決を楽しみにしているようだ。目も爛々と輝いているし。

 

 けれど、頭をよぎるのは模擬レース後のこと。痛みに耐えるカイザーの顔を思い出して、ディープとの対決を躊躇してしまう。

 

(発動する場合もあれば、逆の可能性もある。クラシックに出走しても大丈夫、ってこともあり得る)

 

 だが、模擬レースであれだ。もし本番で爆発しようもんなら絶対にろくなことにならない。断言してもいい。

 

 俺はカイザーを楽しく走らせると約束した。というよりは、カイザーが楽しく走っている姿が好きだ。できることならば楽しく走っている姿を見たい。

 そうなると、ディープとの対決は控えたい。ケガをしたら走れなくなる、カイザーは楽しくなくなる。

 

(それでも周りを心配させまいと明るく振舞うんだろうな。なんとなく想像つくわ)

 

 なんなら治ったら走れるから問題なし、とまで言いそうな雰囲気がある。だって走りに極振りしているようなウマ娘だし。そこがウチの子のいいとこなんですよ。

 

 

 ま、なら決まりだな。

 

「ただ、クラシックまでに身体が出来上がらない可能性がある。そんな状態でディープインパクトと戦うと、良くないことになるかもしれない。だからこそカイザー……クラシック三冠は諦めてもらうかもしれない」

「うん、いいよ」

 

 あらすっごい物分かりがいい。いや、そうではなく。

 

「いいのか? ディープと戦うことができなくなるんだぞ?」

「別に一生戦えないわけじゃないし。クラシックで戦えないだけなら別に構わないよ。そもそも一緒に走れればそれでいいし、別にレースじゃなくても構わないし」

「それに限らず、クラシックは一生に一度きりだ。この機会を逃せばもう出走できない。それでもいいのか?」

 

 確認する。ずっと見ていると焼かれてしまいそうな赤い瞳の奥を覗き込んで、その真意を探ろうとする。いつ見ても綺麗な目だなぁ。

 ハレヒノカイザーは、揺らがない。

 

「ま~プイちゃんと走りたいってのはあるよ。否定はしない。だけどさ」

「……」

「トレーナーが一生懸命考えて、私のためを思って出した結論でしょ? それを無下にはしたくないし、なにより私のことを考えてるんだもの。なら、私はそれに従うよ」

 

 微笑みながら、偽りのない気持ちをぶつけてきた。眩しいぜ、畜生め。

 

 

 ぶっちゃけ俺のやっていることは、カイザーの優しさにつけ込む行為だ。否定しにくい材料を提供して、カイザーを諦めさせようとしているようなもの。それも、クラシックレースをだ。

 我ながら最低な行為だとは思う。だけど、最低と罵られようが構わない。

 

(悪いのはこのよく分からんバッドコンディションだ。いつ爆発するかも分からない爆弾を抱えたままディープと戦わせるほど、俺は冒険できない)

 

 ハレヒノカイザーが長く走れるように。コイツを笑顔のまま走らせてやりたい。そのためなら、いくら罵られようが知ったことか。

 

 それに、無茶をした末路を俺はよく知っている。前世の死因が頑張りすぎの過労死だからな。

 

(限界を超えて頑張ってもロクなことにならないからな)

 

 ただでさえカイザーは他人のために頑張るような子だ。許容量を超えて頑張りかねない。しっかりと見極めて動かなければ。

 

 

 一生に一度のクラシックレースを諦めさせる。振り返ってみて、やっぱり後悔することもあるかもしれない。

 人生なんてそんなものだ。やっぱりこうしておけばよかったとか、あぁしておけばよかったなんてことはごまんとある。俺だってそうだ。

 だけど、時間は戻らない。この世界に目覚まし時計なんて都合のいいものは存在しない。諦めざるを得ない時だって、たくさんある。

 

「分かった。なら、クラシック三冠は諦めよう。ディープインパクトとの対決は、菊花賞以降に絞る」

「はいはーい。むしろ待つ楽しみが増えたね!」

 

 ならせめて。俺のやれることは。

 

「その代わり、お前が最大限楽しめるようなレースに出走させる。そうだなぁ……宝塚記念はどうだ? ゼンノロブロイとか出走してくるだろうし」

「ロブロイさんとの対決か~。良きだね! 良き良き!」

「しかもクラシック級で宝塚記念を制したウマ娘はいない。お前が第一号になるかもなぁ!」

「ほほ~う。それはファンの人もたくさん喜んでくれるね!」

「あぁ。もう拍手喝采だ」

 

 カイザーがこの選択をしたことを後悔をしないように。この道を進んでよかったと思えるくらい楽しめるように、道を整備してやることだ。

 

 

 これで決まり。カイザーのクラシックは諦めることに決定。代わりにというか、クラシック級での宝塚記念に挑戦することになった。

 

(難易度的には変わらんと思うが、それでも爆発する可能性があるのとないとじゃ天と地ほど違う。それに、勝てる可能性も十分にあるしな)

 

 なんでって? そんぐらい強いからだよカイザーが。

 

 まずはホープフルステークス、クラフトは阪神ジュベナイルフィリーズだ。ここも勝って弾みをつけたいところ。

 

 あ、ちなみにクラフトはアプリと変わらないローテで進む予定。桜花賞とNHKマイルに出走するつもりだ。オークスは確か、強化シーザリオが登場するが。

 

(別に出走しなくてもいいしな。現段階では出走はなしの方向で)

 

 あ、後あれだな。ルドルフ経由で古曾部トレーナーにも話を伺いたいところ。海外遠征の経験とかあるらしいし、そっちの話も取り入れたい。

 

「上手くいけばいいんだが。まぁなんとかなるべ」

 

 仲良く帰るカイザーとクラフトを見送りながら、俺も帰り支度を済ませた。

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