担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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太陽と開拓者を導く者

 凱旋門賞の事後処理だが、それはもう凄かった。なんせ日本勢の初勝利、しかも日本でワンツーフィニッシュだったのだ。今まで何度も阻まれてきた高い壁を、2人のウマ娘が乗り越えたのである。

 

 1着は我らがハレヒノカイザー。なんと2分21秒ジャストという恐ろしい時計を叩き出しての勝利だ。前のレコードは2分24秒6、それをなんと3.6秒も更新したのだ。

 これには世界中が大混乱。ハレヒノカイザーSUGEEE! とかいくら何でもバグ過ぎるなんて声が各所で上がる始末。仕方ないといえば仕方ないが。

 

「『ラップタイムが常に11秒台を記録していますからね。しかも、ラスト3ハロンの上がりも全く衰えていない。これは凄いとしか言いようがありません』」

「『スピードの次元が違いますね。何世代も先を行っているような、他のウマ娘がまだたどり着いていない領域に君臨しています。勝つことは難しいでしょう』」

「『スタート良し、道中よし、仕上げも良し。まさに隙のない完璧なウマ娘です。ハレヒノカイザーこそが世界最強で異論がないでしょうね』」

 

 これが専門家たちの言葉。欧州の名伯楽と呼ばれるトレーナー達が口を揃えてカイザーのことを絶賛していた。彼女に勝てるのはごく一部の限られたウマ娘だけ、と。うん、とんでもないな。

 

 また、クラフトもアベイ・ド・ロンシャン賞を勝った。いつもの好位追走からの抜け出しで勝利、ダイタクヘリオスたちと肩を組んで喜んだものである。

 カイザーはディープに2連勝。文乃先輩は悔しそうにしていたが、当のディープは笑顔を浮かべていた。レース後聞いてみたのだが、悔しさよりも楽しさが勝ったとのこと。

 

「また戦う時は、カイザーさんもさらに進化しているんだろうなって。こんなに楽しいレースがまた走れるって思うと、つい笑ってしまいまして」

 

 恥ずかしさで顔を赤くしながらそう答えた。バトルジャンキーか何かで? なんにせよ、次のレースがどうなるかは楽しみではある。

 

 どうして楽しみになるか? あれだけ対決を避けていたのに、なぜ楽しいと思えるようになったか? その答えはシンプルだ。

 

(ついにバステが解消された! 凱旋門賞のレース中に治るとかアホじゃねぇのか!?)

 

 今まで散々頭を悩ませていたバッドコンディション【ガラスの身体】、これが解消されたのだ。それによって、ディープインパクトとの対決も避ける必要がなくなったのである。

 バステがなくなった今、恐れるものはなし。確かにケガは怖いが、しっかりと予防をしておけば問題はない。

 

 それだけじゃない。バッドコンディションが消え、グッドコンディション【無垢なる輝き】を取得したのである。これの効果は不明だったが、凱旋門賞後に改めて見ると全容を把握できた。

 

 

【無垢なる輝き】

運命を乗り越えた彼女が走るのは無限の未来

ガラスを乗り越えた今、羽ばたくとき!

 

【効果】

レースに出走する時、ステータスにプラス補正。ケガ率DOWN

 

 

 練習上手にステータスの上方修正が加わった形だ。こうなると、よっぽど冒険をしない限りはケガをしないことになる。ようやくあのバステから解放されたわ本当に。

 これでディープインパクトとの対決に怯える必要はなくなった。本能を解放しても、カイザーは何も問題なくなったのである。いや、分からんけどね。だけどこのグッドコンディションを獲得したんだ、もう大丈夫と思ってもいいだろう。お願いだから思わせてくれ。

 バステの解消、凱旋門賞のアンタッチャブルレコード勝利、大声援で終わったレース。何もかもが成功と言って差し支えない結果に終わったのだ。

 

 

 全てが順風満帆、凱旋門賞も勝って俺らの海外遠征は大成功に終わった……と、思いたかった。けど、そうはならなかった。ならなかったんだよ理事長、たづなさん。

 

 最後の最後にどでかい爆弾を落としていきやがった。爆弾を起爆させたのはカイザー。被害者は、俺である。

 凱旋門賞を走り終わった後、俺はあいつに押し倒された上にキスされた。ここまではまだ良かった。全然良くないし俺のファーストキスがとんでもない形で奪われたが今の状況に比べればはるかにマシである。

 問題は場所。走り終わった後なので、当然ターフの上である。俺は、ターフの上でカイザーに押し倒されたのだ。レース後すぐってのも良くなかった。

 

 するとどうなるか? 観客が帰っているはずもなく、俺らのキスシーンはロンシャンレース場にいた全員が目撃した形になる。これだけで恥死ものだ。

 それだけじゃない。凱旋門賞は世界中に衛星放送されている。つまりは、あのキスシーンが世界中に放送された、というわけでして。

 

《え~、榊トレーナー》

「ウッス」

《いまだに学園に電話が鳴り響いています。マスコミにレースファンの方々、皆一様に榊トレーナーを出せ、と学園に凸してきてまして》

「スミマセンホントウニ」

 

 大絶賛炎上中でございます。今までの比じゃないレベルで燃えております。もう焼き討ちレベルで燃えています。

 

《いつから付き合っているとか、式はまだかとか、ご祝儀渡させろと様々な反応をいただいていますよ》

「俺はそれを喜んでいいんですかね」

《まぁ非難されるよりはマシではないかと》

 

 ちょっと、大分おかしな方向に燃えている気がするけど気のせいだ。うん、気のせいと思わせてくれ。たづなさんの言うように批判されるよりはマシだと思うけど。

 

 インタビューはそれはもう大変だった。凱旋門賞の勝利よりも、俺とカイザーのキスシーンの方に言及される始末。

 

「『お2人はそういう関係だったのですか!?』」

「『断じて、断じて違います! これはカイザーのテンションが高くなった結果勢い余ってしまって!』」

「『とのことですがカイザーさん!』」

「『ん~、どうだろうねぇ?』」

「『こんなところでそういう反応はいいんだよお前は!』」

 

 カイザーもくすくす笑っていたので、余計に煽られてしまった。最終的には、カイザーの口からちゃんとした説明がされたので事なきを得たのだが。

 

「『嬉しさで勢い余っちゃって。でもほら、キスって親しい間柄の人には良くするじゃない? そういうことだよ』」

 

 いや待て。よく思い返したら全然事なきを得てねぇぞ。ちょっと延命しただけじゃねぇか? これ。

 

 カイザーは否定も肯定もしない。楽し気に笑うだけだ。どういう感情で笑ってんだよお前は。

 ちなみにたづなさんは怒りはしていなかった。映像を見た時は度肝を抜かれたらしいが、冷静に見返すと俺に同情するような声を上げてくれて。

 

《人の力ではウマ娘の力に勝てません。あの状況に持ち込まれたらどうしようもないかと思います》

「うぅ、分かってくれるのはたづなさんだけです……他の人達は俺のことをロリコンだのなんだの好き勝手ほざいてきますし」

《そんな意見は無視してください。そもそも、榊トレーナーはどちらかと言えば被害者です。カイザーさんの方はこちらから厳重注意しておきますので》

 

 たづなさんが天使すぎる。なんだこの人、最高の上司だよ。一日一回感謝のお辞儀をしなければ。

 

《分かってくれるのは私だけ、と言いますが。佐岳さん達も似たようなことを仰っていましたよ?》

「いや、まぁ、そうなんですけど。なんならカイザーのご両親にも似たような反応されましたけど」

 

 一番困っているのはそこだ。レース後、佐岳さんを含む大人勢からすんごいニヤニヤしながら見られたのだ。恥ずかしいったらありゃしない。

 お前らそういう仲だったんか、と言いたげな視線。なるべくしてなったな、みたいな目つき。こう、親戚に彼女でもない仲の良い女子との仲を揶揄われるようなあの感覚。相手が相手だけに罪悪感も凄かった。

 カイザーのご両親も軽蔑するどころかむしろ祝福する始末。孫の顔が楽しみだわ~とか言われた俺はどうしたらいいんだよ。もう逃げ場ないじゃん俺。

 

「世間的な目がダメじゃないですか! 相手中学生っすよ!?」

《えーまぁ、はい。それはそうなんですが》

「しかも、今を時めく無敗の最強ウマ娘! どうすりゃいいんすか俺は!?」

《もう諦めて籍を入れればいいんじゃないでしょうか》

 

 あんたがそれ言ったら終わりだろうが。俺に逃げ道をくれよ。迷えるトレーナーに救いの手をくださいよたづなさん。

 

 とまぁこんな感じなのだが。もう一つ大きな問題がクラフトで。クラフトもまたカイザーと同様のことをせがむようになったのだ。勘弁してください本当に。

 

「クラフトもカイザーの真似をし出しますし……俺本当に逃げ道ないんですよ。どうしたらいいんですか?」

《ハハハ》

「乾いた笑いやめてください。もう対処法ないって言ってるようなもんじゃないですか」

 

 どうやらたづなさんでもお手上げらしい。終わりだ、もう。

 

 最初に言っておくが、別にカイザーとそういう仲になるのが嫌というわけじゃない。カイザーは美人だし、天才肌で何でもできる。やろうと思えば理想のお嫁さんにもなるだろう。内面に関しては、まぁ。なぁなぁでやっておけば何とかなるし。

 だが、年齢だ。年齢という壁があまりにもでかすぎる。カイザーはクラフトと同級生、つまりは中学生だ。

 大人と中学生の図式。はい、未成年淫行です。俺はお縄だね。警察に出頭する準備を済ませておきましょう。

 

「なんで、どうしてこうなった!? いろいろ注意してたはずなのに!」

《当然の帰結と言いますか。唯一に近い自分の理解者を得たらそうなると言いますか》

 

 どういうこっちゃ。俺が唯一に近い理解者? そんなことはないと思うが。ディープインパクトの方がよっぽど理解しているだろうし。

 

《とにかく、あまりカイザーさんを刺激しないことをおススメします。下手に対応を変えたら、カイザーさんの場合大変なことに、なんてなりかねませんので》

「それはまぁ、変えるつもりはないですけど」

 

 自信ないけど頑張るしかない。カイザーに気負わせてバステが復活したら困るし。それだけは本当に嫌だ。

 

《これからも頑張ってください。いろいろと》

「ういっす……」

 

 結論。どうあがいてもどうしようもないので現状維持をキープするしかない。それしかないよね。

 

 

 たづなさんとの電話が終わると、ホテルの扉が開けられた。入ってきたのはカイザーである。

 

「やっほートレーナー! 今日も元気?」

「元気でいたかったよ俺は。世間の目がそれを許してくれないんだ」

「そうなんだ。私は別に問題ないんだけどなぁ」

 

 お前に問題はなくても世間的には問題があるんだよ。それを分かってくれ。

 

「だって私トレーナー好きだし」

「ぶっ!?」

「アッハッハ! 良い反応してくれるねトレーナー!」

 

 たづなさん、無理だ。意識しないようにしてもコイツがバリバリに意識させてきやがる。コイツ、恋愛面でもハイスペックだとでも言うのか。

 

 カイザーは当然の権利とばかりに俺の隣に座る。うお、近。

 

「トレーナーには本当に感謝しているんだ」

 

 唐突に、そう語りだす。彼女の口から出てくるのは、これまでの思い出。

 

「お医者さんには100%を出すのは無理だって言われてた。奇跡でも起きない限り、私は本気を出すことができないんだって」

「あー、ご両親がそう言ってたな」

 

 カイザーは全力を出すことができないウマ娘だった。あまりにも次元が違うスペックを有するあまり、身体の方が耐えきれないのだと。ご両親がそう語っていた。

 しかし、この凱旋門賞は。

 

「けど、この凱旋門賞は全力だったって間違いなく言える。私も全力を出すことができたんだって、奇跡を起こすことができたんだって言えるんだ」

「だな。領域も使えてたし」

 

 時代を作るウマ娘だけが到達できる領域。限界の先の先。カイザーには縁がないと思われていたものが、凱旋門賞で花開いた。使うことができたのだ。

 これはつまり、出せるはずのない全力が出せたということに他ならない。疑う余地もなく、カイザーはガラスの身体を克服したのである。

 

 こちらを向くカイザー。その表情はいつもと変わらない、いや、いつも以上の笑顔だった。

 

「私が限界を出せたのは、奇跡を起こせたのは間違いなく君のおかげ。君がいたから、私はここまでこれた。そう断言できる」

「……そりゃよかった」

 

 恥っず。なんでこの子は臆面もなくこういうことが言えるのだろうか。顔が赤くないから恥ずかしがっている素振りもないし。なんならキスする時も躊躇しないし。この子ったら恥ずかしさの概念どこに置いてきたの。

 

 俺が恥ずかしがっていることに勘づいたのか、カイザーはニマニマしている。何を企んでいるのか。

 

「だからキスだってできるよ。それで、どうだった? 私の唇の味は?」

「ブーッ!?」

「アッハハハ! 良い反応してくれるねトレーナーは!」

 

 けらけら笑うカイザー。おのれコイツ、大人をからかって楽しいか。

 

 やられっぱなしはダメだ。こっちも反撃しなければ。大人の威厳を見せなければならぬ。

 

「わ、忘れられないね。だからもう一回」

「バッチコイ!」

「バッチコイ、じゃねぇんだよ! ちょっとは恥ずかしがれお前は!」

「え、なんで? 好きな人からされるんだから恥ずかしがる必要ないと思うけど」

 

 そんな当然でしょ、みたいな顔をするんじゃない。俺の方がおかしいと錯覚するだろうが。本当にどこに恥ずかしさの概念置いてきたんだお前は。

 

 

 そんな風に話していると。

 

「あーっ! やっぱりカイザーさんここにいました! ずるいです!」

「あ、クラちゃんだ」

 

 クラフトが乱入してきた。よし、助かったな。この調子でカイザーを引っ張り出して。

 

「わたしも、わたしもトレーナーさんと!」

「ちくしょうお前も敵か!」

 

 ダメだこりゃ。ヤバいのが1人増えただけだ。てか君に関しては本当になんでなんだが。カイザー一筋ではなかったのか。

 

「クラちゃんもトレーナーに尽くされたからねぇ。私と同じ仲間だよ、仲間」

「当たり前のことを当たり前にしてた記憶しかない!」

「そういうとこだよ、トレーナー」

 

 なんだカイザーその目は。お前の呆れた視線初めて見たぞ。ちょっとゾクッとするからやめてほしい。

 

「ふんふふ~ん、でも大丈夫だよクラちゃん。私とクラちゃんでトレーナーを挟めばOKだから」

「知ってるかカイザー。人はそれを重婚と呼んで、日本では禁止されているんだ」

「そうなの? でも愛があるならよくない?」

 

 良くないから法律で禁止されてるんですよ。それも分かってくれません? いくら君が天才でも、法律の壁ってもんがあるんですよ。

 

「ま、いいや。というわけでトレーナー」

「と、トレーナーさん!」

 

 カイザーが右に、クラフトが左に座ってサンドイッチにされる。腕をがっしり掴んで、離さないとばかりに力を込めて。

 

「これからもよろしくね?」

「末永くよろしくお願いします!」

 

 そう、迫られた。

 

 ここで逃げる選択肢はない。だって逃げたらさらにヤバいことになるのが確定しているから。そうじゃなくても、ここで逃げたら俺は最低野郎だ。

 逃げはしない、逃げはしないが。

 

「はいはい。誠心誠意、努めさせていただきますよ」

 

 これからも大変そうだ。




次回からはEXステージ。そんなに長くはならないと思います。
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