担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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最後の舞台に喝采を

 その日はきた。冬のグランプリレース、有記念が。

 

 中山レース場は人、人、人と。どこを見渡しても人しか見えない状況。どうにかして最前列を確保できたものの、周りに誰がいるかなど気にも留めていなかった。

 その結果。

 

「あ、ど、どうもです文乃先輩」

「あぁ、榊トレーナー。おはようございます」

 

 文乃先輩達とご一緒することになった。敵同士だから凄い気まずいのですが。

 とはいっても、この状況じゃ別の場所で観戦することなんてできやしない。おしくらまんじゅうのように人が密集しているし、動くことすら困難な状況。クラフトがはぐれないように手を繋ぐので精一杯だ。

 

 喧騒に耳を傾けて拾った情報によると、中山レース場には20万人近いレースファンが詰めかけているらしい。マジかよ。

 

「凄い人っすね。やっぱこれって」

「間違いなく、僕のディープインパクトとあなたのハレヒノカイザーが影響しているでしょう。あの2人の3度目の対決、それも万全な調子での勝負だ。誰もが一目見たいと思うはずです」

 

 それはそう。海外を荒らしに荒らした世界最強のウマ娘であるハレヒノカイザーと、そのカイザーと並び立つ逸材で数多のレースファンを魅了したディープインパクト。2人のマッチアップを見たくないのか、と言われたらそりゃ見たいわな。

 さらには、ジャパンカップのパフォーマンスだ。ディープインパクトはジャパンカップで圧倒的な強さを披露した。それこそ、他のウマ娘が霞むレベルの強さを。

 悟っただろう。もはやディープインパクトに並ぶウマ娘はいないと。彼女に勝つには並のウマ娘では無理だと。そうファンは思ったはずだ。

 

 現れた。ディープインパクトに並ぶウマ娘が。それどころか、超えているウマ娘がレースに出走してきた。そう、カイザーだ。

 

(直接対決は二度を下している。カイザーが勝って最強を示すか、ディープが勝って下克上を果たすか)

 

 雑誌の触れ込みも、カイザーとディープの2人を前面に押し出している。記事にはでかでかと【太陽の皇帝VS英雄!革命を起こせるかディープインパクト!】だの【その威光は英雄の翼さえも溶かし尽くす!ハレヒノカイザーは準備万全!】だのいろいろと書かれていた。

 その結果がこの中山レース場に集まったファンである。つか本当に多い。

 

「大丈夫か、クラフト。はぐれてないか?」

「だ、大丈夫です~」

 

 目を回しているな。この状況だから仕方ないか。

 

 これだといつメンであるみんなもいない。そう思っていたが。

 

「Foo! っぱユッキーはここにいたっしょ!」

「お、ダイタクヘリオスか。無事にここに着けたみたいだな」

「モチのロン! ハレぽんの最高の舞台を見届けるのは当然的な? むしろウチがいないと始まらん的な! 今日も鬼アゲでいくっしょ~!」

 

 ダイタクヘリオスは当然のように来ていた。良く俺達のところに来れたな。この人混みでここに来れるのは凄いと思う。

 

 それに、彼女だけではない。

 

「か、カイチョ~、ボクもう疲れたんだけど」

 

 死にそうな声のトウカイテイオーに。

 

「まだレースは始まったばかりだろう? カイザーは走るどころか出てきてすらいない。それに、レースを観たいと言ったのはテイオーじゃないか」

「カイチョーだって観に来たかったんでしょ?」

「それは、まぁ、否定できないが」

 

 恥ずかしさを紛らわすかのように咳払いをするシンボリルドルフ。なんだかんだいつものメンバーが集まっていた。スピードシンボリや佐岳さんは仕事だろう、多分。

 

 

 そんな状況の中山レース場だが、プログラムが進んでメインレースの有記念に。出走するウマ娘達が姿を現す度に、大きな歓声が会場全体に響き渡る。さながらライブのコンサートみたいだ。

 

 そして、ひときわ大きな歓声が上がる。出てきたのは想像通りのウマ娘、カイザーだ。

 

《ここできました、本レースの1番人気。世界のレースを手中に収めた【太陽の皇帝】、世界の評論家たちがつけたレーティングは驚異の140! ロンシャンを規格外のスピードで駆け抜けたウマ娘のラストランを一目見ようと、中山レース場にはたくさんのファンが詰めかけました!》

《それにしても、凄く良い笑顔ですね。こちらも思わず笑ってしまうような笑顔です》

《そうですね、さぁ来ました。3枠5番のハレヒノカイザー! 今日はどのようなレースを見せてくれるのか? 今から非常に楽しみです!》

 

 うんうん、いつも通りの笑顔でいいね。調子も最高潮、決戦に向けてベストに整えてきた。全力を発揮できること間違いなしだな。

 

 そして、またも沸き上がる大きな歓声。これもまた予想通りのウマ娘が登場する。

 

《しかし、そうはさせない。お前に負けっぱなしではいられないぞと、ジャパンカップの圧勝を引っ提げてこのウマ娘が姿を現しました! レーティングはハレヒノカイザーに次ぐ138、最高に近い評価を獲得している我らが英雄! 太陽の皇帝に並び立つ唯一のウマ娘とも称されています!》

《こちらも気合十分ですねぇ。闘志が漲っていますよ!》

《やる気十分、調子は最高! 5枠9番のディープインパクトの登場です! ライバルの頂上決戦はどのような結末を迎えるのか? こちらも非常に楽しみなところ!》

 

 ディープインパクト。カイザーのライバルであり、有記念の2番人気。だが、1番人気であるカイザーとの差はないに等しい。二度の対決で敗れているが、これは彼女のファン人気がなせる技だろう。

 

 そんな2人は向かい合い、一言二言言葉を交わす。大方、今日は楽しもうねとか言ってるのかもしれない。なんとなくアイツらの会話は想像がつく。

 会話をする姿にまたも沸く中山レース場。何喋ってもキャーキャー言いそうな雰囲気に、どことなく面白い気持ちになった。

 

 

 時間は進んでゲート入りの時間。いよいよ、レースが始まろうとしている。

 

《1人、また1人とゲートに入ります。中山レース場メインレース、冬のグランプリ有記念。昨年はハレヒノカイザーがクラシック級での秋シニア三冠という偉業を成し遂げました。彼女がまた、この舞台へと姿を見せます》

 

 カイザーもゲートへ、ディープインパクトもゲートに入る。どのような勝負になるか? 誰が飛び出してくるか? 想像はつく。

 

《芝2500m、天候は晴れ、バ場の状態は良バ場の発表。どのようなレースになるのか? やはり2人の頂上決戦になるのか。そうはいかないと、他のウマ娘も負けられない思いを抱いて走ります。目指すのは2500m先の栄光、誰が掴み取るのか?》

 

 最後のウマ娘がゲートに入った。あれほど騒がしかった中山レース場が静まり返り、発走の瞬間を固唾を飲んで見守る。この時は、誰もが口をつぐむ。

 

 静寂を切り裂いて、2人のウマ娘がゲートから飛び出した。全員が予想していた2人、絶対に来るだろうと予感していた2人がゲートから飛び出す。

 

《最後のウマ娘がゲートに入って、態勢整いました。あなたの夢、私の夢が走ります。G1レース有記念が今っ、スタートですッ! さぁ飛び出してきたのはやはりこのウマ娘、3枠5番のハレヒノカイザーと、5枠9番のディープインパクト! この2人が飛び出してきました!》

 

 カイザーとディープ。ライバルで、このレース最有力候補の2人がレースを支配しようと、一気に飛び出してきた。他のウマ娘も、少しばかり遅れてゲートから出てくる。

 

 始まる。2人の、トゥインクル・シリーズラストランが。

 

 

 序盤から息を吐かせない激闘が繰り広げられる。内から飛び出すカイザーと、外から飲み込むディープインパクト。スタート癖の悪さを克服したディープインパクトが外から被さり、内へ内へと走って行く。

 カイザーはいつものスタイルを崩さない。内側というポジションを活かして、ディープインパクトよりも前に出る。

 

 これまた自分の予想通り、ハナを取っているのはカイザーだ。ディープインパクトは同じタイミングで飛び出したものの、カイザーの方がわずかに速い。序盤の攻防は、カイザーに軍配が上がる。

 

《飛び出す2人のウマ娘、ハレヒノカイザーとディープインパクト。内を走るハレヒノカイザー、外から詰めてくるディープインパクト。少しでも距離のロスをなくそうと、ディープインパクトが内へと進路を取ります》

《他の子達は少し遅れて走っていますね。3番手を走るのはダイワメジャーです》

《もうすぐホームストレッチへ。先頭を走るのはハレヒノカイザー、ディープインパクトとの差を1バ身に広げています。ハナを取ったのはハレヒノカイザーだ》

 

 持ち前の瞬発力を活かしてディープよりも前に出る。負けじと競りかけようとするが、流石にこの分野においてカイザーには勝てないことを悟ったか無理はしていないようだ。

 

「そうだ、それでいいディープ。追いつくべきはココじゃない」

 

 文乃先輩も察している、というかこの位置取りも予想通りというわけか。成程、やっぱこうなるわけで。

 

「追込じゃまずカイザーに勝てない。ペースを支配されて、絶対に勝てない差をつけられて負けるからだ」

 

 ふと、口からそう漏れ出る。その声が聞こえていたか、文乃先輩も独り言のように呟く。

 

「差しや先行でも追いつけないだろう。それほどまでにハレヒノカイザーは賢く、聡明だ。彼女より後ろの位置でレースをする、その時点で敗北がほぼ決定的となる」

「いざ言葉にすると恐ろしいことこの上ない奴ですよ本当。勝ち筋が同じ位置での勝負しかない。その同じ位置での勝負も、ロケットスタートで無理に等しい」

「まさしく全てを兼ね備えた完璧なウマ娘。ハレヒノカイザーは、歴代でも最強と言っても過言ではない」

 

 そう評価を下す。カイザーは完璧であると、最強の名を背負うに相応しいウマ娘だと。文乃先輩はそう認めていた。

 

 だが、相応しいのはカイザーだけじゃない。

 

「けど、ディープインパクトも負けていない。敗北の度に爆発的な進化を遂げる彼女は、ついに自身の弱点でもあったスタート癖の悪さを改善した」

「それだけじゃねぇ。競り合う時が緩んでしまうっつー弱点も、相手が相手ならまるで問題なくなった。そう、今みたいにな」

 

 呟く俺達。ホームストレッチを半分過ぎると、状況に変化が訪れる。

 

《ハレヒノカイザーに並びますディープインパクト。この2人が並んで集団を引っ張ります。3番手との差は3バ身から4バ身、ホームストレッチはまだ半分ですがこれだけの差が開いています。もうこれだけの差、これだけの差。逃げではなく大逃げだ!》

《お構いなしにガンガンペースを上げていますね。スタミナがちょっと不安なところです》

《負けじと追いかけるダイワメジャー、そしてメイショウサムソン。最後方にはスイープトウショウが控えています。一気に飛ばして逃げるハレヒノカイザーとディープインパクト、まだペースは落とさない、まだ落とさない!》

 

 カイザーにディープが並んだ。1バ身の差がなくなり、2人が競り合う展開になる。

 

 これもまた予想通り。そうすることでしか、勝利はないのだから。

 

「後手に回れば負けるのはカイザーだ。ディープ最大の武器である末脚の持続力、明確に劣るカイザーがディープより下がった時点で詰みに等しい。だからこそ、現状の位置が最適解になる」

「こちらも同じ。瞬発力で劣るディープは、カイザーを前で走らせるわけにはいかない。追いつく時間が足りなくなる上、平均速度で劣る分離されるからだ」

 

 どちらの強みをより押し付けるかの勝負。前を走らせるわけにはいかず、競り合う位置で勝負するしか方法がない。勝つためには、それしか存在しない。

 

「ロケットスタートがなければ、この土俵に立つのは相当厳しかった。けれども、ディープは習得した。ハレヒノカイザーがもつ技術を自分のモノにして」

「ジャパンカップでは本当に度肝を抜かれましたよ。お前のスタート癖の悪さどこいったんだよ! みたいに」

「それは僕も同じだ。できる素振りもなかったから、あの時は本当に驚いた」

 

 五分のスタートで、序盤の攻防はカイザーに軍配。中盤の攻防がどうなるのか見ものだ。

 

 んで、まぁ。ここまで勝つための理屈を語ってきたわけだが。

 

「文乃先輩、どう思いますか? このレース」

「……なにがだ? 榊トレーナー」

 

 どこか確信しているような声色の文乃先輩。多分だけど、俺と同じことを思っているはずだ。

 俺達が口にしたのは勝つための理屈。勝つにはこの位置取りしかない、それが最適解なら絶対に選ぶだろうという確信。それを口にしていただけだ。

 

 けれど、2人はそんなこと微塵も考えていないんだろう。だって。

 

「先頭の2人、めっちゃ楽しそうじゃないですか?」

 

 あんなに楽しそうに走っているんだ。勝負の理屈とか、勝ちに繋がるための走りとかこれっぽっちも考えちゃいない。どうすれば隣を走る相手との勝負を楽しめるか、それだけしか考えていない走りだ。

 

 文乃先輩も同意見の様で。どこか呆れつつも優しい声で、同意するように口を開く。

 

「違いないな。全身から伝わってくるよ、彼女達の楽しいって気持ちが」

 

 クラフトも同じ意見なのか、割り込むように口を挟んできた。その表情はとてもいい笑顔である。

 

「はい! カイザーさん達、凄く楽しそうです! わたしも走りたかったな~」

 

 それでいい。それでこそ、ここを選んだ価値がある。

 

「いけいけー、カイザー! ディープに勝って3連勝だーい!」

「ディープちゃ~ん、今回こそ勝ちましょうね~!」

 

 トウカイテイオーにスーパークリークの声援。2人だけじゃない、みんなの声援を受けて、2人は先頭を走る。すでに3番手のメイショウサムソンとの差は、5バ身以上開きそうな勢いだった。

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