担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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来訪と真意を聞くために

 カイザーとの面談でクラシック三冠は捨てることを決定。今後をしっかりと見据えてのことだ。

 

 さて、そうなると面倒になってくるのが宝塚記念への出走である。アプリだとクラシックを取ったついでに行くことが多いレースなのだが。

 

「皐月賞とダービーが使えないからなぁ。ファン数稼ぎにはもってこいなんだが」

 

 そうでなくとも、クラシックを取ったウマ娘が宝塚記念に出走する、ってのは見栄えがいい。直近の例だとネオユニヴァースがそうだ。

 

 無論、クラシックレースに出走しなくとも宝塚記念の出走は可能だ。別にクラシックを取ったウマ娘しか出走できない、なんてレースじゃないわけだし。

 俺が懸念しているのはファン数。アプリだと出走条件に絡んでくるアレだ。

 

(ファン数が足りなくて出走できない、なんてことになりかねん。ダービーが使えないならなおさらだ)

 

 G1レースというだけでファン数を稼げる。アプリならダービーの流れで出走するからよそ見してても普通に出走ができるのが宝塚記念。

 

 ただ、カイザーの場合はそうはいかない。クラシックレースを使えない都合上、他のレースでファン数を稼ぐしかない。

 かといって、過密スケジュールの強行軍もよろしくない。ガラスの身体の条件の1つがディープインパクトとはいえ、他の条件がないと決まったわけじゃないのだから。

 

「今の流れだと共同通信杯からのニュージーランドトロフィーが無難か。それでも出走にかこつけるにはギリギリのラインだな」

 

 ぶっちゃけた話、カイザーは人気自体はある方だ。シンボリルドルフというネームバリューがでかすぎるからな。一定の期待はされているし、その期待に応える結果を出している。

 

 だがそれも、飲まれてしまう可能性がある。ディープインパクトという存在に。

 

(ディープインパクトは追込。まぁ、どうなるかは大体想像がつくな)

 

 全てはメイクデビューの結果次第ではあるが、あのステータスなら問題なく勝つだろう。それこそド派手に。

 

「どんだけ差をつけて勝つのやら……その前にクラフトの阪神ジュベナイルフィリーズだな。勝負服もお披露目だし、こっちも楽しみだな~!」

 

 クラフトも2戦2勝で阪神ジュベナイルフィリーズへ。ジュニア級のG1レース、緊張していることだろう。

 

 なので、こちらにも意識を割いていかなければ。俺が担当しているのはカイザーだけじゃないからな。

 

「ま~緊張なんかはカイザーがほぐしてくれるだろ」

 

 逆にカイザーはプレッシャーに強すぎる。クラフトはメイクデビューもガチガチに緊張していたが、カイザーはなんの問題もないとばかりにこなしてた。精神面もつえぇウマ娘なのか。

 

 

 今後のことを考えながら船を漕いでいたら、突然部屋の扉がノックされる。睡魔に負ける寸前だったので、思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 

「は、はーい、どうぞー」

 

 一体誰だろうか。扉を開けて入ってきた人物、いや人物たちは。

 

「……シンボリルドルフに、古曾部トレーナー?」

「やぁ、お邪魔するよ榊トレーナー」

「私は初めまして、だな」

 

 は、ちょ、なんでこの2人がここに。特にお呼びはしてなかったはずだし。というかこの2人を呼べるほど偉い身分の人間ではない。

 

 脳内では焦りまくっているが、とにかく失礼のないようにしなければならない。

 

「す、すみませんこんなラフなスタイルで! とにかくお茶を用意」

「いや、構わないよ。手短に済ませる予定だからな」

 

 お茶を用意しようとしたら古曾部トレーナーに止められた。なんか、心なしか怒っているような気がしないでもない。

 

(……俺この人を怒らせるようなことしたかな?)

 

 必死に記憶を掘り返すがとんと覚えがない。もし何かやらかしたのだとしたら失礼が過ぎるぞ俺。相手は皇帝の杖と呼ばれるトップトレーナーなのに。

 

 ひとまずソファに座ることを促して俺も座る。さっきから緊張で手汗がヤバい。

 

「そ、それで~、その~……お2人はどのようなご用件で私めのところに?」

 

 無言の重圧。怖いのでなにか喋ってほしい。

 

 時計の音だけが響く室内。重苦しい空気の中で、口を開いたのは古曾部トレーナー。

 

「……ハレヒノカイザーをクラシック三冠に出走させないという話を、風の噂で聞いてね」

「あ、あ~」

「まさかとは思って、君に話を聞きに来たんだ。噂の真偽を確かめに、ね」

 

 要件というのはカイザーのこと。とりわけクラシックレースに出走させないことについて、か。

 あーはいはい、クラシックに出走しない件ね。

 

 いや、おかしいだろ。

 

(どこから話漏れたんだよ。誰にも喋ってねぇぞ)

 

 俺はこのことを口外していない。喋ったところでロクな反応をされないのは目に見えているからだ。

 カイザーほどの逸材を、どうして栄誉あるクラシックレースに出走させないのか。そんなことを言われるのが目に見えている。というか、実際その現場に居合わせている。

 だからこそ誰にも喋っていない。皐月賞とかその辺のタイミングでしれっと話そうかな、なんて思っていたくらいだ。

 

 一体どこから、そんなことが頭によぎるが。

 

「風の噂と言ったが……カイザーから聞いてね。自分はクラシックレースには出走しないと」

(アイツかぁぁぁ!)

 

 いや、よくよく考えたらカイザーしかいないわ。俺は喋ってないんだから、事情を知っているカイザーかクラフトの二択しかない。で、どっちが喋りそうかと言われたらどっこいどっこいだが、ギリカイザーの方が喋りそうではある。

 

「だが、どうか彼女を責めないであげてほしい。思わず口から漏れ出てしまったのだろう。気づいた時にはすでに、といった感じの反応をしていた」

「その後は私が問いただしたようなものだからね。申し訳ない」

 

 シンボリルドルフと古曾部トレーナーが頭を下げる。そう言われると怒るに怒れないというか。怒る気はないんだけども。

 どの道、遅かれ早かれバレていたことだし、早いだけマシと思うべきか。

 

「曰く、君にも考えがあってのことだと。だから自分はクラシックに出走しないといっていた」

「あ、あはは……ま、まぁそうですね。聞いてると思いますけど、カイザーは身体が強くないので」

「あぁ、勿論聞いているとも。だがそれでも、君に聞きたかった」

 

 ぶつけられるのはシンボリルドルフ達からの圧。めっちゃ睨みつけられてる。怖いわ。

 

「生涯に一度しか出走を許されないクラシックレース。それに出走しないのはいかがなものか、と」

「あ、あ~……」

 

 いや、うん。分かっていますよ。分かっていますとも。

 

「クラシックの出走権は望んで得られるものではない。選ばれた者だけが挑むことを許される、世代の頂」

「カイザーならば問題なく出走権を得られるだろう……だが、その権利をあなたは放棄しようとしている」

 

 言わんとしたいことは分かりますとも。そんだけ特別なレースってことも、重々理解している。

 

「教えてくれないかな? 君はクラシックの権威を知っていて権利を放棄するのか、それとも知らずに放棄するのか」

 

 相変わらず重圧が凄い。今すぐにでも逃げ出したいわこの空間から。

 

(まぁ、2人の言わんとしたいことも分かるんだけども)

 

 つまりはこうだ。もう後戻りできないぞと、警告しに来ているようなものだろう。

 

 お2人は見てきたはずだ。クラシックに出走したくとも出走することすら叶わないウマ娘達を。彼女達の嘆きを聞いて、知っているはずだ。俺とは違う。

 それこそクラシックに全てを賭けるウマ娘だって珍しくはない。死に物狂いで手を伸ばし、鍛錬を重ね、血のにじむような努力の果てにたどり着くことを許される領域。

 それだけのものなのだ、クラシックレースというのは。

 

 だからこそ、俺の方が異質と言える。出走の権利を持ちながら、その権利を放棄しようとしている俺は。

 

「カイザーは無敗の三冠を取れる逸材だ。相手はかの英雄だが、それでも勝つだけの才能がある」

 

 古曾部トレーナーもそう評価するほどの逸材。実際、菊花賞は大分怪しいが残り2つは勝てるだろう。断言してもいい。

 

「教えてくれ。どうして君はカイザーの出走を諦める? 戦わずして逃げるのか?」

 

 まぁ、うん。凄い単純な答えなんだけど。もしかしたら怒られるかもしれないけど言うしかないな。

 

「っ、俺は、アイツに楽しく走ってほしいんですよ」

「……楽しく?」

「えぇ、はい。楽しく走ってくれたらそれでいい、そう思っています」

 

 呆けた表情をする古曾部トレーナーとシンボリルドルフ。この2人相手に嘘は通じない。そのまま伝えるしかあるまい。

 

「別に栄誉とか、称賛とか要らないんですよ。あぁいや、そりゃ欲しいっちゃ欲しいですけど、そんな無茶してまで欲しいわけじゃないっていうか」

「……無茶してまで?」

「ほら、せっかく栄誉を得られても、ケガとかしちゃったら大変じゃないですか。ただでさえカイザーの身体は強い方じゃない、最悪が起きてからじゃ遅い」

 

 ハッとするお2人。同時に、腑に落ちたような表情をしていた。

 

「無茶した結果最悪の事態を招く……俺はそのことをよく知ってるんで。だからこそ、カイザーにも同じ道を進んでほしくないっつーか」

「……榊トレーナー、あなたは」

「ほら、ただでさえカイザーは他人のために無茶をする節があるじゃないですか? 容易に想像がつくっていうか……とにかく、アイツのことは慎重にいきたいんですよ」

 

 すでに重圧はなくなっている。俺の言いたいことは、これだけだ。

 

「アイツを楽しく走らせてやりたい。俺の思いは、これに集約しています。そのためならクラシック三冠は捨てます」

「……宝塚記念には向かおうとしているのにか?」

「カイザーのヤツどんだけ喋ってんだよ!?」

 

 もう一から十まで喋ってるじゃないか。別に秘密にしているわけじゃないからいいけども。

 

 と、言い訳もとい俺の考えを話したわけだが。お2人の反応はというと。

 

「……成程。だからこそ、彼女は君を選んだのかもしれないな」

「そうだろうな、トレーナー君。カイザーが彼に信頼を置いているのがよく分かる」

 

 わずかに微笑んでおり、立ち上がって腰を90度に曲げて謝罪してきた。

 

「すまない、榊トレーナー。威圧するような真似をしてしまって」

「カイザーがクラシックに出走しない真意を知りたくて、どうも逸ってしまっていた。己の浅慮遠望の考えが恥ずかしい」

「いい、いやいや! お2人の心配する気持ちももっともなので! そりゃクラシック出走しない、なんて言われたら心配しますよ!」

 

 おのれカイザーめ。シンボリルドルフ達のことを信頼しているとはいえ、自陣営の情報を晒すのはどうかと思うぞ。しっかりと言いつけておかなければならぬ。

 

「そ、それで、その……ご納得、いただけましたかね?」

「あぁ、十分に納得した。私が彼女に選ばれなかった理由もね……っ!」

 

 あの、だったら俺のことをそんなに睨まないでほしいんですけども。嫉妬に狂った目を向けないでほしいんですが。

 

 困惑する俺をよそに、シンボリルドルフがこちらへと耳打ちしてくる。

 

「トレーナー君はカイザーのことをいたく気に入っていてね。ぜひとも我がチームに、と思っていたんだよ」

「あ~……でも俺のところにきたから」

「まぁ、そういうことだ」

 

 困った笑顔を浮かべているが、俺も困ってるよ現在進行形で。

 

 

 と、話題は一息ついたわけだ。用事もこれだけだったらしく、お2人のお話はこれで終わりだ。

 しかし、すぐに立ち去ろうとはしない。俺の方を見据えている。

 

「迷惑をかけたお詫びだ。なにか、我々に手伝えることはないだろうか?」

「え? い、いやいや、普段からシンボリルドルフさんにはお世話になっていますし! 今更悪いですよ!」

「いや、こうして押しかけた上に2人で威圧したんだ。侮辱に近しい発言もした、このまま何もしないというのは私達としても許せることではない」

「侮辱って……そんなことないと思いますけどねぇ」

 

 そうは言われてもな。何かしてもらうといっても、って。

 

(ちょうどいい感じのがあるじゃないか。頼もうと思っていたこと)

 

 この流れで即決するのはどうかと思うが、引き下がる気はないだろうし。なら存分に活用させてもらうとしよう。

 

「なら、海外遠征に詳しい知り合いとかいらっしゃらないでしょうか?」

「海外遠征?」

「はい。今のところ海外遠征のプランも考えていまして。そのつながりができたらいいな~……なんて思っているところなんです」

 

 古曾部トレーナーは海外遠征の経験が豊富だ。きっと知り合いもたくさんいるだろう。

 その縁を活用させてもらう。実際に海外遠征するかどうかは別として、経験は無駄にならないのだから。

 

 俺のお願いを古曾部トレーナーは考える、こともなく即決した。

 

「分かった。私の伝手を紹介しよう。ちょっと失礼」

「あ、はい」

 

 スマホを取り出してどこかへと電話をかける古曾部トレーナー。いったいどこにかけているのやら。

 

 時間にして10分にも満たない時間。スマホの電話を切った古曾部トレーナーが俺の方へと向き直る。

 

「約束を取り付けた。早速明日から来てくれるそうだ」

「え、早くないですか?」

「先方も楽しみにしているらしくてね。前々から話題に挙げていたから、気になっていたそうだ」

 

 ほう、そうなるとかなり好意的な反応が期待できるな。なんせ明日には来てくれるくらいだ。これはかなり期待できそう。

 

「それでは、失礼するよ榊トレーナー。今後の君達の活躍を祈っている」

「お邪魔したね」

「はい。また機会があれば」

 

 帰るお2人。見送った後、呟く。

 

「明日が楽しみだ。誰が来るのかな?」

 

 一番考えられる線はやはり佐岳メイさんだろう。凱旋門賞シナリオの友人サポカの人。海外遠征と言えばあの人だ。

 

 

 思わぬところで遠征の足掛かりができた。ラッキーだぜ。

 

 

 

 

 

 

 次の日。今日は古曾部トレーナーが呼んでくれた相手が来るのだが。

 

「君達がそうかな? 私はスピードシンボリだ、よろしく頼むよ」

「はーい! よろしくねスーさん!」

「あわわ、あわわ……!」

「あぁ、スーさんだ。君のことはルドルフからよく聞いているよ、カイザー。そっちの君はラインクラフトだね? よろしく」

 

 あまりにも予想外すぎる相手がきた。なんでそっちなんだ。

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