ご飯を食べ終わった後、ガーネットと一緒にチームのところへと合流した。
「『すみません、道中でロードライトガーネットと会っていて、ついでに一緒に行こうと思っていたら遅くなりました』」
「『いや、構わん。どうせガーネットがワガママ言って遅れたとかそんなんだろ』」
「『別にそんなことは……そんなことはないですよ』」
「『大体想像はつく。大変だったな、幸光』」
彼女の名誉のためにと取り繕ったが、ロードライトガーネットに関する信用は0に等しかった。とはいっても、彼女が合流したからと言ってチーム間の雰囲気が悪くなる、なんてことはない。
「『おはようガーネット。また寝てたの?』」
「『うん。眠かったから。後ご飯食べてた』」
「『相変わらずだね~ガーネットは。ま、そのマイペースさがガーネットらしいというか』」
「『らしいでは困るんです! 毎度毎度探す私の身にもなってください!』」
「『ごめんねゼニさん。でも眠かったんだ』」
むしろ和気藹々とした雰囲気が流れている。他のウマ娘と仲が悪い、反りが合わないから練習をサボっているとかではなく、本人の問題で寝ていただけか。それもどうかと思うけども。
ジッと見ていると、アメリカのトレーナーから耳打ちされる。
「『あんまりアイツの機嫌を損ねるようなことはするなよ? 損ねたが最後、幸光の研修は病院で過ごすことになるぜ?』」
「は? ど、『どういうことです?』」
「『ガーネットは超・自分優先主義だ。自分のやりたいことしかやらない、強制されることを激しく嫌う。怒らせたが最後、アイツは猛牛のように暴れ狂う』」
なんの冗談ですかそれ。てかそんなニコニコしながら言われても信憑性はないというか。
それでも、忠告自体は本気なのか嘘だとは言わない。マジで? 本当にそんなことがあるのか?
「『冗談、ですよね?』」
「ハッハッハ! 『病院の件については冗談だが、怒らせたらヤバいってのは確かだな! アイツ、命令した教官を追いかけ回して屈服させたって有名だからな!』」
「嘘だろ」
教官ってのはトレーナーがついていないウマ娘達を指導する立場のトレーナーのことだ。この教官はウマ娘がやっていることも多い。詳しく聞いてみると、当時担当していた教官はウマ娘だったとか。
そんな教官を追いかけ回して、ロードライトガーネットは屈服させたそうだ。自分が気に食わないから、指図されたから。そんな理由で。
(反抗する、なんて事例は日本でもあるが……教官を追いかけ回すってやべーな)
「『それでよくスカウトしようって気になりましたね。かなりの暴れん坊って噂になっているのに』」
「『そりゃそうさ。気性難でも、アイツの才能はダイヤモンドの原石。それに強制さえしなければ大人しいときた。誰も彼もが彼女を欲しがったよ』」
「『引く手数多だったんですね、ロードライトガーネット』」
ぶっちゃけた話、教官の言うことを聞かないウマ娘ってのはいる。いろんなウマ娘がいるわけだし、中には教官との反りが合わずに反抗的な態度を取るウマ娘もいるにはいる。
ただ、人ならともかく相手はウマ娘の教官だ。そんな相手を追いかけ回して、あまつさえ屈服させたとなると……恐ろしいな。
(機嫌を損ねたらどうこう、という問題じゃない。学生のウマ娘が、大人のウマ娘相手に力で勝ったともいえる)
どんだけの力を持っているのやら。今から関わっていくのが少しだけ怖さを感じる。
とはいっても、基本的に機嫌を損ねない限りは普通らしい。マイペースな気分屋、というのがチーム評だ。
「『とにかく、ガーネットの機嫌は損ねないことだ。世界一のトレーナーだろうが、アイツは関係ないからな。自分の気に食わないやつにはとことん歯向かう』」
「『その方がありがたいですけどね。正直、世界一のトレーナーって肩書は重いんで。ありのままに接してくれる方がありがたいです』」
「『そうかいそうかい! ま、基本的に見るのは俺だから問題はないさ。アイツの扱いは難しいからな、俺でも難儀している』」
明るい調子で言ってくれるチームトレーナー。肝心のロードライトガーネットはというと、丁度ウォーミングアップを終えたところだった。
(さて、と。能力のほどはどんな感じなのやら)
最近ほぼ使わないから忘れがちになっているが、俺はウマ娘のステータスが見える。スキルとか領域も諸々と。
その結果分かったロードライトガーネットの能力値だが。
ロードライトガーネット
適性:芝E ダートA
距離:短A マA 中A 長G
脚質:逃げA 先行G 差しG 追い込みG
スピード:E
スタミナ:F+
パワー:E
根性:F+
賢さ:F
すんませんなんすかこのバケモン。未デビューでこれっておかしくないっすか?
(逃げ以外できないけど、ほとんどの分野が超高スペックじゃねぇか! なんだお前カイザーかよ!?)
スピードとパワーが飛び抜けている上に、他のステータスも未デビューにしては高水準。しいて言うなら賢さあげるくらいで、それ以外は他の未デビューのウマ娘と比べても超高水準だった。どういうことだよ本当に。
大抵のウマ娘はFとかG、たまにF+があれば上出来な部類なのに、コイツに関しては平均がF+だ。そして、理解する。
(マイペースが許されるのは、この才能が関係しているのかもしれないな)
普段から遅刻が多いらしいロードライトガーネット。それでも練習自体はそつなくこなす。加えてこの才能の高さは、トレーナー陣も察しているのだろう。極度のマイペースが許されているのは、これが関係しているのかもしれない。
「『それに、ゼニヤッタの言うことには素直だからな。アイツがウチのチームにいてくれて助かったよ!』」
「『ゼニヤッタがいるから選んだ、ってのもありそうですね』」
「『違いねぇな!』」
お互いに笑い合いながらトレーニングを見学させてもらっていた。新しい学びが得られたし、今後も勉強させてもらいます。
◇
初日を終えた次の日。噴水広場にて。
「またいるじゃねぇかロードライトガーネット」
昨日と同じ場所で寝ているロードライトガーネットを発見した。どうやらここが彼女のお気に入りスポットなのかもしれない。寝息を立ててすやすやと寝ていた。
ぶっちゃけ見なかったことにして帰るというのもアリだが、今は同じチームにいる同士でもある。放置して帰るのも忍びないし、どうせゼニヤッタ辺りがまた探しているだろうと考えて。
「待つか。ベンチもあるし、時間潰しするための本も丁度持ってるし」
ベンチに座って起き上がるのを待つことにした。少なくともこうすれば所在不明になるなんてことはない。トレーニングにもスムーズにいけること間違いなしだ。
そして、待つことしばらく。
「……『なんでまたいるの?』」
「『たまたま通りかかったらお前が寝てた。寝てたから起き上がるのを待ってた。そんだけだ』」
「『じゃあまた食堂連れてって。お腹空いた』」
「『またかよ』」
ロードライトガーネットは起き上がり、また食堂へと連れて行った。今回はステーキをたらふく食っていた……30人前ぐらいは食ってたんじゃないか? アレ。てか起き上がりに食う量じゃないだろ。
食事が終われば彼女を連れて練習場へ。今回は時間キッチリに着くことができた。チームトレーナー達はぎょっとしていたけど。
「『ガーネットが時間通りに来るなんて、何日ぶりだ!? 今日はハリケーンでも起こるってのかい!?』」
「『僕だってたまには時間通りに来るよ。たまにね』」
「『毎日時間通りに来なさい! 全くもう、本当にあなたは……!』」
あぁ、うん。時間通りに来ることがほぼないんだなと察するには十分すぎるやり取りだった。本人は全く悪びれていない……いや、ちょっとは悪いと思っているのか? さすがにエスパーじゃないから分からない。
練習はそれなりに真面目に取り組むロードライトガーネット。ゼニヤッタと一緒にトレーニングに励んでいるが。
(やっぱ才能がやべぇな。並のウマ娘じゃ太刀打ちできない)
同じチームには同期の子もいるが、その子とトレーニングをやっている光景はほぼ見ない。というのも、実力が違いすぎるから。けた外れの才能を誇るロードライトガーネットの相手は、同期の子には荷が重すぎるという判断だ。
「『時として大きい体はリスクを孕む。だがロードライトガーネットは、ゼニヤッタに教えられていることで自在に操っている』」
「『凄いダイナミックに動きますよね、ロードライトガーネット。思わず圧倒されるような』」
「『そうだろう? これがガーネットが引く手数多だった理由だ』」
群を抜いた強さ、と言えばいいのか。もはや同期じゃ相手にならない。それほどの強さをすでに有している。
とはいっても、私生活が壊滅的すぎる面が目立つ。
「『ガーネット、ちゃんと宿題はやってきましたか?』」
「『やってない。というわけで見せて』」
「『他の子に頼るんじゃありません! ちゃんとやっておきなさいとあれほど言ったでしょう!?』」
「『やってないものはやってないし、仕方ないじゃん』」
課題をやってこなかったり、他の子に写させてもらおうとしていたり。それで大丈夫なのか? という場面を何回か目撃してきた。これでも成績上位者らしい。天才かよコイツ。監督役であるゼニヤッタの苦労が伺えるわ。
また、思い通りにならなければ即座に不機嫌になる。
「『ガーネット、何かあったのか? 別チームの子が抗議しに来たが』」
「『喧嘩売ってきたのはあっち。僕を図体がでかいだけのウマ娘って言ったから、分からせてやっただけ』」
「『だとしても、他チームとの揉め事はだなぁ』」
「『喧嘩売ってきたのはあっちなんだからあっちに言いなよ。僕は悪くない』」
喧嘩を売る方も大概だが、ロードライトガーネットは基本的に売られた喧嘩は買う主義だ。そして、全員まとめて叩きのめす。叩きのめすというのはレースでの話ね。中にはデビュー済みのウマ娘もいるというのに勝つとは、恐ろしい話だ。
っと、ロードライトガーネットと関わって分かったことをまとめた。その結果として。
「『お前って本当に何もしなければ害はないのな』」
「『僕をなんだと思ってるの? そりゃ何もしてこないんだからなにかする理由もないでしょ。面倒くさいし』」
なんとなく分かってきた。ロードライトガーネットというウマ娘のことが。
確かにワガママでのんびり屋な面が目立つが、そこさえコントロールできてしまえば普通だ。練習にだって遅れることが多いし、気分が乗らないことは決してやらないが、気分を向けてさえやれば大人しく言うことを聞いてくれる。割と扱いやすいウマ娘だと。
「『なんかさ、やろうとした時にあれやれこれやれって言われたらやる気なくなるよね』」
「『分かる、すっげぇ分かるわ。いざやろうとした時に言われたらめちゃくちゃやる気無くすよな』」
「『話が分かるね榊幸光。ゼニさんの言うことは分かるけど、どうもやる気が出ないっていうかさ』」
その上で大事なことは、いかにしてロードライトガーネットの気分を向けさせるかだ。コイツのやる気を出させることが大事になってくる。
「『そういえば、最近新しいショップができたらしいな。それも、ゼニヤッタが気に入りそうなお店が』」
「『それがどうかしたの?』」
「『何、トレーニング後に一緒に行ってやったらどうかって思っただけだよ』」
やる気を出させる手段としてスタンダートなのは物で釣ること。これを試してみた。
「『ゼニヤッタ、最近お疲れ気味なんじゃないか? 労う意味を込めて、お前から提案したらさぞかし嬉しがると思ってな』」
「『じゃあ今から行けばよくない? わざわざトレーニング後じゃなくても』」
「『ゼニヤッタはトレーニング休まんだろ。それに、トレーニングを休んで行ってもゼニヤッタはいい気がしないはずだ。だからこそ、終わった後に行くのさ。それに、疲れた後に食べるパフェもまた格別だと思うぞ~?』」
「……『アリかもしれないね。じゃあ今日はトレーニングちゃんと出るかぁ』」
結果は、成功。毎日のように上手くいくわけじゃないが、しっかりと時間通りに来ることを約束してくれた。
「『が、ガーネットが連日遅刻しなかっただと!? いつ以来だ!』」
「『知らない。ところでゼニさん、トレーニング終わったらパフェ食べに行こー。幸光が美味しいとこ連れてってくれるって』」
「『まぁ、まぁまぁ、まぁ! しかも、トレーニングが終わった後なんて……! 成長したんですね、ガーネット!』」
「『今までのガーネットだったら間違いなくトレーニングサボって行こうって言ってたのに』」
「『こりゃ、本格的にハリケーンの心配をしないと』」
代償としてロードライトガーネット達のパフェの代金を肩代わりすることになったが構わん。こんなのは必要経費だ。練習来てくれるのに越したことはないし、その上でやる気も出してくれるんだったら文句もない。俺の財布のダメージくらい安いもんだ。
それからは何度か、というよりは顔を合わせる頻度が多かった。てかほぼ毎日顔を合わせてた。
「『あ、いた幸光』」
「『おうガーネットか。どうした?』」
「『ご飯食べに行こ。僕今日はピザの気分』」
一緒に飯を食べたり、その後トレーニングに向かったり。
「『幸光ってなんでこっちに来たの? 別に来る必要なくない?』」
「『俺って一応新人だからな。これも学びを深めるためだよ、学びのため』」
「『嘘だね。幸光の性格的にそれはない』」
「……『本当は担当ウマ娘から距離を置くために逃げてきました』」
「『凱旋門賞でキスされてたもんね。でも、それくらい普通だと思うけどなぁ』」
ロードライトガーネットが遅刻することも少なくなり、1ヶ月も経つ頃にはほぼ遅刻することがなくなった。
経過は順調。しっかりと結果も出してくれている。
「『模擬レースの1着はガーネットか。てか仮にも同世代の有望株相手に大差かよ』」
「『ガーネットの強さならこれくらい当然さ! いやはや、それにしても大助かりだぞ幸光! 君のおかげで、あの気まぐれ屋が真面目に練習してくれるんだから!』」
「『ありがとうございます! お役に立てて嬉しいです!』」
「『ユキ、ゼニさんと一緒にご飯食べに行こ。僕お腹空いた』」
将来が楽しみだ。