担当はハイスペックウマ娘   作:カニ漁船

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勝負服のお披露目とG1

 海外遠征の協力者をお願いしたらスピードシンボリが来た件について。そんな彼女は現在2人のトレーニングを見ています。

 興味深そうに、時折うんうん頷きながら見学。感心するような声も聞こえることから、お気に召していることは間違いないだろう。

 

「ルドルフから時折話は聞いていたが……確かに凄いね。まだジュニア級なんだろう? 彼女」

「え、えぇ、はい。そうですね。今度ホープフルステークスに出走する予定です」

「そう畏まらなくても構わないよ榊トレーナー。にしても、ジュニア級とは思えないほどの完成度だ。ルドルフも教え甲斐があるだろうなぁ」

 

 かつて海外遠征の道を切り開いたパイオニアがそういうってことは、カイザーはとんでもないってことだな。そうでしょうそうでしょう、ウチのカイザーは凄いでしょう。

 

 ま、確かに完成度という点では群を抜いている。

 

「レースの映像は私も見た。運び方にスピード、直線での加速にコーナリング。クラシック級と言われても納得するレベルの出来だ」

「ありがとうございます。とはいっても、最初からカイザーが持ち合わせていたものですけどね。俺の力はほとんどないですよ」

 

 もはや持ち合わせていないものとかあるんか、と言いたくなるようなレベル。しいて言うなら身体の頑丈さである。おのれガラスの身体め。

 

 

 その日は一日中見学していたスピードシンボリ。どうやら、彼女のお眼鏡にかなったようで。

 

「私も本業があるからたまにしか来れないが、その分精力することを誓おう。君達の海外遠征の道は、私の知恵と経験、伝手で切り開いてみせるよ」

「よ、よろしくお願いします!」

「お願いします!」

 

 こうしてスピードシンボリの協力を得られることができた。いやはや、順調すぎて怖いぐらいだな。

 終わり際にクラフトが駆け寄ってくる。どうも気になることがあるようで。

 

「それにしてもトレーナーさん、海外遠征というのは?」

「あぁ、今後を見据えてな。選択肢は多い方がいいだろう?」

 

 実際海外遠征するかどうかは今後次第。適性の問題だってあるし、環境に適応できるかも重要だ。難しい課題である。

 

 もっとも、それは遠い先のお話。今取り組むべきものは別にある。

 

「そうそう。明日には2人の勝負服が届くからな。そのつもりでいてくれよ」

「し、勝負服!」

「へ~、ついに届くんだ」

 

 目を輝かせるクラフトとそうなんだ、くらいにしか思っていないカイザー。う~んこの対称的な反応。

 

「そう。細かいところの合わせもあるし、なによりクラフトはもうすぐ阪神ジュベナイルフィリーズだ。今度はG1、今までのレースとは違うぞ」

「じ、G1レース……!」

「メイクデビューやG3のファンタジーステークスよりもさらに人が増える。緊張もさらに倍ってとこだ」

 

 ぶっちゃけクラフトの実力ならば負けることはない。なんだかんだカイザーと一緒にいることで伸びているからな。

 だからこそ怖いのは、実力を発揮できずに負けること。メンタル的にもクるものがある。

 

 なのだが。

 

「G1レース、確かに緊張はします。でも、それ以上に楽しみです!」

 

 こっちも精神面で問題なし、と。メイクデビューで緊張していたのが嘘みたいな気の持ちようだ。

 

 だが、本番まで油断はしない。どうするべきか、何を考えておくべきかを教えておかなければ。

 

「その意気だクラフト。ま~細かいところはレース本番に打ち合わせるとしよう。今日はもう終わりだから上がっていいぞー」

「「はーい!」」

 

 元気の良い返事でこっちまで元気をもらえるわ本当。トレーナーになってよかった。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経ち。

 

「これがわたしの勝負服……っ!」

「ねーねートレーナー。どう、どう? 似合う?」

「似合ってるからそんなにグイグイ来るんじゃありません」

 

 2人の勝負服を合わせ、来るべきレースに向けて備える。

 

「さて、じゃあ初のG1レースに向けていくつか注意点を話しておくか。心して聞くように」

「は、はい!」

 

 ホワイトボードを用意して、今回走るコースを書き出す。

 

「今回走るのは阪神の芝1600m。桜花賞でも走るコースだな」

「桜花賞……トリプルティアラの一冠目」

「そう。先のレースを見据えるなら、このレースは持ってこいと言えるだろう」

 

 コースの注意点とかその他もろもろあるが、詳しくは言わない。あんまり言いすぎると頭がパンクしかねないからな。

 なので、俺から言うのは。

 

「いいか、クラフト。割り切って走れ」

「割り切って?」

「そう。今回のレース、おそらくだが思うようにいかない場面が出てくるはずだ。これは様々な要因が重なってしまうからこそ、生まれてしまう」

 

 ぶっちゃけて言えば、よほどのレース巧者でもない限り避けることはできない。仕方のない場面というやつが出てくるかもしれない。

 

「G1レース、周りのプレッシャーも段違いだ。その中で冷静に走るってのも重要なんだが……冷静になろうとするな。仕方ないと割り切って走ることも大事だ」

「れ、冷静になろうとするな? どういうことですか?」

「かみ砕いていえば、冷静になろうとしてドツボにハマる可能性があるってことだ。スタミナを余分に消耗するし、仕掛けどころも見誤る。そうなるくらいなら、いっそのこと割り切って走った方がいいってことだな」

 

 簡潔に言うならば勢い任せに走る、これに尽きる。

 

「あまり完璧に走ろうとするな。初めてのG1レース、思い通りにいかないことが当然だ。だからこそ、ここぞの割り切りも必要。考えるより突っ走れ、だな」

「なるほど……分かりました!」

「ただ、だからと言って最初から考え無しに走ろうとするんじゃないぞ。あくまで想定外の場面に出くわした時の対処法だ」

 

 クラフトへのアドバイスはこれくらい。カイザーは。

 

「カイザーは……うん。いつも通りでいいな」

「え~? 私にもなんかないの~?」

「楽しく走れ。以上」

「はーい!」

 

 これだけ伝えておけば何とかなる。クラフトと違ってあっさりしているけど。

 

 伝えておくべきことは伝えた。後は本番を座して待つのみである。

 

「よ~し、頑張るぞ~!」

「頑張ってねクラちゃん。観客席で応援してるから!」

「カイザーさんの応援があれば百人力、いえ、百万バ力です!」

 

 気合十分のクラフト。空回りしないことを祈るだけだな。

 

 

 で、迎えた本番阪神レース場。パドックでいざクラフトの勝負服を見ると、感動で涙が出てきそうになったとか諸々はどうでもいいとして。クラフトのレースが始まっていた。

 

《第4コーナーを回ります各ウマ娘。ペースが上がって最後の直線へと入っていく。ここでラインクラフトが外から上がる、7、8番手に控えていたラインクラフトここで一気に上がってきた!》

「うおおおぉぉぉ! いけー、クラフトー!」

 

 怒号のような大声を上げながら応援。担当が走っているのだから当然である。

 

 外から捲っていくクラフト。ただ、勢いをつけすぎたのもあるだろう。結構外に膨らんでいた。内を走るウマ娘との差は考えるまでもない。

 

(焦っているようには見えない。そうだ、それでいい)

 

 道中も問題なく走れていた。スタミナもキッチリ余してある。

 

「頑張れ~、クラちゃ~ん!」

 

 カイザーも応援する中、クラフトと先頭との差は4バ身から5バ身程。最後の直線に入り、勝負が始まる。

 

 ここまでくれば内と外の差は関係ない。誰が一番早くゴール板を駆け抜けるかの勝負になる。

 

《1番人気ラインクラフト、先頭との差は4バ身から5バ身か? だが猛然と上がっていくラインクラフト勢いはラインクラフトだ! 一気に上がっていく!》

《これは凄いスピードですね。前が逃げ粘れるかどうか!》

《ラインクラフトが先頭へ襲い掛かる! 残り200m、ラインクラフトが一気に差を詰める! 前も粘るがラインクラフトが並ぼうとしている!》

 

 勢いはクラフト。だが前も懸命に走って抜かせない。

 負けたくない意地を感じる。このレースを勝つという気概を感じさせる。

 

 俺にできることはただ一つだけ。

 

「頑張れクラフトー! 頑張れー!」

 

 必死こいて応援することだけだ。周りの観客と同じように、それ以上に声を出して応援する。クラフトの背中を押すように、クラフトが最後の一滴まで絞りつくせるように。

 

 残り100を切る。ここにきて、先頭に並んだ。

 

《ラインクラフトが並んだ並んだ! 並ぶところまで来たラインクラフト残り100m! しかし先頭も必死に粘っている粘っている! ラインクラフトきた、ラインクラフトきた怒涛の追い込み! 並んで! 躱して! ラインクラフトが先頭に変わったぁぁぁ!》

「うおおおぉぉぉ! いけぇクラフトー!」

 

 100mで並んだクラフトは勢いのままに躱す。観客席の声援はより一層大きくなる中、一気に駆け抜けて。

 

《ラインクラフトだラインクラフトだ、ラインクラフトが駆け抜けた! 阪神ジュベナイルフィリーズを制したのはラインクラフトだぁぁぁ! 外から一気に躱したラインクラフト、人気に違わぬ実力でレースを制しました!》

 

 1着を勝ち取った。

 

「うおおおぉぉぉ! クラフトォォォ!」

「わーいわーい、クラちゃんおめでとー!」

 

 いやはや、見ましたか最後の末脚。あの末脚がウチのラインクラフトなんですよ。どうかみなさん覚えて帰ってください。

 というかアレだ。語彙力無くしすぎてクラフトとしか言ってないな俺。

 

(仕方ない。レースが熱すぎるのが悪い)

 

 こちらに向かって笑顔で手を振るクラフトに手を振り返しながら、1着を取った喜びを噛みしめていた。

 

 

 その後のインタビューにて。

 

「最初の担当ウマ娘でG1初勝利! 凄い快挙ですね榊トレーナー!」

「あ~、ありがとうございます」

 

 そういえばそうだった。最初のG1で初制覇か。かなり凄いことらしい。あんまり実感湧かないけど。

 

「普段のトレーニングは!」

「なにか気を付けていることは!」

「ラインクラフトさんとはどういう出会いで!」

 

 めっちゃマイクを突きつけられる中、なんとか受け答えをする俺。愛想よく答えるように頑張った。

 

 で、終わったらクラフトを褒めちぎる。

 

「よく頑張ったなクラフト。これでG1初勝利だ」

「えへへ、ありがとうございます! まさか初挑戦で初制覇できるなんて……夢みたいです!」

「夢じゃないぞ、これは現実だ」

 

 レースの内容に関しても文句はない。しいて言うならば、第4コーナーだろうか。

 

「第4コーナーは少し外に膨らみすぎたな。スピードの出しすぎたせいか?」

「あ、はい。ちょっと勢いつけすぎちゃって……けど、トレーナーさんのアドバイス通りに走りました!」

「あ~、割り切れ、ってやつ?」

 

 頷くクラフト。まぁ少しでも役立ってくれたのならなによりだ。

 

 これで次のレースに向けて弾みをつけることができた。次は、カイザーのホープフルステークスである。

 

(こっちも阪神でのレース、か)

 

 アプリだと中山だった気がするが、こっちだと阪神開催らしい。代替開催ってやつかね。

 

 ま、なにはともあれ。

 

「お祝いにどこか食べに行くか! 食べ放題だけど」

「わーいやったー!」

「あ、あの、大丈夫ですか? お財布とか……」

 

 俺の財布を気にしてくれる優しい子、クラフト。良いのよ気にしなくて。

 

「気にするな。なんてったってG1初制覇のお祝いだからな! その代わり食べ放題な」

「う、う~ん……それなら、お言葉に甘えて」

「お肉もいいな~、お魚もいいな~。なんでもいいな~!」

 

 食い意地が凄いなカイザー。いっぱい食べる君が好き。

 

 

 無事に阪神ジュベナイルフィリーズを制したクラフト。ティアラ戦に向けて視界は良好である。

 

 

 

 

 

 

 新聞でも取り上げられた阪神ジュベナイルフィリーズの記事。だがそれは、2週間後に行われたメイクデビューによって上書きされる。

 

 そのレースを一言で表すなら蹂躙。圧倒的強さを誇るウマ娘が、周りの子達を圧倒しねじ伏せる。

 

《ディープだディープだ、ディープインパクトが圧倒的強さで駆け抜ける! 最後の直線で一気に先頭を躱した、抜き去った! 後は突き放すだけ、突き放すだけだ!》

 

 走る姿は飛んでいるとさえ錯覚するほど。周りと隔絶した強さを見せつけ、全てを置き去りにした。

 

《阪神芝2000mメイクデビューを制したのはディープインパクト! 2着に大差をつける圧勝でレースを制しました! これは強い、強いとしか言えない走り! これがディープインパクトだ!》

 

 敵情視察がてら、スピードシンボリさんと観戦しに来たんだが。

 

「こりゃつえぇわ、うん」

「そうだね。彼女もまた、世界を狙える逸材だ」

 

 やっぱつえぇわ。追込なのに2着に大差つけるとかどうなってんねんあの子。

 

 周りの観客も大興奮だ。カイザーのメイクデビューよりも圧倒的に人が多いし、ほぼ全員がディープを応援している。

 一言だけ言うなら、異常。

 

(……ま、こんだけド派手な勝ち方をしたんだ。当然って考えるべきか)

 

 最後方から一気に躱して先頭に立つ。その上で2着に大差をつける圧勝劇。うん、これで人気が出なかったら嘘だ。

 

 こうなると、宝塚記念出走も困った問題が出てくるわけで。俺が取るべき策は、っと。

 

(ぶっちゃけこれしかないんだけどな)

 

 やるべきことは決まった。とりま、ホープフルステークス後に発表しますかね。

 

 

 カイザーはクラシックを狙わずに、宝塚記念を狙うことを。

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