エルフはヒトを愛せない 〜極めた魔法でエルフ助ける ⇒ ハート目エルフ量産 ⇒ 僕が人間と知って病む~   作:たぬきち

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最初に考えたストーリーが気に食わなかったので大幅に修正しました。
一章までのプロットは全部書き換えたので、これで行きます。


1話 転魂の儀

 まるで魂に響くような、澄んだ歌声が聞こえる。

 

 空を見上げれば、視界すべてを遮るの巨大な木の枝葉。後ろにある月が、枝葉を透かして微かに光を届ける。

 

 しかし、この場は暗闇に包まれているわけではない。

 

 周囲に視線をやれば、天を突く遠大な巨木を背景に――ふよふよと宙に浮く、暖かい色の光。それがあたり一面に漂っており、夢の世界のように幻想的だった。

 

 そして、まるで夢なのは景色だけではない。

 

 広場に作られた一段高い丘の上で、俺は隣に立つ人物へと視線を向ける。

 

 そこにいたのは――絶世の美の権化。

 

 緩やかに波打ち、腰まで伸びる白金の髪。エメラルドのように透き通った瞳。まっすぐ通った鼻梁に、つややかに発色する唇。

 

 いま僕の横で広場全体に語り掛けるその女性は、どんな芸術家が作った彫刻もかすむほどの美しさだった。

 

 さらに。一番の特徴は、その耳。

 

 真っ白で滑らかなその耳は、人間とは違って長く伸び、そして先が尖っている。

 

 いわゆる長耳。――至高の種族、エルフの証だった。

 

 そして、彼女が語り掛ける相手――この広場に集まったたくさんの人、人、人。

 

 そのすべてが人間にはありえないほどの美と、長さはまちまちなものの尖った耳を持っている。さらに言うなら、その身から立ち昇る魔力はただひとりの例外もなく、人間の一流魔法士が裸足で逃げ出すほどのもの。

 

 そう。

 

 ――ここはエルフたちが住まう森のひとつ、『青い息吹の森』。

 

 そして、丘の上で演説のように話をしているのは、僕がここ半年滞在しているこの森の女王だ。

 

 今日はとんでもなく光栄なことに、多くのエルフを人間社会から救った功績から、僕を森の一員として迎え入れかどうか裁定してくれのだという。そして無事受け入れられれば、この場で僕もエルフの仲間になれる、と。

 

 ……ああ、まさか。人間であるこの僕が、素晴らしいエルフたちの一員になれるかもしれない日が来るなんて……!

 

 感無量とは、まさにこのこと。

 

 それもこれも、あのとき僕を助けてくれた恩人のおかげだ。まだまだあの人への恩返しは途上だけれど。

 

 でも。途中で、ちょっとくらいご褒美があったっていいよね!

 

 僕はにこにこと笑顔を浮かべ、功績を読み上げる女王の言葉を聞いていた。

 

 そうして、広場にいる僕が助けたエルフが、自分のエピソードを聞いてきゃあきゃあ盛り上がるところを微笑ましく見守りながら、とうとう――。

 

「では、以上の功を以って。この者――アインを、我らが青き息吹の森の一員とするか否か、決を採る」

 

 威厳ある表情で、集まったエルフたちを睥睨し、女王は問うた。

 

「アインを迎え入れることに否やのない者は、手をあげよ」

 

 ――直後。

 

 この場のうち、これまで僕と関わったエルフが。まるで示し合わせたように、一斉に手をあげた。

 

「当然じゃ」

 

「アインは、わたしたちだけじゃなくって。この森全体の恩人でもあるんだもんね……!」

 

「今度はぼくたちが、その恩に報いなければ」

 

 いくつも重なって聞こえる声が、僕のことを認めてくれる。

 

 すぐに手をあげたのは、ここに集まった百を超えるエルフのうち、だいたい三十ほど。けれど、僕のことを伝聞で知っていたり、この場で他の者に促されたりして、徐々に上げられる手が増えていく。

 

 それはやがて、明らかにこの場のエルフの過半数を超え、その瞬間――

 

「――よろしい。みな、手を下げよ」

 

 女王がそう言うと同時、場は静まり返る。みなすぐに手を下ろし、次の言葉を固唾を呑んで待つ。

 

 そして、女王が再び口を開いた。

 

「アインは、今日より我らが同胞――青き息吹の操り手だ」

 

 ――まるで、広場が爆発するように。

 

 拍手と歓声。そして、眩い光の洪水が弾けた。

 

 祝福の声と魔力が飛び交い、僕の名を呼ぶ声がいくつも聞こえる。

 

 僕自身も、こんな栄誉なことはないと、胸から湧き上がる嬉しさを噛みしめる。これまでの頑張りを認めてもらって、そしてこれからのことも激励されているようで。

 

 ――こんなに良い日は、きっともうないな……。

 

 そう、感激していると。

 

 騒がしい聴衆を抑えるように、女王がその手のひらを前に向ける。そして口を開く。

 

「――静かに。みなの歓迎の気持ちは、アインにもよく伝わったことと思う」

 

 女王の言葉は、声を張り上げていなくとも、不思議とざわめきの中よく通る。すぐに静寂を取り戻した場に、女王は満足そうにうなずくと。

 

 おもむろに、僕へ視線を向けた。

 

「アイン」

 

「はいっ!」

 

 とっさに返事をした僕に、女王は告げた。

 

「これより、汝を我らが同胞とするため――――転魂の儀を執り行う」

 

 そうして流れる、気まずい沈黙。

 

 ……てんこんの儀? なにそれ。知らないんだけど。

 

 頭上にはてなを浮かべる僕に、女王も戸惑ったように眉根を寄せる。

 

 なに、エルフ界では常識なのかな? でも、知らないものは知らないよ。人間社会で手に入るエルフの情報って、本当に少ないんだからね。

 

 知らないことは恥ではない。知ろうとしないことが恥なのだ。

 

 その精神を以って、僕は意を決し、女王へと問いかけた。

 

「あのぉ……転魂の儀って、なんでしょうか?」

 

 直後。目をわずかに見開き、明らかに驚きを見せる女王。

 

「――は? ……転魂の儀を、知らぬ? エルフが? そんなことは……いや。他の森の者とは、呼び名が異なるのかも知れんな……」

 

 珍しく表情を崩した女王は、なにやらぶつぶつと呟き、そして納得したようにひとり頷く。そして、もう一度。

 

「我らエルフの魂と、己が属する森の世界樹――そのつながりを、別の森の世界樹と繋ぎ直すこと。これを青き息吹の森では『転魂の儀』と呼ぶ。汝もエルフであれば当然知っておろう?」

 

 女王は僕に問いかけ、そして。

 

 

 

「――し、知らないですよ? 僕、人間ですから」

 

 

 

 しん、と。まるで世界のすべてが静止したような静寂。

 

 いや、分かるよ。とっさに言っちゃったけど……明らかに女王は、僕のことをエルフだと勘違いしていた。だったら、この嫌な沈黙の理由は。

 

 たらりと首筋に冷や汗が伝って、頬がぴくぴくと引きつる。

 

 そして、やがて時は再び動き出す。

 

 ――凄まじい形相に変わった女王と、阿鼻叫喚の悲鳴に包まれる広場。

 

 ええ、なんでぇ? 僕が人間だと知らなかったなんて……おかしくない……?

 

 

 

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