エルフはヒトを愛せない 〜極めた魔法でエルフ助ける ⇒ ハート目エルフ量産 ⇒ 僕が人間と知って病む~ 作:たぬきち
女王の言葉に、僕はすこし驚く。この短時間で僕の法則を看破されるとは。
そんな僕を不快そうに見て、女王は続けた。
「意外そうな顔をされると心外だ。これだけ攻撃を防ぐさまを見せたのだ。分からぬはずもない。――貴様の身体に触れる直前、弾かれるでも吸収されるでもなく、たしかに一瞬雷が静止する」
確信を持って言う女王に対し。そこまで見られていれば反論できることはないと、僕は女王に向かって頷きを返す。
そして、女王へ告げた。
「……正解です。僕が世界に強いたルールは――『僕が指定したあらゆる事物の停止』。身体に当たる前に女王サマの攻撃を停止させれば、エネルギーを失いやがて消失する」
攻撃の種類によっては停止させた後の結果が異なるけれど、雷の場合はそうだった。これが例えば岩の塊でも投げられていたなら、停止のあとに地面へ落ちるさまが見られただろう。
近衛兵たちは、僕の開示した能力を聞いてざわめきだす。
「雷なんて、物質以外のものも止められるのか……!? じゃあ、どうやって魔法で倒せばいいんだ!」
「俺たちの動きを止めてそのままなんてこともできるというのか!?」
うーん。近衛兵たちはたしかに止められるけど……女王は無理だろうなあ。始原律の確立まで至った魔法士なら、その大元たる身体にまで僕のルールを押しつけるのは厳しそう。
でも、それならそれで、こういうこともできる――。
僕はこれまで身を守るために使っていた停止の力を、近衛兵たちの周囲の大気に向かって行使する。
「――!?」
彼らはすぐ異常に気付いたようだけれど、どうしようもないだろう。空気が止まっているから声を出しても聞こえないし、止めた範囲の内側でしか動けない。――やろうと思えば、身体ぴったりに大気を停止させ、呼吸を止めることだってできる。
僕は虚空を拳で叩く近衛兵たちを指差し、女王に言った。
「同じことを、あなたにすることだってできます。直接身体を止めるのは難しいけど、その周りを固めちゃえば同じことですから。だから……」
「――だからなんだと? 潔く、貴様に頭を垂れろとでも? ……笑わせる!」
直後。女王の身体から、先ほどまでより更に魔力が放出される。その顔はゆがみ、人間への憎悪を示すとばかりに、その力を世界にぶちまける。
女王が、更なる法則の追加を告げた。
「――伝承に則り、裁きを下せ! 神馬ギオル、白狐ウカ……!」
その言葉と同時、女王の眼前にふたつ白い光が生まれる。それは僕や女王よりも大きく、そして光の中から進み出てくるのは……明らかに異様な雰囲気の馬が一頭に、白く神聖な雰囲気の狐が一匹。
神馬が漆黒の馬体を後ろ足で持ち上げ、天に向かっていなないた。
そして、その瞬間。
――僕の身体に、上から凄まじい力がかかる。
「くっ!?」
とっさに体表面を静止させ、あらゆる衝撃に耐えられるようにする。これでさっきの力は身体に伝わらないけれど……これでは、僕も上手く動けない。
……これは重力……いや、なにかの力場を生み出す力、かな。あの馬の能力か。僕の身体に直接かかる法則を改変するのではなく、法則によって作り出した力場をぶつけてくるってことだから、始原律持ちにも通用するんだ。
女王が呼び出した動物が、女王とはまた違う力を行使する。雷を操るだけではなく、個別に特殊な力を持った伝説上の動物かなにかを具現化する力まであるなんて。
驚く僕だったけれど、そんな悠長にしている時間は与えられなかった。
間髪いれずに動きだすのは、全身真っ白な神々しい狐。その白狐は短く泣き声をあげ、次の瞬間。
突如、空に生まれた巨大な岩が……僕に向かって勢いよく落ちてくるのが見える。ごうごうと空気を裂いて落ちる音を聞きながら、僕は冷静に停止の力を発動するも……。
――これは……幻覚、かな。
一向に止まらない岩を見て……気を取られているうちに打ち込まれる雷撃を、状態を固定した体表面ではじき返す。
いまだ健在な僕を忌々し気に見る女王。
けれど……僕は、女王の手札の多さに舌を巻く。停止の法則を越えて、攻撃を通すことができそうな神獣を召喚したというわけだ。
でも……。
僕は停止の対象を身体の表面から、僕に向けられた黒馬の力場へと変える。目では見ることのできない
途端に僕は自由を取り戻し、黒馬の力場に潰されることもない。次いで、神馬と白狐のその――女王から伸びる魔力の供給路を対象に、停止の法則を作用させた。
すると、神獣たちは主とのつながりを断たれることとなり、結果――僕に恨みがましい視線を向けながら、虚空へと溶けていく。
一面の銀の花を踏みしめながら、僕は女王へと近づく。
「目に見えない概念的なものほど、力の適用に手間取りはしますけど……なにを出しても、またすぐ消して見せます」
「消える前に、貴様の息の根を止めてやる……!」
――そうして、僕と女王の攻防が続く。
多様な召喚獣の力で僕に攻撃する女王。けれど……一方で、僕はそのすべてを防ぐ。固有の能力を持つ召喚獣たちの牙が僕に届きかけるたび、その前に停止の力で倒れていく。
女王自身も雷や通常の魔法を撃ってくるけれど、当然それらが僕の守りを抜くこともなく。
ゆっくりと歩を進め。僕は、女王へと肉薄する。
互いの領域の境界――僕たちのちょうど真ん中の地点が、女王へと近づくごとに彼女の立ち位置へと近づいていく。
そして。――ここで初めて、女王は狼狽えたように言った。
「くっ……我に、近づくな!」
乱暴に手が降られ、電撃が降り注ぐ。けれど僕は雷の雨を容易く潜り抜け、もう数歩駆ければ女王に触れられるところまで接近し、そして足を止める。
僕は、女王に言った。
「――もう、勝負は決まったでしょう。たしかにあなたは強いですけど……僕の守りを抜くことができない」
「それに」、と。僕は女王のうしろ、少し離れたところで動けず、声も出せずにいる近衛兵たちを見る。
「彼らももちろん、女王サマを助けになんてこれません」
その言葉が聞えたわけではないだろうけど。近衛兵たちは僕に憎悪のこもった視線を向け、女王を祈るような目で見た。
そして女王本人はというと、状況の不利を悟っていながらも、それでもまだ折れない心で僕を睨みつける。ニンゲンへの憎しみを、強く強く抱えたまま。
……僕は、どこか苦々しい思いを抱えながら言った。
「――さあ。こんな不毛な戦いなんて置いて……ディのことを――」
「みてあげてください」と、そう言おうとして。
しかし、その言葉が僕の口を出る前に。
――女王が、牙を剥いて叫んだ。
「あの人が――その忘れ形見がおる前で……! 貴様らニンゲンに屈するわけには、いかぬのだ……!」