エルフはヒトを愛せない 〜極めた魔法でエルフ助ける ⇒ ハート目エルフ量産 ⇒ 僕が人間と知って病む~   作:たぬきち

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閑話 ディの想い - 2

 

 牢の中からも聞こえる、野盗たちの叫び声。怒号のなかに混じって、だんだんと悲鳴が増えていく。

 

 一体何が起きているのかと、牢の中の誰もが不安な面持ちをする中、その騒ぎの主はすぐに姿を現した。

 

 突如吹き飛ぶ、鉄格子の外にある扉。そして中に入って来たのは、吹っ飛ぶ野盗のひとりと、夜のように真っ黒な少年――アインだった。

 

 アインは黒い髪を湧き上がる魔力になびかせながら、漆黒の瞳で吾を捉える。そして言ったのだ。「見つけた」と。

 

 吾はなぜか高鳴る胸の鼓動に戸惑う。初めて会った少年に、どうしてか他の者にはない感情が沸いてくる。

 

 それは助けが来たと察したがゆえの喜びか、それともエルフの本能か――。

 

 けれど、吾は少女に向けられたあの目を思い出すと……自分からアインに声をかけることは、とてもできなかった。

 

 だというのに。吾が何を言わずとも、アインの行動は迅速だった。

 

 彼の背後で、いまだ倒れていない野盗が、商品である吾らを渡すまいとアインの背中に飛び掛かる。それを物ともしないアインは、目も向けずに流麗な魔法行使で蹴散らし、こちらに向かって歩いてくる。

 

 動悸ように脈打つ胸が苦しくて、思わずアインから目を逸らしていると、その隙に鉄格子はガシャンと音を立て、地面に落ちていた。

 

 驚く虜囚たちを一瞥もせず、アインは吾のもとにくると、手にはまった枷を魔法でねじりきって言うのだ。

 

 「助けにきたよ」と。

 

 

 

 ――きっと吾はもう。アインのことを一目見たその瞬間、恋に落ちていた。

 

 当時は理解していなかったが、いまなら分かる。エルフがただひとりの愛する人を見つけた瞬間、まるでそれまで白黒だった世界に色が生まれるような――そんな知識の通りだったのだ。

 

 それから吾は、アインに抱えられて野盗のねぐらを去った。

 

 野盗たちは死んではいなかったものの、全員アインの魔法で拘束され、動けないようにされていた。囚われていた人々も、枷だけは外し、あとは自由にするようにとだけ告げる。

 

 そうして、アインは吾を森へと連れ帰ってくれたのだ。

 

 初めはどうもまともに顔を見れなくて、森への道中うまく話すことができなかったが……。それでも、アインは気取らない性格で、面白おかしく自分から話題を振ってくれて、次第に吾から声をかけられるようになった。

 

 森にいるエルフとも、牢の中の人間たちとも違い、吾を厭わず接してくれるアイン。もともと恋に落ちていたのに、そんな彼に夢中になるのはすぐだった。

 

 昔読んだ恋愛小説の一節に、「男に好かれたいなら神秘的な女であれ」なんてあったから、がっつくことはないよう注意したつもりだが……。それでも、うまくできていた自信はない。

 

 それから森に帰り着いた吾は、大騒ぎになっているエルフたちにアインを紹介して、人生で生まれて初めて、アインをこの森に住まわせてとわがままを言ったものだ。アインに了解もとらず、嫌がらなかったからいいものの、強引に彼をそばに置いた。

 

 そうして、いずれはアインと番いになんて、そんなことをこっそり考えながら。吾はほとんど毎日、森でアインとともに時間を過ごした。

 

 本の中の世界以外を楽しいと思ったのは、この時が初めてだ。

 

 話しかけたら、笑顔で言葉を返してくれる。一緒にお花を見にいこうと誘えば、二つ返事で了承される。調子が悪いと言えば、なにか別に予定があったとしても吾の看病を優先してくれる。

 

 ただそれだけで嬉しいのに。加えてアインは吾の命の恩人で、顔も格好良くて、おまけに強い。そんな人が、吾のことを大事にしてくれる――それはもう天にも昇る気持ちだった。

 

 ただ、アインはときおり森を出て、人間たちからエルフを救ってくる。その度アインの周りに女が増えていき、初めて他者へ抱く黒くて醜い感情に戸惑ったりもしたが。

 

 それでも。おおむね平和に、吾は初めての恋愛を楽しんでいたのだ。

 

 そして、そんな日々を過ごすこと、おおよそ一年ほど。ついにアインが正式に森の住人として認められるはずだった、その日。

 

 歯車がずれたのは、アインの一言から。

 

 ――アインはエルフではなく、人間。まさか、そんなはずはと。

 

 アインが人間だと自ら口にしたとき、吾は大きく取り乱してしまった。別に、戦争時代から生きているエルフのように、人間という種族を嫌っているからなどではない。

 

 ただ――好きになった相手が人間であるエルフなど、その末路は悲惨なことになると相場が決まっているから。

 

 ……エルフと違って人間は、ひとりの者を愛し続けるとは限らない。物語でも読んだことがある通り、何人にもその愛が移ろうことが普通だと聞く。

 

 吾らエルフはただひとりを一途に愛し続けるというのに、そんな不公平なことがあるかと、そう怒りが湧いてくるのも仕方がないだろう。

 

 吾らは基本的に失恋など経験することがないものだから、感情は千々に乱れ、アインへ心にもない顔を向けてしまった。あのときは吾も余裕がなかったが、あとから思い出せば、あの悲し気なアインの顔に吾まで心が痛くなる……。

 

 ――けれど、今は違う。もう迷わない。吾は決意した。

 

 たとえ想いが報われないとしても、それでも――この命に代えても、アインの命を守ると。

 

 吾がアインにもらった温かなものを、半分でも、わずかでも、返すのだ。きっとそうすれば……ほんのちょっぴりでも、アインの心で吾が生き続けられるのではと。そんな、女々しい未練を引きずって。

 

 できることなら、吾も一緒にアインと生きていきたいけれど。

 

 それでも、この一年でアインがくれた幸福は、きっと吾がこの世に生まれてきた意味そのもので。吾の命を賭してでも、どうしても守りたいもので。

 

 だから――

 

 

 

 ――せめて最後に一度だけ。吾にまた、あの柔らかな笑みを……。

 

 

 

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