「……ベッド最高」
眼を開けて天井を見た八雲は小さく呟く。
あれから八雲はミレイの提案を快く受け入れた。
ゲットーでの生活を続けれるかと聞かれれば、正直続けれるとは言えない。
あっさり受け入れた八雲に対して、ゲットーでどうにか生活する日本人からしたらふざけるなと恨まれるだろう。
一方でルルーシュはこの提案に当然ながら反対する。
まあ、こんな素性のわからない人物を雇おうとしているのだ。
誰だっていいですねと賛同するわけがない。
だが、ミレイからは余計なことを吹聴されないようになどと言いくるめられ、ルルーシュは渋々ながらも了承した。
そうして八雲の住み込み先としてクラブハウスの空き部屋の一つを使わせてもらうことになった。
けど、理由を聞けば八雲もルルーシュが反対するのもわかる。
ルルーシュは妹のナナリーとこのクラブハウスで生活しているようだ。
それなのに素性もわからない八雲も住むことになれば、ルルーシュからしたら迷惑なはずだ。
とはいえミレイによって八雲はクラブハウスに住むことは決まり、ルルーシュは大きなため息をついて諦めていた。
そんなルルーシュから「ナナリーに手を出せば……わかるな?」って言われたよ。
そんな脅すようなことはやめてよ!
こっちはお世話になる身なのにそんなことするわけないでしょ。
そんなこんなで八雲は用務員見習いとして、このアッシュフォード学園で働くことになった。
「(しかし、彼もこの学園に来るなんてな………)」
老齢の用務員の先輩から仕事内容を教えてもらい、掃除道具を取りに向かいながらある少年のことを考える。
あの枢木スザクがこのアッシュフォード学園に編入してきたのだ。
「(色々と大変だろうけど、何で編入したんだろう?)」
わざわざブリタニアの学園に編入すれば、肩身が狭い思いをすることはわかっているはずだろうに。
そう思いながら掃除用具を取りに向かっていると、バシャバシャと水音が聞こえた。
ちょっと気になり覗いていると、そこでは先程まで考えていた枢木スザクがいた。
何かを洗っている様子のスザク。
ちらっと見えた服にはスプレーの塗料が見え、八雲はそういうことかと察した。
いくらこの学園がブリタニア人も日本人も素性のわからない人物を受け入れるとしても、個人は違う。
大方イレブンだから何をしてもいいなんて馬鹿な考えを持つ生徒によるものだろう。
そして、掃除用具と洗剤をとり八雲はスザクの場所へ向かう。
「これを使ったらどうだい?」
「え?……ありがとうございます。けど、大丈夫ですから」
おそらく自分と関われば迷惑をかけると思ったのかやんわりと断るスザク。
「気にしなくていいよ。それに見て見ぬふりをするのも何かね。とりあえず、これ置いとくね」
このままでは押し問答を続けるかもしれないため、八雲はスザクに洗剤を押し付ける。
「先輩が待ってるから、じゃっ」
「あ、ちょっと……!」
呼び止められるが八雲はさっさとその場を離れるのであった。
それから先輩からちょっと遅れたことに注意され、指示された場所の掃除を始める。
「こちら、生徒会長のミレイ・アッシュフォードです」
「ん?ミレイさん?」
突然の放送に掃除の手を止める。
「猫だ!」
「猫?」
いきなり猫と言い出したことに八雲は頭をかしげる。
「校内を逃走中の猫を捕まえなさい!部活は一時中断。協力したクラブには予算を優遇します」
「わざわざ猫を捕まえるために……」
「そして~猫を捕まえた人には、スーパーなラッキーチャンス。生徒会メンバーからキッスのプレゼントだあ!」
「………無茶苦茶すぎるだろ」
いくら猫を捕まえるためとはいえ、そこまでするかと呆れていた。
周りを見れば、ミレイの放送を聞いた生徒たちが猫を探し始めていた。
「巻き込まれた生徒会のメンバーはご愁傷様だね……」
確かに生徒会の女子メンバーは美少女だ。
男として気持ちはわからなくもない。
だけど、いくら何でもこんな方法でいいものだろうか。
「え~っと、足が悪かったと思います。足音がちょっと変だったから」
今度はナナリーから猫についての情報が放送される。
「それと……あ、その猫はこんな風に鳴きます。ニャ~」
ナナリーの猫の鳴きまねが学園中に響き渡る。
「……まあ、可愛かったけど」
先程の鳴きまねには八雲も聞き惚れてしまうぐらい可愛かった。
実際、多数の男子生徒もこの鳴きまねを聞いてどよめいていた。
それからも猫を探す生徒が後を絶たず、ハッキリ言って掃除ができる状況ではなかった。
「仕方ない。さっさと猫を捕まえて事態を終息させるか」
八雲は掃除用具を床に置き、猫探しに参加する。
「ん?丁度いい」
外を見れば猫は屋根を伝って時計塔へ入っていた。
八雲は猫の後を追い時計塔へ向かうと、そこにはルルーシュとスザクがいた。
「やあ、君達も猫探し?」
「お前……」
「あなたも?」
「まあね。こう騒がしいと掃除ができないからね」
やれやれと肩をすくめると、上から猫の鳴き声が響く。
「「「あっ」」」
「上か」
「上だな」
3人は猫を捕まえるために階段を駆け上がる。
「待てスザク、八雲。お前たちは帰れ!」
「でも、生徒会長さんが捕まえろって」
「そうそう。それにこういうのは人手が多いほうがいいだろ」
「いいから帰れ。猫は俺が捕まえる」
どういうわけかルルーシュは相当大事な物を盗られたのか。
見られたくないのかスザクと八雲を帰そうとする。
「体を動かすのは僕のほうが得意だよ。前に小鳥が逃げたときだって」
「古い話を持ち出すな!」
「俺としては気になるけど。君よりは任せたほうがいいと思うぞ」
見るからにルルーシュは疲労困憊といった様子。
そんなルルーシュに猫が捕まえられるとは思えないし、下手すれば怪我をするかもしれない。
「うるさい!いいからここは……くそ!」
ルルーシュの制止を聞かず、スザクと八雲はルルーシュを置いて階段を駆け上がっていく。
そして、2人は階段を駆け上がって猫を追うも、猫は屋根の上にいた。
「参ったな、どうするか?」
「それなら僕に任してください」
「え?ちょ、ちょっと!」
スザクは窓から外に出ると、屋根をゆっくり上り始める。
「流石にそれは危ないでしょ!」
どんな自身があるかわからないが、ここから落ちたら怪我では済まない。
八雲も窓から外に出て、せめて落ちない様に支えれるように構える。
「大丈夫。怖くないから」
徐々に猫に近づくスザク。
「スザク、八雲よせ!」
遅れてルルーシュが到着し、尚も制止の声をあげる。
「うわあっ!」
ルルーシュの悲鳴が聞こえ、何事か見る。
見れば足を滑らしたのか、ルルーシュが屋根から落ちそうになっていた。
「マジか!」
八雲はすぐに落ちそうになるルルーシュの腕を掴み、もう片方の手で窓のふちを掴もうとするも届かなかった。
あわや2人そろって屋根から落ちかけた時、すぐに駆け付けたスザクが八雲の手を掴んで支えてくれた。
「二人共、大丈夫か?」
「あ、ああ………」
「何とかね。助かったよ」
「あ……」
「安心しすぎだよ」
「そうだな。こっちは冷や冷やしたぞ」
「なんか、力抜けちゃって」
助かったことに安心したのか。
ルルーシュから先程までの鬼気迫る様子はなかった。
それから屋根の上にいた猫はスザクが無事に捕まえた。
「さて、俺は仕事に戻るか。ルルーシュ、あまり危ないことするなよ」
「わかっている。………さっきは助かった」
「僕からもさっきはありがとう」
「気にしないでいいよ」
それからルルーシュは忘れ物を処理するために先に行けと強く言われ、スザクと八雲は先に階段を下りて外に出る。
下では多数の生徒達が集まっていた。
あまり目立ちたくない八雲は生徒たちがスザクに注目している間に、足早にその場から離れるのであった。
ちなみに戻った先では先輩が待ち構えていた。
多少お小言を貰ったが、今回みたいなことは慣れるしかないと言われてしまった。