異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~ 作:缶 切男
ラスとリードは地上と地下を繋ぐ巨大階段を下っている。
数十分ほど下っているはずだがまだまだ先は暗闇で到着の兆しが見えない。
「ところでキミは地下に行くのは初めてかな?」
「ああ、皆して行くのはやめとけって言うもんだから近づかないようにしている」
グラートも、よく食堂で出会うベテランの法術使いも禄な場所じゃないと言って地下街の情報をあまり教えてもらえなかった。
「そうかい? 慣れると以外に楽しい場所だよ」
「あんたがそう言う時点でもう怖いんだが」
「アッハッハ、ひどいねぇ」
そう言いながらもリードは説明していく。
「まあでも碌な場所じゃないというのは間違っていない」
リードが言うには法の目が届かない治外法権とのことだ。
一つ下手を踏めばそのまま取り込まれて帰ってこれなくなるようだ。
「粗暴な自警団に天魔を信仰するカルト、外では一発でお縄になるような禁制品に人身売買が横行している」
更には地上で犯罪を犯し、追手から逃れるために地下に潜ったりするため、犯罪率は地上の比じゃない。
「もう帰りたくなってきたんだが」
「困るぞキミぃ、賭博の相手をしてくれないとお姉さん泣いちゃうぞぉ?」
「……キッツいわぁ……」
「本当に泣くぞ少年。それに私はまだ24だ、お姉さんを自称して何が悪い」
「それはそうかもしれんが、いい年して泣き脅しは止めろよな」
そのうえ泣く理由も最悪だ。
「ああ、あと一つ警告しておくことがある」
「なんだ?」
「地下は常に変動するから、お姉さんから離れるのはやめておきたまえ」
「まじかよ」
地上の比ではない位には混沌とした様相らしい。
「大マジだ、特性も理解せずに一人で地上に出ようと思ったら二から三週間は迷子を覚悟するように」
「もう帰っていいか?」
「ああ、一つ言い忘れてたけれどこの階段も変動に巻き込まれているから、今から登っても地下の何処かに出るだけだよ?」
「最悪だ!」
そう頭を抱えながら叫ぶラスだが、リードから離れないようにピッタリと着いてくる。
「さて、そろそろ着くよ」
階段を下っていると、唐突に門が現れた。暗闇から現出したのではなく、本当にそうとしか言えなかった。
「変動ってこういうことか……」
「その通り、正規の手段で出ようと思ったら、階段を登りながら祈るしか無いね」
門の先を見ると、想像していたものとは違って明るく感じる。
照明が行き届いているためか、前世で言う夜の歓楽街のように明るかった。
ただ前世と違って通行人の様子がおかしい。
肩で風を切るように周囲に当たり散らしながら歩く凶相の男。
集団で屯している、いわば半グレのような奴等。
何かを燃やして吸っている奴は、焦点が定まっておらず空虚の方を向いている。
前世の歓楽街とは比べ物にならないくらいには治安が終わっているようだ。
「うわぁまじで帰りてぇ……」
「この程度で何を言っているんだキミは。このくらい日常を飾る一欠片のピースにもなりはしない」
本当に終わっている。
「それにキミは最低限戦う力くらいあるだろう? これからもここには来るんだから今のうちに慣れておき給えよ」
「また来なきゃいけないの!?」
「……? 当たり前だろう、これからもキミには付き合ってもらうんだからねぇ」
「え、嫌です……」
ラスの拒絶はリードに黙殺された。
「さて、着いたぞ」
どうやら賭博場に着いたようだ。
その外観は成金趣味全開と言った様相で、ところどころ金や宝石が散りばめられている。
「この治安だとどこかしら奪われてそうなもんだが」
「どうだろうねぇ、ただそれをしたやつは二度は見たことはないとだけ言っておこうか」
「怖い」
まあこの治安だ。制裁として命の1つや2つは奪っても誰も気には止めないのだろう。
「そういや、何でもありの賭博場とか言ってたがどういう意味だ?」
「それこそなんでも、だよ。魔法を使うもよし、呪法を使うもよし。イカサマを使うのもありだ」
リードが言う通り、この賭博場は何でもありだ。
更には恫喝、脅迫、窃盗、賄賂、買収。それらすべてが許されている。
但しそれを見咎められてはいけない。
屋内には法術の発動を感知する道具が設置されており、ゲームマスターやディーラーなどの忠誠心は高く、買収をかけたやつはそれをネタに強請られる。
「あー、つまりは賭博場の外で幾つか法術を発動させておけば、見咎められることは無いってことか?」
「その通り!」
「なるほどな……」
少し思案を巡らせ、ラスは詠唱を始める。
『それは市場をかき回す見えざる手 人を測る精緻の天秤 人を狂わす宿命の糸 手繰り 操り 富を呼び込む』
――ミダスの掌
「ふぅ」
相応の効果を有しているためかなりの理力を消費してしまったが、それでも理力不足の兆候は見られない。
毎日気絶まで使っているため、ラスの理力は相応に成長していた。
「面白い詠唱だねぇ、幸運を呼び込む効果があるのかな?」
「見てれば分かる、着いてきてくれ」
ラスは以前の賭けであったまった懐を使い、交換所でチップを買った後に迷わず目的の席に進みそこに座る。
リードは背後で控えており、ラスの勝負を観察している。
賭博の内容としては数字が書かれた回転する盤上に玉を転がし、どの数字に玉が止まるかで勝敗が決る。
いわば前世にあったルーレットである。
ゲームが開始し盤上を転がる玉を数秒見つめた後、ラスは一つの数字にすべてのチップを賭けた。
「おいおい、こういうゲームには定石というものがあるだろう。初手から全部突っ込んでしまうのかい?」
「いいから、見てろって」
直に玉の速度が遅くなり、見事ラスの賭けた数字に止まった。
およそ賭けたチップの36倍が戻ってきた。
ディーラーの方を見てみれば、恐らく足元に仕込んであるだろう法術感知の道具を見て問題ないことを確認しているのだろう。
「えー! どうやったんだい!? 私にも使えるものかい!?」
「わかった、わかったから。少し離れるぞ」
がくがくと揺らすリードを静止して席を立つ。
椅子などが設置されている休憩所で、リードに対して説明を始める。
「あれはそもそも運を操る魔法じゃなくて勝てる場所と勝てない場所を見極める魔法だ」
「ふむふむ」
「勝てる台、もしくは勝つ出目。それらがすべて光って見える」
だから全額投入して勝てたんだと締めるラス。
「ただそのかわり、勝つ度に理力を消費する。あまり多用はできない」
それにそのまま勝ち続けていれば、胴元の方で対策されてただろう。
「なるほど……使うにはどうすれば良い?」
「勝てると確信したときの直感と全能感を思い出しながら詠唱した」
「なるほどなるほど……」
そう言うとリードは先程のラスと同じ詠唱を行い、魔法を発動させた。
「では少々勝ってくるとするよ、待っていたまえ」
「いやまて、俺を置いてくな」
そう言ってリードとラスは賭博に繰り出した。