異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~ 作:缶 切男
ラスは一時的にリードと別れ食堂へ来ていた。
その時リードも来ないのかと聞いたが面倒なようで適当に当直室で取ると言っていた。
恐らく彼女の悪評がラスにいかないように気遣っているのか、それは分からないが今までも食堂で見かけた覚えもないので本当に面倒なのかもしれない。
ラスは提供されている食事を皿に盛り、席へと着いた。
そこで以前話したベテラン風の男が話しかけてきた。
「死纏いの訓練を受けてるって聞いたぞ、大丈夫なのか?」
言葉の端々からは悪意を感じられず、純粋な心配と少しの好奇心によるものだと察する事ができる。
この男は髭面で強面ではあるが、それに似合わずこうして気遣ってくれている。
「んあ? ああ、大丈夫だぞ。確かに性格は終わってるかもしれんけど自滅するタイプのカスだからこっちには被害がないし、気を使わなくていいから結構気楽だぞ」
「そうか……それなら良いんだがよ」
とはいえ本格的な訓練が始まっておらず、まだなんとも言えないのだが。
周囲からヒソヒソとした声が聞こえる。
原因は不明だがグラートとの訓練を行う以前よりも五感が発達しているような気がする。
「死纏いを相手にして平然としていやがる……あいつ本当は頭おかしいんじゃねえのか……?」
「ありえるかもな、グラートの訓練に一ヶ月以上も付き合える奴がまともなはずがない」
「どっちにせよ頭のおかしいやつに縁があるな、グラート然り組合長然り死纏い然り」
「似た者同士は惹かれ合うってやつか」
「そうそれ」
それが耳に届いたラスは一つ溜息を付く。
ラス自身としては己は常識的でまともな方だという自負があるため、これらの内緒話は不名誉でならない。
ならないが関わっている人間が何処かおかしい人間なので否定もできずにいる。
あと態々否定するのも面倒だ。
「ま、なんか色々言われてるけど気にすんなよ。お前は確か法戦科だろ? 直にここにいる奴等全員ぶち抜いて何も言われなくなるからな」
「そうだといいけどな」
そうラスは溜息をもう一度付きながら食事を食べ終え、第七訓練場に戻っていった。
訓練場に着いたラスは早々にリードに頼み込む。
「術式の刻み方を教えて欲しい、と」
「ああ」
ラスには一つ思いついたことが有ったが、それをするにはまず物の使い方を学ぶ必要がある。
そもそもリードがどうやって本に術式を刻んだのかすら分からないのだ。
「刻む分には意外と簡単だ、法術と詠唱を想像しながら理力を込めれば良い。何だったら詠唱しながらでも構わない、そうして起動文を発声すれば無詠唱でも魔法を発動できる。多少威力は弱まるけどね」
「へー便利なものだな、なぜ廃れたんだか」
「必要理力が多すぎるのが一番の原因だ、頁が増えれば増えるほど次に増やすための理力は倍々に増大していくからね。それにそれを起動するにも多少の想像力が必要だ。誰かが刻んだ術式は、内容を知っているならともかく知らない人間には簡単に使えないだろう」
「なるほど……ってか詳しいな」
「昔興味があって法術の歴史を勉強していてね。他の人よりは多少詳しいはずさ」
衝撃の事実である。カスのお姉さんの実力はわからないが相応の知識を蓄えた知識人であった。決してカスの三種の神器を持っているだけの人間ではなかったのだ。
「キミが何を想像しているかだいたい分かるけど、これでもお姉さんは教官なんだよ?」
「……それもそうだな」
それでも子供を治安の悪い賭博場に連れて行ったり、子供に酒を勧めたりするのはいかがなものかとラスは思った。
「ま、それはさておいて。キミが何を思いついたのか実践してみると良い」
「分かった」
本を開き、見開きに手をおいて理力を込める。
『原初の神秘 始まりの助け 原始の明かりを齎し給え』
――発火
手をどかせば円と幾何学によって構築された術式を刻まれているのが分かる。
簡単な魔法ではあるものの、本来の使用理力より必要な理力が多かった。
リードが刻まれた術式を覗き込む。
「ふむ、完璧だ」
「そうなのか?」
「そうとも、歪みもないし掠れた部分も見受けられない。正しく詠唱と想像力を利用している証拠だ」
「なにがともあれ成功して良かった良かった」
そうして今度は杖を構える。
『狂えよ肉体 痺れよ肉体 先駆の雷足は自由なる肉体を許さない』
――瞬雷
迸る雷が的に当たり帯電する。
『反響』
再度同じ魔法が発動し別の的に当たる。
そして本を取り出し、術式が刻まれた頁を破り取る。
「『発火』」
伸ばした掌の先が爆発的な熱量を持ち、空気を焼き焦がす。
先ほど試しで使ったときよりは多かったが、許容範囲内であった。
そして再度杖を構える。
「おいおい、聞いてなかったのかい? 無駄に理力を消費するだけだ」
リードはそう言っていたがおそらくはそうはならないだろうという謎の自信によって詠唱をした。
『空を埋める天蓋 気を引き裂く槍 罪を許さぬ怒りの鉄槌 咎人よ地に伏せよ 咎人よ空を恐れよ 雲霞の狭間より迸る閃光は 下賤なる高貴を許さない 自然より生まれし怒りの束よ 大地を貫け』
――白雷一閃
はるか彼方の空から、空気を引き裂く閃光が的に直撃する。
引き裂かれた空気が周囲に轟音を鳴り響かせ、強烈な衝撃を持って訓練場の地面を揺らした。
あたった的は消し飛んでおり、それを中心に地面が大きく陥没している。
「ただの落雷のつもりだったのに、なぜクレーターが出来たのかわからない……」
ラスの内心としては(思ってたんと違う……)となっていた。
恐らく詠唱の長さから付加効果が着いた結果だろう。落雷のみなら想定よりも半分の詠唱で行けるだろうとラスは考察する。
「なっ……これは、素晴らしい……!」
対してリードは驚愕していた。
それもそうだ。
破いてしまった指令書とともに渡されたグラートからの申し送りには、ラスは法術を使ってまだ一ヶ月と書いてあった。そのうえ訓練では基礎能力を強化する訓練しかやっておらず、使える法術などはまだまだ小規模なものだと思っていた。
リードは確信した。
この少年は天魔を殺すと。
天魔を殺すと息巻いている口だけの連中とは全く持って違うのだと。
英雄に至るかもしれない少年に、リードは興奮した。
そして、忘れているかもしれないがこれは杖を使って発動させた魔法だ。
ならば一つ残っているものがある。
「『反響』」
ラスが再度反響と唱えると、先ほどと同様に閃光と共に轟音が鳴り響く。
2つ目のクレーターが出来上がった。
「えぇ……出来ちゃったよ、出来て良いのかよ、いかんでしょ……」
そう、ラスは反響の杖のデメリットである理力消費増大を踏み倒した。
なんとなしに思いついて、多分出来るだろうなという何の根拠もない自信によってなされたのだ。
とはいえ事前準備が必要なのがネックだったが。
「なるほどなるほど……魔法の腕もさることながら、理力消費を踏み倒したか。いい発想だ、その発想はキミの武器になる」
「こんなの、誰でも思いつきそうなものだがな」
「そもそも、生まれた年が違う骨董品だ。今では殆ど忘れられているし、誰も組み合わせようという考えが及ばなかったのだろうね」
「そんなものか? いや多分俺の両親はこの運用を想定に入れてそうなものだが」
「何者だろうね? キミの両親は」
謎は深まるばかりだった。