異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~   作:缶 切男

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リードの十八番

 この世界に来て初めて物事が上手く行ったような気がするラスは満足げな顔をしていた。

 何治り、リードから本格的な訓練開始(地獄の始まり)が言い渡される。

 

「さて、指導はここまでにして。本格的に訓練を始めよう」

 

 それを聞いたラスの表情は一気に落ち込んだ。

 正直碌な未来が見えない。真面目なグラートですらあのスパルタだったのだ。

 同じ法戦科の教官であるリードに優しさを求めるのは間違いであろう。

 

「……なにをするんだ?」

 

「グラートとそうやることは変わらないさ、安心したまえ」

 

 ラスは(また走りか……)と思いながらも身体のストレッチと並行して覚悟を決めた。

 

「でも普通に訓練をしても面白くない、実践訓練はグラートの方で行ってるようだし……」

 

 グラートとの訓練で培われた危機感知能力が強く、それはもう強く警鐘を鳴らしている。

 

「よし、攻撃対処訓練を行おう。お姉さんが魔法を使うから、キミは避けるなり守るなり魔法を使うなりで対処してくれ」

 

 そう言ってリードは万年筆を取り出した。

 瞬間、ラスは後方へ大きく飛び退いた。

 見えたのだ、リードの膨大な理力を。

 本来見えるはずのない物であるのに。

 押しつぶされそうな圧力と共にリードの周囲が悲鳴を上げるように空間が歪み、その後ろの風景が陽炎の如く揺らめいている。

 

「手加減はするとも、精々死なないでくれたまえ」

 

 そう言ってリードは詠唱を始めた。

 

『それは精緻なる弘法の右腕 それは遍く理の右腕 歯は噛み合い 組み合い そして怪奇を産み落とす』

 

 リードの背後には大小様々な歯車が生み出され、組み合わさっていく。

 

『廻れ天測 流る血気 矮小なる輪廻の器を満たし 有象無象の術を作り出す』

 

 リードのプレッシャーから復活したラスは慌てて魔法を妨害するための詠唱を始める。

 

『狂えよ肉体 痺れよ肉体 先駆の雷足は自由なる肉体を許さない!』

 

 ――瞬雷ッ!

 

 だが、それはリードには届かなかった。

 膨大な理力が層となり、ラスの放った雷は即座に霧散した。

 あれを突破するには『白雷一閃』のような強力な魔法が必要と理解したが、詠唱する時間が足りないと即座に直感した。

 

『原理の加護を受けし我が法を 世界の歪みとして 世の混沌として 壊し 刻みつけよう』

 

 歯車が組み上がって出来たものは腕だ。

 一つではない。何十もの腕が重なって積み上げられる。

 

『天よ、不遜なる我が業を見よ 魔よ、豪傑たる我が勇を見よ 星よ、深淵なる我が極致を篤とご照覧あれ』

 

 リードが手に持っていた万年筆をその腕に渡すと、それが塵となって消滅し全ての腕に光の束となって寄り集まった万年筆が行き届く。

 

 ――術式自動書記 機械仕掛けより現れる腕

 

「さ、お姉さんの十八番の歯車魔法だ。楽しんでくれたまえ」

 

 全ての腕が一斉に動き出し、空中に術式を書き記していく。

 ラスは身を翻し、地面を思い切り蹴って全力で走る。

 先程までラスがいた場所には破壊の嵐が巻き起こっており、ひと目見ただけでも多種多様な魔法が腕より打ち出される。

 

「いや死ぬってこれぇ!」

 

「大丈夫大丈夫、一発一発はキミが致命傷になる程度だ。大した威力じゃない」

 

「っ、クソ!」

 

 悪態をついた後、ラスは走りながら杖を手に取り魔法の詠唱を行う。

 

『唸れ骨肉 満ちよ鮮血 際限なき心肺と溢れ出る剛力がその身に宿る 限界の扉へ手を伸ばし 神秘の最奥へと深まれ肉体』

 

 ――充足する神秘の肉体

 

 身体能力が高まりラスは加速した。

 そして更に。

 

「『反響』!」

 

 二重で身体強化の魔法を掛ける。

 一度加速した肉体が更に加速する。内蔵が背後に置いてかれるような、浮遊感すら覚える感覚に吐き気を覚えるがそうも言ってられない。

 

 ――あれを止めるのにはリードを何とかするしか無い!

 

 喋る余裕すらないラスは視線を動かしリードを探す。

 だが中央にはリードが魔法で残した腕のみで、肝心のリードは何処にもいなかった。

 

 ――動けるのか!? あれだけの魔法を使っておいて!?

 

 ラスは驚愕した。

 あれ程の大規模な、そして持続的な魔法は術者はその場から動けないものだと勘違いしていたからだ。

 リードが動けるということは、それは一つの独立した魔法ということだ。

 

 ――独立? あの規模で?

 

 疑問が湧き上がるがラスは足を止めない。否、止められない。

 破壊の嵐がもう背後まで迫っているためだ。

 だがその嵐は、ラスを弄ぶように背後を付かず離れずを維持している。

 

「ほらほらぁ、お姉さんのことも警戒しないと」

 

 急に体が重くなる。

 いや、リードがおんぶをするような形で背後から覆いかぶさっていた。

 リードとラスが密着し、その柔らかい双丘が潰され――

 

「硬ったお前!?」

 

 なかった。

 

「それはそうだろう、態々自分の魔法に当たる馬鹿が何処にいるんだい?」

 

 己のみを覆う障壁魔法によって、リードの肉体は非常に硬かった。

 

「カス女がっ!!」

 

 リードは笑いながら、いや嗤いながら言う。

 

「安心したまえ、死なないよう調整するし当たったとしてもお姉さんが治してやるとも」

 

 ヤバ女である。

 

 

 

 

 ボロボロの状態でラスが食堂に戻った。

 傷こそリードに治され残っていないが、心と服はズタボロだった。

 結局リードの妨害によってあの破壊の嵐からは逃げられなかったのである。

 目は死んでいる。

 

「だ、大丈夫かお前……?」

 

 ベテラン風の男が心配そうにこちらを見てくる。

 突如ラスの瞳から涙が溢れ出した。

 

「生きて……生きててよかった…………」

 

 その場に崩れ落ちるラス。

 

「本当に何があったんだよお前……」

 

「奇跡も、魔法もあったんだね……」

 

 ラスは暫く号泣していた。

 

「……いや魔法はあるだろ普通……」

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