異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~ 作:缶 切男
食堂で散々号泣したラスは思いの外スゥーっとした心持ちで部屋に戻った。
これから考えることはリードのあの魔法だ。
「いやあれどうすれば良いんだまじで……」
術式自動書記、と言っていた。
あのスチームパンク風の義手によって生み出される術式の数々。
腕を動かし術式を自動で書き上げるあの魔法。
魔法一つ一つに対処していればこちらの詠唱が間に合わず、最終的にジリ貧になるだろう。
その上リードは特に操作している様子はなく、一から百まで全て自動化で魔法を撃っているようだ。
完全に独立した一つの魔法。
あそこから更に魔法を重ねることも出来るだろうし、打ち続けても理力が枯渇する様子も見られない。
完全な継戦能力と魔法の自動化に特化した魔法。
「セコすぎるだろ……」
というのがラスの感想だった。
だがあれを対処出来なければ今日の二の舞いになるのは想像に難く無く、何かしらの対策を考えなければならない。
「どうしたもんかなぁ……」
とはいえあの魔法にも何かしら仕掛けはあるだろうし、それをわざと詠唱に組み込んでないように見える。
恐らく弱点だけは露見しないように詠唱していないのだろう。
詠唱省略、もとい無詠唱というのは難しい技術じゃない。
頭の中で魔法を想像して理力を打ち出すだけだ。ただそれをするにしても威力対効率が悪すぎるから誰もやらないのだ。
以前使った『発火』程度の規模を無詠唱で発動しようとしたら恐らく『白雷一閃』と同等の理力を消費するだろう。
だから誰も使おうとは思わない。そしてラス自身も『白雷一閃』は保持している理力の三分の一程度を消費している。
無詠唱で法術を運用しようとすれば、理力が完全に回復していても『発火』約三発分だ。
どう考えても効率が悪すぎる。
ラスが持っている『白紙の特異点』があればその限りでは無いが。
「ほんとどうしようあれ」
魔法発動を妨害する……恐らく簡単な魔法では効果が発揮する前にかき消されるだろう。
呪法によって魔法を使えなくする……魔法と同様かき消される可能性が高い。そうなれば一方的に不利を背負う羽目になる。
こちらも何かしらの魔法で対抗する……そうなれば理力総量の勝負となり、それでは負けるのが火を見るよりも明らかだ。
「……少し、試してみるか」
あの腕は精密機構だ。試してみる価値はあるとラスは考えた。
「おや、逃げずに来たか」
「逆に逃げると思ったのか?」
「いやなに、お姉さんが担当した子は皆一日で来なくなっちゃうからねぇ」
「グラートと同類かよ……」
「いやいや、グラートは一応逃げない生徒もいるからまだマシなんじゃないかな」
「分かってんなら改善するとかさぁ……ないの?」
「無い!」
リードは満面の笑みだった。
「ま、来たなら来たでそれでいい。訓練を始めよう」
そう言ってリードは詠唱を始める。
空間が歪むほどの理力も健在だ。
それと同時にラスも詠唱を始める。
『偽造 贋作 横着な職人 歯の数違えば軸も違う 惰弱な模造はすぐ壊れる 掴み掴まり掴まされ その機械もすぐに動かなく 落とせ落とせその部品 狂え狂えその機構』
――凡雑な職人芸
ラスが魔法を発動させると、リードが構築していた歯車の腕にラスが生み出した歯車が組み込まれる。
その歯車は脆く、脆弱だ。
すぐにラスの歯車が破損し、その破片が別の歯車に挟まり機能不全を引き起こす。
「おや?」
リードの背後で構築された腕は、油をさしていないブリキの人形のようにぎこちない動きをして最後にはバラバラと自壊していく。
「おもしろい、記す術式をどうにかするのではなくその大本に目をつけたか。まったく、簡単に攻略されるつもりもなかったというのに」
「まあ、な。そのかわりあんたが放出する理力の層を突破するのに大量の理力を持ってかれたが」
「そりゃそうだろう、理力さえ持っていれば誰でも出来る一種の防衛機構だ」
「加減してくれ……」
ラスがそうぼやいているとリードが訓練用の木剣を取り出す。
「しょうがない、近接戦闘はあまり得意ではないがこれを使うとしよう」
リードがそう呟くと、木剣を構え始めた。
その木剣でラスの腰に差している鋼の剣に向ける。
「キミはその剣を使うと良い」
「……いいのか?」
「キミ程度に傷つけられるほど軟じゃない」
そう言いながらリードは構える。
構えると言っても半身にするだけで、腕はぶら下げてある。
ラスが剣を構えた瞬間、リードの姿が掻き消える。
「は?」
グラートとの訓練で培った危機感知能力が警鐘を鳴らし、即座に守りの姿勢に入る。
「っふ」
リードの、力むための呼吸の音が聞こえた瞬間ラスは吹っ飛ばされた。
「ガッ!」
強く壁に叩きつけられて、肺の中の空気が全部吐き出される。
ラスには何も見えなかった。狙いを付け、剣を振るう瞬間ですら。
「ふむ、上出来上出来。グラートとの訓練は無駄ではなかったようだね」
ラスは痛みに耐えながら立ち上がる。
「……近接戦闘は、得意じゃないんじゃなかったのかよ……」
「そりゃ法術に比べれば苦手に分類されるが、だからといって天魔相手に法術だけで対抗するのも苦労するからね。練習したさ」
「まじかよ……」
「さあ、どんどん行くよ」
「まじかよ!」
そう言いながらラスは本に理力を込める。
事前に詠唱ごと術式を刻んでおり、無詠唱でも相応の効力を発揮するだろう。
――有刺の鉄蜘蛛
ラスの周囲に有刺鉄線が張り巡らされ、リードの進行を妨害する。
だが……
「あっはっは! 脆い脆い!」
リードはそれを切り裂いた。しかも木剣で。
「はぁ!?」
そしてまた吹き飛ばされた。
「おいおい、これでも法戦科の教官だぞ? 鉄の網程度で防げると思ったら大間違いだ」
ふらふらする頭を抑え、また立ち上がる。
「ぐ、グラートって優しかったんだな……」
「お姉さんより手加減が上手なのは確かだろうねぇ」
そう言いながらラスは再度本に理力を込めようとしたが……
「そう何度もやらせると思うかい?」
「ちょ」
リードがそれに反応し、魔法を発動させる前にラスをふっとばした。
「ガフッ!」
勝てるビジョンが全く見えない。
どう踏ん張ってもリードの異常な膂力に対抗できる自信がない。
それは『充足する神秘の肉体』を使っても結果は同じだろう。
「しかし思ったより弱いなキミは」
「まだ訓練初めて一ヶ月ちょっとだぞ……」
「そういえばそうだったねぇ、しっかりと魔法を使って対処するもんだから忘れてしまったよ」
そう言いながらリードは悠々と歩いてくる。
「クソっ!」
ラスは悪態を付きながらリードに突撃した。
なりふりかまってられないというのもあるが、吹っ飛ばされるのは諦めて本の消費を抑えようと考えた。
「お、いいね、その調子その調子」
そう言いながらまたラスを吹っ飛ばす。
そうしてラスは何度も何度も吹っ飛ばされて、最終的には『術式自動書記 機械仕掛けより現れる腕』を発動されてしまい、今日も身も心もボロボロになるのであった。