異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~   作:缶 切男

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お仕置き

 吹っ飛ばされてはボロボロにされる生活も一ヶ月が過ぎた。

 そんな中食堂に来ていたラスは、いつも話すベテラン風の男と雑談していた。

 

「お前もよくもまああんなことされておいて続けられるよな」

 

「寝る前に魔法で心身を整えてるからな、まだなんとかやっていけてる。ってか無かったら逃げてる」

 

 ラスは毎夜理力枯渇のために使用している『光の施し』という魔法によってボロボロになった心を回復させている。

 

「グラートには感謝してもしきれん、教えてもらった魔法がなかったら廃人街道まっしぐらだ」

 

「それでもだぞ……よく耐えられるよなお前も。前に気になって少し覗いたがよ、ありゃいじめだぜ」

 

「だよなぁ。やっぱあいつ教官とかより拷問官の方が向いてるよ」

 

「はは、言えてるかもな」

 

 ベテラン風の男は苦笑いをしていた。まああの凄惨な現場を見ていたらラスに同情もしたくなるというものだ。

 

「この前なんて回復法術の練習だとか言って腕を切り落としてきたんだぞ、流石にあれは焦ったわ」

 

「焦ったで済ませるお前もお前だよな」

 

「あの魔法の雨に比べればまだましかなって」

 

「毒されてんぞ……」

 

 あの時はくっつけて縫合することを禁じられ、一から生やしてみろと言われていた。

 なんとか生やすことが出来たが、その後理力切れでぶっ倒れてしまった。

 だがリードはラスぶっ倒れた後、理力同調という技術を使ってラスの理力を無理やり回復させて訓練を行うという鬼畜の所業を行ってくるのだ。

 

「あとあの理力同調っていう技術さ、やばいくらい不快感がすごいんだよな」

 

「理力操作の最高難度の技術のはずなんだが……」

 

「他人の理力が無理やり体に入ってくるなんて不快感エグいぞ」

 

「いやまあそういう欠点があるってのは聞いたことあるが」

 

 半ば愚痴になっているがラスは止まらない。

 

「それにあいつの魔法で治療されていると、なんか言いようのない不安感に襲われるんだよな。何ていうの? 肉体が根本から作り変えられているような感じのさ」

 

「そりゃたいへ…………」

 

「ん? どうした」

 

 途中で言葉を切ったベテラン風の男は、目線を顔ごと全力で反らしている。

 まるでラスの後ろにいたらまずいような人間がいるような反応だ。

 例えば……

 

「ほーう、拷問官だとか不快だとか不安だとか。好きなように言ってくれるねぇ」

 

 リードとか、だ。

 

「……いつから?」

 

「もちろん最初からに決まっているだろ?」

 

 ふと対面を見てみるとベテラン風の男が消えていた。

 逃げ足の早いやつだ。

 周囲を見ても全力で顔をそらすばかりで救援は期待できそうにない。

 

「お姉さんは悲しいよ……私だってキミのために頑張って魔法を考えたり技術を習得したりしたというのに……」

 

 リードは両腕をラスの肩に乗せ、背後から片手で頬を撫でる。

 

「だからってもうちょっと加減を……」

 

「そこでお姉さんは一つ思いついた」

 

 リードがラスの発言を遮って言う。

 どう考えてもこの状況で良い予感はしないだろう。

 

「……何をするつもりだ?」

 

「いやなに、キミは体を作り変えられているといったね。あれは実は正しい。キミが天魔との戦いに耐えうる人間と成れるよう、修復時に肉体をより強靭にしているんだ」

 

「まじかよ……本当に禄でもねぇじゃねぇか」

 

「そこでだ」

 

 危機感知がものすごく働いている。

 

 ”ラスは逃げ出した!”

 

「キミの体を効率的に強くする(壊す)訓練をしよう」

 

 リードの両腕から抜け出し、椅子を蹴って走るが眼の前にはもうリードがいた。

 

 ”しかし回り込まれてしまった!”

 

「嫌だ! 死にたくない! 死にたくなああああい!!」

 

 後襟を掴まれてズルズルと引きずられるラス。

 周りの皆は手を合わせて黙祷を捧げていた。ベテラン風の男も黙祷を捧げていた。

 

「ハッハッハ! 心配しないでくれたまえ、蘇生の法術は心得ているもの」

 

「え、俺死ぬの?」

 

「いやいや、生死を分けるのはキミの強靭な意思さ」

 

 ラスは心の中で遺書を書いた。

 

 ――父さん、母さん、もし死んだらこいつのせいなので許してください。

 

「安心したまえよ、強くなることは確定事項だ。乗り越えられても生きるだけだし、駄目でも死ぬだけで済む」

 

「命は一つしか無いって教わらなかったか?」

 

「はは、蘇生の法術を前にそんなことを言えるのかい?」

 

 諦観の表情を浮かべたラスは無抵抗で引きずられていく。

 どうせ逃げられないことは分かっていた。最近漸くリードの速度に目が慣れた(速度に慣れるようリードに作り変えられた)が、それでもその速度に追いつけるとは到底思えなかった。

 

「……優しくしてね?」

 

「お仕置きも含んでるからそのお願いは聞けないねぇ。でも大丈夫、死んでも安い」

 

 この女、倫理観も終わっている。

 

 

 

 

 シャーリアは第七訓練場へと赴いていた。

 理由としてはダリア――いつもラスがベテラン風の男と称している――から「ラスがヤバそうだから止めてやってくれ」と言われて来たのだ。

 確かにリードを止められるのは組合長であるシャーリアか同じ法戦科教官のグラートしかいないが、グラートは現在遠征へと向かっているためシャーリアにお鉢が回ってきた。

 だが正直やりたくないと思っている。リードを止めるのは骨が折れるからだ。

 だからといって将来有望のラスをこのまま放置するのもマズいと考えて、シャーリアは第七訓練場へと赴くことにした。

 

 シャーリアが第七訓練場の扉に手をかけると……

 

「んがああああああああああ!!」

 

 中からラスの悲鳴が聞こえてきた。

 

 ――ああ……もう入りたくない……

 

 正直シャーリアはもう帰ろうかと思っていた。

 中で何が起きてるかなど想像もしたくない。

 だが日和ってるだけでは何も進まないと思い、意を決して扉を開く。

 

 中を覗くとラスが椅子に縛り付けられていた。

 地面には淡い緑色に光る術式が刻まれており、薬草や薬品が燃料のごとく燃えているのが分かった。

 恐らくそれは回復効果のある呪法の一種だろう。

 そしてラスの体には文様が刻まれており、その体からは蒸気を発している。

 

「おや? これはこれは組合長殿、ご機嫌麗しゅう」

 

 リードがこちらに気付き話しかけてきたが、この喋り方をするリードは大抵碌でもない時だけだった。

 

「……何をしているんだ?」

 

「いやなに、少々お仕置きを兼ねて肉体強度を高める訓練をしているところですよ」

 

「あばばばばばばばば」

 

 先程までは痛みに悶えてたのか頭を大きく振るうラスだったが、今では全身を大きく痙攣させている。

 

「おいリード、流石にこれは……」

 

 シャーリアが苦言を呈するが……

 

「この少年は実に素晴らしい、我々ですら四半刻も耐えれなかった訓練を半刻も耐えているのですから。この精神の強靭さ、英雄に相応しいでしょう?」

 

 シャーリアの話を遮り、リードは頬を紅潮させながら聞いてもいないことをペラペラと喋る。

 リードの悪い癖だ。

 リードは過去に語られていた英雄という言葉に目がない。もしそれに至ると思えてしまう者が目の前にいると、どうしようもなく興奮してしまう。

 

 そうこうしている内にラスの体から発される蒸気が収まった。

 

「はあ……はあ……」

 

「おや、波は収まったか」

 

「オマエ、イツカ、ナカス……!」

 

「まだまだ元気そうだ、じゃあもう一回」

 

「ああああああああ!」

 

 ラスもラスだ。良く心が折れないものだと感心してしまう。

 恐らくラスに刻まれてる術式は『肉体変容』と『英雄作成』の呪法と魔法だろう。

 肉体と理力を代償に更に強い肉体を作る『肉体変容』、そして外から改造するが如く肉体を作り変える『英雄作成』。

 本来はどちらか片方ずつやるもので、両方同時にやるなど狂気の沙汰ではない。

 ラスの様子を見れば分かるようにどちらも耐え難い激痛を伴う。

 

 シャーリアやグラート、そしてリード。その他法戦科に所属する生徒もこの術式を行っていたが、リードが言っていたように全員四半刻も持たず音を上げてしまう。

 それもどちらか片方で、だ。

 

 ラスの噂は色々ダリアから聞いてはいたが、頭がおかしいというのはあながち間違ってないのかもしれない。

 性格自体は利発な少年という印象だが、これを見てしまうと本当に普通だろうかと不安になってくる。

 

「……………………」

 

 ラスが沈黙を貫いている。

 こんなことに慣れてしまったのかと思ったが……

 

「あ、漸く死んだ」

 

 ラスは呼吸をしておらず、ピクリとも動かない。

 リードは軽い調子で言ってみせた。

 やはりこの女は何処かおかしい。

 

「早く蘇生しろ! 馬鹿者!!」

 

 シャーリアは悲鳴を上げるように言った。

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