異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~   作:缶 切男

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死んだが?

「んはっ!」

 

 リードの蘇生法術によってラスは目を覚ました。シャーリアは「仕事は終わりだ」と言わんばかりに早々に帰ってしまった。関わりたくなかったのだろうか。

 ラスは精神的なダメージが大きいため『光の施し』を使い、整えていく。

 数分ほど休憩を挟み、リードを睨みつける。

 

「死んだが?」

 

 本当にまじで死ぬとは思ってなかったラスであった。

 

「死んだねぇ」

 

 なんてことがないように言うリード。

 ラスは内心(蘇生の法術ってここまで倫理観終わらせるんか)と思った。

 

「いやはや、まさかあそこまで耐えるなんて思って無かったとも」

 

「川の対岸に父さんと母さんが見えたぞ……」

 

 その父さんと母さんは必死に此方側に来ないよう止めていたのが印象に残ってる。

 

「臨死体験というやつだね。ま、実際死んだわけだから臨死というのは少々間違ってるがねアッハッハッハ!」

 

 ほんまこの女。

 

「……なあ、その法術があれば俺の両親も生き返らせる事ができるんじゃないか?」

 

 ラスは希望を込めた瞳でリードを見る。

 だがリードは目を伏せて顔を横に振るう。

 

「残念ながらそれは難しい。外傷が少なく、死後一日程度なら問題なく復活出来るだろう。だが基本的に天魔やその下位種族に襲われた人間というのはそうもいかない。それにこの蘇生法術も今回の訓練用に調整したものだからね」

 

「……あまり使えないな」

 

「ああ、塩の柱を人間に戻すことなぞ出来やしないし、悪魔の作る死体はそれはもう凄惨だ」

 

「もしかしてそれって狙ってやってる感じか」

 

「そうだろうな、過去には蘇生の法術を使って天魔に対抗していた時期があるからそれを見て学習したのかもしれない」

 

 ラスは溜息をつきながら言う。

 

「厄介だな本当に、天魔ってのは」

 

「だがそれは逆も然りだ。天魔を不可逆なまでに破壊すれば生き返ることもない。まあ、まず殺すのが難しいというのもあるけどねぇ」

 

 以前グラートから教わったように、天魔は生存不可能領域内では無限の再生を得る。

 だからこそその不可能領域を何とかする必要があるのだが……

 

「なあ、以前グラートから聞きそびれたことがあるんだが。生存不可能領域ってのはどうやって取り戻すことが出来るんだ?」

 

「ふむ、そうだな……私も過去の文献を漁ってはいるがどれも要領を得ない。だが初代の英雄が一部取り戻しているのは事実だ」

 

「ってことは過去に取り戻せることが証明されたと?」

 

「ああ、だがそれを成すには果てし無い奇跡の重なり合いによって起きた偶然の産物だ。同じ手順を踏んで出来るとは到底思えない」

 

「詳細まで残っていればよかったんだが……」

 

「恐らく過去に天魔側から間者が送られて焚書になったんじゃないかと睨んでいる」

 

「……そこまで徹底されてよく人間も滅んでないよな」

 

「我々も頑張ったってことさ」

 

 立ち行かない現実を前に溜息が出てくる。

 この先どうすれば良いのか検討もつかない。

 天魔を殺すだけでは駄目だ。なにかその生存不可能領域をどうにかする方法を模索しなければ。

 

「そもそも生存不可能領域ってどうなってるんだ?」

 

「難しい質問だねぇ……一概にこれとは言えない、多種多様な環境が存在しているからね」

 

「多種多様な環境……」

 

「だが一つ言えることはある」

 

「なんだ?」

 

「我々が立つ大地、生きるために必要な空気、恵みを与える動植物、時期により色を見せる天候。それら全てが殺意を以て我々を殺しに来ることだ」

 

「……外側からどうにかする術を見つけないとだなぁ」

 

「それが一番安全だろうねぇ。それが可能ならば、だけど」

 

 外からは無理そうだ。

 

 

 

 

「っていうかこれ解いてくれないか」

 

「……?」

 

「いや何故って顔されても困るが」

 

「まだまだやるんだぞ? 何故解く必要が?」

 

「まだやるの!?」

 

「そうとも、ってことで再開だ」

 

「ちょっと待て流石にげんかああああああああああああああああ!」

 

 地獄は終わりそうになかった。

 

 

 

 

 体を引きずるように食堂へ戻ってきたラス。

 体の周囲には光り輝く蝶が纏わりついている。

 流石にすぐに直せるほどの精神的ダメージでは無かったため『光の施し』を常時展開していた。

 

「発狂するかと思った……」

 

 あの後七回も死んだ。

 何度も何度も両親と顔を合わせていると気まずくなってきていた。

 最後のあたりはラスのことをすごい心配そうに見ていて居た堪れなくなったのは記憶に新しい。

 

 だがそれでも己の肉体が変わったというのはよく分かった。

 あまり健全な変化とは言い難いが、強くなっているのは確実だろう。

 それでも、リードやグラートと同じような動きができるかと問われればまだ疑問が残るが。

 

「散々だったみたいだな……」

 

 食堂の席に着くとベテラン風の男――ダリア――がラスと同席した。

 

「八回くらい死んだぞ……」

 

 ラスは上半身を机に投げ出していた。

 

「ってことはあの後お前ずっとあれやってたのかよ!?」

 

 周囲の人間がざわめき立つ。

 

「やっぱあいつ頭おかしいって……」

 

「組合長が止めに行ったんじゃないのか?」

 

「やっぱり法戦科は頭終わってるな」

 

 とまあ散々な言われようだった。

 

「一応組合長が来たが、あの人最初の方に来てすぐ帰ったぞ」

 

 ラスがそう言うと今度は周囲が可哀想なものを見る目になった。

 

「ああ……止められなかったかー……」

 

 ダリアが頭を抱えていた。

 

「本当にあいつ頭お……いややめよう、何処で聞いてるかわからん」

 

「そうしとけ」

 

 ラスは一度料理を取るために席を立ち、大量の肉と野菜とパンを皿に積む。

 

「また今日もよく食うな」

 

「あの法術を受けてから死ぬほど腹が減ってな」

 

「まあそりゃ一から体を作り変えてるからそうなるよなぁ」

 

 ラスの肉体は現在飢餓状態に陥っていた。肉体改造には大量のエネルギーを要するものだ。普段の倍食わなければ空腹が改善されそうもなかった。

 そのうえ今の肉体は燃費が悪い。

 吸収効率も良くなっているだろうが、何も食べなければ翌朝には餓死している勢いだった。

 

「ってか、流石にあれは二度とやりたくねえ」

 

「そりゃ誰だってそう思うだろ」

 

「いや半刻程度なら死ぬ一歩手前で踏みとどまれるが、それ以上やると流石に死ぬ。主に精神が」

 

「逆に半刻も耐えられてるお前がすげぇよ」

 

 麻酔とかいう概念はこの世界にないのだろうかと、不満も募らせるラスだった。

 

 

 

 

 浴場で身を清め、部屋に戻ったラスは物思いにふける。

 

「この世界は命が軽い」

 

 この世界において、ラスの両親が死んだのも特に珍しいことではない。

 それもそうだろう。この世界には天魔がいて、その下位種族ですら人類にとっては猛威となり得る。

 

 いまのラスは現代的な倫理と思考を持ってはいるが、それでも順応出来ているのはこの世界で12年生きたラスの記憶があるからだろう。

 記憶を取り戻す前は死が日常茶飯事だった。

 ある日突然隣人の姿が見えなくなった。一緒に遊んでた友人が消えた。

 いつ死ぬかも分からぬ世界では、皆一様に諦めの目をしていた。

 そう考えればラス自身は幸運だったのだろう。

 優しい両親に囲まれて、不気味と言われてもおかしくないような子供に愛を注いでくれた。

 

 それに記憶を取り戻す前のラスには苦労を掛けた。普通に生きる分には不要だったであろう現代の記憶の断片。

 

「一緒に死んでいれば、ラスにとっては幸運だったのだろうか」

 

 ふとそう考えることがある。この苦しみに満ちた世界で生きるより、両親と死に場所を共にしたほうが良かったのだろうか。

 

「けれど、それは許容できない」

 

 両親に生かされた命だ。未来へと繋いでもらった命だ。

 何かを残さなければ、あの時命を掛けた両親の思いが無駄になる。

 だから、ラスはラスの死を許容出来ない。

 

「死んで諦めるなんて、出来るものか」

 

 受け入れることなど、到底出来なかった。

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