異世界解放戦線~終わりかけの世界に転生って許されて良いんですか?~ 作:缶 切男
『羽音の狩人』
黄色と黒色の警戒色をもつ昆虫類。
2対4枚の翅によって不快な羽音を鳴らし、獲物を追い詰める。
腹部には毒針が仕込まれている。その毒は強力で刺されれば、直ちに処置をしなければ人体を構築する骨肉が融解されるため基本助からない。
体高に関しては平均して男の上半身ほどの大きさ。
そのため毒がなくとも深く刺されれば重症となる針の大きさをしている。
四肢を容易に切断する強靭な顎を持っているが、毒によって溶かした獲物を啜ることを好むためあまり使われることがない。
――出典『魔物大全』より
グラートは戦場となった森を縦横無尽に駆け巡る。
樹木を二回蹴ることで衝撃波の勢いを利用して地面と水平に跳躍し。
背後に残した足跡にその長大な剣を叩きつけ、爆発の勢いで剣を前方に振るい。
前蹴りによって羽音の狩人に足跡を刻んで、ソレを大剣で爆破。
更にはその爆破を利用して周囲に薙ぎ払いを行う。
「……多いな」
天魔襲来がきっかけとなったのかは定かではないが、平常時に比べて魔物が多く感じる。
これを放置しては他の町に甚大な被害が出ることが予測される。
ならば――
「一匹残らず殲滅せねばなるまい」
グラートはそう言い、追加の魔法詠唱を行う。
『標的補足、其は拘束具に非ず、其は獲物を焼き潰す殺意の鎖』
周囲に居た羽音の狩人に巻き付くよう構築された魔法陣が、数珠繋ぎのように互いに噛み合わせ、グラートの手元に集まる。
危機を感じた羽音の狩人は即座に見を翻し離れようとしたが、其れを見たグラートは悠々と指を鳴らす。
――咎の爆鎖
導火線のように連なった魔法陣が次々と爆発していき、羽音の狩人に迫る。
それらは逃げようと藻掻くが、魔法陣に絡め取られてしまい思うように動けないでいた。
羽音の狩人が次々にその体を破壊されていく。
肉と翅、そして体液を周囲に撒き散らしながら次々に爆散していく。
だが、その攻撃を逃れたものがいた。
一際大きな個体だった。恐らくそれが群れのボス。所謂女王個体と呼ばれるものだ。
恐らく補足の際に同胞を盾にすることによって難を逃れたのだろう。
その女王個体が背を向け逃げていく。
その方向は、偶然にもラスいる方向だった。
「しまった……!」
女王個体は卵を産み落としながら逃げる。
地面に落ちた衝撃で卵の殻が割れるが、中から出てきたのは成虫個体だった。
「面倒な……」
女王を守り敵対者を殺すという本能が備わっているのか、即座にグラートに対してその腹の針を向ける。
その女王は焦っていた。
我々の群れを殺し切る人間がいるとは思っていなかった。
同胞を産み落としたことで体力を大きく消耗してしまった。
だがそうもしなければ無惨に殺されていただろう。
女王は逃げる。背後から鳴り響く絶死の跫音から逃れるために。
……人間の子供の匂いがする。
逃げた先に偶然それがいるのだろう。
女王にとってそれは望外の幸運だった。
人間の子供は戦う術を持たないから安全に狩れる。
人間の子供は柔らかく、わざわざ毒を使う必要もない。
その子供を喰らえば更に多くの同胞を生み出すことが出来るため、女王は後ろの人間から逃れられるだろうと考えた。
――ミツケタ!
そこには蹲っている人間の子供がいた。
予想以上に楽に狩れそうだと女王は歓喜した。
即座にその子供を喰らおうと女王は迫る。
その周囲に結界が貼られているのが見えるが、それは薄く脆そうだと判断し、女王は結界を無視して突撃した。
だが……
――バチン!
その結界に触れた瞬間、白雷が女王を襲う。
体の電気信号が狂い、女王は地面に墜落する。
「ヒヒィィィィン!!」
そこに、嘶きを上げながら足を振り上げた馬がいた。グラートとラスが乗ってきた馬だ。
女王が最後に見たのは、蹄につけられた蹄鉄であった。
「えぇ……お前そんな強かったのか……」
原因は不明だが、急速に理力が回復したことで体調が回復したラスは、馬を撫でながら呟く。
馬は満足そうに首を振り、ラスに頭を擦り寄せる。
恐らく先程の結界で守られたことを理解しているのだろう。
賢い子だ。
「当たり前だろう、町の外は危険だ、馬にも相応の能力が求められる」
「あ、戻ってきてたのか」
木々の間からグラートが出てくるのが見える。
どうやら無事殲滅が完了したようだ。
「しかし驚いたぞ、お前の歳であれほどの魔法を使えるとはな」
「いや、俺もあれほどの効果を持っているとは思わなかった」
恐らく詠唱に含まれる『無作法者を許さない』という語句が侵入者を防ぐのではなく自動反撃という効果が成立したのだろう。
”許さない”ではなく”立ち入らせない”であれば恐らく魔力不足に悩まさられることもなかっただろうと、ラスは反省した。
ラス自身としては語感が悪く歯がゆい思いをするだろうが。
「まさか……魔法を使うはそれが初めてか?」
「あーまあ、うん」
「なんと……」
出会って初めてグラートが仏頂面を動かすのが見えた。
その目は見開いており驚愕していることが分かる。
魔法と言うのはいわば専門技術だ。十分な知識と発想力、そしてそれを解釈し、言葉に落とし込む能力が求められる。
それらが甘ければ魔法は発動しないし、仮に発動できたとしてもその魔法の効力は大きく弱まるだろう。
「お前なら、天魔を殺せるかもしれないな」
「あー……ありがとう?」
ラス自身、転生というアドバンテージがあるため正直あまり喜べないが、それを暴露するつもりもないため、その賞賛は素直? に受け取った。
「ではいくぞ、数刻も走らせれば我々の拠点にたどり着く」
「わかった」
遠くに高く聳える防壁が見える。
その防壁には数多くの傷跡が残されているが、それでも尚崩れていないということはそれだけ強靭なものなのだろう。
壁の周囲には魔法を使って防壁の修理を行っている魔法使いがいる。
足元の魔法陣によって空を飛び、防壁に魔法をかけることで修理していくのが見える。
「見えてきたぞ」
「ここが?」
「ああ、最前線主要都市トーザンドだ」